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トランプ関税に「じたばたしない」 トヨタの決算報告から中長期戦略を読み解く

2025.06.13 デイリーコラム 佐野 弘宗
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トヨタの営業利益はマイナス20.8%

この2025年5月、(株式上場していないダイハツ工業を除く)国内乗用車メーカー各社の2024年度(2024年4月~2025年3月)決算が出そろった。多くのメーカーが売上高、営業利益とも過去最高となった2023年度と比較すると、2024年度は売上高を伸ばしつつも、営業利益は(昨年度からさらに過去最高を更新したスズキ以外)マイナスとなったところが多かった。ただ、その理由はさまざまで、例の認証不正問題による生産休止や資材費の高騰、販売競争の激化による販売奨励金の増加、(米ドル以外の)為替変動などがあげられている。ともあれ、過去3番目という巨額赤字を出した日産自動車以外、少なくともこの2024年度については、どこも堅調といっていい印象だ。

しかし、例の“トランプ関税”の影響が懸念される今期=2025年度については、日産、マツダ、スバルの3社が、本業でのもうけをあらわす営業利益の見通しを“未定”とした。マツダにいたっては、売上高や販売台数の見込みすら発表しなかった。いわばパニック状態といってもいい。

いっぽうで、2025年度の見通しを発表したのは、トヨタ自動車、本田技研工業、スズキ、三菱自動車の4社。売上高でも6.4%のマイナスを見込むホンダ以外は2024年度比で売上高は伸びるものの、営業利益はトヨタがマイナス20.8%、ホンダでマイナス58.8%、スズキがマイナス22.2%、三菱もマイナス28%と、いずれも大幅減を見込んでいる。

このうち、スズキはアメリカ合衆国を含む北米市場で四輪事業は展開しておらず、トランプ関税の直接的な影響はそもそも小さい。それでも2025年度の営業利益減を見込んだ理由としては、二輪車や船外機などの北米事業における影響のほか、それを含めた外部環境の不透明化としている。また、三菱もグローバル販売台数に占める北米市場の割合が22%と、国内乗用車メーカーとしてはスズキに次いで低く、それが営業利益の見通しを発表できた理由のひとつかもしれない。ちなみに、三菱以外の販売台数全体における北米市場比率は、2024年度実績でトヨタが28%、日産が39%、ホンダ(四輪車)45%、マツダで47%、スバル78%となっている。

トヨタ自動車は2025年5月8日に2024年度の決算を発表した。売上高にあたる営業収益は過去最高の48兆0367億円(前年比6.5%増)で、本業のもうけを示す営業利益は4兆7955億円(同10.4%減)の増収減益だった。写真は決算報告の発表会見に登壇したトヨタ自動車代表取締役社長の佐藤恒治氏。
トヨタ自動車は2025年5月8日に2024年度の決算を発表した。売上高にあたる営業収益は過去最高の48兆0367億円(前年比6.5%増)で、本業のもうけを示す営業利益は4兆7955億円(同10.4%減)の増収減益だった。写真は決算報告の発表会見に登壇したトヨタ自動車代表取締役社長の佐藤恒治氏。拡大
決算報告の発表会見に登壇した写真左からトヨタ自動車経理本部長の山本正裕氏、同社代表取締役社長の佐藤恒治氏、同社取締役副社長の宮崎洋一氏。(役職は発表会見時点)
決算報告の発表会見に登壇した写真左からトヨタ自動車経理本部長の山本正裕氏、同社代表取締役社長の佐藤恒治氏、同社取締役副社長の宮崎洋一氏。(役職は発表会見時点)拡大
2025年5月21日に世界初公開されたトヨタの新型「RAV4」。RAV4はクロスオーバーSUVのパイオニアとして1994年に初代モデルがデビュー。以来、180以上の国と地域で累計1500万台以上が販売されてきたベストセラーモデルで、今回の新型が6代目にあたる。今後のグローバル販売をけん引する、重要な存在になると予想されている。
2025年5月21日に世界初公開されたトヨタの新型「RAV4」。RAV4はクロスオーバーSUVのパイオニアとして1994年に初代モデルがデビュー。以来、180以上の国と地域で累計1500万台以上が販売されてきたベストセラーモデルで、今回の新型が6代目にあたる。今後のグローバル販売をけん引する、重要な存在になると予想されている。拡大
2024年8月に米国で発表され、2025年3月に日本でも販売がスタートした改良型「GRカローラ」。その進化には、スーパー耐久シリーズをはじめとするモータースポーツへの参戦を通じて得られた知見が生かされているという。こうしたカーマニア向けのスポーツモデルがラインナップされているのも、トヨタが多くのカスタマーに支持されている理由のひとつだろう。
2024年8月に米国で発表され、2025年3月に日本でも販売がスタートした改良型「GRカローラ」。その進化には、スーパー耐久シリーズをはじめとするモータースポーツへの参戦を通じて得られた知見が生かされているという。こうしたカーマニア向けのスポーツモデルがラインナップされているのも、トヨタが多くのカスタマーに支持されている理由のひとつだろう。拡大
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関税負担を価格に転嫁しない

こう考えると、とにかくすべての数字が大きく、北米での年間販売台数だけでも270万台強(マツダの世界販売の2倍以上、スバルの約3倍!)のトヨタや、数字を見ても北米市場にどっぷり(?)であるホンダの2社が、きっちりと営業利益の見通しを公表したのは評価できる。とくにホンダはそのベースとなる為替も1ドル135円(トヨタは145円)という厳しい数字で見積もっているのも頼もしい。北米どっぷりの分だけ、その内情もはっきりと見えているということか。

いずれにしても、トランプ大統領が「アメリカに輸入される自動車および自動車部品に対する、25%の関税を課す」と発表したのは2025年3月26日のことだ。今回の決算では、その影響を精査しているヒマなどなかったのが実情だろう(だから、3社もが“見通し未定”のまま決算発表にのぞむことになった)。

トヨタが発表した2025年度見通しにしても、関係者によると“当初に見込まれていた営業利益から、トランプ関税分をシンプルに差し引いた額”がベースになっているという。それ以外の不確定要素は、良くも悪くも、基本的に加味していない。

だから、今後たとえば合衆国向けの生産拠点やサプライチェーンを見直したり、クルマの販売価格に一定の転嫁ができたり、あるいは関税措置そのものが緩和されたりすれば、営業利益のマイナス分も素直に緩和される計算になっているようだ。実際、今回の決算発表の場で、宮崎洋一副社長は「(合衆国市場でも)短期で関税があるから値上げをするという場当たり的な対応はとらない」と明言している。

北米で販売されているトヨタのピックアップトラック「タコマ」。同市場では「RAV4」と「カムリ」に次ぐ販売台数を誇る人気車種だ。最新モデルには2.4リッター直4のハイブリッドパワートレインが搭載されている。
北米で販売されているトヨタのピックアップトラック「タコマ」。同市場では「RAV4」と「カムリ」に次ぐ販売台数を誇る人気車種だ。最新モデルには2.4リッター直4のハイブリッドパワートレインが搭載されている。拡大
北米におけるトヨタのセールスを支える4ドアセダン「カムリ」。同市場で販売される最新モデルは2023年11月に全面改良を受けた11代目で、米ケンタッキー州ジョージタウン工場が生産を担当する。残念ながら日本では同年12月に販売を終了した。
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トヨタの米テキサス州のサンアントニオ工場で生産されるフルサイズSUV「トヨタ・セコイア」。最新モデルは2022年に登場した3代目で、「ランドクルーザー」よりも大きな全長5.3mに迫るボディーサイズが特徴だ。
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決算報告の発表会見でトヨタの宮崎洋一副社長は「(アメリカ合衆国市場で)関税があるから値上げをするという場当たり的な対応はとらない」と明言した。
決算報告の発表会見でトヨタの宮崎洋一副社長は「(アメリカ合衆国市場で)関税があるから値上げをするという場当たり的な対応はとらない」と明言した。拡大

とにかく「じたばたしない」

前記関係者によると、トヨタは、トランプ関税の大激震のなかでも「とにかく2025年度の見通しを数字として出す」ことにこだわったという。ここで頂点に立つトヨタが揺らいでは、グループやサプライヤーなどの関連企業が、さらに大きく揺らいでしまうからだ。

今回の決算発表の場でトヨタの佐藤恒治社長は「サプライチェーンを守りながら取り組んで、輸出をすることで外貨を稼ぐ。あるいはその外貨によって、エネルギーなど国内に必要な取引に応用されていく。われわれの国内生産に対する思い・意思はぶれずに取り組んでいくつもりでおります」として、国内生産300万台体制の堅持を明言した。さらに、想定外のトランプ関税を乗り越えることができるか……との問いには「今一番大事だと思っているのは、とにかく軸をぶらさずに、じたばたせずに、しっかりと地に足をつけてやれることをやっていくこと」と答えた。

トランプ関税でいちばん損をするのは、結局のところアメリカ合衆国そのもの……とは、経済専門メディアでも盛んにいわれていることだ。となればなおさら、佐藤社長ではないが、とにかく「じたばたしない」が、今の日本のクルマ産業全体で大切なことだろう。トランプさ~ん、聞いてますか? 聞いてるはずないですけど。

(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車/編集=櫻井健一)

2025年4月の上海モーターショーで世界初公開された新型「レクサスES」。今回の新型は8代目にあたり、「レクサスの次世代電動車ラインナップの先陣を切る一台として全面刷新を遂げた」とうたわれる。
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2025年5月に発表されたトヨタの「bZ Woodland(ウッドランド)」は2026年に北米で発売される予定の電気自動車。「bZ4X」のホイールベースはそのままに、全長を拡大したモデルだ。「bZ4Xツーリング」として日本にも導入される予定。グローバルで電気自動車のラインナップ拡充も推進している。
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「米国での現地生産を拡大するのか?」という報道関係者からの質問に対し、トヨタの佐藤社長は「国内生産に対する思い・意思はぶれずに取り組んでいくつもりでおります」として、国内生産300万台体制の堅持を表明した。
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佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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