ホンダN-BOXファッションスタイル(FF/CVT)
絶対王者の宿命 2025.06.24 試乗記 「ホンダN-BOX」が軽のトップに君臨して久しい。ライバル勢もあの手この手で王座奪還を狙ってきたが、追っ手が迫れば迫ったぶんだけ突き放すのがN-BOXであり、その商品力はいまだに圧倒的だ。2025年4月発売の最新モデルに試乗した。テコ入れのツートンカラー
2025年4月にホンダN-BOXの一部改良モデルが発表された。あまり話題にはなっていないようである。それも当然で、変わったのは外観だけなのだ。N-BOXは“絶対王者”と称される売れ筋モデルである。日本で大人気の軽スーパーハイトワゴンというジャンルでライバルから抜きんでた存在になっており、2024年度の登録車を含む新車国内販売台数は21万0768台で第1位。4年連続のことで、軽四輪車に限れば10年連続で首位を守り続けている。毎年大体20万台が売れていて、累計では270万台を超えた。特に変化は必要とされていないのだ。
2025年5月の販売台数は1万3565台でやはり第1位だった。ただ、2位には「スズキ・スペーシア」の1万2179台が迫っており、突き放すためにはテコ入れが必要なのも確かだろう。今回試乗したのは「N-BOXファッションスタイル」。ベースモデルにオシャレ感をトッピングしたグレードで、エクステリアカラーに新しくツートンカラーが加わった。今回の試乗車の「オータムイエロー・パール」はもともとファッションスタイルの専用色で、「プレミアムディープモカ・パール」とのコーディネートでブラッシュアップを図ったわけだ。
選択肢を広げることは、N-BOXにとって重要な意味がある。売れているということは、同じクルマに出会ってしまう可能性が高まるということでもあるからだ。同じN-BOXでもちょっと特別なモデルに乗りたいと考えるのは人情である。N-BOXにはもともとノーマルモデルと「カスタム」の2種類があり、2024年に「N-BOXジョイ」が加わってラインナップが広がった。細かくいうとカスタムには「コーディネートスタイル」があって、ファッションスタイルと合わせて5種類から選べる。カスタムはどちらかというと男性ユーザーをターゲットにしていて、ファッションスタイルは女性を狙っているということになるのだろう。
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走りに優位性あり
ファッションスタイルには外周をオフホワイトで囲んだボディー同色のホイールカバーが採用されている。ドアハンドルもオフホワイトだ。カワイイとスタイリッシュの中間という感じだろうか。ツートンカラーはモノトーンに比べて価格が高く設定されており、車両本体だけでも189万8600円というなかなかの価格になった。カスタムやジョイには200万円超えのモデルも多くなっていて、これでも安いほうである。
パワーユニットは1種類。普通のN-BOXにはターボモデルはなく、自然吸気(NA)エンジンのみだ。街なかでの走行が主になると想定されているため、高出力のターボは不要という判断なのだろう。NAでもN-BOXは走りのよさにアドバンテージがある。58PSという最高出力は、ライバルを上回っているのだ。「ダイハツ・タント」は52PSで、スズキ・スペーシアは49PSのエンジンを2.6PSのモーターがアシストする。
わずかな差のようだが、乗ってみると数字以上のアドバンテージが感じられる。市街地ではN-BOXはアクセルをさほど踏み込まなくても涼しい顔で走っていく。タントやスペーシアは、エンジンが苦しそうな音を立ててしまって余裕がない。乗り比べてみれば、N-BOXの優位性が誰にでも分かるはずだ。
高速道路ではさすがのN-BOXでも十分な動力性能を持っているとは言い難い。100km/hに近づくと加速は頭打ちになるので、周りの流れに追いつくためには早めにアクセルを踏んでいく必要がある。スピードが乗ってしまえば室内は静かさを取り戻す。あまり遠出はしないというなら、NAで物足りなさを感じる機会は少ないだろう。全車標準装備の「ホンダセンシング」はアダプティブクルーズコントロールも優秀で、任せておけば安楽なドライブが約束される。先進安全装備の充実も、N-BOXが支持されるポイントの1つだ。
ジョイで差をつけようとしたが……
N-BOXは内外装ともにシンプルですっきりしたデザインを採用している。都会的な美意識と表現することもできるけれど、素っ気ないという印象を持つユーザーもいるはずだ。スペーシアは後席に「マルチユースフラップ」を設置し、オットマンや荷物ストッパーの機能を持たせている。さらに前席にはオープントレイ、後席にはピクニックテーブル(N-BOXはオプション)を備え、ドアにリップスティックを置くスペースを用意するなど至れり尽くせりだ。ユーティリティーに関しては、N-BOXは高いプライオリティーを置いていない。
今のところはN-BOXの方針が広い層から評価を受けているといえる。差を詰められていることはホンダも重々承知のはずで、2024年9月にN-BOXジョイを投入したのも追撃をかわすための一策だったのだろう。「スズキ・スペーシア ギア」「ダイハツ・タント ファンクロス」「三菱デリカミニ」などのSUV風に仕立てたモデルが好評だったことへの対抗だと考えられる。
同じ路線を取らず、ゆるくて気軽なアウトドアを想定した一味違うアプローチをしてきたところに、安易にトレンドには乗らないという気概が垣間見える。その意気やよし、と言いたいところだが、必ずしもうまくいってはいないのではないか。ジョイだけのデータは発表されていないとはいえ、発売以降にN-BOX全体の販売台数が増加していないことから推察できる。
アウトドアがトレンドとはいっても、実際にヘビーなアクティビティーに取り組むのは少数派だ。スペーシア ギアなども本格的な悪路走破性能を持っているわけではない。そこでホンダはリラックスをテーマにしたN-BOXジョイに勝機があると判断したのだと思うが、実際にはユーザーが求めていたのはベタなSUV風スタイルだった。
変化する軽自動車のトレンド
先代のN-BOXは、2022年に特別仕様車「N-BOXカスタム スタイル+ブラック」を新たに設定した。これもN-BOXが売れすぎていることを背景にした施策であったと思う。内外装に黒のパーツを配することで大人っぽいイメージを生み出そうとした。「Nシリーズ」全体において「Nスタイル+」をサブブランドとして展開していくプランだったようで「N-ONE」や「N-WGN」にもバリエーションを広げたものの、ブランドとして確立されたとまではいえない。
N-BOXは依然として走行性能やスペース効率で強みを保っている。ユーザーのロイヤルティーは高く、代替わりのたびに乗り換えるケースが多いという。初代からデザインが代わり映えしないのは自信の表れでもあるだろう。キープコンセプトを貫くのはトップを行くからこその戦略と思うが、軽自動車のトレンドは確実に変化している。軽ハイトワゴンでもスライドドアを採用した派生モデルの「ダイハツ・ムーヴキャンバス」「スズキ・ワゴンRスマイル」が売れ筋となった。新型「ダイハツ・ムーヴ」もスライドドア化に踏み切り、ジャンルの境界が崩れつつあるようだ。
包囲網が敷かれるなかで、N-BOXも安穏としているわけにはいかない。今すぐ牙城が崩れることはなさそうだが、ファッションスタイルの仕様変更ぐらいではインパクトに欠ける。N-BOXジョイの狙いが外れた今となっては、次なるステージを目指す切り札が求められるだろう。常に先を歩まなければならないのは王者の宿命であり、それは誇りでもあるのだ。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=本田技研工業)
テスト車のデータ
ホンダN-BOXファッションスタイル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1790mm
ホイールベース:2520mm
車重:910kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:58PS(43kW)/7300rpm
最大トルク:65N・m(6.6kgf・m)/4800rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:21.6km/リッター(WLTCモード)
価格:189万8600円/テスト車=235万6800円
オプション装備:リア右側スライドドア&コンビニフック付きシートバックテーブル&オートリトラミラー&左右独立式センターアームレスト(7万8700円) ※以下、販売店オプション /9インチナビHondaCONNECT(24万8600円)/ナビ取り付けアタッチメント(5500円)/ナビパネルキット(5500円)/ETC車載器(2万3100円)/ETC取り付けアタッチメント(9900円)/ドライブレコーダー(5万7200円)/フロアマットカーペット(2万9700円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:605km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:372.9km
使用燃料:23.7リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:15.7km/リッター(満タン法)/16.4km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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