ついに正式発売されたフォルクスワーゲンの電動ミニバン「ID. Buzz」 その狙いに迫る
2025.07.03 デイリーコラム狙うは「ワーゲンバス」の再来?
フォルクスワーゲン ジャパン(VWJ)は2025年6月20日、フル電動ミニバンの「ID. Buzz(IDバズ)」のジャパンプレミアを行い、注文受け付けを開始すると発表した。出荷開始は7月下旬以降を予定している。VWJはID. Buzzの発表にあたり、プレスリリースをメディア宛てにオンライン配信するにとどめず、六本木ヒルズアリーナで発表イベントを開催。わざわざリアルなイベントを開催してID. Buzzを披露した点に、このモデルの重要な位置づけをうかがい知ることができる。
VWJブランドディレクターのイモー・ブッシュマン氏は発表会場で、「昨年7月に始動したフォルクスワーゲンブランドの商品構成を完成させるための最後のピース」と、ID. Buzzを紹介。そして、「これにて日本での復活の第1フェーズを終了する」と付け加えた。
ID. Buzzは、フォルクスワーゲンのアイコン的存在だった「ワーゲンバス」こと「タイプ2」のDNAを継承しながら、電気モビリティーの時代にふさわしい電気自動車(BEV)として復活したモデルだ。フォルクスワーゲンの原点となる「ビートル」こと「タイプ1」は1945年に量産を開始。その5年後、1950年にタイプ2が登場し、ワーゲンバスの愛称で親しまれた。
タイプ2のイメージを決定づけたのは、1960年代後半にアメリカで生まれたカウンターカルチャーのひとつ、ヒッピー文化の象徴になったことだとVWJは説明する。タイプ2は、既成の価値観や社会に反発し、自由と平和をうたう彼らの主義主張を表現する格好のキャンバスとなった。自由な生き方を追求した若者のライフスタイルと使われ方をみていると、主義主張はともかく、確かに自由な生き方を実践している人たちが愛用していたように思う。背景を知らずとも、タイプ2を見ると思わず頰が緩む。そんなクルマだ。
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ID. Buzzのラインナップは2タイプ
タイプ2の復活はフォルクスワーゲン本社にとっても悲願で、タイプ2のモチーフを引用したコンセプトカーを何度も登場させ、復活の機運を探ってきた。2001年の「マイクロバス」に始まり、2011年の「ニューブリー」、2017年の「ID. Buzzコンセプト」といった具合である。ニューブリーとID. Buzzコンセプトは東京モーターショーでも展示された。
そして2022年、ID. Buzzの量産モデルが発表される。同年末に東京で実施した「ID.4」の導入イベントに参考展示した際は、大きな反響があったという。そこから注文受け付けまで2年半を要したのは、前述のとおりフォルクスワーゲンのアイコン的モデルで新たな商品構成の締めくくりを飾りたかったからだ(2026年からはBEVを中心に新たなフェーズに移行する)。もちろん、2025年がタイプ2の誕生75周年という節目の年にあたることも理由のひとつであろう。一方で、フォルクスワーゲンの(乗用車部門ではなく)商用車部門で開発されたモデルであったことが認証面などに影響し、国内導入に時間を必要としたという背景もあるようだ。
現代版ワーゲンバス(あるいは現代版タイプ2)のID. Buzzは国内にとどまらず、世界を見渡しても希有(けう)なミニバンタイプのBEVである。ツートンのボディーカラーは明らかにオリジナルのワーゲンバスを意識しており(モノトーンの設定もある)、フロントでVシェイプを形成。大きなVWバッジも受け継いでいる。
ボディータイプは2つ。2990mmのノーマルホイールベース(NWB)仕様と3240mmのロングホイールベース(LWB)仕様がある。NWBは3列シート6人乗り。LWBはセカンドシートが3名掛けの3列シート7人乗りとなる。6人乗り・NWBの「Pro(プロ)」は888万9000円、7人乗り・LWBの「Pro Long Wheelbase(プロ ロングホイールベース)」は997万9000円である。
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フォルクスワーゲンのアイコン的なモデルに
VWJは、使い勝手の観点でNWBよりもLWBが好まれると読んでいる。高価格帯ゆえに、109万円の価格差は購入時の障害にはならないだろうと予測。ホイールベースの違いではなく、ウォークスルーができる6シーターか、2列目が3人掛けになる7シーターかで判断が分かれる可能性があるとも考えている。本国には6人乗り・LWBの設定もあり、国内でのニーズについて様子をみていくとのことだ。
プラットフォームはID.4と同じMEB。ゆえにモーターをリアに搭載し、後輪を駆動する。モーターの諸元やバッテリー総電力量はID. Buzzに合わせて最適化されており、ID.4よりも強力かつ大容量。最高出力は286PS、総電力量はNWBが84kWh、LWBが91kWhである。カタログ上の一充電走行距離はNWBが524km、LWBが554kmだ。急速充電の受け入れ性能はアップデートされており、94kWまでのID.4に対し、ID. Buzzは150kWまで対応する。
「こういう人に買ってもらいたいという明確なターゲットは置いていません。クルマのキャラクターが際立っているので、見た目で選んだいただくほうが多いのかなと思っています」とは、商品企画を担当するVWJメンバーの弁。「ザ・ビートル」が2019年に日本での販売を終了し、以来、フォルクスワーゲンのアイコン的モデルは不在の状況が続いていた。
そこにID. Buzzの登場である。ミニバンのBEVを好む層のニーズを満たす役割よりもむしろ、「ID. Buzzのようなクルマを出してくるフォルクスワーゲンっていいね」と思ってもらえる効果のほうが大きい気がする。俗っぽく言えば、愛されるブランドになるためのツール的な位置づけ。かつてビートルが担っていた役割を受け継ぐ格好である。筆者はそうみているし、そんなフォルクスワーゲンの思惑にはまっているひとりだ。
(文=世良耕太/写真=フォルクスワーゲン ジャパン、webCG/編集=櫻井健一)
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世良 耕太
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