第883回:中古の「トヨタ・カローラ」がコレクターズアイテムに! イタリアの自動車ショー「アウトモト・デポカ」に高ぶる
2024.10.31 マッキナ あらモーダ!ランボやピニンもブースを開設
イタリア最大級のヒストリックカーショー、アウトモト・デポカが、2024年10月24日から27日までの4日間、イタリア北東部ボローニャで開催された。同ショーは2022年まで北部パドヴァで開かれていたが、2023年に設備が新しく会場も広いボローニャに移転。主催者は「展示面積23万5000平方メートル、展示台数約7000台は、古典車ショーとしてヨーロッパ最大である」とうたう。
2024年10月、豪雨によりボローニャ地方の各地で大きな被害が発生した。それを物語るかのように、筆者がボローニャ中央駅を降りた途端、泥だらけの「ランチア・イプシロン」を載せた積載車が眼前を通過した。
このため主催者は当初、「ショーは予定どおり開催される」というアナウンスに力を入れなければならなかった。また、“引っ越し後の初開催”という物珍しさがあった前年に比べ、報道関係者向け公開日(いわゆるプレスデー)のにぎわいは若干落ち着いていた。しかし、同日の午後になると、プレミアムチケットを購入した人々の入場とともに活気が戻ってきた。北イタリアという地理からオーストリアやスイス、ドイツから越境してきた来場者も目立つ。パドヴァ時代からの雰囲気もそのままだ。
量産メーカーの現地法人による出展はパドヴァ時代よりも限られたが、ランボルギーニはヒストリックカー向けサービス「ポーロ・ストリコ」がブースを設営した。加えて今回は、ピニンファリーナが認証制度をアピールするスタンドを設けた。過去に自社工場で製造した車両に対して発行する「オリジナルな状態であること」を示す証明書だ。対象はスーパーカーをはじめとする特別な車種だけでなく、「アルファ・ロメオ・スパイダー デュエット」「プジョー504クーペ」といった量産車も含まれる。同様のサーティフィケイトは、同じくトリノにあるFCAイタリアのヘリティッジ・ハブも手がけているが、こうしたビジネスにどこまで市場性があるかが注目される。
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イタリア限定「GRヤリス」は高値でも即完売
トヨタのイタリア法人は、2代目「カローラ」のラリーカーを展示した。TOYOTA GAZOO Racingの公式サイトを参照し、カローラとラリーの関係を記せば、1970年代初頭、トヨタは世界ラリー選手権(WRC)にオベ・アンダーソンが操縦する初代「セリカ」で参戦していた。それとは別に1973年11月、トヨタのカナダ法人が米国プレス・オン・リガードレス・ラリーで、TE20型カローラに2T-Gエンジンを搭載した車両を用意。ウォルター・ボイスが駆って、トヨタ車初のWRC優勝を飾った。
その後1974年、トヨタは正式にトヨタ・チーム・ヨーロッパ(TTE)を名乗るようになり、同年に2T-Gエンジンを搭載したTE27型「カローラ レビン」を投入。翌1975年にフィンランドの1000湖ラリーで、公式チームによる初のWRC優勝を成し遂げた。
このヒストリック・カローラ展示は、実はプロモーションの一環であった。2024年9月に発売した「GRヤリスTGRイタリー リミテッドエディション」を、今回の会場で初めて一般公開したのだ。
標準の欧州仕様「ヤリス」はフランスのヴァレンシエンヌ工場製だが、GRヤリスは日本製である。トヨタ・イタリアの担当者によれば、日本で生産されたGRヤリスをもとに、イタリア国内でモディファイしたという。
エンジンは3気筒1.6リッターターボで変速機は8段AT(GR-DAT)、駆動方式が4WDというのは、日本のGRヤリスと同じである。ただし、最高出力は日本仕様の304PSに対し、280PSとカタログには記載されている。
ボディーには往年のTTEラリー車両をイメージした赤のラインが施されている。後部には専用バッジが、ダッシュボード助手席側には限定何号車であるかが刻印されたプレートが付く。BBS製18インチ鍛造ホイールは日本仕様と同じだが、「ヘリティッジ・ゴールド」仕上げが施され、セミスリックスポーツタイヤ「ピレリPゼロ トロフェオR」が組み合わされている。
GRヤリスTGRイタリー リミテッドエディションの生産台数は、前述の1973年から数えた年数にちなんで51台である。価格は6万7500ユーロ。円安もあるが、換算すると約1110万円と、かなり強気だ。
ところが、スタッフは「SOLD OUTです」と誇らしげに告げた。彼によれば、2024年9月にオンラインおよびイタリア国内の「GR Garage」を通じて受注を開始したところ、わずか2時間で完売したという。たとえ発売直後でも、将来高い価値を維持できると目される、インスタント・クラシックの潮流はヨーロッパのトヨタにもおよんでいる。
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“ヤマーカ”と“チェリカ”がセリングポイント
カローラといえば、一般のヒストリックカー業者出展のなかに、もう1台面白いものを発見した。ヤングタイマーとして人気が高い初代「マツダMX-5(NA型ロードスター)」の後方に、一見普通のカローラがたたずんでいた。2000年代に入って間もなく欧州で販売されていた9代目カローラ(5ドア)である。車体色といい、イタリアのスーパーマーケット駐車場にとまっていそうな、なんとも凡庸なたたずまいだ。しかし他の出品車同様、丹念に磨かれていて、タイヤワックスも施されている。そしてラジエーターグリルには赤と白の「Toyota Sport」バッジが付いている。
売り主でヴェネツィア県からやってきたレジェンドカーズ社のマルコ・フェッリさんが「2002年の『カローラ ツーリングスポーツ』です」と説明してくれた。ヤマハが開発に関与した2ZZ-GE4気筒1800ccエンジン(最高出力192PS)は、可変バルブタイミングリフト機構VVTL-iが採用されている。
「新車当時、イタリアではまったく売れない仕様でした。日本車は信頼性こそ折り紙付きでしたが、デザインが好まれなかったのです」
筆者が付け加えるなら、イタリアの税制も大きな障害だったことが想像できる。70PSの「フィアット・パンダ」が登録ナンバーワンを誇るこの国で、200PS近いこのクルマの自動車税は極めて重かった。たとえ高性能とはいえ、こう言ってはなんだが、単なるカローラに、それなりの金額を支払う人は限られていたのだ。
いっぽうで、マルコさんの訴求点は「モトーレ・ヤマーカ(YAMAHAのイタリアにおける一般的な発音)」であることと、それが「チェリカ(セリカ)」にも搭載されていることだ。イタリアでヤマハは国民的英雄のひとり、ヴァレンティーノ・ロッシがMotoGPで乗っていたことから知名度が高い。セリカは日本車が最も元気だった頃の一モデルとして愛好家の間で評価されている。
タイミングベルト交換済みで、価格は1万1500ユーロ(約189万円)である。どの業者も、決して安くないブース出展料を払うからには、持ち駒のなかから売れそうなクルマを厳選して運び込む。参考までにマルコさんの店は、アルファ・ロメオ、ポルシェといったヤングタイマーも扱っていて、今回は前述のMX-5、「スバル・インプレッサGT 2.0i」とともにカローラ ツーリングスポーツを持ち込んだ。いずれの車両もイタリアの道路交通法で定められている登録後20年超の指定古典車車種なので、イタリア古典車協会などを通じて登録をすれば、年間自動車税や保険が格安になるのもセリングポイントだ。
思えばかつてイタリアで、自国のクルマほどにはデザイン的に洗練されていないものの、ラリーでの活躍を背景に人気が上昇したものに英国製小型車がある。時代の遷移やファン世代の変化とともに、今度は日本車がそうしたポジションを築きつつある予感がした。
(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/編集=関 顕也)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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