第817回:大事なのは歴史と伝統 名門インディアンのデザイナーが語る“人の手になるバイクづくり”
2025.01.11 エディターから一言 拡大 |
120年を超える歴史を誇るバイク界の名門、インディアン。その車体設計とデザインを統括するインダストリアル・デザイン・ディレクターが来日した。世界的なバイクデザインの第一人者が、歴史と伝統を守ることの大切さ、難しさを語る。
◆「ヨコハマホットロッドカスタムショー2024」のインディアンの展示車両を写真でチェックする(60枚)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
出自はカスタムビルダー
2024年12月にパシフィコ横浜で開催された「第32回ヨコハマホットロッドカスタムショー(HCS2024)」。これに合わせて、インディアンモーターサイクル(以下インディアン)のオラ・ステネガルド氏が来日した。
彼はインディアンの車両開発において、車体設計とデザインを統括するインダストリアル・デザイン・ディレクターであり、2018年に現職となって以来、インディアンのすべてのプロダクトに携わってきた。特に、2021年に誕生100周年に合わせて一新された新型「チーフ」シリーズや、2024年にデビューしたばかりの新型「スカウト」シリーズでは、ゼロから開発に携わっている。いちおう補足しておくと、前者は1890ccの排気量を持つ挟角49°の空冷V型2気筒OHV 3カムエンジン「サンダーストローク116」を搭載した大型クルーザー、後者は排気量1250cc 挟角49°の水冷V型2気筒DOHCエンジンを搭載した、インディアンの基幹機種だ。
ところで、ステネガルド氏はそのチーフとスカウトを使ったカスタムプロジェクト「FORGED(フォージド)」でも、コンセプトの構築からビルダー選びまで、陣頭指揮を執っている。彼はプロフェッショナルなデザイナーとして活動するずっと前から、母国スウェーデンでカスタムバイクを製作してはコンテストに参加。カスタムバイクが集うモーターサイクルクラブのメンバーとして、バイクライフを満喫してきた。彼にとってカスタムバイクは、人生そのものなのだ。
未来を創造するなら歴史を重んじよ
HCS2024には、新型スカウトのFORGEDプロジェクトに参画し、展示されたカスタムバイクの1台を手がけたブリトニー・オルセン氏も姿を見せた。彼女は2012年にビンテージバイクのレストアやチューニング、それらのバイクを使ったレース活動を行う20th Century Racingを設立。フラットトラックやドラッグレース、ビーチレースなど、数多くのイベントに彼女自身がライダーとして参戦している。そして今回、新型スカウトにビンテージインディアンのパーツを組み合わせた、ビンテージスタイルのスカウトカスタムをつくり上げた。
他のビルダーと同じように、今回、新型スカウトのカスタムを彼女に託した人選も、ステネガルド氏によるものだ。彼いわく、オルセン氏は「インディアン・ヒストリーの百科事典のような人で、同時にその歴史を現代のバイクに結びつけられる重要な人物」とのこと。「新型バイクをカスタムするのに苦労していたようだが、彼女はわれわれの期待以上のバイクをつくってくれた」というその口ぶりからは、オルセン氏に寄せる信頼と、歴史や伝統の理解を重視する彼自身のスタンスが感じられた。
そんなステネガルド氏は、インディアンの未来について、どんなビジョンを持っているのだろうか。
「私たちは常に、将来的にインディアンがどうあるべきかを考え、どんなモデルファミリーをつくり、そのなかでどんなバイクをつくるべきかを考えています。そしてそこに思いを巡らせるとき、インディアンの歴史がとても大きな意味を持つ。歴史こそインディアンのDNAだといえます。いま、インディアンの各モデルが支持されている理由も、そのDNAにあります。だからわれわれは、これからどんなバイクをつくるにせよ、歴史とのつながりを表現していきます。そして、そのつながりの“強弱”が、各モデルの個性になるのです」
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
伝統的なバイクづくりを守ることの難しさ
加えてステネガルド氏は、インディアンのモーターサイクルをつくるにあたっての心得を教えてくれた。
「重要なことは、『バイクらしいバイクをつくる』ことです。なんの説明もなしに、燃料タンクやシート、エンジンやサスペンションがどこにあるか理解できて、たいした工具がなくても、それらが取り外せるようにする。あらゆる場面で機械化と高効率化が進んだいま、こんなシンプルなことを実現するのが、とても難しいのです……」
鉄に代わってプラスチックが台頭し、複雑な電子デバイスが搭載され、ニードル式のメーターを液晶ディスプレイが駆逐するようになった昨今では、昔ながらのバイクづくりは困難になりつつある。人が手を入れられる幅もますます狭くなり、ちょっと電装品を外しただけでエンジンがかからなくなるバイクも珍しくはない。しかしそれでも、ステネガルド氏は伝統的なバイクづくりをあきらめるつもりはない。
「さまざまな理由でたくさんの電子制御デバイスを搭載したとしても、それは可能です。とても困難なことではありますが」。そう語るステネガルド氏が、これからも「人が鉄でつくるバイク」を守り続けられるのか。彼とインディアンモーターサイクルの挑戦を、昔ながらのバイク好きの一人として、見守っていきたい。
(文=河野正士/写真=webCG、郡大二郎、インディアンモーターサイクル/編集=堀田剛資)
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆「ヨコハマホットロッドカスタムショー2024」のインディアンの展示車両を写真でチェックする(60枚)
◆デザイナーが語る新型「インディアン・チーフ」の魅力 ―芳醇なるバイクカルチャーの体現者―
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。
-
第871回:今年もグリーンヘルは熱かった! ニュルブルクリンク24時間レース観戦記 2026.5.27 “世界一過酷な草レース”として知られ、今年も波乱が巻き起こったニュルブルクリンク24時間レース。F1王者のフェルスタッペンも参戦するとあって、大いに盛り上がったその様子を、世界を飛び回るモータースポーツカメラマンが臨場感満点でリポートする。
-
第870回:熱きホンダをとことん楽しむ これが「Honda All Type R World Meeting 2026」だ! 2026.5.15 「シビック タイプR」をはじめ、“タイプR”の車名を持つホンダの高性能車ばかりが集う、激アツのイベントが開催された。気になるその内容は? 会場となったモビリティリゾートもてぎの様子を詳しくリポートする。
-
第869回:思わぬサプライズもいっぱい! クルマ好きのための祭典「シン・モーターファンフェスタ2026」で“最旬ニューモデル”に触れる 2026.4.24 日本最大級の“クルマ好きのための祭典”「シン・モーターファンフェスタ2026」に、発売を間近に控えるさまざまな注目モデルが終結! 会場の様子や、そこで得られた最新情報をお伝えしよう。
-
第868回:ウエット路面での実力は? ブリヂストンの新スタンダードタイヤ「フィネッサ」を試す 2026.4.22 2026年1月に発表されたブリヂストンの「FINESSA(フィネッサ)」は、次世代の商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を搭載する最新のスタンダードタイヤだ。ドライ路面での試走報告に続き、今回は自慢のウエット性能をクローズドコースで確かめた。
-
第867回:ハイエースオーナー必見! スマホで操作できる可変ダンパー「KYBアクトライド」を試す 2026.4.22 KYBからスマートフォンのアプリで操作できる可変ダンパーシステム「ActRide(アクトライド)」が登場。まずは「トヨタ・ハイエース/レジアスエース」用からの展開となるこのシステムの仕上がりを、実際に試乗して確かめた。
-
NEW
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
NEW
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。 -
NEW
第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?―
2026.6.3カーデザイン曼荼羅トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。 -
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。











