ランボルギーニ・レヴエルト(4WD/8AT)
我、未確認走行物体ニ遭遇セリ 2024.07.12 試乗記 ランボルギーニの旗艦が世代交代。新たに猛牛の群れを統べる「レヴエルト」は完全新設計をうたう6.5リッターV12ユニットに電気の力を加え、システム出力1015PSを発生するモンスターマシンだ。その力をサーキットで解き放ってみた。フロントに2基のモーターを搭載
ランボルギーニの新しいフラッグシップとなるレヴエルトがいよいよ日本にも上陸。6543万円という価格にもかかわらず、早くも2~3年分相当の受注が入っているという注目のモデルにひと足先に触れる機会をいただいたのは富士スピードウェイだった。
レヴエルトとはスペイン語で「混合」の意。内燃機とモーターからなるパワートレインのミクスチャーを言い表してのものだろう。また、スペインにはかつてレヴエルトと名づけられた伝説的な闘牛も存在したという。
パワートレインの構成は、前軸に最高出力150PSのモーターを2基搭載。街なか走行を想定したドライブモードの「チッタ」ではこのモーターが走行を担い、センタートンネルに収められた容量3.8kWhの駆動用バッテリーにより、電気のみで最長10km程度、前輪駆動での走行が可能だ。たとえ自宅から幹線道路までのアクセス程度であっても、この手のクルマを無音で動かせるありがたみは日本のような住環境ではひと際大きい。そしてモーターを「2基」搭載……ということは、当然ながらスポーツドライビング時には積極的なベクタリングで旋回能力を底上げする。
エンジンは60度バンクのV12で、6.5リッターの自然吸気となる。「アヴェンタドール」とは骨格プロファイルを共有し、ボア・ストロークも同じだが、中身は完全新設計だ。エンジン本体の最高出力は825PSで、その発生域は9250rpm。レブリミットは9500rpmに設定される。
「カウンタック」以来のレイアウトを刷新
レヴエルトがユニークなのは、主に始動や回生、状況に応じて駆動補助の役割を担うモーターとコンパクトな8段DCTを組み合わせた伝達ユニットをV12の後ろに横置きで配することだ。ランボルギーニのミドシップ12気筒といえば、「カウンタック」以降は縦置きトランスミッションを室内側に置くことで全長短縮に貢献するスタンツァーニ発案のレイアウトを踏襲してきたが、今回はその置き場を駆動用バッテリーに譲るかたちで、なんとか後軸側に居場所をひねり出した。当然ながらカーボンタブの車台も全く新しい。ホイールベースはアヴェンタドールに比べて80mm延びたものの、難儀なテトリスと考えれば致し方なく思える。
ドライブコンフィギュレーションは従来の「ANIMA」と呼ばれるドライブモードに加えて、電動パワートレインの作動を管理するEV設定モードが加わった。ステアリングの左に据えられた赤いノブはANIMA用のロータリースイッチで、モードは前述のチッタに加えて、「ストラーダ」「スポーツ」「コルサ」とランボルギーニではおなじみのモードが用意される。EV設定用の黒いロータリースイッチはステアリング右側に据えられ、走行中でも充電を優先する「リチャージ」に駆動力をバランスよくマネージする「ハイブリッド」、そして最大能力を発揮する「パフォーマンス」の3つが用意されている。
試乗は富士スピードウェイ3周を2セット。うち、インラップは完熟用、最終ラップはクーリング用に割り当てられ、相応のペースで走れるのは間の1周のみ。インストラクターが乗る「ウラカンSTO」が2台のレヴエルトを引っ張るかたちで、瞬間的にでも全力を体験するには車間をうまく使いながら目を盗むことになる。もちろん、後に控えるカスタマーエクスペリエンスのために限られた車両を預けていただいているのだから文句があるはずもない。そして暑くジメジメした梅雨のさなかにメディア向けに丸一日行われた試乗では、電気系のシステムも含めて一台も不具合が出なかったという。ここは一筆触れておくべきポイントかもしれない。
ぐいんぐいん曲がる
「ピットレーンはANIMAをチッタで走り始めて、コースに出たらストラーダ、300Rを越えたらスポーツかコルサという感じでクルマの特徴を体験してみてください」
インストラクターの無線に従って、最初はチッタ&ハイブリッドでFFのランボルギーニを体感する。40km/hくらいまで加速してみたが、アクセルの踏量に対する速度の乗りは特段速いということはなく、普通のクルマと同じような感覚で走れるくらいの力感かなという印象だ。そこからコースインとともにストラーダに変更すると即座に後軸モーターがエンジンを始動。駆動環境的にもハイブリッド状態に入る。
一瞬頭をよぎったのは、小さなセルモーターが爆発ピッチの短い12気筒を目覚めさせる独特のクランキング音が、強力なモーターによって失われてしまったかなということだった。オッさん的には長らく憧れ続けてどうやら届かなさそうな、あの情緒が味わえなくなる未来が垣間見えてしまったようで、一抹の寂しさを覚えてしまう。が、その後コカコーラから100Rへと続くコーナーで、相当いろいろな情報が入ってきたことで感傷は一気に打ち消されてしまった。
曲がるわ曲がる、ぐいんぐいん曲がる。自重は決して軽くはないうえに、ホイールベースが延びているのに、なんなら曲がり方はアヴェンタドールよりも軽やかだ。理由は容易に想像できる。「アヴェンタドールS」以降の標準装備となった後輪操舵に加えて、前輪のモーターベクタリングが効果的に働いているのだろう。特にモーターベクタリングはその挙動から実感できるほど明確に、車体をアペックス側へと導いてくれる。このゲインを路面へと伝えるタイヤはブリヂストンの「ポテンザ スポーツ」。見たこともないサイズのうえにランフラット構造ながら、つぶれやねじれ感がしっかり伝わってくるし、路面アタリも柔らかい。
新次元の物体
「では、ANIMAをスポーツかコルサに、EV設定をパフォーマンスに切り替えて、全開でいってみましょう」
ホームストレートに入ると、インストラクターからの無線に従ってモードをコルサに変更。引っ張られるように加速態勢に入る。背後から聞こえるメカノイズもしかり、振動もしかりで、パワートレイン由来の濁りはほとんど感じられない。カーボンタブのアコースティック特性も含めて運転環境はアヴェンタドールはもとより、ウラカンにも増して洗練が著しい。8段DCTはシフトショックに個体差はあれど総じて滑らかで、シングルクラッチ世代を忘却のかなたへと追いやってしまう。もっとも、ランボルギーニに格別のたけだけしさを望む向きには、このこなれ感がどう映るかはちょっと計れない面もある。
と、そんなことを考えながらメーターパネルを見て仰天した。ストレートの途中でモードを切り替えて加速を始めて、グランドスタンドのパナソニックゲートあたりですでに290km/h付近に達している。あくまで肌感での予想だが、最終コーナー立ち上がりからきっちり速度を乗せていけば、1コーナー手前の250m看板での速度はおそらく310km/hを超えてくるだろう。今日びのスーパーカーカテゴリーでは富士ストレート300km/hは散見される話ではあるが、レヴエルトのそれはちょっと異様な感覚で、その域に到達するまでの恐怖心が薄い。フラットな加速とともに気づけば速度がすうーっと伸びている。エンジンのトルクの山谷をモーターが埋め合わせるがゆえの不思議な感覚だ。ちなみに、そこからのブレーキングは姿勢も至って安定しており、進路が乱されることもない。ペタンと地面を捉える安定感からみるに、空力性能も前世代とは比較にならないほど洗練されているようだ。
引力を手のひらで操るかのような挙動のなかに、12気筒をぶん回せる快楽が宿る。この感覚はちょっと経験したことがない。レヴエルトとのコンタクトは、さながら第一種接近遭遇という感じで、その真意をつかみかねるところもあった。が、タイヤが付いているのが不思議なくらいにぶっ飛んだ、新次元の物体ではある。その驚きこそがランボルギーニ。そういう意味では期待に十分応える新しいフラッグシップだ。
(文=渡辺敏史/写真=ランボルギーニ・ジャパン/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・レヴエルト
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4947×2033×1160mm
ホイールベース:2779mm
車重:1772kg(乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:6.5リッターV12 DOHC 48バルブ
モーター:永久磁石同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:825PS(607kW)/9250rpm
エンジン最大トルク:725N・m(73.9kgf・m)/6750rpm
フロントモーター最高出力:150PS(110kW)(1基あたり)
フロントモーター最大トルク:350N・m(35.7kgf・m)(1基あたり)
リアモーター最高出力:150PS(110kW)
リアモーター最大トルク:150N・m(15.3kgf・m)
システム最高出力:1015PS(746kW)
タイヤ:(前)265/30ZR21/(後)355/25ZR22(ブリヂストン・ポテンザ スポーツ)※ランフラットタイヤ
燃費:11.86リッター/100km(約8.4km/リッター、WLTPモード)
価格:6543万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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