ポルシェ911カレラT(RR/6MT)
スーパースターも楽じゃない 2025.07.21 試乗記 992型後期世代の「ポルシェ911」にも「カレラT」が登場。各部に他のモデルと同等のアップデートを受けたのはもちろんのこと、なんとトランスミッションまで刷新されているというから見逃せない。「ピュアで爽快なドライビングプレジャー」の真偽を確かめた。数少ない3ペダルの911
911の歴史において、992型前期は最も成功したモデルとなるのではないだろうか。コロナ禍を挟んでも年間販売台数は衰えをみせず、2022年には4万台を、2023年と2024年は5万台を突破している。モデルライフのおおむねをカバーする2019年から2024年の総数は25万台に限りなく近い。オプション込みでの平均客単価を控えめに2000万円と想定しても5兆円かよ……と、iPhoneの計算機を横にしてあまり意味のないソロバンをはじいては唖然(あぜん)とさせられる。そんな数字を知るにつけ、「ロードスター」は頑張っているなぁとつくづく感心させられるわけだ。
もはやポルシェにとっては立派なドル箱だろう。しかもこの直近の成功を受けてのモデルチェンジなのだから、992型後期を取り巻く関係者のプレッシャーはいかばかりか。その景気づけとして用意されたのが911初のハイブリッドパワートレインを搭載した「GTS」シリーズだったわけだ。「919ハイブリッド」のMGUともつながる電動ターボによる過給と回生の緻密なコントロールにより、「GT3」シリーズとは正対する頂点である「ターボ」シリーズに肉薄するほどの動力性能を得ることになった。この技術的な前進が992型後期へとスイッチする必然、つまりは新型登場の露払い的な役割を果たすことになったのだと思う。
と、そこにさらなる援護射撃として加わったのが、この「T」だ。911におけるTは、ナローの世代にモータースポーツに用いられることも想定した最もシンプルなグレードに与えられたコードだった。現在、ポルシェは公式にツーリングのTであるとうたっている。
それが復活したのは991型後期で、狙いとしてはGT3やターボの高性能化が著しいなか、身の丈で存分に運転を楽しめる走り好きのためのしつらえというかたちだったようにうかがえる。当初から7段MTが設定されていたが日本仕様はPDKのみの設定だった。これが992型前期では7段MTも選べるようになり、新車の911では数少ない3ペダルのモデルとなったわけだ。
待望の“6段”MT
そして992型後期のカレラTにはいくつかのトピックがある。まずMTが6段化されたこと。7段MTのタッチも相当改善されたとはいえ、特にシフトダウン時には腫れ物に触れるような横方向のトラベルの狭さが気になる感は否めなかった。ゆえに個人的には991型の登場時からずっとPDK推しだったわけだが、ようやく7段の呪縛が解けて、標準的な911を標準的な6段MTで乗れるときが戻ってきたことが素直に喜ばしい。
次にMT専用モデルになったこと。例えば激烈レスポンスのGT3を6段MTで乗ることは針の穴に糸を通すような緊張感を伴う……というか、自分なら間違いなく富士の1コーナーでミスってエンジンをたたき壊すだろうという気もしなくもないが、標準的なエンジンのカレラTならズボラシフトも許してくれそうなフレキシビリティーが期待できそうだ。911はキレてナンボだけのキャラではないので、こういう選択肢は常に残しておいてほしいという気持ちがある。
そして新たに「カブリオレ」の選択肢が登場したこと。軽便なTの屋根開きっているの? と最初はいぶかしがったものの、仮にこの先、「ボクスター」がアナウンスどおり電気自動車専用銘柄になるようなことがあれば、ポルシェにおいて内燃機+MTのオープンエアモータリングはこのグレードに委ねられることになる。そういう示唆を期待する気持ちはサラサラないが、カレラTがスタンダードなドライビングプレジャーの求道者だということに鑑みれば、カブリオレの設定は相反するものではない。
カレラTの軽量化のメソッドは前型と同様だ。6段MTの採用やウィンドウの軽量化、遮音・断熱材の低減によってベースの「カレラ」よりも40kg以上の軽量化を果たしている。ちなみに取材車の車検証重量は1510kg。前型よりは重いが、同型式のカレラ(PDK)に対しては60kg軽い記載となっていた。前後重量配分はほぼ37:63。四駆なら限りなく40:60に近づく今日びの911としては前側が少し軽い。
指なしドライビンググローブのご用意を
新しいカレラTには911の膨大なヘリテージを匂わせるディテールがいくつか仕込まれている。象徴的なのは杢を多層に重ねて削り出したオープンポア仕立てのシフトレバーだが、これは「カレラGT」の韻を踏みつつも、1960年代のナロー時代にまでさかのぼるディテールだ。同様にタータンチェックのテキスタイルも、ドッグトゥースと並んでポルシェが多用してきたパターンである。今や911をわざわざMTで走らせること自体がある種のノスタルジーなのだろう。カレラTはその郷愁を最大化して価値化させたグレードでもあるわけだ。
ここまできたらステアリングリムもウッド化すればよかったのではと思わなくもないが、カレラTはリアデフと連携するPTVやアクティブリアステアリングなど、曲がるためのデバイスもきっちり盛られている。その運動性能に鑑みれば、やはり革巻きに越したことはないという判断だろうか。
カレラTの象徴ともいえる杢のシフトノブは、ザラみのあるオープンポアのサテンフィニッシュだが、革巻きに比べると滑りやすい感触は好みが分かれるだろう。加えて、タマ自体も大きく半端な触り方だと手のひらからスルッと抜けてしまいそうな印象だ。指なしのドライビンググローブで昭和のオッさんコスプレをたしなめば吸い付きもよくなるだろうか。ちなみに変速のトラベルはポルシェとしては詰められていて、ギアの入りにも節度がある。
最高速はカレラよりわずかに速い295km/h、0-100km/h加速は0.4秒落ちの4.5秒と、PDKの優位は揺らぐことはないが、カレラTにとってこういうスペックにさしたる意味はない。いかに楽しく走り込めるか、運転に没頭させてくれるかが重要だ。
ツーリングというコンセプトからみれば、カレラTの快適性はギリギリ担保されているという感じだろうか。遮音も緩めだがクルマとの対話の密度という点からみれば許容範囲ではないかと思う。乗り心地的にも下ろしたてで乗った際に抱いたパッツリ感は和らぎ、程よい硬さに収まりつつあるという印象だった。
さらなる親しみ感アップを期待
エミッションの締めつけが著しいなか、ポルシェも苦労していると察するが、カレラ系のエンジンに関していえば内燃機の気持ちよさは今でも十分に感じられる。3リッターフラット6は6段MTとの組み合わせでは1000rpm向こうから十分使い物になるほどトルクフルだし、その気になれば7000rpm向こうのレッドゾーン付近までしっかりパワーをみなぎらせてフラット6らしい快音を響かせてくれる。
クラッチを上手につなぐならアイドルアップ等のアシスト制御を織り込んでおく必要があるが、つないでしまえば渋滞等での微妙な加減速もアクセルだけで走らせることも苦にならない。ポート噴射時代のような異様な粘り強さは望めないが、それはポルシェ以外のメーカーのMTもしかりだ。
前荷重が軽めなことによる頭の入りの悪さはまったく感じない。どころか、クイック&オン・ザ・レール感は992型前期のカレラTにも増して高まっている。一方でお尻側の据わりは一段と良くなっているようで、言い方を変えれば車体そのものから導かれる軽快感みたいなものは、992型前期からちょっと後退したかもしれない。車検証上の実重が40kgほど増していることもあるだろうが、クルマが筋肉質になりすぎたかなという印象も受ける。
これほどの数が売れるということは、支持する人も津々浦々にいて、そのぶんだけさまざまな期待値があるということだ。ひとつの車型で全部に応えようというのだから、911というお仕事も大変である。もはや前人未到の感すらある膨大なバリエーションのなかで、カレラTは多くのクルマ好きに親しみをもって迎えられる一台だと思う。願わくは、うなぎのぼりのお値段ももっと親しみの抱けるものにならないものだろうか。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=ポルシェジャパン)
テスト車のデータ
ポルシェ911カレラT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4545×1850×1290mm
ホイールベース:2450mm
車重:1510kg
駆動方式:RR
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:394PS(290kW)/6500rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/2000-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y XL/(後)305/30ZR21 100Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:1865万円/テスト車=2284万5000円(※2025年3月の車両登録時点での価格)
オプション装備:ボディーカラー<ゲンチアンブルーメタリック>(29万6000円)/インテリアパッケージ<ゲンチアンブルー>(96万7000円)/パワーステアリングプラス(4万5000円)/スポーツデザインパッケージ(59万6000円)/レザースポーツシート&バックレストインレイ<ゲンチアンブルーペイント>(24万1000円)/フロントアクスルリフトシステム(33万円)/イオナイザー(4万3000円)/エクスクルーシブデザインフューエルキャップ(2万円)/ベルトアウトレットトリム<Race-Tex>(5万8000円)/ルーフトランスポートシステム<プレパレーション>(9000円)/サンバイザー<Race-Tex>(6万2000円)/ルーフライニング<Race-Tex>(22万7000円)/HDマトリクスLEDヘッドライト(35万3000円)/BOSEサラウンドサウンドシステム(21万3000円)/シートコンソール<レザー>カラーステッチ付き(15万9000円)/インテリアミラーパネル<Race-Tex>カラーステッチ付き(5万2000円)/カスタム車両キー<エクステリアカラーペイント>およびキーポーチ(5万6000円)/デコラティブサイドロゴ“Carrera T”<バナジウムグレー>(0円)/シートベルト<ゲンチアンブルー>(0円)/アダプティブスポーツシートプラス<18way電動調節、メモリーパッケージ付き>(42万2000円)/LEDドアカーテシーライト「911 Carrera T」(4万3000円)/右ハンドル仕様(0円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:2286km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:243.3km
使用燃料:32.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.6km/リッター(満タン法)/7.6km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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