ダイハツ・ムーヴRS(FF/CVT)
ハイトワゴンを再定義せよ! 2025.08.12 試乗記 発売1カ月で、月販目標台数の5倍にあたる3万台ものオーダーを集めたダイハツの新型「ムーヴ」。その爆発的ともいえる人気の秘密と仕上がりを確かめるべく、ターボエンジンを搭載した最上級モデル「RS」のステアリングを握った。模範解答と弱点
2025年6月のダイハツ・ムーヴの月間販売台数は1万2765台。軽自動車では「ホンダN-BOX」に次ぐ2位の売り上げで、なんと前年同月比352.4%である。6月5日に7代目となる新型が発売され、1カ月で3万台の受注があった。これは月間目標販売台数6000台の5倍で、爆発的な人気になっているのだ……ん、ちょっと待て、目標が6000台で販売されたのがその2倍というのはどういうことだろう。
お察しのとおり、統計の数字はムーヴと「ムーヴ キャンバス」の合計である。2016年に登場したムーヴ キャンバスは「タント」をベースに開発され、全高は6代目ムーヴより25mm高い1655mm。全高1700mm以下の軽自動車で初めて両側スライドドアを採用した。販売は好調で、このコンセプトにニーズがあったことが明らかになる。2021年にはスズキから似たような仕立ての「スズキ・ワゴンRスマイル」が発売された。
ムーヴとライバル関係にある1993年に登場した「スズキ・ワゴンR」は、軽ハイトワゴンというジャンルの開拓者だ。10年ほど前までは軽自動車の中心的存在だった。6代目ムーヴの試乗会で配布されたプレス資料には、「ミラ イース」が“軽の本質”、ムーヴが“軽の本流”、タントと「ウェイク」が“広い軽”と記されていたのだ。今では“広い軽”こと軽スーパーハイトワゴンが軽自動車の本流である。タントやN-BOX、「スズキ・スペーシア」などのことで、いずれもスライドドアを有する。オーセンティックなヒンジドアのハイトワゴンは、スライドドアの便利さに慣れたユーザーから見放されてしまったかたちだ。
各メーカーにとってハイトワゴンの立て直しが喫緊の課題だ。ムーヴ キャンバスが本体のムーヴよりも売れるようになったということは、模範解答だったということか。ムーヴというくくりの合計では、ハイトワゴン首位を続けている。大成功だが、弱点があった。ムーヴ キャンバスはユーザー層が女性に偏っていたのだ。2022年に2代目となって新グレードの「セオリー」を設定してシックなイメージを追求したが、フォルムのかわいらしさを覆い隠すことはできなかった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
必然だったスライドドア化
これまでの経緯を見れば、新型ムーヴがスライドドアを採用したのは必然だったことがわかる。スーパーハイトワゴンほどの室内空間は必要ないが、ヒンジドアでは困るというユーザーが多かったのだ。オーソドックスなフォルムであれば手に入れたい、と考えていたのだろう。先代ムーヴは認証不正問題があったため2023年6月で生産を終了しており、新型を待ち望んでいた人々がディーラーに殺到したのもうなずける。
スライドドア化は賢明な判断だったと思いつつも、心配な点もあった。ハイトワゴンは実用性と軽快な操縦性を両立させるバランス感覚が支持されていたのだと思う。そのアドバンテージが損なわれてしまう可能性があるではないか。スライドドアは確実に重量増を招くので、運動性能には不利に働く。ムーヴ キャンバスは買い物や近場へのお出かけを想定していたので、走りについてのアピールはほとんどゼロ。シート下収納「置きラクボックス」の使い勝手のよさがセリングポイントだった。
ムーヴには自然吸気とターボの2種類のエンジンが用意されている。試乗したのは最上級グレードのRS。「L」「X」「G」は自然吸気で、ターボはRSのみだ。発進して市街地を走ってみると、やはりパワーに不足を感じることはないし、室内は静かだ。それは当然で、先代モデルも満足のいくレベルに達していたのだ。街乗りに関してはハイトワゴンもスーパーハイトワゴンも技術を磨いて性能を高めてきた。ユーザーの要求の中心であり、抜かりはない。
新型はプラットフォームが一新されている。先代はハイテン材を多用して軽量化と強度アップを実現したという最新の「D monocoque(Dモノコック)」をアピールしていた。その後ダイハツではトヨタの「TNGA」に範を取った「DNGA」を採用し、ムーヴでも採用されている。10年半ぶりのフルモデルチェンジであり、土台から大きく変わったのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
重量増は最小限
広い道路に出てスピードを上げていくと、新型ムーヴの美質が現れてくる。スーパーハイトワゴンも走行性能を高めてきたものの、やはり明確な違いがある。上屋の揺れは最小限で、ちょっとしたコーナーを抜けていくときでも爽快な感覚が得られるのだ。高速道路に入っても、流れに乗って軽快に走っていく。よほど急加速をするのでなければエンジン音は穏やかで、静粛性も保たれていた。
先代モデルより重量は増加しているが、大きな差ではない。スライドドアにはレールやローラーなどの部品が追加されるうえ、フレームを強化する必要がある。重量増は避けられないはずだが、DNGAによる軽量化で相殺されたのかもしれない。車重は先代モデルとムーヴ キャンバスとの中間ぐらいに収まっている。走りへの影響は最小限であり、スライドドア化をためらう理由にはならなかったのだと考えられる。
この日は天候が不安定で、走行中にゲリラ豪雨に襲われた。ワイパーの作動を最速にするほどの雨量でも、運転していて不安感はない。DNGAの恩恵なのかどうかはわからないが、小型車と比べても「走る・曲がる・止まる」という基本性能は引けを取らないレベルだと感じる。かつて軽自動車にはヒョコヒョコとした動きに悩まされるというイメージがあったが、乗り心地だって決して悪くはない。
おおむね満足なのだが、運転していてずっと気になっていたのがステアリングホイールの質感である。常に触っている部分だけに、ドライバーにとってはストレスとなる。ついでに言っておくと、インテリア全体にキレがなく精彩に欠けるのだ。実用的に問題があるわけではないが、あまりいい意味ではなく普通で魅力が感じられない。軽自動車はインテリアも上質なのが当たり前になっているのだから、残念な気持ちになる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
あえての普通 あるいは堅実
インテリアの普通さに文句をつけるのは的はずれなのかもしれない。新型ムーヴはさまざまな普通で構成されているのだ。収納やユーティリティーに関しても特に新機軸はない。置きラクボックスを改良しただけでなく、荷掛け用フック「シートバックユーティリティーフック」、保温機能付きのカップホルダー「ホッとカップホルダー」などを追加した2代目ムーヴ キャンバスとは対照的だ。ということは、この普通尽くしは意図的である可能性が高い。
スライドドア化に並ぶ新型ムーヴの特徴は、いわゆるカスタムモデルを廃止したことである。なかなかの英断だ。軽自動車は10年以上にわたって押し出しの強さと迫力を追い求めてきた経緯があり、大きなグリルとメッキを多用したデザインを競っていた。ミニバンも含めてカスタムモデルは「オラオラ系」とも呼ばれ、一部のユーザーから圧倒的な支持を集めたのだ。さすがに飽きられたのか、風向きが変わってきた。ホンダはすでにN-BOXや「ステップワゴン」で洗練系にかじを切っている。
最近大バズリした動画『残クレアルファード』では、オラオラ系の世界観がおちょくられていた。これからもいかついクルマを愛好するユーザーは残るだろうが、トレンドは変わりつつあるような気がする。新型ムーヴがあえて普通を志向することを選んだのなら、ダイハツはハイトワゴンを再定義しようという強い意志があるわけだ。普通という言葉が適切でないならば、堅実と言い換えてもいい。
誰もが全高1700mmを超えるスーパーハイトワゴンを求めているわけではないだろう。広いに越したことはないと思ってしまうのはわかるが、さらに高さを追求したウェイクは支持を得られず短命に終わった。ハイトワゴンが岐路に立っていることは確かである。本流の座を取り戻すためにどんな戦略で挑むのか。一周回ってまたこのジャンルが面白くなってきた。
(文=鈴木真人/写真=佐藤靖彦/編集=櫻井健一/車両協力=ダイハツ工業)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ダイハツ・ムーヴRS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1655mm
ホイールベース:2460mm
車重:890kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64PS(47kW)/6400rpm
最大トルク:100N・m(10.2kgf・m)/3600rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:21.5km/リッター(WLTCモード)
価格:189万7500円/テスト車=248万2480円
オプション装備:コンフォータブルパック(3万3000円)/ボディーカラー<ブラックマイカメタリック×シャイニングホワイトパール>(6万6000円) ※以下、販売店オプション 10インチスタイリッシュナビ(37万0810円)/カーペットマット<高機能タイプ>(2万9040円)/ETC車載器<ビルトインタイプ>(2万0130円)/ドライブレコーダー<スマートフォン連携モデル>(6万6000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1195km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:330.3km
使用燃料:20.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.1km/リッター(満タン法)/15.5km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.8.11 新型電気自動車「ES90」は、ボルボが「フラッグシップクロスオーバー」と紹介する新種の5ドアハッチバックモデル。「SPA2」プラットフォームによるゆとりあるボディーと、ボルボの次世代電気自動車アーキテクチャーの織りなす走りを報告する。
-
テスラ・モデルY Lプレミアム(4WD)【試乗記】 2026.8.10 日本でも好評を博す、テスラのSUVタイプの電気自動車「モデルY」。その6人乗り・ロングボディー仕様が「モデルY L」だ。実際に機能性や走りに触れてみると、決して「補助金頼み」とは言えない、同車の人気の理由が分かってきた。
-
アウディQ3 TFSI 110kWアドバンスト(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.8 アウディのミドルサイズSUV「Q3」の新型が日本に上陸。デザインやインターフェイスは新しくなっているが、さまざまな事情によってクルマとしての基本コンポーネンツは先代を踏襲しているのが3代目の実情だ。果たしてそれが吉と出るか凶と出るか。FWDのエントリーグレードを試す。
-
スズキDR-Z4SM(5MT)【レビュー】 2026.8.7 スズキ久々のスーパーモタードである「DR-Z4SM」に試乗! 最新の400cc級デュアルパーパスモデルをベースに、タイヤを17インチ化してオンロードでの機動性を突き詰めた一台は、今どき珍しいほどにアグレッシブで、強烈な個性を放つマシンに仕上がっていた。
-
アウディA6 TDIクワトロ150kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.8.5 歴史的にも車格的にも、アウディの中核に位置している「A6」。その最新モデルが日本に導入された。往年の「100」から数えて9代目となる新型は、いかなる走りを備えているのか? 既存の車種とは一味違う、新時代のアウディのドライブフィールを報告する。
-
NEW
ボルボのフラッグシップ電気自動車「EX90」が上陸 軌道修正された電動化戦略の今を探る
2026.8.13デイリーコラムボルボのフラッグシップ電気自動車(BEV)「EX90」と「ES90」が日本に上陸。2030年までに完全BEVブランドになるという目標は軌道修正したが、2040年までに温室効果ガス排出ゼロ企業を目指す方針に変わりはない。ボルボの電動化戦略の今を探る。 -
NEW
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う
2026.8.13マッキナ あらモーダ!ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。 -
「スバルBRZ」が採用した「新しいシフトレバー構造」とは何か?
2026.8.12デイリーコラム2026年7月31日に発表された「スバルBRZ」の最新モデルでは6段MTへの「新しいシフトレバー構造」の採用がうたわれている。すでに熟成し切った技術のように思われるマニュアルトランスミッションだが、2026年にもなってどんな構造を取り入れたのだろうか。スバルに聞いてみた。 -
第124回:「日産エルグランド」と「メルセデス・ベンツVLE」(前編) ―絶対王者に戦いを挑む、次世代高級ミニバンのカーデザイン―
2026.8.12カーデザイン曼荼羅日産が新型「エルグランド」を発売し、海の向こうではメルセデス・ベンツが「VLE」を発表するなど、いまにわかに盛り上がりを見せている高級ミニバンのかいわい。新興勢力は王者「トヨタ・アルファード」の存在を超えられるのか? カーデザイン視点で考えた。 -
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)【試乗記】
2026.8.12試乗記トヨタの人気SUV「RAV4」が6代目へと進化。どれくらい人気なのかは本文をご覧いただきたいが、日本だけでなく約180もの国と地域で愛されているモデルゆえに、その仕上がりはとにかく手堅く、そして隙がない。街から高速道路、さらに山道まで走り回って、気になったのはわずか1カ所のみだった。 -
ネジやボルトの“締め付け”ひとつでクルマの乗り心地やハンドリングがよくなるって本当?
2026.8.11あの多田哲哉のクルマQ&A車体の組み上げに使われる、無数のネジやボルト。その締め方次第でよりよい走りを実現できるというのは本当なのか? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いてみた。



















































