メルセデス・ベンツE350eスポーツ エディションスター(FR/9AT)
余裕が違う 2024.04.06 試乗記 メルセデス・ベンツの新型「Eクラス」にラインナップする、プラグインハイブリッドモデル「E350eスポーツ エディションスター」に試乗。普通充電と急速充電の両方に対応したシステム最高出力312PSを誇るその走りやいかに。「EQEセダン」よりもハードルが低い!?
ヨーロッパ勢が電気自動車(BEV)のラインナップを増やしているが、とくにその動きが目立つのがメルセデス・ベンツだ。コンパクトSUVの「EQA」からラグジュアリーSUVの「EQS SUV」まで、さまざまなモデルを設定しており、街で見かける機会も増えてきた。
アッパーミディアムセダンとしては「EQEセダン」が1251万円から用意されていて、メルセデスのBEVから一台選ぶとすれば、個人的にはこのスタイルが一番。その一方で、BEVへの一歩を踏み出すにはまだちゅうちょする人が多いのも事実で、BEVに興味はあるけれど、遠出のときに途中で充電することに不安を覚えるという人にとっては、BEVではなくプラグインハイブリッド車(PHEV)のほうが断然ハードルは低い。
新型Eクラスに用意されるE350eは、まさにそんな人にぴったりの一台。自宅でバッテリーを満充電にしておけば、電気だけで112kmの航続距離が確保され、日常ではEVと同じ感覚で運転できる一方、遠出のときはモーターとエンジンを併用することで、途中で給油することはあっても、充電せずにドライブが楽しめるからだ。
ちなみに、同じ2リッター直4ガソリンエンジンを搭載する「E200アバンギャルド」が894万円、このE350eスポーツ エディションスターは988万円と94万円の価格差があるが、「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」を申請すれば44万円(令和5年度補正予算の場合)が受け取れるし、さらに地方自治体によっては追加の補助金や減税策が用意されるため、購入金額の差がほとんどなくなる場合も。エンジン車の新型Eクラスを検討している人にとって、実はPHEVは身近な存在なのだ。
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E200との違いはラゲッジスペース
話は前後するが、第6世代となる新型Eクラスが登場したのは2023年のことで、日本では2024年2月から販売がスタートしている。発売当初からセダンとステーションワゴンが用意されており、2リッター直4ガソリンターボのE200アバンギャルドと、2リッター直4ディーゼルターボの「E220dアバンギャルド」が選べる一方、2リッター直列4気筒ガソリンターボと電気モーターを組み合わせたPHEVのE350eスポーツ エディションスターはセダンのみの設定になる。
そのセダンのエクステリアは、先代に比べて存在感が高まったのが見逃せないところ。“スリーポインテッドスター”とシングルルーバーが目を引くラジエーターグリルは、その周囲をブラックパネルで囲むデザインとすることで、EQEに似せてきたり、テールライトに“スリーポインテッドスター”をイメージさせる要素を加えたりするなどして、ひと目で新型Eクラスとわかるエクステリアに仕上げられている。
一方、エンジン車とPHEVの違いは少なく、ボディー右側の給油口に加えて、ボディー左側とリアバンパーに充電口があるのがE350eを見分けるポイント。E350eは200Vの普通充電のほか、最大60kWの急速充電やV2H/V2Lといった給電機能にも対応している。
E200とE350eの一番の違いはラゲッジスペースで、25.4kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載するE350eは荷室のフロアがかさ上げされるため、E200に比べると高さが90mm減り、容量は170リッター減の370リッターになるのが悩みどころ。もともとラゲッジスペースに余裕があるステーションワゴンにPHEVモデルを設定すればいいと思うのだが、そういった需要は少ないのだろうか?
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EV走行だけで事足りる
メーカーオプションの「デジタルインテリアパッケージ」が選択された試乗車のインテリアは、センタークラスターから助手席前をガラスで覆う「MBUXスーパースクリーン」が搭載され、エクステリア以上に新しさが感じられる。メーターが立体的に表示される「3Dコックピットディスプレイ」も違和感なく見ることができ、なかなか楽しい。
バッテリー容量が十分あることを確認して、まずは「エレクトリック」モードで走りだすことにする。カタログを見るとE350eのモーターは最高出力が129PS、最大トルクは440N・m。この最大トルクはE220dのディーゼルターボエンジンと同じ数字で、しかも、0-2100rpmでそれを発生するのが頼もしいところ。
実際に走りだしてみると、軽くアクセルペダルを踏んだだけでも十分な加速力があり、さらにそこからアクセルペダルを踏み増せば、街なかはもちろんのこと、高速道路の加速もモーターだけで事足りてしまいそうだ。一方、急加速のためにアクセルペダルを大きく踏み込めばエンジンが自動的に始動する。ただ、通常の走行ではその必要はないレベルで、バッテリー残量さえ許せばガソリンを一滴も使わずに出かけることも可能である。
「ハイブリッド」モードや「スポーツ」モードでは、走行中にエンジンを使うことが増え、その際にはモーターがエンジンをアシストすることで素早い加速が可能。ストレスのない走りが楽しめた。
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乗り心地は発展途上
PHEVのE350eでは回生ブレーキが利用できるが、基本的にはメルセデスの他のBEVと同じスタイルを踏襲する。すなわち、弱めの回生ブレーキが利く「D」(普通回生)が標準で、パドル操作で強めの「D-」(強化回生)とクルージングの「D+」(回生なし)を切り替えることができる。さらに「D Auto」(インテリジェント回生)を選択すれば、先行車との距離や道路状況により自動的に回生ブレーキの強さをコントロールしてくれる。
これがかなり便利で、比較的交通量の多い高速道路を走るときなどにはうまく車間距離を調整してくれるので助かる。ただし、たとえば、一般道の走行では、信号で止まりたいときに先行車がいないと回生ブレーキが利かないので注意が必要。私は、一般道はD-、高速はD Autoを使うことにしている。
ところで、試乗車にはやはりメーカーオプションの「ドライバーズパッケージ」が選択され、4輪操舵の「リアアクスルステアリング」とエアサスペンションの「エアマチックサスペンション」が搭載されていた。リアアクスルステアリングの効果は絶大で、Uターンや車庫入れ時に小回りが利き、またコーナーでは全長4960mmの余裕あるサイズのボディーを忘れさせるほどクイックなハンドリングが楽しめるのだ。
一方、エアマチックサスペンションを手に入れたE350eだが、乗り心地はやや硬めで、荒れた路面ではリアからショックを拾いがち。速度が上がればその印象は薄れるものの、このあたりは今後の熟成に期待したいところだ。それ以外の部分では高いレベルの仕上がりを見せるE350e。自宅で充電できる環境を整えられる人にとっては、とても魅力的な新型Eクラスといえるだろう。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツE350eスポーツ エディションスター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4960×1880×1485mm
ホイールベース:2960mm
車重:2210kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:204PS(150kW)/6100rpm
エンジン最大トルク:320N・m(32.7kgf・m)/2000-4000rpm
モーター最高出力:129PS(95kW)/2100-6800rpm
モーター最大トルク:440N・m(44.9kgf・m)0-2100rpm
システム最高出力:312PS(230kW)
タイヤ:(前)245/40R20 99Y XL/(後)275/35R20 102Y XL(ミシュランeプライマシー)
燃費:12.6km/リッター(WLTCモード)
価格:988万円/テスト車=1222万3000円
オプション装備:デジタルインテリアパッケージ(40万4000円)/ドライバーズパッケージ(40万9000円)/リモートパーキングアシスト(15万5000円)/アドバンスドパッケージ(61万6000円)/レザーエクスクルーシブパッケージ(75万9000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:824km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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