クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

BYDシール(RWD)/シールAWD(4WD)

巻き起こる旋風 2024.06.25 試乗記 生方 聡 中国のBYDが日本に向けて新たに「SEAL(シール)」を送り込んできた。先に上陸した2モデルと同様、装備やスペックに対して圧倒的に低価格なのは間違いない。目の肥えたカスタマーの多いDセグメントセダンのカテゴリーで、存在感を放つことはできるだろうか。
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!

攻めた価格設定

ミドルサイズSUVの「ATTO 3」とコンパクトな「ドルフィン」がライバルを圧倒する高いコストパフォーマンスで日本のBEV市場に旋風を巻き起こしたBYD。そんないま注目の新規ブランドが最新BEVの第3弾として投入するのが、日本のトップモデルとなるミドルサイズセダンのシールだ。“ドルフィン(イルカ)”とともに、海洋生物の名前がつけられた“シール(アザラシ)”だが、むしろこのクルマのほうがイルカのイメージにピッタリではないかと思える流麗なフォルムの持ち主である。

エンジン車なら「メルセデス・ベンツCクラス」や「BMW 3シリーズ」とほぼ同等の全長×全幅×全高=4800×1875×1460mmのセダンボディーに、82.56kWhの大容量バッテリーを搭載。最高出力313PSのリアモーターで後輪を駆動するスタンダードな「シール」と、トータル出力530PSの前後モーターで4輪駆動を構成する「シールAWD」が用意され、一充電走行距離は前者が640km、後者が575km(いずれも申請中のWLTCモード計測値)を誇りながら、価格を528万円と605万円に設定。さらに導入記念キャンペーンで最初の1000台は33万円安い特別価格とし、無料の特典も用意されるなど、これまで以上にお買い得感が高いのには驚くばかりだ。

では肝心の出来栄えは期待どおりなのか、日本上陸を果たしたばかりの2グレードを早速試してみることにする。

日本では2024年6月25日に発売された「BYDシール」。最初の1000台に限ってRWD車(写真)が495万円、4WD車が572万円で販売される。
日本では2024年6月25日に発売された「BYDシール」。最初の1000台に限ってRWD車(写真)が495万円、4WD車が572万円で販売される。拡大
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4800×1875×1460mm。クーペのようなサイドビューだが、れっきとしたセダンである。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4800×1875×1460mm。クーペのようなサイドビューだが、れっきとしたセダンである。拡大
「オーシャンエックスフェイス」と名づけられたフロントマスク。グリルレスであることを生かし、ボンネットまでが滑らかな面で構成されている。
「オーシャンエックスフェイス」と名づけられたフロントマスク。グリルレスであることを生かし、ボンネットまでが滑らかな面で構成されている。拡大
ドアハンドルは必要なときだけ飛び出すタイプ。普段は見えない黒い部分に「BYD」ロゴが隠れている。
ドアハンドルは必要なときだけ飛び出すタイプ。普段は見えない黒い部分に「BYD」ロゴが隠れている。拡大

上級モデルにふさわしい上質なインテリア

BEVらしいグリルレスデザインのフロントマスクを採用するシール。「テスラ・モデル3」とも「ポルシェ・タイカン」とも違う表情は「オーシャンエックスフェイス」と呼ばれ、髭(ひげ)のようにも見える4本のLEDポジショニングライトのおかげで、ひと目でシールと分かる個性を手に入れている。クーペのようなエレガントさが自慢のサイドビューは格納式のドアハンドルにおかげですっきりとした印象を与える一方、フロントフェンダーやサイドスカートのアクセントがユニークだ。

エクステリア以上に上級モデルにふさわしい雰囲気に仕立て上げられているのがインテリアだ。黒を基調とする室内は落ち着きがあり、レザーやスエードを思わせる素材で彩られたコックピットは高級感が漂っている。ATTO 3に見られるやや奇をてらったデザイン要素がこのシールには見当たらず、個人的にはこのほうが好印象だ。90度回転する大型センターディスプレイはシールにも搭載され、ダッシュボードの主役を担う一方、それとは別に10.25インチと見やすいサイズのメーターディスプレイが備わるのがうれしい。

走りだす前にリアシートをのぞいてみる。足元は広く、余裕で足が組めるほどのスペースが確保されている。荷室は天地がさほど広いとはいえないものの、奥行きや幅はボディーサイズ相応といったところ。ボンネット下にも50リッターの収納が用意されており、RWDと4WDとでサイズに差はなかった。

駆動用リン酸鉄リチウムイオンバッテリーの容量は82.56kWh。あくまで申請中の数値ながら、WLTCモードの一充電走行距離はRWD車が640km、4WD車が575kmとされている。
駆動用リン酸鉄リチウムイオンバッテリーの容量は82.56kWh。あくまで申請中の数値ながら、WLTCモードの一充電走行距離はRWD車が640km、4WD車が575kmとされている。拡大
インテリアカラーはブラックのみの設定。レザーやスエード調の素材を多用し、全体的な質感は高い。15.6インチタッチスクリーンの下にスマートフォンのワイヤレス充電器が2つ並んで備わっている。
インテリアカラーはブラックのみの設定。レザーやスエード調の素材を多用し、全体的な質感は高い。15.6インチタッチスクリーンの下にスマートフォンのワイヤレス充電器が2つ並んで備わっている。拡大
シート表皮はナッパレザーで、ヒーター/ベンチレーション機能を装備。表皮だけでなくフレームにもこだわったとのことで、実際に座り心地が素晴らしい。
シート表皮はナッパレザーで、ヒーター/ベンチレーション機能を装備。表皮だけでなくフレームにもこだわったとのことで、実際に座り心地が素晴らしい。拡大
後席は足元が広いだけでなく、床面と座面との高低差もしっかり確保されている。
後席は足元が広いだけでなく、床面と座面との高低差もしっかり確保されている。拡大

1モーターでも十分すぎるパフォーマンス

まずはRWDを選んで運転席へ。ナッパレザーのヘッドレスト一体型シートが優しく体を包んでくれる。試乗当日は汗ばむほどの暑さだったが、シートベンチレーションが備わるこのシートは実に居心地がいい。

早速センターコンソールにあるスタートボタンを押し、その先にあるシフトスイッチを操作して運転の準備が完了。アクセルペダルを少し踏むと、2120kgのボディーは軽々と動き出した。アクセルペダルの操作に対して、鈍くも過敏でもなく、ちょうどいいレスポンスをみせるシールのモーターは、絶えず加減速を繰り返す一般道でも扱いやすい。一方、アクセルペダルを強く踏み込めば、その力強い加速が実にスポーティーだ。

回生ブレーキはスタンダードとハイの2つから強さが選べ、スタンダードは弱め、ハイならアクセルペダルだけでほぼ速度調節が可能だ。ハイでも反応に過敏なところはなく、コントロールしやすいのがいい。

ここでAWDに乗り換えると、モーターの扱いやすさはそのままに、さらにパワフルな加速が楽しめる。試しにアクセルペダルを目いっぱい踏みつけてやるとスポーツカー顔負けの加速が味わえる。530PSの高出力を4輪で受け止める4WDだけに加速時でもグリップは十分確保され、挙動は安定しているから、躊躇(ちゅうちょ)なく右足に力をこめることができる。

4WD車で東名高速を行く。前後合わせて最高出力530PSのパワートレインは数字どおり力強い。
4WD車で東名高速を行く。前後合わせて最高出力530PSのパワートレインは数字どおり力強い。拡大
センターコンソールに並んだスイッチ類。シフトレバーと「P(パーキング)」ボタンの間にスタート/ストップボタンが配置されているのが少し気になる。
センターコンソールに並んだスイッチ類。シフトレバーと「P(パーキング)」ボタンの間にスタート/ストップボタンが配置されているのが少し気になる。拡大
メーター用の液晶パネルは10.25インチ。電池残量94%で航続可能距離606kmは驚異的だが、カタログスペックどおりに表示するモード(写真)と、直近の電費などの実態に合わせて表示するモードを選べるようになっている。
メーター用の液晶パネルは10.25インチ。電池残量94%で航続可能距離606kmは驚異的だが、カタログスペックどおりに表示するモード(写真)と、直近の電費などの実態に合わせて表示するモードを選べるようになっている。拡大
センタースクリーンを縦向きに回転できるのは「ATTO 3」や「ドルフィン」と同様。写真ではその動作の速さを伝えられないのが残念。
センタースクリーンを縦向きに回転できるのは「ATTO 3」や「ドルフィン」と同様。写真ではその動作の速さを伝えられないのが残念。拡大

最新のプラットフォームがもたらす爽快な走り

シールは、バッテリーセルを直接ボディーに組み込んだ最新のボディー構造「CTB(セルtoボディー)」を採用。これに前:ダブルウイッシュボーン、後ろ:5リンクのサスペンションを搭載している。RWDではフロントタイヤからの細かいショックを伝えがちだが、乗り心地自体は快適で、高速でのフラット感もまずまず。メカニカル油圧可変ダンパーが備わるAWDでは、高速ではさらにフラットさが向上する一方、目地段差を通過する際のショックを巧みにいなし、より快適なロングドライブが楽しめる。

ワインディングロードではノーズが軽いRWDがより軽快なハンドリングを見せ、コーナリングが楽しい仕上がりに。一方、AWDはしなやかなサスペンションの動きが好ましい。個人的には、動力性能、ハンドリングともにRWDで十分満足できると思う。一方、降雪地域などに向けたAWDという選択肢が用意されるのはありがたい。

ATTO 3やドルフィンでは、アダプティブクルーズコントロールとレーンキープアシストでその動きに洗練さが足りない印象だったが、このシールでは十分満足できるレベルに仕上がっていた。デンマークの老舗スピーカーブランド「Dynaudio(ディナウディオ)」のサウンドシステムが標準で搭載されるのも注目で、性能や装備のレベル、コストパフォーマンスの高さを考えると、このシールがミドルサイズセダンセグメントで台風の目になるのは間違いないだろう。

(文=生方 聡/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

「ATTO 3」と「ドルフィン」よりも一世代進んだ「CTB(セルtoボディー)」と呼ばれるボディー構造を採用。バッテリーのトップカバーがフロアを兼ねることで、欧州プレミアムクラスと同等のボディー剛性を実現している。
「ATTO 3」と「ドルフィン」よりも一世代進んだ「CTB(セルtoボディー)」と呼ばれるボディー構造を採用。バッテリーのトップカバーがフロアを兼ねることで、欧州プレミアムクラスと同等のボディー剛性を実現している。拡大
パノラミックガラスルーフはキャビン全体をカバー。シェードは備わっていないが、紫外線カット率99%、可視光線透過率4.2%の二重構造のため車内が暑くなりにくい。
パノラミックガラスルーフはキャビン全体をカバー。シェードは備わっていないが、紫外線カット率99%、可視光線透過率4.2%の二重構造のため車内が暑くなりにくい。拡大
トランク容量は400リッター。リアシートの背もたれは40:60分割で前に倒せる。
トランク容量は400リッター。リアシートの背もたれは40:60分割で前に倒せる。拡大
ボンネット下にも容量50リッターの収納スペースがある。フロントにモーターが積まれる4WD車でも変わらない。
ボンネット下にも容量50リッターの収納スペースがある。フロントにモーターが積まれる4WD車でも変わらない。拡大
BYDシール
BYDシール拡大
 
BYDシール(RWD)/シールAWD(4WD)【試乗記】の画像拡大

テスト車のデータ

BYDシール

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1875×1460mm
ホイールベース:2920mm
車重:2120kg
駆動方式:RWD
モーター:永久磁石同期式電動モーター
最高出力:313PS(230kW)
最大トルク:360N・m(36.7kgf・m)
タイヤ:(前)235/45R19 99V XL/(後)235/45R19 99V XL(コンチネンタル・エココンタクト6 Q)
交流電力量消費率:--km/kWh
一充電走行距離:640km(WLTCモード、BYD計測値)
価格:495万円/テスト車=495万円
オプション装備:なし

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:445km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

BYDシールAWD
BYDシールAWD拡大
 
BYDシール(RWD)/シールAWD(4WD)【試乗記】の画像拡大

BYDシールAWD

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1875×1460mm
ホイールベース:2920mm
車重:2230kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:誘導式モーター
リアモーター:永久磁石同期式電動モーター
フロントモーター最高出力:217PS(160kW)
フロントモーター最大トルク:310N・m(31.6kgf・m)
リアモーター最高出力:313PS(230kW)
リアモーター最大トルク:360N・m(36.7kgf・m)
システム最高出力:530PS(390kW)
タイヤ:235/45R19 99V XL/(後)235/45R19 99V XL(コンチネンタル・エココンタクト6 Q)
交流電力量消費率:--km/kWh
一充電走行距離:575km(WLTCモード、BYD計測値)
価格:572万円/テスト車=572万円
オプション装備:なし

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:563km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

生方 聡

生方 聡

モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。

試乗記の新着記事
  • ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】 2025.9.6 空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。
  • ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
  • ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
  • ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
  • BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
試乗記の記事をもっとみる
関連キーワード
新着記事
新着記事をもっとみる
車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。