11車種のBEVを持つメルセデスが充電ネットワークの整備に本腰 BEV普及の追い風になるか
2024.12.12 デイリーコラムメルセデスのBEV充電網整備の予定は?
2023年1月、アメリカのネバダ州ラスベガスで開催された2023年のCES(Consumer Electronics Show)において、メルセデス・ベンツは世界の主要市場での1万台規模となる高出力充電ネットワークの構築を発表した。その先陣を切るのはもちろん北米市場である。2027年までに400カ所以上の充電ポイントを設け、施設内に高出力超急速充電器を設置する計画だ。
そこで気になったのは、メルセデスの言う“主要な市場”に日本が含まれるのかということだったのだが、答えは先日行われたBEV「メルセデス・ベンツG580 with EQテクノロジー」の日本導入イベントで発表された。日本も高出力充電ネットワークの整備市場のなかに含まれていることがアナウンスされたのだ。
メルセデス・ベンツが構築する高出力急速充電ネットワークは、テスラのように自らそれを展開するのではなく、すでに「Hypercharger(ハイパーチャージャー)」と呼ばれる超急速充電器を開発・製造しているPowerX(パワーエックス)をパートナーに、メルセデス・ベンツグループの100%出資によるメルセデス・ベンツ・ハイパワー・チャージング日本(MBHPCJ)が運営するものだ。
具体的には358kWhの大容量蓄電池と、2口の充電ケーブルがセットになった最大出力150kWの超急速充電器が、一拠点あたり2台(計4口)ずつ設置されていく。MBHPCJの計画では、今後2年のうちに25拠点(各2台、合計100口)の超急速充電ネットワークが完成する計画であるという。もちろんメルセデス・ベンツ製BEVの販売状況しだいでは、その数字がさらに大きなものになる可能性も考えられないわけではない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
残量10%から開始し30分で67%まで充電可能
パワーエックスがMBHPCJのために供給する超急速充電器は、メルセデス向けのオリジナルデザインだ。これまでの同社製品とは異なり、「Mercedes me Charge」のカードを認証するためのカードリーダーなどが備わるものの、他社のBEVユーザーでも「PowerXアプリ」を使用することで利用が可能なことも見逃せない。
実際の料金体系や詳細はまだ明らかにされていないが、BEVの普及を後押しするであろう料金体系が設定されると思われる。
そしてもうひとつ大きく注目したいのは、その超急速充電器がどのようなロケーションに設置されるかである。G580の発表時に行われた質疑応答では、パワーエックスは2025年中に急速充電ステーションを約300カ所に拡大する計画を明らかにしたが、そのなかでMBHPCJによる25カ所とされる拠点に関しては、今後協議のうえで決めていくという回答が得られたのみだった。
ちなみにパワーエックスは、すでにアウディやBMWのディーラーとの間でハイパーチャージャーの設置を進めており、それらを含めれば少なくとも東京のような都市部では、BEVにとって最大のウイークポイントともいえる充電の利便性も十分に解消することができそうだ。
参考までにG580の場合、150kWタイプの急速充電器で実施した充電時間の検証結果は、バッテリー残量10%からスタートし80%まで充電するのに41分、同様に10%から開始した30分間での充電量は67%という結果が得られている。BEVの使い勝手はインフラの整備により、確実に高まってくると考えてもいいだろう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
メルセデスのBEVは11モデルに
メルセデス・ベンツは、サブブランド「EQ」の段階的な廃止を決定したものの、それはBEVに対する投資を中止するという意味ではない。同社は今後も内燃機関車とBEVに対して、おのおののプラットフォームへの投資と開発を継続する予定だが、やはり将来的にはBEVの時代が到来するという長期的なビジョンは変わらない。
BEV普及の想定外の遅さには彼ら自身も驚きを隠さないが、その一因が充電インフラの整備が進まないことにあるのは、誰もが容易に想像できるところだろう。
現在日本市場には、7タイプのメルセデス・ベンツのBEVが、そして3タイプのメルセデスAMGと1タイプのメルセデス・マイバッハのBEVが正規輸入されている。前者は「EQEセダン」「EQSセダン」「EQA」「EQB」「EQE SUV」「EQS SUV」「G580」といったラインナップ、AMGは「EQEセダン」「EQSセダン」「EQE SUV」、そしてマイバッハは「EQS SUV」ということになるが、やはりその購入時には自宅以外のどこで充電が可能なのか、あるいは目的地までのどこに充電スポットがあるのかを調べる手間が、負担となって感じられるのが大きな問題となっているとMBHPCJの関係者は述べていた。
BEVユーザーの行動パターンを把握し、適切な場所に超急速充電器を設置していくこと。今回MBHPCJはその第一歩を踏み出したが、これがどれほどのセールス効果を生み出すであろうか。まずは充電インフラの整備とセールスの拡大というシナジー効果を期待し、同時にBEVの販売台数の推移に注目したい。
(文=山崎元裕/写真=メルセデス・ベンツ日本/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

山崎 元裕
-
商用車という名の国民車! 「トヨタ・ハイエース」はなぜ大人気なのか?NEW 2025.9.8 メジャーな商用車でありながら、夏のアウトドアや車中泊シーンでも多く見られる「ハイエース」。もはや“社会的インフラ車”ともいえる、同車の商品力の高さとは? 海外での反応も含め、事情に詳しい工藤貴宏がリポートする。
-
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性 2025.9.5 あのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。
-
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代 2025.9.4 24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。
-
マツダの将来を担う次世代バイオディーゼル燃料 需給拡大に向けた最新の取り組みを知る 2025.9.3 ディーゼルエンジンを主力とするマツダにとって、カーボンニュートラルを実現した次世代バイオディーゼル燃料は生命線ともいえる存在だ。関係各社を巻き込んで需給拡大を図るマツダの取り組みと、次世代燃料の最新事情を紹介する。
-
意外とクルマは苦手かも!? 自動車メディアの領域で、今のAIにできること、できないこと 2025.9.1 AIは今や、文章のみならず画像や動画もすぐに生成できるレベルへと発展している。では、それらを扱うメディア、なかでもわれわれ自動車メディアはどう活用できるのか? このテクノロジーの現在地について考える。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(FF/7AT)【試乗記】
2025.9.8試乗記「MINIコンバーチブル」に「ジョンクーパーワークス」が登場。4人が乗れる小さなボディーにハイパワーエンジンを搭載。おまけ(ではないが)に屋根まで開く、まさに全部入りの豪華モデルだ。頭上に夏の終わりの空気を感じつつ、その仕上がりを試した。 -
NEW
第318回:種の多様性
2025.9.8カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。 -
NEW
商用車という名の国民車! 「トヨタ・ハイエース」はなぜ大人気なのか?
2025.9.8デイリーコラムメジャーな商用車でありながら、夏のアウトドアや車中泊シーンでも多く見られる「ハイエース」。もはや“社会的インフラ車”ともいえる、同車の商品力の高さとは? 海外での反応も含め、事情に詳しい工藤貴宏がリポートする。 -
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(前編)
2025.9.7ミスター・スバル 辰己英治の目利き「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のなかでも、走りのパフォーマンスを突き詰めたモデルとなるのが「ゴルフR」だ。かつて自身が鍛えた「スバルWRX」と同じく、高出力の4気筒ターボエンジンと4WDを組み合わせたこのマシンを、辰己英治氏はどう見るか? -
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】
2025.9.6試乗記空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。 -
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。