アストンマーティン・ヴァルハラ プロトタイプ(4WD/8AT)
ウルトラ人馬一体 2025.08.13 試乗記 最高出力1079PSを誇るアストンマーティンの新型車「ヴァルハラ」が、いよいよ生産体制に入った。F1で培った技術も投じて開発された“プラグインハイブリッド・ハイパーカー”の走りやいかに? 西川 淳がリポートする。開発する場も最高峰
ところはシルバーストーンサーキットの“レース村”。奥へと進むとひときわ大きくて新しいファクトリー――3つのビルディングからなっている――が見えてきた。有名なウイングロゴと「ARAMCO」の文字が入った大きな看板の脇を入っていく。
そう、ここは2年前の2023年、ブランド110周年の節目にオープンしたアストンマーティンのF1ファクトリーである。
最も大きな建物にはコンポジットセンターやアッセンブリールームなどが入り、真ん中の小さな建物(それでもこのビルだけで以前の2倍はある!)には最新鋭のシミュレーターや作戦会議室がおかれ、最も奥にはこれまた最新の60%風洞トンネルが入っている。要するにここは“たった2台のクルマ(といってもF1マシンだが)を走らせる”ためだけにつくられた、世界で最も進んだファクトリーであった。
最も大きな建物に戻ると、その2階には何百人ものデザイナーが画面に向かって日々、デザインを更新する部屋がある。中央にはエイドリアン・ニューウェイの部屋があり、原寸大のF1マシンを描いたウォールペーパーが貼られていた。この一角だけ、見事にアナログ。私が訪れた際には、たまたまエイドリアン本人が若いデザイナーたちと何事かを話し合っていた。
実はこの建物内で実際にエアロダイナミクスやマテリアルなどを検討したF1以外のクルマがある。それが今回の主役、ヴァルハラである。
ホンダのパワーユニットを得て、来シーズン以降の必勝を期すアストンマーティン。このヴァルハラこそはロードカービジネスの、少なくともブランドの新たな価値創造に向け、実に大きなターニングポイントとなるモデルだと私は思っている。なぜか。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
伝わる“跳ね馬”への対抗意識
ヴァルハラは限定999台とはいえ、この世界ではシリーズモデルといっていい生産台数だ。その観点でいえば、ブランド初のプラグインハイブリッドのシリーズモデル(PHEV)であると同時に、初の2シーターミドシップモデルでもある。
つまり、彼らはイタリアの名門と同じラインナップをほぼ完成しつつあるのだ。これまでのラインナップでいえばスポーツカーの「ヴァンテージ」が「296シリーズ」に、V8GTの「DB12」は「アマルフィ」に、V12の「ヴァンキッシュ」が「12チリンドリ」に、スーパーSUVの「DBX」が「プロサングエ」に、「ヴァルキリー」は「F80」に、それぞれ対応するといっていいが、フロント2モーター+リア1モーター+V8ツインターボリアミドシップPHEVのヴァルハラはズバリ「SF90 XX」のライバルだ。
このラインナップ構成を見れば、F1とスーパーカーが表裏一体となった世界最高級のスポーツカービジネスにおいて、アストンマーティンがいかにイタリアの駿馬(しゅんめ)を意識したかがわかるというものだろう。
2025年中にはデリバリーが始まるというヴァルハラ。プロトタイプのテストドライブをシルバーストーン内のアストンマーティン専用テストコース“ストウ”において催すという連絡が来た。世界でもわずか15人にしか与えられなかった機会を逃さず、イギリスに飛んだというわけだった。
ファクトリー見学の翌日、朝からの雨もやみ、幸運にも私の番になる頃には路面もほとんど乾いていた。まずはヴァンテージでコースレイアウトを学ぶ。平たんだがなかなか面白いコースで、広さも幅も十分あるから1000PSオーバーのスーパーカーでも気兼ねなく踏んでいけそう。
これなら踏める!
プロトタイプだが英国ナンバーのついたヴァルハラに乗り込む。すでに日本でも披露されているから既知のインテリアとはいえ、いざ走らせようと乗り込めばまた雰囲気も違う。無駄を削り、走らせるためだけに研ぎ澄まされた空気感が漂っている。触れるだけでざっくり切れてしまいそうな鋭利なナイフフィール、とでも言おうか。
要するに動き出す前から私は緊張していたのだ。さっきまで座っていたヴァンテージのポジションとは“違いすぎること”もあった。800PSを超えるフラットプレーンのV8ツインターボが背後でうなっていることもあった。そして何より貴重なプロトタイプのハイパーカーであることも……。
ゴーサインが出た。ゆっくりと転がり始め、ピットロードを出る頃には実は大いに安堵(あんど)していた。めちゃくちゃ乗りやすいと感じていたからだ。荒れた路面でもしなやかにいなすアシ、軽いが岩のようなボディー、そしてドライバーの意思に寄り添って力をタイヤへと伝達するパワートレイン。すぐにマシンとの一体感が芽生え、これなら踏める! という妙な自信が生まれる。
取りあえず最初の1周くらいは様子見で、と思っていたけれど、裏の直線に差し掛かる頃にはもう我慢できず右足を最奥まで踏み込んでいた。
まずはマニュアル操作を使わずに、「スポーツ+」モードで走っていた。これがまるで“先生”のように的確なシフトポイントと適正ギアを教えてくれる。フロント2モーターのおかげで思うよりも一段高いギアを使い、驚くほど速くコーナーをクリアするという振る舞いそのものは、同じパワートレイン配置のイタリアンカーたちとよく似ているのだが……。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
何もかもが思いのまま
電気モーターの存在をほとんど感じさせず、ステアリングの操作感が極めてダイレクトであることに驚いた。フロントに引っ張られる感覚はまるでない。ハイパワーなミドシップスポーツカーの操縦フィールを心から楽しむ、しかも驚くべき速さで、というヴァルハラの価値をいとも簡単に経験できるのだ。
ブレーキ性能にも驚かされた。回生による違和感もまるでなく、ただただ思いどおりに速度を落とす。強弱のコントロールも思いのままで、もちろん、周回を重ねてもフィールに変化はない。だからまた自信を持って踏んでいける。
走れば走るほどにラップタイムもまた縮まっていくと感じる(計測はしなかった)。試しに変速をパドルシフトに変えてみた。面白いことに、マシンとの一体感がいっそう高まった。おそらくタイムそのものは同じくらい、ことによると遅くなったかもしれない。けれども足先に加えて指先もパワートレインとつながったことでヴァルハラがさらに高速なマリオネットカーになったと感じられたのだった。
だんだんと腹筋が痛くなってきた。少し胃の感覚もおかしい。自らの運動不足をののしる羽目になった。期待した以上に速いコーナリングスピードに、私の体のほうが悲鳴を上げ始めたのだ。今回のテストで悔いが残ることがあったとすればそれは、ラスト1周のサインを前にピットロードへ入ってしまったことだろう。
今からでも遅くはないようだ。財力のある方はぜひ、999分の1にトライしてみてほしい。個人的にヴァルハラは今、新車で購入できる最も美しいリアミドシップスーパーカーだと思っている。
(文=西川 淳/写真=アストンマーティン/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
アストンマーティン・ヴァルハラ プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅(サイドミラー含む)×全高=4727×2208×1161mm
ホイールベース:2760mm
車重:1655kg(軽量化オプション装着時の乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:828PS(609kW)/--rpm
エンジン最大トルク:857N・m(87.4kgf・m)/6700rpm
モーター最高出力(3基合計):251PS(185kW)/--rpm
モーター最大トルク(3基合計):--N・m(--kgf・m)/--rpm
システム最高出力:1079PS(794kW)/6700rpm
システム最大トルク:1100N・m(112.2kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)285/30ZR20 99Y/(後)335/30ZR21 109Y(ミシュラン・パイロットスポーツS 5)
ハイブリッド燃料消費率:--km/リッター
EV走行換算距離:14km
充電電力使用時走行距離:14km
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:1億2890万円(日本国内での販売価格)/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1269マイル(約2042km)
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
-
トヨタbZ4X Z(FWD)【試乗記】 2026.2.14 トヨタの電気自動車「bZ4X」が大きく進化した。デザインのブラッシュアップと装備の拡充に加えて、電池とモーターの刷新によって航続可能距離が大幅に伸長。それでいながら価格は下がっているのだから見逃せない。上位グレード「Z」のFWDモデルを試す。
-
日産リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2026.2.11 フルモデルチェンジで3代目となった日産の電気自動車(BEV)「リーフ」に公道で初試乗。大きく生まれ変わった内外装の仕上がりと、BEV専用プラットフォーム「CMF-EV」や一体型電動パワートレインの採用で刷新された走りを、BEVオーナーの目線を交えて報告する。
-
ホンダN-ONE RS(FF/6MT)【試乗記】 2026.2.10 多くのカーマニアが軽自動車で唯一の“ホットハッチ”と支持する「ホンダN-ONE RS」。デビューから5年目に登場した一部改良モデルでは、いかなる改良・改善がおこなわれたのか。開発陣がこだわったというアップデートメニューと、進化・熟成した走りをリポートする。
-
日産キャラバン グランドプレミアムGX MYROOM(FR/7AT)【試乗記】 2026.2.9 「日産キャラバン」がマイナーチェンジでアダプティブクルーズコントロールを搭載。こうした先進運転支援システムとは無縁だった商用ワンボックスへの採用だけに、これは事件だ。キャンパー仕様の「MYROOM」でその性能をチェックした。
-
無限N-ONE e:/シビック タイプR Gr.B/シビック タイプR Gr.A/プレリュード【試乗記】 2026.2.7 モータースポーツのフィールドで培った技術やノウハウを、カスタマイズパーツに注ぎ込むM-TEC。無限ブランドで知られる同社が手がけた最新のコンプリートカーやカスタマイズカーのステアリングを握り、磨き込まれた刺激的でスポーティーな走りを味わった。
-
NEW
レクサスRZ350e“バージョンL”(FWD)【試乗記】
2026.2.16試乗記「レクサスRZ」のエントリーグレードがマイナーチェンジで「RZ300e」から「RZ350e」へと進化。パワーも一充電走行距離もググっとアップし、電気自動車としてのユーザビリティーが大幅に強化されている。300km余りのドライブで仕上がりをチェックした。 -
NEW
イタリアの跳ね馬はiPhoneになる!? フェラーリはなぜ初BEVのデザインを“社外の組織”に任せたか?
2026.2.16デイリーコラムフェラーリが初の電動モデル「ルーチェ」の内装を公開した。手がけたのは、これまで同社と縁のなかったクリエイティブカンパニー。この意外な選択の真意とは? 主要メンバーにコンタクトした西川 淳がリポートする。 -
NEW
第329回:没落貴族再建計画
2026.2.16カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。JAIA(日本自動車輸入組合)が主催する報道関係者向け試乗会に参加し、最新の「マセラティ・グレカーレ」に試乗した。大貴族号こと18年落ち「クアトロポルテ」のオーナーとして、気になるマセラティの今を報告する。 -
トヨタ・カローラ クロス“GRスポーツ”(後編)
2026.2.15思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「トヨタ・カローラ クロス“GRスポーツ”」に試乗。ハイブリッドシステムを1.8リッターから2リッターに積み替え、シャシーも専用に鍛え上げたスポーティーモデルだ。後編ではハンドリングなどの印象を聞く。 -
トヨタbZ4X Z(FWD)【試乗記】
2026.2.14試乗記トヨタの電気自動車「bZ4X」が大きく進化した。デザインのブラッシュアップと装備の拡充に加えて、電池とモーターの刷新によって航続可能距離が大幅に伸長。それでいながら価格は下がっているのだから見逃せない。上位グレード「Z」のFWDモデルを試す。 -
核はやはり「技術による先進」 アウディのCEOがF1世界選手権に挑戦する意義を語る
2026.2.13デイリーコラムいよいよF1世界選手権に参戦するアウディ。そのローンチイベントで、アウディCEO兼アウディモータースポーツ会長のゲルノート・デルナー氏と、F1プロジェクトを統括するマッティア・ビノット氏を直撃。今、世界最高峰のレースに挑む理由と、内に秘めた野望を聞いた。














































