「なんだか最近よくなったよね」 レクサス躍進の秘密をメカニズムの面から探る
2024.06.05 デイリーコラムデビュー6年目の大幅進化
「レクサスって最近なんだかよくなったよね」という言葉を、自分の周りでもちょくちょく耳にするようになった。自分が試乗してみても、「UX」のマイナーチェンジモデルや「LM」などは、想像や期待を大きく上回る仕上がりだった。UXは2018年の発売から5年も経過していて、これまで何度も改良の手が加えられてきたから、「もうこれ以上の伸び代はないのでは?」と思っていたところ、現行モデルは操縦性も乗り心地も期待値を超えてさらによくなっていた。後席の豪華な装備ばかりに注目が集まるLMには、3列シートの6人乗りも追加された。ショーファードリブンを想定した4人乗りもファミリーユースなども想定した6人乗りも、実は運転が楽しかったりする。大きなボディーと重い車両重量とは結びつかないくらい、ドライバーの入力に対してレスポンスよく正確に反応する。
さらに言えば、この両車には似たような乗り味すら存在する。それは例えばクルマが動き出す瞬間。重量物であるクルマが動き出すときは最も力が必要になる局面でもあり、それを重視したパワートレインのセッティングにより、勢いよく動き出してしまうクルマも少なくない。ところがUXやLMは、着物を召したご婦人がスッと立ち上がるような所作のごとく、極めてスムーズかつ自然にタイヤが転がり出す。ステアリングの切り始めのところにも同じ香りが漂う。タイヤのコーナリングフォースの立ち上がり方と、それに呼応するように向きを変えていくボディーの動きが、両車では近いところにあるように感じた。
ボディーの局部剛性を強化
こういうことは偶然の産物ということがほとんどなくて、たいていは狙ってやった必然の結果である場合が多い。ずっと気になっていたこの件に関していろいろと独自に取材してみると、いくつかの事実が判明した。
UXにしてもLMにしてもボディーに補強が施されており、そのやり方が酷似していたのである。いずれのモデルもボディーの前後にステーなどを追加することで、局部の剛性を向上させている。見た目には局所的処置だが、これが操縦性や直進安定性や乗り心地など幅広い性能へ広く好影響を及ぼすという。こんなささいな施しが本当にそんな劇的変化をもたらすのかにわかには信じがたいかもしれないが、実際の乗り味には明らかに効果のほどが表れている。
いっぽうで、「後から継ぎ足すよりも、ボディー設計の段階でその要件も盛り込んでおくべきではないか」と思ったりもする。ただ、ボディー設計やボディー剛性に並々ならぬこだわりを持つドイツ車にも、同じような対処がうかがえる。例えばメルセデス・ベンツの新型「Eクラス」のボンネットを開けてみると、サスタワーとラジエーターサポートフレームをつなぐようにステーが入っているのが確認できる。コンピューターやソフトウエアの進化により、ボディーの設計技術も飛躍的に向上し、以前と比べればシミュレーションの段階で実車にかなり近い再現性を達成しているが、動かしてなんぼのクルマは、やっぱり実際に運転してみるとシミュレーションの想定外の動きをすることがある。それを解決するための手段として、こうした追加補強が必要不可欠なのだそうだ。
地道な手当てをコツコツと
したがって、レクサス各車に見られるこうした取り組みは、決してレクサスが発見したり発明したりしたものではない。「ドイツ車では昔から当たり前のように行われてきたことで、それと同等の手法をわれわれもやっているにすぎません」と、このプロジェクトに携わるエンジニアは話していた。さらに彼はこうも付け加えている。
「やっていること自体はちっとも珍しいことではなく、いまさら自慢するようなことでもありません。重要なのは、こういう作業をコツコツと続けていくことと、すべてのレクサスに確実に反映させることです。われわれはこのプロジェクトを“味磨き活動”と称していますが、いまは磨くための味の姿がようやく見えてきた段階。可能なものはプラットフォームやボディーの設計時に盛り込んで、味を明確化するために最小限の追加補給だけにしていくことが今後重要です」
「味がない」「キャラクターが不明瞭」などと揶揄(やゆ)されてきたレクサスが独自の方向性を見いだし、進み始めている。トヨタ車とプラットフォームを共有しているにもかかわらず異なる乗り味を創出している秘密は、どうやらこのあたりにもありそうだ。味を決めるにはダシが必要で、強いて言えばいまはそのダシに使う水や素材を探り当てたところにいるのかもしれない。
(文=渡辺慎太郎/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)

渡辺 慎太郎
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。