スズキ・フロンクス(FF/6AT)
求む スズキらしさ 2024.12.23 試乗記 インドの最新工場で生産され、はるばる日本へとやって来る「スズキ・フロンクス」。仕上がりは上々で、コストパフォーマンスにも優れるこの新型コンパクトSUVに、“次”に期待したいものとは? モータージャーナリストの渡辺敏史が語る。早くも2025年が楽しみだが……
暮れもじわりと押し迫りつつあり、年末進行の〆切(しめき)りが容赦なくタックルを仕掛けてくるなか、仰天のニュースが時事通信方面から飛び込んできたのは2024年12月16日の夜だった。「スズキ、CESに初出展へ」。
CESはラスベガスで行われるエレクトロニクスとITの見本市。かつては弱電企業が新商品やサービスを展示するトレーディング含みの見本市だったものが、近年はITが仲を取り持つかたちでさまざまな異業種が出展を申し出、現在は4000社近くがバチバチにしのぎを削るひのき舞台となっている。
ご存じのとおり、クルマかいわいでもITとの連携が不可避となったこの十幾年かは、CESでのアナウンスが重視されている。今回はトヨタがウーブン・シティ絡みで、ホンダがBEVの「Honda 0」シリーズ絡みで、大きな発表をもくろんでいるようだ。声がデカいほうが勝ちみたいに大風呂敷なプレゼンが繰り広げられるそんな場で、スズキは一体何をしようとしているのか。
……と思ったら、早速CES出展に向けての所信表明がスズキのサイトに掲載されていた(参照)。おおむねの内容は、去る7月に行われた技術戦略説明会で示されたそれに沿ったものだ。スズキの行動理念である「小・少・軽・短・美」のド正論を、ラスベガスのあの場所でぶちかますのかと思うと、ちょっとその様子を見届けたくもなる。
早くも2025年が楽しみなスズキだが、振り返ればこの2024年も彼らは攻めていた。特にフロンクスの日本導入、インド生産車の輸入に再挑戦したことは特筆に値する。最初の挑戦は2016年の「バレーノ」だったが、こちらは質感面での見劣りも大きく、日本市場で受け入れられることはなかった。が、今や同社にとっては欠くことができない柱であるインド事業を強化するには、輸出にも適応できる柔軟さをもって、流動性に対する体力を身につけておく必要がある。そのためには母国の日本でインド直送の車両がきちんと売れるという状況は確かな自信につながるはずだ。
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メイド・イン・ジャパンにも負けてない
フロンクスが生産されるグジャラート工場は、2017年に操業が始まった、スズキのなかでも最新の生産拠点となる。その後ろ支えがみてとれるのが内外装の質感だ。バレーノはダッシュボードなど大物の樹脂部品にテカリが見られたり、外板の塗面の“ゆず肌”が目立ったりと、ああやっぱり……の感が日光下では目立っていた。が、フロンクスにはそういうネガは見当たらない。むしろ銀だの黒だののくどめな意匠や加飾でボロが出ている感もあるほどで、大枠の構成部品は日本製造のBセグメント車としっかりタメを張れるものになっている。外板の塗面も若干透明感が乏しいかなと思うところはあれど、ゆず肌はほとんど気にならないレベルだ。
プラシーボ的な話に聞こえるかもしれないが、バレーノには昨今ほとんど感じることがなくなってきた「新車の匂い」があった。かつてはアメ車は甘い匂い、ドイツ車は昆布みたいな匂いと、御当地的な特徴があったものだ。それは使用する接着剤や部品洗浄の溶剤などが影響していたとされるが、グローバル化に伴う製造工程の統一などもあって、そういう特質はほぼ感じられなくなった。が、バレーノはちょっとクセのある匂いが鼻をつくところがあって、敏感な人はその時点で選択肢から外してしまうだろうなと思ったのを覚えている。フロンクスはその点も改善されていて、乗り込んでの空間に五感的な違和感はない。そういう点でもグローバル商品としての隙はしっかりと埋められている。
そのうえで、フロンクスにはBセグメントのSUVとして望まれる以上の装備がきっちりおごられている。スマホリンクも完備なら、電波の届かないところでも道案内ができるように車載ナビも用意。しかもそれは、地図ソフトの密度や視認性に定評のあるパイオニア製だ。9インチのモニターには鳥瞰(ちょうかん)の360°カメラ映像も映し出されるうえ、メーターまわりにはパネル投影式ながらヘッドアップディスプレイも備わる。選択に悩むのはフロアマットやドラレコ、ETCくらいなもの。ほぼオールインクルーシブとみれば値札の説得力は比類がない。
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軽さを走りにも生かしてほしい
都心のゴーストップや渋滞混じりの首都高など、前回の試乗(参照)では十分にみることのできなかったシチュエーションを今回は試せたが、その走りは至って中庸的だ。乗り心地にトゲもなく、かといって柔らかすぎることもなく、曲がってもロールが先走ることもなければ、かたくなに姿勢を維持するわけでもなく……と、手堅くまとまっているけれども特徴はない。スズキの輸入物件といえばハンガリー由来の「スプラッシュ」や「SX4」など、日本車離れした剛質なハンドリングのクルマが思い出されるが、そういう尖(とが)りは感じられない。世界戦略車種としてのこなれ感をしっかり出せているということなのかもしれないが、もしかしてスズキらしさみたいなところを模索するタイミングにきているのかなぁと思わされたのも正直なところだ。
では走りにおけるスズキらしさとはなんなのか。キーとなるのは重量だ。フロンクスの車重はFFモデルで1070kg。似た境遇の「ホンダWR-V」より100kg以上軽い。そのうえ、CESでもぶちかますだろう技術戦略では、軽自動車の領域でも現状より100kgの減量を目指している。もはや独走状態の軽さを、燃費や原価だけではなく走りの側でもどう生かすのか。それは単に動力性能だけではなく、操安性や乗り心地の面でも今までとは異なる突き詰めどころになるのではないだろうか。
かつての欧州車を引き合いに出すのは骨格的にも構成部品的にも無理があるとは思いつつ、同じ1tくらいのクルマでも、プジョーとフォルクスワーゲンの乗り味には歴然とした差があった。スズキが次世代の商品に、乗り味の面でも個性を追求するならば、そういう過去を振り返ってみるのもありなのではないかなとちょっと思ったりもする。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資/車両協力=スズキ)
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テスト車のデータ
スズキ・フロンクス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1765×1550mm
ホイールベース:2520mm
車重:1070kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:101PS(74kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:135N・m(13.8kgf・m)/4400rpm
モーター最高出力:3.1PS(2.3kW)/800-1500rpm
モーター最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)195/60R16 89H/(後)195/60R16 89H(グッドイヤー・アシュアランス トリプルマックス2)
燃費:19.0km/リッター(WLTCモード)
価格:254万1000円/テスト車=272万5140円
オプション装備:ボディーカラー<オピュレントレッドパールメタリック ブラック2トーンルーフ>(5万5000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(3万2780円)/ETC車載器・ETC取り付けキット(2万6400円)/ドライブレコーダー(4万7740円)/テレビアンテナ(2万2220円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:993km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:151.2km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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