第846回:ルノーとステランティスに合併説が浮上! 最新EV事情を現地報道と街から読み解く
2024.02.15 マッキナ あらモーダ!イタリア政府 VS タバレス
ルノー、ステランティスと合併? ――2024年1月から2月初旬、イタリアでは自動車ブランドに関する、政府も絡んだ報道が相次いだ。大なり小なり、その鍵となったのは電気自動車、すなわちEVである。今回はそれに絡めて、欧州における最新EV事情を数字と実際の光景を交えて記そう。なお、本稿でEVはバッテリーEV(BEV)を指すこととする。
発端は1月15日、ステランティスがトリノ・ミラフィオーリ工場で2250人規模の一時帰休を実施すると明らかにしたことだった。同工場では「フィアット500e」と一部のマセラティ車が生産されている。
そうしたなか1月25日、イタリアのジョルジャ・メローニ首相は、ステランティスに国内の生産能力を維持するよう強く求めた。その発言を受けて2月1日、ステランティスのカルロス・タバレスCEOは、ブルームバーグのインタビューで、イタリア政府がEVの購入補助政策を拡充しなければ、同国内の主力生産拠点の存続は危ういと警告した。
参考までに、2024年1月にイタリアが発表した環境対策車買い替え奨励金制度では、EVに相当する二酸化炭素排出量0-20g/kmのクルマの場合、最大5000ユーロ(約80万円)が補助される。ただし、税込価格4万2700ユーロ(約686万円)以下の車両が対象で、財源がなくなり次第終了となる予定だ。
否定されたが、その背景には
イタリア政府とステランティスの戦いは続いた。同じ2月1日、「企業およびメイド・イン・イタリー省」のアドルフォ・ウルソ大臣は、政府によるステランティス株取得の可能性を示唆した。同社の経営に参画することで、国内生産拠点や雇用の安定を確保するのが狙いだ。ただしステランティスへの出資比率では、フランス政府系金融機関がフィアット創業家の持株会社やプジョー家に次ぐ3位を維持している。それを超える比率を実現するには、多額な費用を要する。
そうした一連の動きに続いたのが、イタリア紙『イル・メッサジェッロ』による報道だった。前述のように、ステランティスの大株主でありルノーの筆頭株主でもあるフランス政府が、両社を合併させる案を検討中であると報じたのだ。それは6日、ステランティスのジョン・エルカン会長によって否定されたが、合併検討説の背景には、ルノーがEV専門会社アンペアの新規株式公開を取りやめたことや、中国製EVの欧州進出に強い危機感を抱いていることがあったとされる。
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反対の賛成なのだ
これらの動きに対する筆者の見解は、ギャグ漫画『天才バカボン』の名句ではないが、「反対の賛成」である。すなわち、イタリアにおけるEV販売拡大は難しく、いっぽうで中国製EVは近い将来欧州の一部国で脅威となるかもしれない、ということだ。
まずタバレスCEOによるイタリア政府への要求に関して。現地に住む筆者の視点からすれば、かなり困難な注文といわざるを得ない。鍵となるのは充電インフラだ。この国の100kmあたりの急速充電器数は2基以下。ステランティスの本社所在地であるオランダの約17基はおろか、欧州平均の5基を大きく下回る(2021年、データ出典:Vitra)。人口が密集する歴史的旧市街では景観保護上、EV充電設備を伴う新しい大規模駐車場を新設するのは容易ではない。また郊外では、通勤の往復で一日100kmを走行するユーザーが少なくない。自宅用充電設備がないとかなりきついのだ。こうした条件の下では、たとえEVの普及を奨励したとしても、消費者の心理はなかなか動かないだろう。
それらは数字にも表れている。2023年上半期の乗用車登録台数におけるEVの比率は3.9%と、1ケタ台である(データ出典:Electromaps)。夏の間、頻繁に見られたEVが、越境して観光にやってきた外国人のものであったことは、筆者が住むシエナの複合商業施設の駐車場を見れば如実にわかる。当連載第826回で記した充電器付き駐車スペースは、観光の季節が終わって国境を越えてくるEVがいなくなると、途端に空きの日が目立つようになった。
内燃機関以上にミクロ戦略が重要
いっぽうで、フランスのEV販売は、イタリアよりも好調な数字だ。2023年の国内販売台数におけるEVの割合は16.8%。1位は「テスラ・モデルY」の3万7127台、2位はルノー系の「ダチア・スプリング」の2万9761台であった。
問題なのは、上海汽車の1ブランドである「MG4」が初の順位入りにもかかわらず、2万0072台で6位に入ったことだ。それは7位の「ルノー・メガーヌE-TECH」、8位の「ルノー・トゥインゴE-TECH」を上回る数字だ。17位にも同じMGの「ZS EV」が前年比40%増で入っている(データ出典:Automobile Propre)。ちなみにMGは、隣国スペインでの販売において、2023年12月に内燃機関版の「ZS」が「ルノー・クリオ」を抜いて首位に躍り出て、業界関係者に衝撃をもたらした。そうした意味でも、今回のルノー/ステランティス合併説の背景に、中国系ブランド脅威論があったとされるのは十分に信ぴょう性がある。
実際、そうした状況を象徴するような光景を2024年2月、パリで目撃した。同市では2018年に廃止したEVシェアリング「オトリブ」の充電スペースを一般に開放している。そうした場所で、たびたび中国資本メーカーのEVがチャージしていたのだ。最も衝撃的だったのは、上海汽車系のMGに続くかたちで、BYDが2台並んでいた光景だった。
フランス政府は2023年12月、5000ユーロ(約80万円)のEV購入補助金対象車リストを発表。その際、中国製EV 3車種を適用除外した。具体的にはMG4、上海工場生産の「テスラ・モデル3」、ダチア・スプリングの3モデルである。製造・輸送工程で生じる二酸化炭素排出量で基準を満たせなかったためと説明されている。同施策が2024年のEV販売にどう影響するかが注目される。
イタリアとフランス・パリの状況について説明したが、もうひとつ興味深い光景を2023年10月に訪れたドイツで見たので紹介しておこう。ミュンヘンの市内ではたびたびEVを目撃したのに対し、わずか80km西にある人口29万人の地方都市アウクスブルクでは、ほぼすべてのクルマが内燃機関車で、なかには車齢20年超えとみられるモデルもたびたび見られた。参考までに、2023年上半期のドイツ乗用車販売台数におけるEVの割合は15.8%。すなわちフランスの通年とほぼ同じあり、決して低くない。それでも、都市と地方では一目でわかる違いがあるのだ。
このように、国や都市によってEV事情は異なる。自動車メーカーの経営陣は、国や地域ごとに、どこでも給油所がある内燃機関車以上のミクロ戦略を練る必要がある。言い換えれば、入構を許された自社製車両と自前のチャージングステーションのみが見下ろせる重役室から「なぜあの国で、ウチのEVが売れないのだ!」などとつぶやくのは無意味であり、ひいては経営を誤るということだ。
ついでに言えば、読者諸氏も日本のメディアでたびたび用いられる「ヨーロッパでEVは」といった十把ひとからげな表現には疑って接してほしい。ましてや「欧米では」といったくくりは、乱暴としか言いようがない。
(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/編集=堀田剛資)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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