マクラーレン史上最強のマシン「W1」 そのパワーユニットの秘密に迫る
2025.03.06 デイリーコラム新開発エンジンにかけた情熱
1992年に登場したマクラーレンが誇る特別なモデル「F1」と、2012年にハイブリッドパワートレインを採用したスーパーカーとしてデビューした「P1」。その2台に続くウルトラハイパフォーマンススーパーカーが、「W1」である。概要については日本上陸時のリポート(参照)に明るいので割愛するが、ここではW1に搭載されるパワートレインがいかに特別で注目すべきものなのかに焦点を当てたい。
W1が搭載する4リッターV8ツインターボにEモジュールを組み合わせたハイブリッドシステムは、エンジン単体で928PSの最高出力と900N・mの最大トルクを、ラジアルフラックス型モーターが同378PS、同440N・mを発生。パフォーマンスについても0-100km/h加速2.7秒、0-200km/h加速5.8秒、そして0-300km/h加速はわずか12.7秒と、驚異的な数字が並ぶ。
以前の報告の繰り返しになるが、マクラーレンによればかの「スピードテール」よりも300km/h到達タイムが速く、全長約12kmという世界屈指の規模を誇るナルドのテストコースでは「セナ」のラップタイムを3秒も上回るのだという。W1のパフォーマンスは、圧倒的といえる。
今回そんなW1のパワートレイン開発に関与したメンバーが、開発時の背景と新技術についての説明を行うオンラインワークショップに参加した。9200rpmのレブリミットを誇る珠玉のV8はいかにして生まれたのか。それを構成するパーツはどんなこだわりを持って開発されたのか。個人的にはせっかくのハイブリッドなのにEV走行がたったの2kmしか行えないという理由とそれに至った経緯も知りたい。
W1のワークショップで最初に登場したのは同社のビークルラインディレクター、アレックス・ギブソン氏。「マクラーレンW1&プラットフォーム」との肩書も持つギブソン氏は、冒頭で「新開発シャシーと空力、そしてハイブリッドパワートレインの技術革新が、ドライバーとの感情的つながりを強めた」とW1の特徴を紹介した。W1は、「スロットルレスポンスとパワー・加速・サウンドにおいて今までのどのモデルをもしのぐ。多くのドライバーにエモーショナルな走りを提供する」と続けた。
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F1マシンの電動システムに匹敵
効率に注目すれば、マクラーレン最新のハイブリッドミドシップモデル「アルトゥーラ」が搭載する3リッターV6の「M630」型エンジンを核としたハイブリッドユニットがマクラーレンの最先端に位置づけられる。W1搭載のパワートレインは、出力はもちろんだが、効率化においてもM630を超えることが目標とされた。
そのためにはV8エンジンが欠かせない。コンパクトなサイズで強力なパワーを生み出す最適なソリューションだからである。軽量化を重視すると、既存のV8ではなくすべてをゼロから設計し直す必要がある。こうして「MHP-8」と呼ばれる4リッターV8ツインターボの新開発が決定した。
MHP-8の開発は2020年9月にスタート。約1年かけてコンセプトをまとめた後に具体的な開発に取りかかり、2022年の夏にプロトタイプが出来上がったという。そこから2年かけて熟成を図り、2024年秋に市販スペックのエンジンが完成した。
パワートレインのチーフエンジニアを務めるリチャード・ジャクソン氏は、90度バンクでフラットプレーンクランクシャフトを採用するMHP-8と、電動ユニットの詳細についての説明を行った。MHP-8のボア×ストロークは92×75mmで、総排気量は3988cc。直噴システムを用いて将来の排出ガス基準に対応しながら、回転範囲全域でのパフォーマンスアップを図ったという。
2500rpmの低回転から従来型「M840T」の最強力バージョンよりも最大で30%高いトルクを発生し、同時に中空の吸気バルブやカムシャフト、3Dプリンターで製造されたウオータージャケット、エンジン上に直接設置されたエアフィルター、スターターモーターとオルタネーターの廃止などにより軽量化も実現した。重量はM840T比で10kg削減。ブリッドパワートレイン全体ではP1のものよりも40kg軽く仕上げられている。
いっぽうのハイブリッドシステムは、「高性能で軽量、持続的かつ安定したサーキット走行のために必要な電力の供給」を目標に開発された。これらはキャビンの後方下部に搭載された高出力軽量バッテリーと、モーターとその制御ユニットを軽量コンパクトにパッケージ化したEモジュールによって成立している。高出力供給用に設計された容量1.384kWhのバッテリーは、モータースポーツ由来の円筒形セルを採用。極めて高い電力密度を持つ12個のモジュールで構成され、専用の冷却システムと強固で軽いカーボンファイバーのフロアとカバーを有す。
Eモジュールの重量はモーターが15kg、制御ユニットが5kgの計20kgに抑えられている。これはスピードテールよりも50%軽量だ。 Eモジュールの重量に対する出力は23PS/kgで、これはF1マシンの電動システムに匹敵する数値であると紹介された。
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重視するのはエモーショナルな一体感
パフォーマンスとアトリビュート(特性)に関するセクションのトップとなるマーカス・ウェイト氏が説明を行ったのはドライブモードについてだった。
W1には4つのドライブモードがあらかじめ設定されている。ひとつは「Eモード」で、電気のみで走行する。ウェイト氏はこれをステルスモードと紹介した。2つ目は「コンフォートモード」。928PSエンジンパワーがメインとなり、必要に応じてEモジュールが追加のパワーを供給する。3つ目は「スポーツモード」で、常に347PSのモーターがエンジンをサポートする状態におかれる。最後の「レースモード」はサーキット走行に対応するモードで、「スプリント」と「GP」の2つからどちらかを選択できるようになっている。
スプリントは1ラップでEモジュールとバッテリーを最大限に活用するプログラム。F1でいう予選時のタイムアタックに使用するような、いわば一発勝負の全開モードである。対してGPは、サーキット走行で一貫したパフォーマンスが得られるようになっている。多くの周回を重ねる本選向けである。また、これらとは別に、ステアリングホイールに取り付けられたブーストボタンで、必要に応じてEモーターのフルパワーを瞬時に引き出すことも可能だ。
ちなみにレースモード選択時には車高がフロントで37mm、リアで17mm下がり、最大でフロントが300kg、リアが650kg、合計1000kgの通常時の5倍となるダウンフォースを発生する。
こうした速さとパフォーマンスもさることながら、マクラーレンの開発陣は繰り返し「ドライバーとマシンのエモーショナルな一体感と官能的なエキゾーストサウンド」を強調していた。そのための新開発エンジンであり、軽量で空力特性に優れたボディーであり、ハイブリッドシステムなのである。
ギブソン氏は「環境負荷を抑えるように設計していますが、ハイブリッドシステムは燃費を稼ぐためのもではありません。ですから、EV航続距離は重要ではありませんでした。軽量でパワーがある高効率なバッテリーを開発したことで、大きな重量増に直面することなくこのパワーを実現しています。マクラーレンにとって重量増はペナルティーに等しいものです。ハイブリッドシステムはエンジンの短所をカバーするものではなく長所を伸ばすものとして採用しています。電動システムを組み合わせているのでハイブリッド化したといえますが、われわれのハイブリッド化は一般的なそれとは意味合いが異なります」と言う。
MHP-8は399台のみが生産されるW1専用だが、将来的にはここで生み出された技術をほかの市販モデルに応用することも視野に入れているという。サーキットにルーツを持ち、エンジンにこだわるマクラーレンの次なる一手とはいかなるものなのだろうか。
(文=櫻井健一/写真=マクラーレン・オートモーティブ/編集=櫻井健一)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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