第813回:ラリーカメラマンが物申す! ここがヘンだよ「ラリージャパン」
2024.12.03 エディターから一言 拡大 |
世界中のラリーをシャッターに収めてきたさすらいのカメラマン、山本佳吾が、2024年も世界ラリー選手権(WRC)の最終戦「FORUM8 ラリージャパン」を取材。現場で感じた疑問と課題を、ラリーという競技の未来に対する思いを辛口で語る!
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今年も言わせてもらいますよ
2024年のWRCは、愛知県と岐阜県で開催されたラリージャパンで幕を閉じました。WRCとWRC2のドライバータイトル争い、そしてマニュファクチュアラータイトル争いはもつれにもつれ、最終戦ですべてが決まることに。現場はいやがおうにも盛り上がり……なんて柄にもなくマジメな書き出しをしましたが、性に合わないことはするもんじゃありませんね。やはりまずは、カメラマンとして感じたことからいこうと思います。
現場で会う人会う人が「去年の『webCG』見たよ」と含み笑いで話しかけてきます(参照)。ボクのことを知ってる人なら、決してディスってるわけじゃないことはわかってもらえてるけど、確かに知らない人が読んだら毒がすぎるかなと思わないこともありません。多くの友人が現場のオフィシャルや運営に携わっているので、その苦労やつらさはよくわかっています。
ただ、それだけに3年連続であってはいけないトラブルが起こってしまったのは残念な限り。なにが起きたかについては、すでに多方面で報じられているので詳しくは触れません。芸能人を使ったよくわからないプロモーションにかける予算があるなら、競技自体にもっとお金を使って安全性を高めてほしいところです。今回のように、悪意を持った人間がステージに突撃するような事態に対応するのが難しいことは理解していますが、HQへの第一報がチーム側からだったことも問題視されているように感じました。
と、まあそんなわけで今年も開催されたラリージャパンですが、天気にも恵まれて今まででいちばん賑(にぎ)わったんじゃないかなと思うくらい、沿道やサービスパークにはギャラリーが詰めかけていました。ただ残念だったのが、朝と金曜夜のサービスパークにお客さんが入場できないこと。これには多くのギャラリーからも不満が続出していました。金曜は19時でお客さんが締め出され、たまたまばったり会った友人は「ふざけんな」とボクにひとしきり不満をぶちまけたのち「ヤケ酒じゃ」と駅前の赤ちょうちんへと足早に去って行きました。
ギャラリーを締め出すんじゃなく安全管理に力を入れて
なにか理由があるのかもしれませんが、ボクが今までに行った世界中のラリーでも、サービスを見学できないものなんてひとつもありませんでした。金曜夜がNGだった影響かどうかはわからないけど、サービスの見学が可能だった土曜夜の最終サービスは、ものすごい数のお客さんが詰めかけました。
フェンスで仕切られているワークスチーム側のサービスと違い、WRC2や国内参戦組のサービスに仕切りはナシ。それだけに臨場感あふれるシーンを見学できるのですが、あまりに人が多すぎてサービスに出入りするラリー車と接触しかねないほど。海外だとあまりに人が多いとオフィシャルがかなり高圧的に注意したりするのですが、日本ではそこまで切羽詰まった感がなく、ボクはキモを冷やしていました。ほんと事故がなくてよかった。
この辺については「会場が狭いからでは?」との意見も聞きましたが、ここよりサービスパークが狭いラリーは今までに何度も見てきたし、もっと人でごった返していたラリーも見たことがあります。
これはボクの予想だけど、ギャラリーの皆さんもまだラリーという競技に慣れていなくて、どこが危なくてなにに気をつけるべきなのかがまだ理解できていないのかもしれません。今までラリーを見たことがないお客さんにはどんどんラリーに触れてもらいたいし、楽しんでもらってファンになってもらいたい。しかしケガしたりしたら元も子もないので、オーガナイザーにはラリー自体の安全管理はもちろん、ギャラリーの安全管理にももっと力を入れてほしいなと思いました。
もし新井・松尾組が勝っていたら……
いまさらラリーの結果を書いたところで皆さんもうご存じかと思いますが、WRC2はイケイケドンドンなフィンランドの若者、サミ・パヤリ/エンニ・マルコネン組の「トヨタGRヤリス ラリー2」がチャンピオンに決定。サミは来年はトヨタからラリー1での参戦が決まっています。なおラリージャパンでの優勝は、“藤原とうふ店カラー”の「シトロエンC3ラリー2」で参戦のニコライ・グリアジン/コンスタンティン・アレクサンドロフ組。ヨーロッパラリー選手権の時代からずっと撮影してきたグリアジン。母国ロシアのゴタゴタに巻き込まれつつもしっかり成績を残せるようになってきて感慨深いです。
また、特筆すべきは3位の新井大輝/松尾俊亮組でしょう。2024年の全日本チャンピオンの称号を引っさげ、世界を相手にどこまで戦えるかに注目が集まりました。ただ、彼らが操る「シュコダ・ファビアR5」は初期ロットもの。シュコダモータースポーツから出荷されたあとは、エサペッカ・ラッピをはじめ、数多くの選手にWRCやアジアパシフィックラリー選手権でシバかれ続け、流れ流れて日本にやってきた個体でした。2023年にはヘイキ・コバライネン/北川紗衣組に全日本チャンピオンをもたらしたクルマでもあります。その過走行なチャンピオンマシンを手に入れ、2024年の全日本を制した新井選手は、全日本終了後のわずかな時間に手直しを行うも、このラリー中はトラブル続きでした。
そして見る側のボクとしては、「例えば現行ファビアと過走行ファビアが優勝争いを見せ、仮に過走行ファビアが現行ファビアを抑えて優勝していたら、なりふり構わず抗議を出すなりしたんじゃないかしら?」といらぬ心配をしていました。ファビアといえばカスタマー人気ナンバーワンの車両。現行車両が旧型車両に負けるというのは、商売に直結します。深読みのしすぎかもしれないけど、「トヨタGRヤリス ラリー2」の台数も順調に増えつつあるなか、カスタマー向けの商売を考えると……いろいろと思いを巡らせてしまいます。
悲願のベルギー人王者が誕生
最後にトップカテゴリーであるWRCですが、注目のティエリー・ヌービル/マルティン・ヴィダグ組とオィット・タナック/マルティン・ヤルヴェオヤ組のチャンピオン争いはし烈を極めました。
ヌービルのリードで迎えた日本ラウンドですが、SS4でそのヌービルの「ヒョンデi20 Nラリー1」にトラブルが発生。ペースダウンを余儀なくされます。逆にタナックはチャージを開始。ヌービルとのタイム差を広げます。トラブルが解消してからはヌービル/ヴィダグ組も巻き返しを開始し、SS11と14でステージベストを奪取。迎えた最終日のオープニングステージSS17では、ここまであまり目立たなかったアンドレアス・ミケルセン/トルステイン・エリクセン組が善戦。マニュファクチュアラータイトル獲得へ向けて、ヒョンデの総攻撃が始まりました。
が、好事魔多し。ここまでトップを死守していたタナック/ヤルベオヤ組がクラッシュし、コースオフ。マシンは大破しここでラリーから離脱となります。これにより、ヌービル&ヴィダグというベルギー人初のチャンピオン誕生が決定しました。
かつてブルーノ・ティリー、フレディ・ロイクス、フランソワ・デュバルといったベルギー人ドライバーがWRCで活躍していましたが、タイトル獲得には届かず。ベルギー人初のWRCチャンピオンの夢はヌービルに託されていました。そのヌービルもあと一歩のところまではいくも、長らくタイトルとは無縁の時が続きました。最終SSのストップでは、世界中を転戦するヌービル応援団の面々がビール片手にすでにできあがっていました。なかには感極まり号泣してる姉さんもいたりして。ベルギーにはなにかと縁があり友人も多く、ひそかにヌービルを応援してきたボクも熱くなるものがありました。
そんなボクの様子を見かけたちょっと元ヤンな雰囲気の姉さんが「アンタも飲みな。日本のビールもイケてるわよ(意訳)」とアサヒスーパードライをくれました。いや、ここ日本やし飲酒運転したらアカンのやけど、と思ったけど断れる雰囲気ではなかったので、プシュッと開けて飲むフリだけしときました。優しいなあ、オレ。その場の雰囲気は完全にヨーロッパだけど、まわりの景色は愛知の農村。このギャップがなんともおかしくて、3年目にしてようやく日本にWRCが帰ってきた実感が湧きました。と同時に、もう2年も行けていない海外のWRCにまた行きたいなあという思いが、ふつふつと湧き上がってきました。
変わりゆくトップカテゴリーの未来に思う
いっぽうマニュファクチュアラータイトル争いですが、こちらはトヨタが獲得。ラリージャパンで優勝したエルフィン・エバンス/スコット・マーティン組をはじめ、セバスチャン・オジェ/ヴィンセント・ランダイス組、勝田貴元/アーロン・ジョンストン組の3台が完走を果たしたことが決め手となったといえるでしょう。TGR-WRTの春名雄一郎CEOは「うちはチームオーダーは出しませんが、今回に限っては3台とも無事にフィニッシュしてくれとはオーダーしました」と、いつもどおりのひょうひょうとした感じで語ってくれました。こうして、2024年のWRCは、アジアの2メーカー、アジアの2チームでチャンピオンを分け合うかたちになりました。
……いや、それもさもありなん。WRCの参戦チームはたった3つで、うち2チームがともにアジアのメーカーなんだから(実際にはどちらもヨーロッパを拠点にしてはいるんですが)。正直、この現状が健全なのかどうかはビミョーなところです。
多くのメーカーの参入を目指して始まった“ハイブリッド規定”も、結局はチーム数を増やすには至らず、2025年からはハイブリッドの廃止も決定しています。それに、あまりに速くなりすぎたラリー1の車両を見ていると、かつてのGr.Bを思い出します。ボク自身は市販車とあまりにかけ離れてしまったラリー1よりも、市販車の形がうっすら残るラリー2をトップカテゴリーにしてもいいんじゃないかと思っています。かつてのGr.Aと比べるとそれでも面影は薄いけど、自分たちが乗っているのと同じような形のクルマが、公道でとんでもない走りを見せることがラリーの魅力のひとつだと思うので。
(文と写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
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山本 佳吾
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