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マツダMX-30ロータリーEVモダンコンフィデンス(FWD)

生き延びるための選択 2024.01.15 試乗記 高平 高輝 「マツダMX-30ロータリーEV」は、発電専用の新しいロータリーエンジンを積んだこれまでになかったタイプのプラグインハイブリッド車だ。500km余りのドライブで仕上がりを試すとともに、気になる実燃費も計測した。
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冷静と情熱の間のどのあたり?

一般的な前輪駆動車なら変速機が収まるはずのスペースに新開発の「8C」型シングルローターユニットを搭載して発電専用としているのがMX-30ロータリーEVである。だが、エンジンルームをのぞいて目につくのは複雑に張り巡らされた配管と配線だ。ワンオフ品のような削り出し部品もある。余計なお世話と重々承知ながら、これで生産性は大丈夫なのだろうかと心配になるほど煩雑である。実際に複雑にならざるを得ないのだ。

ご存じのように、観音開き式4ドア(マツダが言うところの「フリースタイルドア」)を特徴とするクロスオーバーSUVのMX-30には既にガソリンマイルドハイブリッドと電気自動車(BEV)の「EVモデル」が存在するが、新たに追加されたロータリーEVは、その名のとおりロータリーエンジンを発電専用として使うシリーズ式プラグインハイブリッドであり、駆動モーター(油冷)とリチウムイオン電池(水冷)に加え、ロータリーエンジン(水冷)とその補器類を積む。ボディーは同じ、組み立てラインも同じ、異なるパワートレインの3車種を混流ラインでつくり分けるのだから実にご苦労さまである。

新型ロータリーEVは「EVの可能性を広げる新たな選択肢」と位置づけられているが、結果として2倍の容量のバッテリーを積むBEV(35.5kWh)よりも130kgほど重くなってしまった。しかもそのほとんどがフロント部分に集中している。やはりちょっと無理筋ではないか、と思うと同時に、この極めてニッチなMX-30でなければ成り立たないのか、さらにはコンパクトさを生かしたとはいえレシプロでは絶対に成立しないのか、などと思いは千々に乱れる。まず「ロータリーの火を消さない」ということが前提だったのだろうな、と推測するのはそれゆえである。

今回の試乗車は「マツダMX-30ロータリーEV」の「モダンコンフィデンス」(478万5000円)。温かな風合いの内装を特徴とするグレードだ。
今回の試乗車は「マツダMX-30ロータリーEV」の「モダンコンフィデンス」(478万5000円)。温かな風合いの内装を特徴とするグレードだ。拡大
ボンネットを開けて新開発の「8C」型ロータリーエンジンを拝む。写真奥からバルクヘッド側にかけて複雑に張り巡らされた配管に驚く。
ボンネットを開けて新開発の「8C」型ロータリーエンジンを拝む。写真奥からバルクヘッド側にかけて複雑に張り巡らされた配管に驚く。拡大
フロントフェンダーに貼られたロータリーエンジン搭載車であることを示すバッジ。
フロントフェンダーに貼られたロータリーエンジン搭載車であることを示すバッジ。拡大
今回は都内を出発し、東名高速で静岡県の御殿場市へ。そこから裾野市~富士宮市~山梨県富士河口湖町と回り、再び御殿場から都内に戻るというルートで燃費を計測した。
今回は都内を出発し、東名高速で静岡県の御殿場市へ。そこから裾野市~富士宮市~山梨県富士河口湖町と回り、再び御殿場から都内に戻るというルートで燃費を計測した。拡大
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「黒子」として復活

「ついにロータリー復活!」と興奮している方にはお気の毒だが、ここは明確にしておかなければならない。マツダMX-30ロータリーEVに搭載された新開発の8C型ロータリーエンジンはあくまで発電専用であり、いわばまったくの黒子である。われわれ昭和世代が経験してきた(私は「サバンナRX-3」時代から実体験あり)かつての「RX-7」のように、どこまでも天井知らずに鋭く吹け上がり、血沸き肉躍らせるスポーツユニットではないどころか、正直その存在すら感じることが難しい。これが生き延びるための現実である。

エンジンがかかっても、お祭りの屋台の裏側でうなりを上げる発電機のような(実際そのとおりだが)、“ブイーン”という音が遠くから聞こえてくるのみ。スロットルペダルの踏み込み量に応じて回転は上下し、音量も変化するが、基本的には大差ない。ただし市街地走行程度では、バッテリー残量が十分ならば「EV」モードはもちろん、「ノーマル」モードでもめったにエンジンはかからない(他に「チャージ」モードが備わる)。急加速が必要な場合はキックダウンスイッチのようなストッパーを越えてフルにペダルを踏み込むとEVモードでもメーターパネルに小さなロータリーマークが表示されるとともにエンジンが始動するが、音量そのものは小さく、ある程度以上のスピードなら走行音に紛れてしまうぐらいのもので、メカニズムに興味がない人にはエンジン音と認識してもらえないかもしれない。発電という役目に徹した音色と音量だが、開発陣によればここまで抑えるのにもずいぶんと苦労したという。

富士宮市の朝霧高原で。駆動用リチウムイオンバッテリーの容量はピュアEVの「MX-30 EVモデル」のちょうど半分の17.8kWh。空いたスペースに容量50リッターのガソリンタンク(レギュラー)を積んでいる。
富士宮市の朝霧高原で。駆動用リチウムイオンバッテリーの容量はピュアEVの「MX-30 EVモデル」のちょうど半分の17.8kWh。空いたスペースに容量50リッターのガソリンタンク(レギュラー)を積んでいる。拡大
パワートレインが違ってもフローティング式のセンターコンソールをはじめとしたインテリアのしつらえは変わらない。コンソールの基部にはマツダの祖業だったコルクが使われている。
パワートレインが違ってもフローティング式のセンターコンソールをはじめとしたインテリアのしつらえは変わらない。コンソールの基部にはマツダの祖業だったコルクが使われている。拡大
メーターパネルはセンターのみが液晶表示式で、左のパワーメーターと右の燃料&電力計は針式。ハイブリッド車としての燃費と電気自動車としての電力消費率が必ず一緒に表示される。
メーターパネルはセンターのみが液晶表示式で、左のパワーメーターと右の燃料&電力計は針式。ハイブリッド車としての燃費と電気自動車としての電力消費率が必ず一緒に表示される。拡大
変速機は備わっておらずギアは1段固定式。「CX-60」などでも使われるシフトセレクターは「P」「R」「D」が全部角にあるのでブラインド操作がしやすいという触れ込みだ。
変速機は備わっておらずギアは1段固定式。「CX-60」などでも使われるシフトセレクターは「P」「R」「D」が全部角にあるのでブラインド操作がしやすいという触れ込みだ。拡大

「よくぞここまで」とは言えるが

繰り返すが72PS/4500rpmと112N・m/4500rpmを発生するロータリーエンジンは発電用で、実際の駆動は125kW(170PS)と260N・mを生み出すモーターが担っている。パワフルとまでは言えないが、この種のクルマとしては十分だろう。最高速はBEVと同じ140km/hという。

発電用ユニットとしてロータリーを選んだのはコンパクトさが理由と説明されるが、前述したように、実は車重は2倍の容量のバッテリーを積むBEV仕様よりも130kgも増えた1780kgもある。ロータリーエンジンを発電機として使用、モーターで駆動するプラグインハイブリッドという複雑なシステムを搭載するためのジレンマである。しかも増加分はほぼフロント部に集中しているから、そのせいか荒れた路面ではいささか落ち着きに欠ける。当たりは洗練されており、ザラザラした振動などは抑えられているが、流れの速い一般道などでも、路面によってはピッチングがやや気になる場面があった。車重に対応したせいか、その代わりに足まわり(一般的なストラット/トーションビーム式)はガッシリして骨太感が頼もしく、ハンドリングも自然でおおむね扱いやすい。飛ばすタイプのクルマではないだろうが、ちょっと飛ばしたほうが印象がいい。何とも一筋縄ではいかないクルマである。

これも朝霧高原周辺で。車重は「EVモデル」より130kg重い1780kgで、車検証の前後重量配分は1090kg:690kg≒61:39。今回の試乗でもピッチングが時々気になった。
これも朝霧高原周辺で。車重は「EVモデル」より130kg重い1780kgで、車検証の前後重量配分は1090kg:690kg≒61:39。今回の試乗でもピッチングが時々気になった。拡大
シート表皮はグレーのファブリックと白の合皮の組み合わせ。淡いオレンジのステッチをあしらうなど、満足度が高い豊かな質感だ。
シート表皮はグレーのファブリックと白の合皮の組み合わせ。淡いオレンジのステッチをあしらうなど、満足度が高い豊かな質感だ。拡大
後席を日常的に使う人に薦めるクルマではないが、空間としてはそれほど窮屈ではない。不満があるとすれば背もたれが立っていることと乗り降りがしづらいこと、窓が開かないことくらいだ(3つあれば十分だが)。
後席を日常的に使う人に薦めるクルマではないが、空間としてはそれほど窮屈ではない。不満があるとすれば背もたれが立っていることと乗り降りがしづらいこと、窓が開かないことくらいだ(3つあれば十分だが)。拡大
助手席の背もたれ裏にあるスイッチで後席側からシートを操作できる。
助手席の背もたれ裏にあるスイッチで後席側からシートを操作できる。拡大

で、実際の燃費は?

ちなみにシリーズハイブリッドとしてのWLTCモード燃費は15.4km/リッターと発表されている。今どき特筆すべき数値ではないが、燃料タンク(レギュラー)は50リッター入りとマイルドハイブリッドモデルとほとんど変わらないので、一充電走行距離の107kmと合わせると、計算上は800kmを超える長い足を持つことになる。

今回は基本ノーマルモード(バッテリー残量45%になるまでは原則モーターで走る)で、都内を出発して東名高速の御殿場ICから富士山を周回する約500kmの行程を走ったが(スタート時は満充電)、車載燃費計(こちらは充電電力による走行距離は算入されない)は平均13.6km/リッター(電費は7.2km/kWh)、満タン法では17.2km/リッターという数字を得た。実際の航続距離は600~700kmと思われる。

普段は自宅で充電した電力(DC/AC両方の充電ポートあり)で走り、遠出をする際にはハイブリッドとして電池の残量を心配せずに使う、という用途にはなるほど適しているとは思うが、そこに“ロータリーらしさ”を求めると、話が厄介になるし、この価格なら他に選択肢はいくらでもある。マニアなら、あの“クセツヨ”ロータリーを使ってよくぞここまでまとめ上げた、と手を合わせたい気持ちになるかもしれないが、エンジンの形なんか興味なしという人がどれほど納得してくれるか、となると何とも言えない。もうひとつのロータリーの特徴である雑食性(合成燃料など燃料に自由度がある)を真に生かせる時まで、何としても生き延びる。そのための艱難(かんなん)辛苦は望むところ、というのがマツダらしい本音ではないだろうか。

(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

西湖のほとりで。駆動用モーターの最高出力は170PS、最大トルクは260N・mで、リミッターによって最高速は140km/hに設定されている。
西湖のほとりで。駆動用モーターの最高出力は170PS、最大トルクは260N・mで、リミッターによって最高速は140km/hに設定されている。拡大
8.8インチのセンターディスプレイにはエネルギーフローが表示できる。発電中にローターのアイコンが回転するといいのだが。
8.8インチのセンターディスプレイにはエネルギーフローが表示できる。発電中にローターのアイコンが回転するといいのだが。拡大
荷室の容量は約350リッター。シリーズで最も大容量のマイルドハイブリッドモデルは400リッター。
荷室の容量は約350リッター。シリーズで最も大容量のマイルドハイブリッドモデルは400リッター。拡大
荷室の側面にはAC100V・1500Wのコンセントが備わっている。
荷室の側面にはAC100V・1500Wのコンセントが備わっている。拡大
充電ポートは右のリアフェンダーに備わっている。普通充電だけでなく急速充電にも対応する。
充電ポートは右のリアフェンダーに備わっている。普通充電だけでなく急速充電にも対応する。拡大

テスト車のデータ

マツダMX-30ロータリーEVモダンコンフィデンス

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4395×1795×1595mm
ホイールベース:2655mm
車重:1780kg
駆動方式:FF
エンジン:0.83リッター1ローター
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:72PS(53kW)/4500rpm
エンジン最大トルク:112N・m(11.4kgf・m)/4500rpm
モーター最高出力:170PS(125kW)/9000rpm
モーター最大トルク:260N・m(26.5kgf・m)/0-4481rpm
タイヤ:(前)215/55R18 95H/(後)215/55R18 95H(ブリヂストン・トランザT005A)
ハイブリッド燃料消費率:15.4km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:107km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:107km(WLTCモード)
交流電力量消費率:176Wh/km(WLTCモード)
価格:478万5000円/テスト車=485万1000円
オプション装備:特別塗装色<セラミックメタリック[3トーン]>(6万6000円)

テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1230km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:515.5km
使用燃料:30.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:17.2km/リッター(満タン法)/13.6km/リッター&7.2km/kWh(車載燃費計計測値)

マツダMX-30ロータリーEVモダンコンフィデンス
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