ズバリ! 軽乗用BEV「ホンダN-ONE e:」と「日産サクラ」はどちらが買い?
2025.08.28 デイリーコラムCEV補助金は「日産サクラ」と同額
ティザーキャンペーンがスタートしているホンダの新型軽乗用BEV「N-ONE e:」の発売予定はこの秋(一説には2025年9月中旬)で、クルマの詳細な内容は、現時点で未発表となっている。
この原稿を書いている同年8月下旬現在、N-ONE e:について公式アナウンスされているのは、“目標値270km以上”という一充電走行距離(WLTCモード)のほか、ベーシックな「e:G」と上級版の「e:L」という2種類のグレードがあること、車体外板色が5色用意されること、そして2025年度の新車購入時に国から受け取れるCEV補助金が57万4000円になることくらいだ。
ただ、この7月下旬にはメディア向けにN-ONE e:の実車が公開されており、明言はされていなくても、実車の姿からわかる特徴もいくつかある。その最たるものは、2種類あるグレードの装備のちがいだ。上級のe:Lで標準装備となるアルミホイール、急速充電機能、革巻きステアリングホイール、そしてセンターディスプレイが、安価なe:Gでは省かれる(か、オプション設定になる)。
商品としてはもっとも重要な価格情報も公式には未発表だが、販売店では先行予約受け付けがはじまっているので、SNSや一部メディアでは価格情報も拡散しはじめている。それによると、N-ONE e:の本体価格は、安価なe:Gグレードで270万円弱、上級のe:Lグレードで320万円弱といったところらしい。
N-ONE e:最大のライバルといえる「日産サクラ」の現在の本体価格は「X」で259万9300円、「G」で308万2200円。ちなみに、サクラの2025年度のCEV補助金もN-ONE e:と同額の57万4000円となっている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
実質本体価格の200万円切りは微妙
ネット上で広まっているN-ONE e:の本体価格情報が正しければ、それをサクラの同等グレードと比較すると、ともに10万円前後、高いということになる。ただ、サクラでは急速充電機能が全車標準装備だが、N-ONE e:では安価なe:Gに標準ではつかない。「N-VAN e:」を例にとると、メーカーオプションの急速充電ポートは11万円だから、N-ONE e:のe:GとサクラXの実質価格差は20万円強という計算になる。
N-ONE e:の技術情報は未公開ではあるものの、その目標航続距離や先に発売されたN-VAN e:から類推すると、N-ONE e:もN-VAN e:と同様の容量約30kWhの三元系リチウムイオンバッテリーを搭載しているとみて間違いなさそうだ。つまり、リチウムイオンの総電力量はサクラの約1.5倍で、実質的な本体価格がおおよそ10万~20万円高にとどまるN-ONE e:は、サクラより明らかに割安感のある設定ということになる。ただ、“(補助金を使えば)実質本体価格の200万円切り”が実現できるかは、安価なe:Gでも微妙っぽい。そこは少し残念だ。
ベーシックグレードではナビ機能が省略されるのはN-ONE e:もサクラも同じ。ただ、N-ONE e:で興味深いのは、ナビなしのままで乗る場合はセンターディスプレイ部分がユニットごと省略されることだ。
このN-ONE e:のインテリアは、ガソリン車の「N-ONE」とは別物の専用デザインである。開発途上のイメージスケッチを見ても、ディスプレイレスのe:Gのインテリアこそが、N-ONE e:本来のオリジナルデザインのようだ。車内インフォテインメントをいかに充実させるかが最大の競争ポイントとなっている近年のクルマとしては、ちょっと驚くくらいスッキリしたN-ONE e:のインテリアは新鮮だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
充実装備のe:Lグレードが買い得?
開発陣にうかがうと、この思い切ったインテリアデザインは、N-ONE e:のメインターゲットである40~50代の女性と、その子供世代である20代女性への直接インタビューで出た「いつもの道で使うだけなら、ナビなんて不要。大げさなディスプレイも邪魔だし、ないほうがオシャレ」といった意見から着想したという。
さらに「N-ONE e:が使われるシーンとして想定しているのは、20~30km圏内のコミュニティー内の移動」とも語られているとおり、N-ONE e:をいきつけのカフェやスーパーまでの移動手段、そして保育園や学校、最寄りの駅、病院までの家族の送迎グルマと割り切るのであれば、なるほどナビは不要だ。また、e:GでもBluetooth音響機能は標準装備らしいので、スマホなどの手持ちのオーディオ機器があれば、車内で音楽を楽しむことは可能。ナビがどうしても必要になったときには、安全上の懸念から自動車メーカーとしては大っぴらに推奨しづらいが、ダッシュボードに置いたスマホの地図アプリで事は足りる。
とはいえ、残クレだろうがサブスクだろうが、クルマは高価な買い物である。N-ONE e:を“ナビなし、急速充電なし”というツルシ状態のe:Gのまま乗るのは心理的なハードルも高い。N-ONE e:を実際に入手するとなれば、「ナビはGoogleマップでいいけど、それを大画面で操作できるセンターディスプレイはほしい」とか「急速充電ができないと万が一のときに不安」となりがちで、結局はそれらか標準装備されるe:Lのほうが買い得になってしまう。e:Lの本体価格は300万円オーバー、補助金を差し引いてもおそらく250万円前後である。
逆にいうと「不要不急の機能にお金は払いたくないし、割高な急速充電なんて使わない」とスパッと割り切って、同じN-ONE e:でも簡素で安価なe:Gを積極的に選ぶ日本人が増えてきたら、そこが日本でも本格的にBEVが普及しはじめるタイミングなのかも……と思ったりもする。
(文=佐野弘宗/写真=webCG、本田技研工業、日産自動車/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探るNEW 2025.12.4 「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。
-
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相 2025.12.3 トヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。
-
あんなこともありました! 2025年の自動車業界で覚えておくべき3つのこと 2025.12.1 2025年を振り返ってみると、自動車業界にはどんなトピックがあったのか? 過去、そして未来を見据えた際に、クルマ好きならずとも記憶にとどめておきたい3つのことがらについて、世良耕太が解説する。
-
2025年の“推しグルマ”を発表! 渡辺敏史の私的カー・オブ・ザ・イヤー 2025.11.28 今年も数え切れないほどのクルマを試乗・取材した、自動車ジャーナリストの渡辺敏史氏。彼が考える「今年イチバンの一台」はどれか? 「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の発表を前に、氏の考える2025年の“年グルマ”について語ってもらった。
-
「スバル・クロストレック」の限定車「ウィルダネスエディション」登場 これっていったいどんなモデル? 2025.11.27 スバルがクロスオーバーSUV「クロストレック」に台数500台の限定車「ウィルダネスエディション」を設定した。しかし、一部からは「本物ではない」との声が。北米で販売される「ウィルダネス」との違いと、同限定車の特徴に迫る。
-
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
NEW
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
NEW
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
NEW
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。 -
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】
2025.12.2試乗記「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。 -
4WDという駆動方式は、雪道以外でも意味がある?
2025.12.2あの多田哲哉のクルマQ&A新車では、高性能車を中心に4WDの比率が高まっているようだが、実際のところ、雪道をはじめとする低μ路以外での4WDのメリットとは何か? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。










































