第798回:話題の「ダンロップ・シンクロウェザー」に試乗! 住友ゴムの挑戦はオールシーズンタイヤに革命をもたらすか?(前編)
2024.07.22 エディターから一言 拡大 |
水にぬれると、温度が下がるとゴムが柔らかくなるという住友ゴムの「アクティブトレッド」技術。この革新技術が導入されたオールシーズンタイヤ「ダンロップ・シンクロウェザー」がいよいよ発表された。そのウインター性能を、冬の北海道より報告する。
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ゴムの性質を変えてウエット/ウインター性能を高める
ダンロップが、次世代のタイヤを担う技術として発表したアクティブトレッド(参照)。この技術の一部を先んじて搭載し、2024年秋から発売されることとなったオールシーズンタイヤ、シンクロウェザーのプロトタイプを、同社の旭川タイヤテストコースとその周辺の一般道で試した。
アクティブトレッド技術をまだ知らない皆さんのために説明すると、それは温度と水に反応するゴムを使って、さまざまな状況で理想的なグリップ力を得られるようにする技術だ。筆者が初めてこれを知ったのは2023年のジャパンモビリティショーで、ダンロップブースでは水に浸して柔らかさを増すゴム(タイプ・ウエット)と、冷やすことで柔らかくなるゴム(タイプ・アイス)を、実演しながら紹介していた。
この技術がタイヤに投入されると、かなり面白いことになる。低温でゴムを柔らかくできるようになれば、ウインタータイヤが性能を発揮できるレンジが、さらに広がる。スタッドレスタイヤは常用時の剛性を高めることができるし、オールシーズンタイヤも弱点である氷上性能を引き上げられるだろう。
また雨でゴムを柔らかくできるようになったら、単純にウエット性能が向上するだけでなく、サマータイヤのトータルパフォーマンスが底上げされるかもしれない。例えば、これまで以上にタイヤの剛性を上げて転がり抵抗を抑えても、雨のもとでタイヤをしなやかに路面へと追従させられる……といった具合だ。どこにポイントを置くかは、製品の狙いによって変わるだろう。そしてまずダンロップは、この技術の一部をオールシーズンタイヤに投入してきたというわけだ。
ということで旭川のテストコースでは、このアクティブトレッド技術を搭載した新型オールシーズンタイヤ、シンクロウェザーと、従来のオールシーズンタイヤ「オールシーズンマックスAS1」を比較試乗。さらに氷盤路面では、大胆にもスタッドレスタイヤ「ウインターマックスWM02」も交えて3本の比較を行った。車両は「トヨタ・カローラ ツーリング」(2WD)で、タイヤサイズは195/65R15だ。
スタッドレスタイヤに負けない氷上性能を実現
氷盤路での比較は、ちょっと面白い結果となった。というのも、3つのタイヤはどれも制動距離がほぼ同じになったからだ。ただし、AS1がシンクロウェザーやWM02とほぼ同じ距離で止まったのには、理由があると思われる。AS1はスタートからトラクションがかかりにくく、走行中もなかなか空転が収まらなかった。ブレーキングポイント間際で目標速度である30km/hにやっと到達したが、タイヤの空転を考えると実際に30km/h出ていたのかも怪しい。まさにこれこそがオールシーズンタイヤの氷上性能なのだが、だとすれば、他の2製品より低い速度で同じだけの制動距離を要したわけで、すなわちシンクロウェザーとWM02のほうが、制動距離は短いということになる。
実際、路面を捉える感触には明らかな違いがあった。もちろんシンクロウェザーでもアクセルを踏みすぎれば簡単にタイヤは空転するが、氷をつかむグリップ感が一枚上手だ。路面をひっかく音も、ずっと太くて低い。速度もブレーキングポイントのずっと手前で30km/hに到達し、目安となるパイロンを正確に捉えることができた。
驚いたのはウインターマックスWM02が、シンクロウェザーに大差をつけられなかったこと。発進時も走行中も、若干WM02のほうが路面を捉えている感じはする。しかし、等間隔で置かれたパイロンを参考に見たところ、制動距離はほぼ変わらなかった。
これが操舵も加わる定常円旋回になると、その差はさらに顕著になった。AS1はなんとか旋回しつつも手応えが極めて弱く、トラクションをかけるとそれさえもがズルリと抜けてしまう。対してシンクロウェザーには、ステアインフォメーションがあり、舵角を増やすと抵抗が増すのがわかる。ウインターマックスWM02のほうがややグリップ感が強めなものの、その差はごくわずか。こちらのほうがサイプが少ないにもかかわらず、その柔らかさによってスタッドレスタイヤと同等の氷上性能を見せるアクティブトレッドゴムの性能には、ちょっと驚かされた。
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雪上でのグリップ力は“サマー性能との兼ね合い”か?
前半が上り坂、後半が下り坂となるオーバル状の周回路では、オールシーズンタイヤ同士で走り比べを行った。路面は整備された、硬めの雪質。日陰にはちょっとしたアイスバーンもあるかもしれないと思えるほど、ゴツゴツしたサーフェスだ。
ここでもシンクロウェザーのほうが、より高いグリップ性能を示し、またインフォメーションも明瞭に得られた。AS1も確かに雪上を走れる。車速60km/hまでという今回の試乗条件のもとでは、突然グリップを失って舵が利かなくなったり、リアが流れ出したりすることもなかった。しかし操舵に対して応答遅れが大きいため、運転していてあまり気が許せない印象だった。
それに対してシンクロウェザーは、操舵応答性がよりリニアだから、直線のパイロンスラロームでもリズムがつくりやすい。また下り坂でも安心してブレーキを踏み、ハンドルを切っていくことができた。
ただ、ダンロップの新旧製品比較ではシンクロウェザーの安心感は高いのだが、経験則でいうと、ライバルのオールシーズンタイヤで、もっと雪上でのグリップ力が高いものはある。もちろん同条件で試したわけではないので厳密な話はできないし、ゴムやタイヤの構造を柔らかくすれば、サマー性能が落ちてしまうというバランスの問題もあるだろう。だが個人的には、もう少しだけソフトに路面をつかむ感触が欲しいと感じた。
ここでひとつ注釈を付けておくと、冒頭で述べたアクティブトレッド技術の説明に反して、シンクロウェザーのゴムはまだ「低温で柔らかくなる」わけではない。これまでのポリマー(ゴムと樹脂の結び付いたもの)には低温でタイヤを硬くしてしまう成分が多く含まれており、それを少なくすることで低温でも「硬くなりにくくした」というのが現状なのだ。これは、冷間時に柔らかくなるゴム素材が研究段階にあるためで、その新素材が実用化されれば、雪上での印象もまた違ったものになるかもしれない。まだアクティブトレッドは走りだしたばかり。最初に出た仕様でそのすべてを判断するのではなく、「これが始まり」と考えるべきなのだ。
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深雪ではスタッドレスに一歩譲るものの
最後はシンクロウェザーを装着した「メルセデス・ベンツGLC」で、テストコース周辺の一般道を走った。暖冬といわれながらも、幸運にも旭川では取材の数日前から雪が降り、除雪の行き届いてない場所は新雪がかなり深かった。
こうした路面だと、正直、やはりスタッドレスタイヤのほうが安心感は高い。シンクロウェザーでも本場の雪上路面を走れないかといわれればそんなことはなく、注意深く走っていれば普通には走れる。ただしスタッドレスタイヤと比べてしまえばグリップ感は一歩劣るし、緊急回避を考えると、まだまだ「本場はスタッドレスで」という印象だ。シンクロウェザーはそのトレッドに雪中剪断(せんだん)性の高い“Vシェイプ”パターンを配置しており、中央および両脇一列のブロックには、ギザギザのサイプも細かく配置されている。しかし新雪でもうひとつバイト感が出ないのは、総合的な溝の深さの違いだろうか。
とはいえ、現状でオールシーズンタイヤに求められる性能を考えると、シンクロウェザーはかなり高い実力を有しているといえるのではないか。非降雪地域でまれに降る雪に対応し、ドライバーを無事家に帰すことは十分できるだろう。そしてなにより、溶けた雪が夜や明け方に凍ってできるアイスバーンに、スタッドレスタイヤ並みに対応できるのがいい。
厳密に言えば、今回の氷上路面は温度が0℃付近で水膜もほぼなかったから、雪や氷が溶けた箇所で発揮される排水性まではわからなかった。もしかしたら、タイプ・ウエットの機能できちんとグリップするかもしれないし、スタッドレスタイヤのようには水膜を除去できないかもしれない。とはいえ、これまでオールシーズンタイヤが苦手としていた氷上性能に、アクティブトレッド技術がひとつくさびを打ち込んだのは事実に違いない。
となると気になるのは、シンクロウェザーのサマー性能のほうだ。それについても2024年5月に同社の岡山テストセンターで試しているので、そちらのリポートを読んでいただきたい。
(後編へ続く)
(文=山田弘樹/写真=住友ゴム工業、webCG/編集=堀田剛資)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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