マセラティ・グラントゥーリズモ トロフェオ(4WD/8AT)/グラントゥーリズモ トロフェオ75thアニバーサリー(4WD/8AT)/MC20チェロ プリマセリエ ローンチエディション(MR/8AT)/グレカーレ トロフェオ(4WD/8AT)
誇るべき技がある 2024.04.10 試乗記 ミドシップスーパーカー「MC20」とともに登場したマセラティ最新の3リッターV6ツインターボエンジン「Nettuno(ネットゥーノ)」。この500PSオーバーのハイパワーユニットを搭載する3モデルの走りと、マセラティ独自の世界観を、あらためてサーキットで確かめた。F1直系のテクノロジーを搭載
マセラティのV型6気筒エンジン搭載モデルにイッキ乗りするという、興味深い報道関係者向けの試乗会が開催された。
2020年にデビューしたマセラティMC20に搭載された自社製3リッターV6ツインターボエンジンは、その後、「グラントゥーリズモ」と「グレカーレ」にも展開している。モデルごとにエンジンのチューニングは変えられている、という説明を受けてはいたものの、同条件で乗り比べる機会はなく、「まぁ違うんだろうな」ぐらいのうすぼんやりとした認識でいた。
今回、晴れてV6エンジン搭載モデルが一堂に会し、同じ条件で比較する機会が用意された。場所は袖ケ浦フォレストレースウェイ。サーキットでの試乗会ではあるものの、ツーリングをイメージして乗ってもらいたいとのマセラティ側の意向で、先導車に導かれて、速度の上限を120km/hに定められたテストドライブとなった。
V6エンジンの名称Nettuno(ネットゥーノ)がローマ神話のネプチューン(海神ポセイドン)に由来することや、F1直系のプレチャンバー(副燃焼室)燃焼システムを採用していることはさんざん語られてきたことなので割愛。早速コースに出たい。いや、コースに出る前に、F1由来のこのテクノロジーを採用したエンジンをロードカーに採用したのは、MC20が世界初だった、ということだけは付記しておきたい。
webCG取材班は、「グラントゥーリズモ トロフェオ」、「MC20チェロ」、「グレカーレ トロフェオ」、そして最後にもう一回グラントゥーリズモ トロフェオの限定モデルに乗るというスケジュールだった。
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
美しく曲がることが得意
古典的ともいえるラグジュアリーなレザーの設(しつら)えと、シフトセレクターまでもが液晶パネルのプッシュスイッチ式になるモダンさが同居したグラントゥーリズモの室内に潜り込む。ステアリングホイールのスポーク部分に備わるスターターボタンを押すと、V6ツインターボエンジンが始動する。
窓を閉めた状態だとアイドル音はほぼ完璧にシャットアウトされ、豪華なインテリアのおかげでサーキットのパドックにいながら、室内には優雅な時間が流れる。先導車の後についてコースイン、軽くアクセルペダルを踏み込むと、V6ツインターボは「ホロホロホロ」という機嫌のよさそうな音を発する。
前述したとおり、速度制限アリの試乗だから、コーナーからの立ち上がりが勝負だ。タイトコーナーの出口でアクセルペダルを踏み込むと、バチンとトルクが車輪に伝わり、ハ行の濁音と半濁音が混ざった快音が鼓膜を震わし、その後に伸びやかな加速フィールが続く。「俊敏なレスポンス」×「エキゾーストノート」×「加速感」の三位一体の攻撃により、ドライバーは陶然とする。
ステアリングホイールのスポーク部分、スターターボタンと反対の位置にあるドライブモードセレクターをクルッと回して、「スポーツ」や「コルサ」を選ぶと、エンジンのレスポンスはさらに鋭くなり、ステアリングホイールの手応えが増し、エアサスペンションが引き締まる。
ただし「コルサ」を選んでも、フルブレーキング時のノーズダイブはまぁまぁ大きく、したがってねじ伏せるようなドライビングスタイルは似つかわしくない。このクルマは速く曲がることよりも美しく曲がることが得意で、エンジンも同様に、絶対的なスピードより官能的な音やフィールを愛(め)でるほうが向いているように感じた。
試乗後、フードを開けるとネットゥーノは前輪車軸の後方に配置されていた。ネットゥーノがコンパクトであるからこそ、容易にフロントミドシップのレイアウトが採用できるのだ。
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
MC20チェロは美爆音
ネットゥーノをミドシップするMC20チェロに乗り換えると、世界が一変する。ラグジュアリーとモダンがコラボするインテリアのコンセプト自体はグラントゥーリズモと似ているものの、よりシンプルでレーシーだ。おまけに、スタート前から室内にはアイドル音が響いている。軽量化のために遮音材を省いているのか、演出としてあえて聞かせているのか。
スタートして、すぐにグラントゥーリズモとの違いを感じる。トルクコンバーター式8段ATのグラントゥーリズモより、8段DCTを搭載するMC20チェロのほうがシフトのスピードが素早く、気に障るほどではないけれどショックも感じるからだ。左がシフトダウン、右がシフトアップのパドルを操作しながら、コーナーをクリアする。
シフトフィールの次に違いを感じたのは、ターンインの身軽さ。グラントゥーリズモもすっとインに寄ると感じたけれど、MC20チェロはスパッと寄る。最終コーナーの出口でアクセルペダルを踏み込みホームストレートを加速すると、2速の7000rpm近くまでまわり、今回の速度上限である120km/h付近に達した。このときの音は、グラントゥーリズモが快音であったのに対して、MC20チェロは美爆音と、やはり趣が異なる。
低回転域からの豊かなトルクと滑らかな回転フィールはグラントゥーリズモとも共通であるけれど、寄らば斬る、というヒリヒリするような切れ味が身上で、スポーツカーとGTカーの違いを痛感する機会となった。
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
レースで磨いた技術やノウハウをEVに
今回の試乗車のラインナップを眺めて、グレカーレ トロフェオが一番不利だと思うのは当然だろう。けれども、速く走るのであれば差も出るだろうけれど、楽しく走るという点においては遜色なかった。
コーナーではグラッと傾くのではなく、じわじわじわーっとロールが深くなっていき、結果的にきれいなコーナリングフォームでクリアする。ロールが心地よいと感じる足まわりのチューニングや、路面からのフィードバックをきちんとドライバーに伝える確かなステアリングフィールなどは、形こそ違え、このブランド共通の美点だ。もうひとつ、ただ強力な制動力を発揮するだけでなく、ペダルの踏力に応じて微妙にコントロールできる好フィーリングのブレーキも、3台に共通していた。
そしてグレカーレのファン・トゥ・ドライブに大きな役割を果たすのが、やはりネットゥーノ。2tを超える車重を軽々と引っ張り、しかもただ加速するだけでなく、官能的であることはグラントゥーリズモで確認したとおり。
おもしろいのは、クーペのグラントゥーリズモよりSUVのグレカーレのほうが、俊敏にコーナーを曲がるスポーツカーっぽさが色濃いと感じたことだ。グラントゥーリズモが優雅、グレカーレがタイトという味つけ。伝統のマセラティでありながら、SUVの走りをスポーティーに振るあたりが、イマっぽい。
マセラティは、2028年までに全モデルを電動化すると宣言している。フォーミュラE第5戦「TOKYO E-Prix」で優勝したことは記憶に新しいけれど、レースで磨いた技術やノウハウを市販モデルの開発に生かすはずだ。ひとつのエンジンを3つのまったく異なるスタイルのクルマに合わせてチューニングする匠(たくみ)の技は、モーターの時代にも有効ではないだろうか。そんなことを感じた、“マセラティ春のV6まつり”だった。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
テスト車のデータ
マセラティ・グラントゥーリズモ トロフェオ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4965×1955×1410mm
ホイールベース:2930mm
車重:1870kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:550PS(404kW)/6500rpm
最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/2500-5500rpm
タイヤ:(前)265/30ZR20 94Y/(後)295/30ZR21 102Y(ピレリPゼロ)
燃費:10.1リッター/100km(約9.9km/リッター、欧州複合モード)
価格:2998万円/テスト車=3198万円
オプション装備:3コートメタリックペイント<ブルーノービレ>(64万円)/Sonus Faberハイプレミアムサウンドシステム<19スピーカー、1195W>(59万円)/テックアンドアシスタンスパッケージ<フレームレスデジタルルームミラー、ヘッドアップディスプレイ>(42万円)/リアプライバシーガラス(15万円)/ヘッドレストトライデントステッチ(12万円)/スポーツデザインパッケージ<アルミ/ステンレススポーツペダル、アルミフットレスト、マセラティロゴ入りイルミネーテッドドアシル>(8万円)
テスト車の年式:2023年型
テスト車の走行距離:5019km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
マセラティ・グラントゥーリズモ トロフェオ75thアニバーサリー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4965×1955×1410mm
ホイールベース:2930mm
車重:1870kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:550PS(404kW)/6500rpm
最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/2500-5500rpm
タイヤ:(前)265/30ZR20 94Y/(後)295/30ZR21 102Y(ピレリPゼロ)
燃費:10.1リッター/100km(約9.9km/リッター、欧州複合モード)
価格:3660万円/テスト車=3791万円
オプション装備:ブラックブレーキキャリパー(7万円)/リアプライバシーガラス(15万円)/スポーツデザインパッケージ<アルミ/ステンレススポーツペダル、アルミフットレスト、マセラティロゴ入りイルミネーテッドドアシル>(8万円)/Sonus Faberハイプレミアムサウンドシステム<19スピーカー、1195W>(59万円)/ヘッドアップディスプレイ>(42万円)
テスト車の年式:2023年型
テスト車の走行距離:1570km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
マセラティMC20チェロ プリマセリエ ローンチエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4670×1965×1215mm
ホイールベース:2700mm
車重:1750kg
駆動方式:MR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:630PS(463kW)/7500rpm
最大トルク:730N・m(74.4kgf・m)/3000-5750rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 96Y/(後)305/30ZR20 103Y(ブリヂストン・ポテンザ スポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:4438万円/テスト車=4438万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2023年型
テスト車の走行距離:9149km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
マセラティ・グレカーレ トロフェオ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4860×1980×1660mm
ホイールベース:2900mm
車重:2030kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:530PS(390kW)/6500rpm
最大トルク:620N・m(63.2kgf・m)/3000-5500rpm
タイヤ:(前)255/40R21 102Y/(後)295/35R21 107Y(ブリヂストン・ポテンザスポーツ)
燃費:11.2リッター/100km(約8.9km/リッター、WLTCモード)
価格:1683万円/テスト車=1764万円
オプション装備:メタリックペイント<ビアンコアストロ>(15万円)/フロントシートベンチレーション(12万円)/リアシートヒーター(7万円)/ヘッドレストトライデントステッチ(6万円)/ヒーテッドレザーステアリングホイール(4万円)/INOXスポーツペダル(4万円)/Sonus Faberハイプレミアムサウンドシステム<21スピーカー>(33万円)
テスト車の年式:2023年型
テスト車の走行距離:1万2974km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
- 
  
  2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】 2025.11.1 メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! まずはSTIの用意した「スバルWRX S4」「S210」、次いでNISMOの「ノート オーラNISMO」と2013年型「日産GT-R」に試乗。ベクトルの大きく異なる、両ブランドの最新の取り組みに触れた。
 - 
  
  シトロエンC3ハイブリッド マックス(FF/6AT)【試乗記】 2025.10.31 フルモデルチェンジで第4世代に進化したシトロエンのエントリーモデル「C3」が上陸。最新のシトロエンデザインにSUV風味が加わったエクステリアデザインと、マイルドハイブリッドパワートレインの採用がトピックである。その仕上がりやいかに。
 - 
  
  メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【海外試乗記】 2025.10.29 メルセデス・ベンツが擁するラグジュアリーブランド、メルセデス・マイバッハのラインナップに、オープン2シーターの「SLモノグラムシリーズ」が登場。ラグジュアリーブランドのドライバーズカーならではの走りと特別感を、イタリアよりリポートする。
 - 
  
  ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH(FF/4AT+2AT)【試乗記】 2025.10.28 マイナーチェンジでフロントフェイスが大きく変わった「ルーテシア」が上陸。ルノーを代表する欧州Bセグメントの本格フルハイブリッド車は、いかなる進化を遂げたのか。新グレードにして唯一のラインナップとなる「エスプリ アルピーヌ」の仕上がりを報告する。
 - 
  
  メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.27 この妖しいグリーンに包まれた「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」をご覧いただきたい。実は最新のSクラスではカラーラインナップが一気に拡大。内装でも外装でも赤や青、黄色などが選べるようになっているのだ。浮世離れした世界の居心地を味わってみた。
 
- 
              
                
                        
                          NEW
                    第322回:機関車みたいで最高!
2025.11.3カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。2年に一度開催される自動車の祭典が「ジャパンモビリティショー」。BYDの軽BEVからレクサスの6輪車、そしてホンダのロケットまで、2025年開催の会場で、見て感じたことをカーマニア目線で報告する。 - 
              
                
                          NEW
                    現行型でも中古車価格は半額以下! いま本気で狙いたい特選ユーズドカーはこれだ!
2025.11.3デイリーコラム「クルマが高い。ましてや輸入車なんて……」と諦めるのはまだ早い。中古車に目を向ければ、“現行型”でも半値以下のモデルは存在する。今回は、なかでも狙い目といえる、お買い得な車種をピックアップしてみよう。 - 
              
                
                        
                          NEW
                    スズキ・アルト ラパン ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】
2025.11.3試乗記スズキの「アルト ラパン」がマイナーチェンジ。新しいフロントマスクでかわいらしさに磨きがかかっただけでなく、なんとパワーユニットも刷新しているというから見逃せない。上位グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。 - 
              
                
                    ジャパンモビリティショー2025(横浜ゴム)
2025.11.2画像・写真全日本スーパーフォーミュラ選手権に供給しているレーシングタイヤや実際のマシン、ウルトラハイパフォーマンスタイヤ「アドバンスポーツV107」の次世代コンセプトモデルなどが初披露された横浜ゴムのディスプレイを写真で紹介する。 - 
              
                
                    ジャパンモビリティショー2025(ヒョンデ モビリティー ジャパン)
2025.11.2画像・写真燃料電池車の新型「NEXO(ネッソ)」やフラッグシップ電気自動車「アイオニック5」、そしてデザインコンセプトカー「インスタロイド」が並んだヒョンデブース。これら展示車両や、燃料電池に関するディスプレイを写真で紹介する。 - 
              
                
                        
                    ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(前編)
2025.11.2ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛え、STIではモータースポーツにも携わってきた辰己英治氏。今回、彼が試乗するのは「ホンダ・シビック タイプR」だ。330PSものパワーを前輪駆動で御すハイパフォーマンスマシンの走りを、氏はどう評するのか? 
      





















































    
    
    
    
    








                        
                          
                        
                    
                    
                        
                    
                  
                  
                  
                  
                        
                    
                        
                    
                        
                    