ロイヤルエンフィールド・ブリット350(5MT)
あざといまでにスタンダード 2024.06.30 試乗記 ロイヤルエンフィールド伝統のモーターサイクルが、最新(?)の空冷単気筒エンジンを得て復活。90年を超える歴史を今日に伝える「ブリット350」は、この上なくクラシックでスタンダードな走りと装いの一台だった。半世紀前のデッドストックと言われても
「今やトラでさえも……」
今回の試乗車に近づいた瞬間、webCG編集部のトライアンフ乗り、S氏が声をかけてきた。その表情は、なぜかけげんそうだった。
「……トラでさえもフロントフェンダーには樹脂素材を使っているのに、コイツときたら鉄ですよ」。
鉄製フェンダーのなにに引っ掛かるのか、よくわからなかった。ただ、金属ならではの質感が、このオートバイ全体の雰囲気に重みを与えているのは確か。となると彼にすれば、鉄はやっかみのもとだったのかもしれない。
「やるもんだな、ロイヤルエンフィールド」。
これが僕の、いくぶん他人の影響を受けたロイヤルエンフィールド・ブリット350の第一印象だ。違うオートバイが好きな人間を嫉妬させるなんて、わりとまれなことだと思う。
まずは製品説明を。ロイヤルエンフィールドの資料によると、ブリットは今から92年前に発表された、祖国インドの伝統的かつ国民的オートバイ。その最新型がブリット350。末尾の数字が示すのは排気量。ゆえにサイズ感も、日本的に言えば過不足なく中型クラスに属している。
エンジンは、「今どき」と注釈を入れたくなる349cc空冷単気筒OHC 2バルブ。それを抱え込むスチール製フレームとのセットは「Jプラットフォーム」と呼ばれ、他の350シリーズと共用されているそうだ。
全体のデザインは、目に映るままにクラシカル。特にヘッドライトまわりは印象的だ。ライトカバーから飛び出た“タイガーアイ”という名称のパイロットランプは、1954年モデルから受け継いでいる特徴を残したらしい。
いやいや、部分的な話ではないな。ピンストライプ仕上げのフューエルタンクや肉厚な段付きシートも、半世紀前のデッドストックと言われても信じそうな、強いて言えばあざといほどのクラシック感にみちている。重複するが、今どきこんなオートバイが新車で売られる事実自体が、21世紀の驚異に思えた。
|  拡大 | 
|  拡大 | 
|  拡大 | 
|  拡大 | 
|  拡大 | 
|  拡大 | 
|  拡大 | 
|  拡大 | 
|  拡大 | 
クラシカル≒スタンダード
旧車然とした見た目から、これといった期待がないまま試乗して、まったく期待は裏切られなかった。なにはともあれ、約20PSの空冷単気筒エンジンが見せる加速は穏やか。エンジンとフレームのバランスがよいのか、乗り味は極めて素直。破綻の予感がない点で、外観の印象と相まったトータスバランスにたけていると言っていい。
で、既定の試乗時間内だけなら、それ以上は書けなかったかもしれない。一通りブリット350を乗り回した後、このオートバイを編集部まで運ぶという、当初の予定にない依頼を受けた(どうやら彼らは取材の段取りを間違えたようだ)。断るのも大人げないので、再びヘルメットをかぶった。
その瞬間から、頭の中では編集部までの最短ルート検索が始まった。道案内すら忘れる編集部のずさんな態度に考えが向かなかったのは、都内を記憶と勘で駆け巡る乗り方に懐かしさを感じたからだと思う。
その間、約20分。これが思いのほか楽しかった。経路予測がことごとく的中したからだ。まだそんな乗り方ができる自分に満足しつつ、ブリット350のエンジンを切ろうとした刹那(せつな)、そういえばコイツが一切のストレスを感じさせなかったことを思い出した。
ゆっくり立ち上がるエンジンでも中~高回転域のトルクを維持すれば、スラスラと交通の流れに乗れた。なおかつ破綻の予感がない乗り味は、翻ってルート検索に偏った思考の働きを邪魔しないものになった。
そこで肌があわ立つのを感じた。自分が選んだのは、都内で何十年も変わっていないルートだった。それを空冷単気筒の中型オートバイであんなに気持ちよく走れるとは!? もしやブリット350は、オートバイのスタンダードはうんと昔に完成していることを諭そうとしたのだろうか。
クラシカルとスタンダードは≒(ニアリーイコール)。いにしえより数学が得意なインドの人々は、そのあたりをすでに見極めているのかもしれない。だからわが道を貫き通す。聞けば現在のロイヤルエンフィールドは、中型(250cc~750cc)セグメントで最も売れているブランドらしい。
そうした成長の後ろ盾になったのが独自のあざとさだとすれば、他のクラシカルなオートバイ好きがやっかみたくなる気持ちがわからなくもない。なんといっても、重量増をいとわず備えた鉄製フェンダーでもよく走るのだから。
(文=田村十七男/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2145×785×1125mm
ホイールベース:1390mm(本国仕様)
シート高:805mm
重量:195kg
エンジン:349cc 空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブ
最高出力:20.2PS(14.9kW)/6100rpm
最大トルク:27N・m(2.75kgf・m)/4000rpm
トランスミッション:5段MT
燃費:--km/リッター
価格:69万4100円~70万1800円
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆「ロイヤルエンフィールド・ブリット350」に試乗! 前進し続けるインドの巨人の“今”を追う
◆ロイヤルエンフィールドが「ブリット350」を発表 伝統的なスタイルの中型モーターサイクル

田村 十七男
- 
  
  メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【海外試乗記】 2025.10.29 メルセデス・ベンツが擁するラグジュアリーブランド、メルセデス・マイバッハのラインナップに、オープン2シーターの「SLモノグラムシリーズ」が登場。ラグジュアリーブランドのドライバーズカーならではの走りと特別感を、イタリアよりリポートする。
- 
  
  ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH(FF/4AT+2AT)【試乗記】 2025.10.28 マイナーチェンジでフロントフェイスが大きく変わった「ルーテシア」が上陸。ルノーを代表する欧州Bセグメントの本格フルハイブリッド車は、いかなる進化を遂げたのか。新グレードにして唯一のラインナップとなる「エスプリ アルピーヌ」の仕上がりを報告する。
- 
  
  メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.27 この妖しいグリーンに包まれた「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」をご覧いただきたい。実は最新のSクラスではカラーラインナップが一気に拡大。内装でも外装でも赤や青、黄色などが選べるようになっているのだ。浮世離れした世界の居心地を味わってみた。
- 
  
  アウディA6スポーツバックe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.10.25 アウディの新しい電気自動車(BEV)「A6 e-tron」に試乗。新世代のBEV用プラットフォーム「PPE」を用いたサルーンは、いかなる走りを備えているのか? ハッチバックのRWDモデル「A6スポーツバックe-tronパフォーマンス」で確かめた。
- 
  
  レクサスLM500h“エグゼクティブ”(4WD/6AT)【試乗記】 2025.10.22 レクサスの高級ミニバン「LM」が2代目への代替わりから2年を待たずしてマイナーチェンジを敢行。メニューの数自体は控えめながら、その乗り味には着実な進化の跡が感じられる。4人乗り仕様“エグゼクティブ”の仕上がりを報告する。
- 
              
                ![これがおすすめ! ツナグルマ:未来の山車はモーターアシスト付き【ジャパンモビリティショー2025】]() NEW NEWこれがおすすめ! ツナグルマ:未来の山車はモーターアシスト付き【ジャパンモビリティショー2025】2025.10.31これがおすすめ!フリーランサー河村康彦がジャパンモビリティショー2025で注目したのは、6輪車でもはたまたパーソナルモビリティーでもない未来の山車(だし)。なんと、少人数でも引けるモーターアシスト付きの「TSUNAGURUMA(ツナグルマ)」だ。
- 
              
                ![これがおすすめ! マツダのカーボンネガティブ施策:「走る歓び」はエンジンのよろこび【ジャパンモビリティショー2025】]() NEW NEWこれがおすすめ! マツダのカーボンネガティブ施策:「走る歓び」はエンジンのよろこび【ジャパンモビリティショー2025】2025.10.31これがおすすめ!華々しく開幕したジャパンモビリティショー2025の会場で、モータージャーナリストの今尾直樹が注目したのはマツダブース。個性あふれる2台のコンセプトカーとともに公開されたカーボンネガティブの技術に未来を感じたという。
- 
              
                ![これがおすすめ! ダイハツK-OPEN:FRであることは重要だ【ジャパンモビリティショー2025】]() NEW NEWこれがおすすめ! ダイハツK-OPEN:FRであることは重要だ【ジャパンモビリティショー2025】2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でモータージャーナリストの鈴木ケンイチが注目したのはダイハツの「K-OPEN(コペン)」。米もクルマの値段も上がる令和の日本において、軽自動車のスポーツカーは、きっと今まで以上に注目されるはずだ。
- 
              
                ![これがおすすめ! トヨタ・ランドクルーザー“FJ”:タフでかわいい街のアイドル【ジャパンモビリティショー2025】]() NEW NEWこれがおすすめ! トヨタ・ランドクルーザー“FJ”:タフでかわいい街のアイドル【ジャパンモビリティショー2025】2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025の展示車は、コンセプトカーと市販モデルに大別される。後者、実際に買えるクルマのなかでも、特に多くの注目を集めていたのは、つい最近発表された「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」だった!
- 
              
                ![これがおすすめ! BYDラッコ:小さな黒船【ジャパンモビリティショー2025】]() NEW NEWこれがおすすめ! BYDラッコ:小さな黒船【ジャパンモビリティショー2025】2025.10.31これがおすすめ!モータージャーナリストの高平高輝は、ジャパンモビリティショー2025の展示からBYDの「RACCO(ラッコ)」をおすすめの一台にピックアップ。公開されたスタイリングに派手さはないが、だからこそBYDの本気度を感じさせた。
- 
              
                ![シトロエンC3ハイブリッド マックス(FF/6AT)【試乗記】]() NEW NEWシトロエンC3ハイブリッド マックス(FF/6AT)【試乗記】2025.10.31試乗記フルモデルチェンジで第4世代に進化したシトロエンのエントリーモデル「C3」が上陸。最新のシトロエンデザインにSUV風味が加わったエクステリアデザインと、マイルドハイブリッドパワートレインの採用がトピックである。その仕上がりやいかに。
 
      


 
     
     
     
     
     
                           
                           
                           
                           
                           
                         
                     
                   
                   
                   
                   
                        
                     
                        
                     
                        
                    