スズキ・スイフト ハイブリッドMZ(FF/CVT)
ハンドルを放したくない 2024.02.10 試乗記 クルマ好きからも一目置かれるスズキのコンパクトカー「スイフト」が、いよいよフルモデルチェンジ! 新型ではより幅広いユーザーへのアピールを狙ったというが、定評のある走りは健在……どころか、むしろより骨太なものへと進化を遂げていた。スズキの屋台骨を支える世界戦略車
スズキ・スイフトは骨太な走りとデザインで、筋金入りの好事家も一目置く国産コンパクトカーであると同時に、世界でもっとも売れているスズキ(四輪)車でもある。スイフトの市場はインドが最大で、次に日本と欧州が続く。ただそれ以外にも、アジア、中南米、アフリカ、中東と、(スズキ自体が撤退している)北米と中国以外のほぼすべての市場で販売される。
新型スイフトのチーフエンジニア(CE)は先代から引き続いて小堀昌雄さんだ。小堀さんはアシスタントCEとして先々代の開発にもたずさわっているから、都合3世代にわたってスイフトひと筋の“スイフトを知り尽くした男”である。
その小堀さんの手になる新型は、先代もグローバルでの大成功作だっただけに、基本的には正常進化といっていい。プラットフォームがキャリーオーバーされただけでなく、ホイールベースもそのまま。スリーサイズも全長がデザインなどの関係で15mm長くなっただけで、全高と全幅は変わらない。日本仕様は従来どおりの5ナンバー幅を維持している。
現時点で海外仕様は公開されていないが、先代同様に日本仕様よりワイドになるのは間違いなさそう。すなわち、こちらも従来モデルとほぼ同寸ということだ。スズキの世界統一グローバルモデルとして、このサイズがドンピシャ。大きくも小さくもすべきではないということだろう。
というわけで、新型のキャビンは、空間の広さもシートレイアウトも先代と変わっていない。「各国の要望をいちいち聞いていたらキリがない」ということか、荷室も一見すると広くなったようには見えない。しかし担当者によると、小堀さんの鶴のひと声で、内張りなどをぎりぎりまで削って、有名な「リモワ」のスーツケース(32リッター)が4個積めるようにしたとか。
過度にスポーツカーライクだった先代を反省
“肉食獣のような動きのある筋肉質”をイメージした先代のデザインも、基本的には好評だった。そのいっぽうで、エントリー需要を担うコンパクトカーとしては、ちょっとスポーツテイストが濃すぎたという反省もあったようだ。使いやすいコンパクトカーを求めてショールームを訪れた女性が、先代をひと目見て「これは私が乗るクルマじゃない」と言い放ったこともあるとかないとか……。
というわけで、新型のエクステリアは、張り出したショルダー、フロントグリルとヘッドライトの位置関係、リアクオーターピラーをブラックアウトさせたフローティングルーフ……といった“スイフトに見えるキモ”は受け継ぎつつも、メインターゲットとなる今の若者や、クルマ熱のあまり高くない人にも受け入れられることを意識したという。
先代で特徴的だった、リアクオーターでピョコンとキックアップするベルトラインが省かれたことで、リアのアウタードアハンドルも一般的なグリップバー式になった。この部分にかぎっては個性が薄れたともいえるが、リアドアの操作性が向上したのは事実で、同時に斜め後方の視界も改善している。
インテリアはさらに大きく変わった。先代のインストゥルメントパネルは真っ黒でそこかしこに円のモチーフがあしらわれており、古典的なスポーツカーを思わせたが、新型のそれは9インチセンターディスプレイの搭載を前提にしたもので、より低く、明るく、開放感がある。各スイッチ類をよりドライバーの手元に集約した人間工学も自慢だという。
ただ、こうなると今度はオーソドックスな2眼メーターパネルだけがやけに古臭く見えてくるのは否定できない。そのあたりを指摘すると「それはさすがにコストが……」との答えだったが、今や軽自動車でも全面フルTFT液晶メーターが標準装備化される時代である。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
燃費に優れ、レスポンスもいい新エンジン
1.2リッターエンジン一択で、グレードによってマイルドハイブリッド車(MHEV)と非MHEVあり……というパワートレイン構成は、先代末期と同様。ただ、エンジンそのものは完全新開発の3気筒だ。
先代(の途中)にあったストロングハイブリッドについては、新型ではどの市場にも用意する予定はない。理由はずばり、先代での売れゆきが芳しくなかったからだ。もちろん、CO2排出量低減≒低燃費化への圧力はさらに高まっているが、そこはベースエンジンの燃費を大幅に引き上げることで対応することにした。そのための新開発3気筒というわけだ。実際、もっとも厳しいはずの欧州の環境基準も、新1.2リッターのMHEVでクリアできる見込みだという。
千葉県は木更津市で開催されたメディア試乗会に供されたスイフトは、最上級の「ハイブリッドMZ」だった。同グレードの変速機はCVTのみで、当然のごとくMHEVである。で、電動パーキングブレーキに本革巻きステアリング、フロントドアの「プレミアムUV/IRカットガラス」などは、このMZでしか手に入らない。
新しい3気筒の最高出力は82PS、最大トルクは108N・m。これは先代の1.2リッター4気筒比で9PS、10N・mの“ダウン”となる。逆にウェイトは(同等グレードで比較すると)先代より40~50kg重くなったイメージだから、とくに高速などでの動力性能は、ちょっと控えめになった感は否めない。ただ、気筒数が減って1気筒あたりの爆発力が高まったことで、中低速のピックアップは逆に鋭さを増した。同時にCVTの制御もかなり進化しているようで、街なか限定でいえば、新型のほうが活発に感じる向きは多いかもしれない。
課題だった燃費も額面では15%ほど改善をみているが、これにはエンジンの恩恵だけでなく、“クラストップレベル”を豪語する空力もかなり効いているという。とくにリアサイドスポイラーやエアロデザインのアルミホイールは、開発末期の“最後のひと押し”で追加されたアイテムだったそうだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
フットワークにみる隔世の進化
新型スイフトの走りは先代比で「ロールさせない」「リアを粘らせすぎない」「接地感を上げる」「ロードノイズを低減する」などがテーマだった。これもまたスイフトを知り尽くした小堀さんの思いがベースになっている。
シャシーも先代のいいところは受け継いでいる。たとえば、タイヤやフロントサスアームは先代そのままで、バネやアブソーバーは設定を微調整しただけという。いっぽうで、車体は構造用接着剤を多用して強化、バンプストッパーはより早期からしなやかに効くようにし、フロントスタビライザーはバネ強化&低フリクション化、リアトーションビームはストロークアップを図っている。パワーステアリングのモーター容量アップは安全性向上が主目的だが、手応えの改善にも役立っている。また、ブレーキブースターも「コントロールしている実感がもてるように(小堀さん)」と設定が見直されている。
……といった工夫が凝らされた新型スイフトの走りは、1ランクどころか2~3ランクはアップした印象だ。実際の前軸重は増えたのに、鼻先の動きは先代より軽快で、ステアリングフィールもより濃密になった。路面にヒビ割れや凹凸が目立つワインディングロードを、遠慮なく踏みしだく走りをしても、上屋がピタリと安定したままバネ下だけで見事にさばき切る。その所作には感動すらおぼえた。
さらに、ブレーキはペダルタッチも絶妙なら、制動姿勢もいい。それはいわゆる“カックン”の正反対で、開発当初は「踏みはじめの利きが甘い」という指摘も一部にあったというが、開発陣は信念を曲げなかった。
もうひとつ印象的だったのは、ロードノイズの静かさだ。エンジン音は3気筒であることを隠せないが、高速ロードノイズは完全にクラス水準を超えている。しかも、アダプティブクルーズコントロールからレーンキープアシストまで、新型スイフトの先進運転支援システムは一足飛びにクラスの最前線に躍り出た。これなら長距離クルーザーとしての資質も高そうだ。
新型スイフトは、乗るほどに、もっと乗りたくなるクルマである。今回のメディア試乗会のような小一時間ほどのドライブでは、まったくもって乗り足りない気分だ。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
スズキ・スイフト ハイブリッドMZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3860×1695×1500mm
ホイールベース:2450mm
車重:950kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:82PS(60kW)/5700rpm
エンジン最大トルク:108N・m(11kgf・m)/4500rpm
モーター最高出力:3.1PS(2.3kW)/1100rpm
モーター最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:24.5km/リッター(WLTCモード)
価格:216万7000円/テスト車=256万1130円
オプション装備:ボディーカラー<フロンティアブルーパールメタリック×ブラック2トーンルーフ仕様車>(9万9000円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション スズキコネクト対応通信機装着車(13万3100円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン、スタウト>(1万7820円)/ワイヤレス充電器(4万9830円)/ETC2.0車載器(4万6640円)/ドライブレコーダー<前方録画用>(4万7740円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:904km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆スズキが新型「スイフト」を発表 より洗練されたコンパクトモデルに進化
◆カタチのすべてに理由がある 新型「スズキ・スイフト」のデザインに元カーデザイナーが切り込む!
◆【画像・写真】新型スズキ・スイフト(75枚)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)【レビュー】 2025.9.9 クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。
-
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.8 「MINIコンバーチブル」に「ジョンクーパーワークス」が登場。4人が乗れる小さなボディーにハイパワーエンジンを搭載。おまけ(ではないが)に屋根まで開く、まさに全部入りの豪華モデルだ。頭上に夏の終わりの空気を感じつつ、その仕上がりを試した。
-
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】 2025.9.6 空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
NEW
オヤジ世代は感涙!? 新型「ホンダ・プレリュード」にまつわるアレやコレ
2025.9.11デイリーコラム何かと話題の新型「ホンダ・プレリュード」。24年の時を経た登場までには、ホンダの社内でもアレやコレやがあったもよう。ここではクルマの本筋からは少し離れて、開発時のこぼれ話や正式リリースにあたって耳にしたエピソードをいくつか。 -
NEW
ポルシェ911カレラT(前編)
2025.9.11谷口信輝の新車試乗製品の先鋭化に意欲的なポルシェが、あえてピュアな楽しさにこだわったというモデル「ポルシェ911カレラT」。さらなる改良を加えた最新型を走らせた谷口信輝は、その仕上がりにどんなことを思ったか? -
NEW
第927回:ちがうんだってば! 「日本仕様」を理解してもらう難しさ
2025.9.11マッキナ あらモーダ!欧州で大いに勘違いされている、日本というマーケットの特性や日本人の好み。かの地のメーカーやクリエイターがよかれと思って用意した製品が、“コレジャナイ感”を漂わすこととなるのはなぜか? イタリア在住の記者が、思い出のエピソードを振り返る。 -
トヨタ・カローラ クロスZ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.10試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジモデルが登場。一目で分かるのはデザイン変更だが、真に注目すべきはその乗り味の進化だ。特に初期型オーナーは「まさかここまで」と驚くに違いない。最上級グレード「Z」の4WDモデルを試す。 -
「日産GT-R」が生産終了 18年のモデルライフを支えた“人の力”
2025.9.10デイリーコラム2025年8月26日に「日産GT-R」の最後の一台が栃木工場を後にした。圧倒的な速さや独自のメカニズム、デビュー当初の異例の低価格など、18年ものモデルライフでありながら、話題には事欠かなかった。GT-Rを支えた人々の物語をお届けする。 -
第84回:ステランティスの3兄弟を総括する(その2) ―「フィアット600」からにじみ出るデザイナーの苦悩―
2025.9.10カーデザイン曼荼羅ステランティスの未来を担う、SUV 3兄弟のデザインを大総括! 2回目のお題は「フィアット600」である。共通プラットフォームをベースに、超人気車種「500」の顔をくっつけた同車だが、その仕上がりに、有識者はデザイナーの苦悩を感じ取ったのだった……。