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先進諸国で高齢化が進むなか、クルマはどう変わるのか?

2024.07.22 デイリーコラム 清水 草一
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ピンチは日本だけじゃない!

私事で恐縮だが、還暦を過ぎた頃から、自らの運転能力への不安が高まっている。カーマニアの常で昔は運転に自信満々だったが、もう自分で自分が信用できない! もちろんペダル踏み間違え事故だってひとごとじゃない!

近年、いわゆる自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)系の安全装置はアタリマエのものになった。2021年11月以降に登場した新型車には、自動ブレーキの装備が義務づけられており、2025年12月からは、既存の販売車種にも義務化される。高齢者にとってはある意味追い風で、大変ありがたい。

ただし自動ブレーキでも、「ペダル踏み間違い抑制装置」は、今のところ義務化の対象外。国産車に関してはすでに9割のモデルに装備されているが、輸入車となるとサッパリだ。メルセデス・ベンツとBMW(アルピナ含む)だけは、ほぼすべての現行モデルに装備されているが、その他のブランドには付いていない。輸入車ファンとしては、座視できない事実である。

そもそも欧米人は「自分のことは自分で決める」「人に指図されるなんてありえない」という考えが強い。ペダル踏み間違い抑制装置は、ドライバーのアクセル操作を制限するもの。トム・クルーズ演じる『ミッション:インポッシブル』のイーサン・ハントなら、断固拒絶するだろう。

私はトム・クルーズと同い年だけど、トム・クルーズじゃない。運転能力が衰えているんです! このままじゃ輸入車に乗れなくなってしまいます!

そんな声が欧州にも届いたのか、国連欧州経済委員会が、ペダル踏み間違い抑制装置に関する新たな基準を策定した。同委員会は、「踏み間違いによる事故と年齢に相関関係がみられる」と指摘し、その例として、日本では高齢ドライバーが踏み間違いをする確率が他の世代と比べて8倍にもなっていることを挙げている。実は今回の基準の策定に関しては、日本が提案を行ったのである。たまにはいい仕事するじゃないかニッポン政府!

トヨタの場合、障害物を認識して衝突被害の軽減に寄与する「インテリジェントクリアランスソナー」を2012年から新車に導入し、2018年には後付けの「踏み間違い加速抑制システム」も発売。2020年7月からは、「障害物がない状況でのペダル踏み間違い事故の抑止・被害軽減」を掲げ「急アクセル時加速抑制」のシステムも販売している(写真は、これら後付けシステムを紹介するトヨタのオフィシャルサイトのイメージ)。
トヨタの場合、障害物を認識して衝突被害の軽減に寄与する「インテリジェントクリアランスソナー」を2012年から新車に導入し、2018年には後付けの「踏み間違い加速抑制システム」も発売。2020年7月からは、「障害物がない状況でのペダル踏み間違い事故の抑止・被害軽減」を掲げ「急アクセル時加速抑制」のシステムも販売している(写真は、これら後付けシステムを紹介するトヨタのオフィシャルサイトのイメージ)。拡大
後付けできるトヨタの「踏み間違い加速抑制システム」は、低速走行時の急加速回避までサポートできるか否かで2タイプ用意され、いずれかのシステムを装着できる車種は、2024年7月現在で17車種におよぶ。
後付けできるトヨタの「踏み間違い加速抑制システム」は、低速走行時の急加速回避までサポートできるか否かで2タイプ用意され、いずれかのシステムを装着できる車種は、2024年7月現在で17車種におよぶ。拡大
ペダル踏み間違い時加速抑制システムを採用している輸入ブランドはどうかといえば、メルセデスかBMW、アルピナくらいのもの。その装着状況については、独立行政法人 自動車事故対策機構がブランド・車種ごとの資料(一覧表)を公表している。
ペダル踏み間違い時加速抑制システムを採用している輸入ブランドはどうかといえば、メルセデスかBMW、アルピナくらいのもの。その装着状況については、独立行政法人 自動車事故対策機構がブランド・車種ごとの資料(一覧表)を公表している。拡大
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安全あっての「運転の自由」

新たな基準は2024年11月に正式に採択される見込みで、2025年6月以降、主に欧州諸国(≒日本における輸入車の大部分)で、基準に基づいた国内法が施行され、導入することが義務づけられる見込みだ。具体的には、障害物の1m手前と1.5m手前で停車した状態から、アクセルをいっぱいに踏み込んだ場合を想定している。

日本の国交省は現在、「ペダル踏み間違い急発進抑制装置」の認定制度を設けており、クルマの前後に設置されたカメラやソナーで障害物を検知し、その結果、衝突しない、もしくは衝突した場合でも8km/hを超えず、通常より30%以上速度が低下していることを要件としている。

ただしこれは最低限のもの。国産メーカーの多くは、もっと進んだ装置を開発している。

例えば「ホンダセンシング」のオプション装備「急アクセル抑制機能」(高齢者のスマートキーを販売店で有償登録することで使用可能)は、駐車場でゆっくり進みながら駐車位置を探しているとき、ブレーキを踏むつもりでアクセルを踏んでしまっても作動する。障害物が近くになくても、30km/h以下で走っている時にいきなりアクセルを全開にすると、加速が抑制されるのだ(トヨタやマツダ、日産などもほぼ同内容の装備をオプション設定)。こんなのが付いてちゃイーサン・ハントの任務は遂行できないが、一般人にはありがたい。

国土交通省は、2025年6月の国連基準採択に合わせて国内基準を整備し、新車への導入を義務づける方針だ。輸入車もいずれ義務になる。

個人的には完全自動運転よりも、「ほぼぶつからないクルマ」をなるはやで実現してほしいと願っている。今はまだアクセル操作に関しては、おおむねドライバーの意思が優先されているが、そんな信用できないモンは無視し、ぶつかりそうだとクルマが判断すればガンガン減速してもらいたい。それならいますぐにもできるはず。移動の自由も運転するヨロコビも確保できて一石三鳥だ。

イーサン・ハントは、ちょっと古いクルマを選べばいい。『ミッション:インポッシブル』シリーズのカーチェイスが、全部ネオクラシックカーになってもオッケーです!

(文=清水草一/編集=関 顕也)

ホンダでは2024年7月の時点で新車9モデルに「急アクセル抑制機能」を搭載している。システムとしては工場出荷時はオフの状態で、別途、販売会社によるセッティング作業が必要とのこと。
ホンダでは2024年7月の時点で新車9モデルに「急アクセル抑制機能」を搭載している。システムとしては工場出荷時はオフの状態で、別途、販売会社によるセッティング作業が必要とのこと。拡大
「急アクセル抑制機能」は、重量物を積んで車両が傾いているときや、段差のある路面・坂道の走行時、スリップを伴う雪道の走行時には作動しないことがある(写真は、その注意を呼びかけるホンダのウェブサイトのイメージ)。
「急アクセル抑制機能」は、重量物を積んで車両が傾いているときや、段差のある路面・坂道の走行時、スリップを伴う雪道の走行時には作動しないことがある(写真は、その注意を呼びかけるホンダのウェブサイトのイメージ)。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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