アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)
BEVの時代のスポーツセダン 2025.12.08 試乗記 アウディの最新電気自動車(BEV)「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。いいところを突いている
今回試乗したS6も含むA6スポーツバックe-tronは、アウディが2025年7月に国内発売(本国発表は2024年8月)したBEVサルーンだ。A6/S6 e-tronに「アバント」の選択肢もあるのは承知のとおりで、BEVのステーションワゴンはかなりレアだが、5ドアのスポーツバックもなかなか貴重な存在といっていい。
現在の日本で手に入る量産BEVサルーンといえば、ざっと思いつくのは、BMWの「i4」「i5」「i7」、メルセデスの「EQE」「EQS」、BYDの「シール」、そして(すでに日本向け生産は終了したが)テスラの「モデルS」くらいだろうか。A6/S6 e-tronは、いわば「A5/S5(かつてのA4/S4)」のBEV版というポジションだから(参照)、車格的にはi4やシールと同等のはずだが、実際のサイズはひとクラス上のi5やEQEに近い。それでいて、本体価格はBMWでいうとi4とi5の中間で、100kWhという車載電池の総電力量がBMWのそれ(83.9kWh)より大きいことを考えると、BMWより割安感すらある。
また、背の低いBEVという意味ではアウディには「e-tron GT」もあり、全長も同じ4.9m台で、ドアも4枚ある。しかし、e-tron GTはその名のとおり、DNAを共有する「ポルシェ・タイカン」同様のGTもしくはスポーツカーで、サルーン/ステーションワゴンのA6/S6 e-tronとはコンセプトが異なる。システム最高出力を見ても、今回のS6スポーツバックe-tronが503PS(ローンチコントロール使用時551PS)なのに対して、同じSを冠する「S e-tron GT」のそれは680PS。3.4秒という0-100km/h加速タイムもS6スポーツバックe-tronより0.5秒速い。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
こちらはクワトロ、あちらはRWD
というわけで、今回試乗したのはA6スポーツバックe-tronシリーズのなかでも、高性能モデルとなるS6スポーツバックe-tronだ。日本での標準モデルとなる「A6スポーツバックe-tronパフォーマンス」がリアモーターの後輪駆動なのに対して、このS6スポーツバックe-tronは前後2モーターの四輪駆動。さらに、503PSというシステム出力はA6 e-tronの136PS上乗せで、3.9秒の0-100km/h加速は1.5秒速い。
もっとも、高い動力性能には代償もあり、S6スポーツバックe-tronの一充電航続距離(WLTCモード)は、同じ総電力量100kWhの三元系リチウムイオン電池を積むA6スポーツバックe-tronの769kmより43km短い。これを「思ったより差が小さいな」と感じる向きもあろうが、A6スポーツバックe-tronに「レンジプラスパッケージ」なるオプションを追加すると、航続距離も国内BEV最長をうたう846kmまで延びる。ちなみに、同パッケージは車高のローダウンが可能な「アダプティブエアサスペンション」や、ドアミラーより圧倒的に小さい「バーチャルエクステリアミラー」などがセットになったもので、電池やモーターなどの動力系に変わりはない。つまり、基本的には空力性能のアップだけで“アシ”を延ばすわけだ。
このアウディBEVサルーンシリーズの試乗は、個人的には、以前ご報告したA6スポーツバックe-tronパフォーマンス以来2度目となる。そのA6 e-tronと今回のS6 e-tronのちがいには、前記の駆動方式や動力性能のほか、専用チューンの「Sアダプティブエアサスペンション」の有無がある。ただ、前回試乗したA6 e-tronにもアダプティブエアサスペンションがオプション装着されていたこともあって、ノーマルモードにあたる「バランスト」選択時の乗り味は、両車でよく似ていた。スポーツモデルでも、あからさまに攻撃的な乗り味としないのがアウディSモデルの流儀である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
乗り心地は「A6 e-tron」に一歩ゆずる
A6/S6 e-tronは、「PPE(プレミアムプラットフォーム)」というクルマの土台というか基本骨格を、同じアウディの「Q6/SQ6 e-tron」や「ポルシェ・マカン エレクトリック」と共有する。しかし、今回のS6 e-tronはそれらのSUVより地上高も小さく、また重心も低いのはご想像のとおりで、乗り心地も含めたダイナミクス性能では明らかに有利だ。
ただ、このS6スポーツバックe-tronの乗り心地が、前回のA6スポーツバックe-tronのように絶品に近いフラットライドか……というとそうでもなく、とくに荒れ気味の路面での上下動が少し気になったのも正直なところである。S6 e-tronのアダプティブエアサスペンションが専用チューンとなるのは前記のとおりだが、それ以外にも前回のA6 e-tronの装着タイヤが20インチ、今回のそれが21インチ(ともにオプションサイズ)だったことも少なからず影響したように思える。
これはマカン エレクトリックでも感じたことだが、PPEは総じてタイヤサイズに少し敏感な気もするので、今回も標準の20インチだったら、乗り心地の印象もまたちがっていた可能性もある。ご購入の向きは、オプションホイール/タイヤは吟味したほうがよさそうだ。
今回はSモデルということで、動力性能も前記のとおり大幅に上乗せされているが、その高性能を“音”や“鼓動”で体感できないのは、よくも悪くもBEVの宿命である。ただ、A6 e-tronとS6 e-tronの場合は駆動形式が異なる。後輪駆動となるA6 e-tronでは荷重移動やコーナーでのアクセルオンのタイミングにそれなりに気を使う必要もあったが、このS6 e-tronは四輪駆動なので、直感的にステアリングを切って、アクセルペダルを無遠慮に踏み込んでも、きれいにライントレースしてくれる。しかもその前後トルク配分が、なにがどうなっているのかまるで感じ取れないほどに緻密なのもBEVならではだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
走行モードに見るBEVらしさ
今回のS6スポーツバックe-tronも、Sモデルだからといって用意されるドライブモードが標準モデルのA6 e-tronと基本的に変わるわけではなく、どちらも前出の「バランスト」に加えて、快適性重視の「コンフォート」と、機動性が上がる「ダイナミック」、電費重視の「エフィシェンシー」が用意される。
ダイナミックモードでは車高がローダウンしてパワートレインのレスポンスも上がり、加速時にはエコーがかかりまくった“ドゥオーン”という疑似サウンドが車内に響く。ただ、その疑似サウンドが停止中もアイドリングのようにかすかに響き続けて、アガった気分を途切れさせないのは面白い。ほかのドライブモードでも疑似サウンドを鳴らすことはできるが、このアイドリング(?)音はない。
逆にエフィシェンシーモードを選んでも、ダイナミックと同じく車高がローダウンするところに、クルマというのはスピードランでもエコランでも、突き詰めれば“抵抗”との戦いであることを実感する。A6スポーツバックe-tronに用意される冒頭のレンジプラスパッケージもしかりだ。実際、エフィシェンシーモードでは、回生ゼロのコースティング走行時も、いかにもスルスルスルーと転がっていく。0.21という自慢の低いCd値を体感でき(た気がす)るのは、こういう瞬間だ。
また、S6 e-tron(とA6 e-tron)にはダイナミックの性能をさらに高める「ダイナミックプラス」や「RS」モードの類いがないかわりに、エフィシェンシーモードの上をいく「エフィシェンシープラス」が選べるのがBEVらしい。エフィシェンシープラスは、乗り味そのものはエフィシェンシーから大きく変わらないものの、メーター表示も速度などの最低限の情報以外はブラックアウトして、室内のアンビエントランプ照明も暗くなる。ドライバーを鼓舞するような音も振動もないBEVだが、こういうストイックな雰囲気にはどことなく気分がアガる。これもBEV時代ならではの楽しみかもしれない。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=アウディ ジャパン)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
アウディS6スポーツバックe-tron
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4930×1925×1465mm
ホイールベース:2950mm
車重:2390kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流誘導電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:--PS(--kW)
フロントモーター最大トルク:275N・m(28.0kgf・m)
リアモーター最高出力:--PS(--kW)
リアモーター最大トルク:580N・m(59.1kgf・m)
システム最高出力:503PS(370kW)<ローンチコントロール使用時:551PS(405kW)>
システム最大トルク:--N・m(--kgf・m)
タイヤ:(前)245/40R21 100Y XL/(後)275/35R21 103Y XL(ピレリPゼロ エレクト)
一充電走行距離:726km(WLTCモード)
交流電力量消費率:148Wh/km(WLTCモード)
価格:1440万円/テスト車=1688万円
オプション装備:テクノロジーパッケージ<Bang&Olufsen 3Dプレミアムサウンドシステム[16スピーカー]/フロントヘッドレストスピーカー+MMIパッセンジャーディスプレイ+MMI experience pro[ARヘッドアップディスプレイ+アンビエントライティング プロ/ダイナミックインタラクションライト+USBクイックチャージング フロント600W/リア100W]>(65万円)/ファンクションパッケージ<プライバシーガラス+パワークロージングドア+ステアリングヒーター+シートヒーター フロント/リア+リモートエアコンディショナー プラス>(26万円)/ダークAudi rings&ブラックスタイリングパッケージ<ダークAudi rings+ブラックスタイリングパッケージ+エクステリアミラーハウジング ブラック+ドアハンドル ブラック>(16万円)/アルミホイール 5アームダイナミックデザイン ブラックメタリック ポリッシュト<フロント8.5J×21 245/40R21タイヤ/リア9.5J×21 275/35R21タイヤ[Audi Sport]>(20万円)/レザーパッケージ レッド<Sスポーツシート+パーフォレーテッドレザー/ファインナッパレザー アラスレッド+インテリアエレメンツ ダイナミカ+シートベンチレーション マッサージ機能[フロント]>(60万円)/デコラティブパネル カーボンスクエアストラクチャー(11万円)/カラードブレーキキャリパー レッド(8万円)/スマートパノラマガラスルーフ(42万円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:3627km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(6)/高速道路(2)/山岳路(2)
テスト距離:255.3km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:5.1km/kWh(車載電費計計測値)
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆【ニュース】アウディの新型電気自動車「A6スポーツバックe-tron」「A6アバントe-tron」が上陸
◆【試乗記】アウディA6スポーツバックe-tronパフォーマンス(RWD)
◆【試乗記】アウディSQ6 e-tron(4WD)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
トヨタRAV4アドベンチャー(4WD/CVT)【試乗記】 2026.8.1 いまやトヨタの最量販モデルへと上り詰めた「RAV4」の6代目モデルが登場。もちろんトヨタにとっては自信作のはずだが、後を追うライバル勢も着々と進化しており、カスタマーのチェックの目は厳しくなるばかりだ。国内向けでは最廉価の「アドベンチャー」でその仕上がりを試した。
-
ビモータKB998リミニ(6MT)【レビュー】 2026.7.31 ビモータのスーパースポーツ「KB998リミニ」にサーキットで試乗! イタリア職人の手によるフレームに、カワサキの強心臓を搭載した一台は、いかなる走りを見せてくれるのか? クローズドコースだからこそ体験できたマシンの真価に迫る。
-
ポルシェ・マカンGTS(4WD)【試乗記】 2026.7.29 ポルシェの擁する電動のハイパフォーマンスSUV「マカン エレクトリック」に、さらに走りを磨いた「GTS」が登場。エンジンを積まない電気自動車でも、ポルシェならでは、GTSシリーズならではの走りは楽しめるものなのか? 雨のなかの試乗を通して確かめた。
-
シトロエンë-C3マックス(FWD)【試乗記】 2026.7.28 シトロエンのコンパクトハッチバック「C3」に電気自動車版の「ë-C3」が登場。さすがはシトロエンらしく、操作系やスペック、装備の設定、さらには乗り心地にいたるまで、普通のBEVとはひと味違う。誰にでも勧められるクルマではないが、そもそもシトロエンとはそういうポジションだ。
-
スズキ・ジムニー ノマドFC(4WD/4AT)/ジムニー ノマドFC(4WD/5MT)【試乗記】 2026.7.27 “ジムニー史上初”となる、5ドアのロングボディーで人気を博す「スズキ・ジムニー ノマド」。快適な後席と広い荷室空間が自慢のファミリーの新顔に、はたして死角はないのか? このクルマの本領であるオフロードも走行し、その実力をつまびらかにした。
-
NEW
「売れるクルマ」と「いいクルマ」にズレがあるとき、開発者がつくりたいのはどっち?
2026.8.4あの多田哲哉のクルマQ&A「いいクルマが売れるとは限らない」などといわれるが、「売れるクルマ」と「いいクルマ」が一致しないとき、エンジニアが目指したいと思うのはどちらなのか? 元トヨタの車両開発者である多田哲哉さんに聞いてみた。 -
NEW
ホンダ・スーパーONE(FWD)【試乗記】
2026.8.4試乗記ホンダのスポーツハッチバック電気自動車「スーパーONE」がいよいよ公道を走り始めた。その愛らしいスタイリングと走りの楽しさはすでに各所で報告されているが、多くの方が不安に感じているのは“距離”に関してに違いない。幾度かの経路充電を挟みつつ300km余りをドライブした。 -
第341回:「スカイアクティブZ」は大丈夫か
2026.8.3カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「マツダCX-5」で出撃した。マイルドハイブリッドのパワートレインと進化したシャシーが織りなす走りを確かめつつ、ディーゼルエンジンがラインナップから消えた3代目CX-5について考えた。 -
MINIクーパーSEポール・スミスエディション(FWD)【試乗記】
2026.8.3試乗記人気のプレミアムコンパクト「MINI」に、特別なデザインが魅力の「ポール・スミスエディション」が登場。著名なファッションブランドがコーディネートしたMINIは、クルマに疎い人も、ブランドに疎い人も魅了する、説得力のある装いの一台に仕上がっていた。 -
「フェラーリ12チリンドリ マヌアーレ」の“MTごっこ”は、スーパーカーの新スタンダードになるか?
2026.8.3デイリーコラムフェラーリひさびさの3ペダルMT車として注目される「12チリンドリ マヌアーレ」は、実はDCTがベースの“なんちゃってMT車”だ。やはり、超ハイパワー車と伝統的なMTのコンビは無理なのか? 事情に詳しい西川 淳はこう考える。 -
マツダCX-5 G(後編)
2026.8.2思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「マツダCX-5」に試乗。後編ではマイルドハイブリッド化された2.5リッターエンジンやホイールベースが拡大されたシャシーが織りなす走りをチェック。気になる「スカイアクティブZ」についても聞いてみた。























































