新車の経験しかない人は、旧車・中古車を避けるべき?
2024.03.19 あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマを買う際は新車ばかり選んできたのですが、かつて憧れた古いモデルが欲しくなりました。しかし旧車・中古車に関しては購入経験がないため、車両の当たりハズレや不具合などを考えると不安になります。手を出さないほうがいいのでしょうか?
実は私も中古車を買ったことはありません。
そのうえで結論を言いますと、悩むよりもまず、ご自身の気に入ったクルマは買われたらいいと思います。
なにせ現代は、リペアの技術が上がっているのです。もちろん修理にはコストがかかりますが、昔と違って「お金を払えばできないことはない」と言えるほど修復技術は向上しています。
そして今は、クルマ好きに人気のヒストリックカーやクラシックカーの価格が高騰傾向にあります。コンディションや修理のことを気にして見送っていては、その好きなクルマの出物に会える機会自体がなくなってしまうかもしれません。
直せる技術を持った人は日本のどこかにいます。それを信じて、まずは手に入れてみてはどうでしょう。
マニアックな旧車ではなく、ごく一般的な中古車については、自動車業界でも新たな動きが見られます。
例えば、私が開発に携わった「86」は発売から10年以上が経過し、トヨタのサービス部門が主体になって、そのコンディションを取り戻すリフレッシュパッケージを売り出しています(関連記事)。
内装や外装などコースを分けて、新車からのオーナーや中古車の購入者が気になるところをリフレッシュしていくというメーカー主導のプランです。アフターマーケットのパーツでカスタマイズするのではなく、初期性能を取り戻すために純正部品でリフレッシュする。そういうクルマとの付き合い方も始まっています。
つまり、自動車というものが成熟期に入り、これまでの「新しいモデルのほうが必ず優れているといえた時代」から「いいクルマの選択肢を中古車にまで広げて考えられる時代」になったきたといえるのです。
現状としては趣味性の高いクルマでサービスを始めて、反響があればより一般的なクルマにも広げたいと考えているようですから、今後に期待しましょう。
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多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。