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第857回:ドイツの自動車業界は大丈夫? エンジニア多田哲哉が、現地再訪で大いにショックを受けたこと

2026.01.14 エディターから一言 多田 哲哉
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かつてトヨタの技術者としてさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さん。現役時代の思い出が詰まったドイツに再び足を運んでみると、そこには予想もしなかった変化が……。自動車先進国の今をリポートする。

忘れていた“ドイツ流”

2025年の終わりに、5年ぶりにドイツに行ってきました。コロナ禍以来ってやつですね。

ドイツでは「トヨタ・スープラ」の共同開発のため、BMWのあるミュンヘンに数えきれないくらい通ったし、1993年から約3年間、駐在員としてケルンとその隣町のケルペン(ミハエル・シューマッハーの故郷で、両親が働きシューマッハー兄弟が腕を磨いたカート場がある小さな町)に赴任したこともあり、大変なじみのあるところです。いろいろな変化と、いつまでも変わらない“頑固なドイツ”を楽しみに出かけました。 

フランクフルト空港に着いて、まずレンタカーのハーツへクルマをピックアップに行きました。今日はどんなクルマが待っていてくれるかなあ、当たりか? ハズレか? 毎回ドキドキしてレンタカーカウンターに行くのは私だけかしら? カウンターで「ルノーと日産、どっちにする?」と聞かれたので、迷わずルノーをチョイスして駐車場に向かうと、待っていたのは「オーストラル」(写真)。

日本ではなじみのないモデルですが、ちょうどマイナーチェンジしたばかりの、下ろしたてのクルマが待っていた。「トヨタ・カローラ クロス」のサイズ感のSUVで、内装もイイ感じ。日が落ちかけた久しぶりのアウトバーンを慎重に走り始めました。

「アウトバーン」と聞くと、極めて立派な高速道路を想像する人が多いのですが、日本の高速道路では当たり前にある照明の類いはいっさい無い。つまり夜は真っ暗です。

あちこち工事区間も多く、車線を減らすことなくギリギリまで幅を詰めた車線を走らせる。これが、ステアリングの微小舵角で正確に操縦できないクルマでは大変怖いのです。

アウトバーンならではの速度無制限区間を走っていると、突如現れる工事区間は、だいたい80km/hか100km/h規制。日本での習慣でアクセルオフの惰性で減速していたら、あれ? なんか光った!?

帰国後、罰金のお手紙が届きました。ブレーキを踏んで急減速するなんてかえって危ないと思いますが、そうだった、ここはドイツ。速度標識の立ってるところからきっちり速度を守るのが常識でしたね。

アウトバーンは、車両の流れる速度も明らかに昔よりゆっくりになっていました。追い越し車線でも150~160km/hくらい。200km/hオーバーでぶっ飛んでくるクルマは減っています。皆さん、燃費と移動時間を考えて、効率の良いところで走っているってことですね。

今回のドイツ旅の友は、日本では販売されていないルノーのSUV「オーストラル」。本文で触れた、シューマッハーゆかりのケルペンのカート場前で。
今回のドイツ旅の友は、日本では販売されていないルノーのSUV「オーストラル」。本文で触れた、シューマッハーゆかりのケルペンのカート場前で。拡大
「ルノー・オーストラル」のサイズ感やユーティリティー、走りの良さはなかなかのもので、価格次第では日本でも人気が出るのではないかと思える。
「ルノー・オーストラル」のサイズ感やユーティリティー、走りの良さはなかなかのもので、価格次第では日本でも人気が出るのではないかと思える。拡大

お店の価格に大ショック

そんなこんなでガソリンも減って、休憩がてらアウトバーン3号線のパーキングで給油してみました。40リッター弱入ったと思います。料金を支払いに行ったら90ユーロ。その時のレートは182円くらいだったので、えー! 1万6000円以上じゃないか。ウソー。

アウトバーンで給油すると400円/リッターって感じですね。一般道で探せばもう少し安いところがありましたが……。毎日ニュースになる日本の物価高ですが、比較になりません。その後、レストランでの食事や買い物の際にいちいち円換算していましたが、すぐにアホらしくなってやめました。

そんなこんなでオーストラルと500km以上走った印象はとても良いです。最高出力150PSというパワーを生かし切るギア比の設定や、直進性の良さ、フランス車らしい当たりが柔らかいのにサポートがしっかりしているシートが好印象。私のスマートフォンともあっさりコネクトしてくれて、Googleマップが大画面で使えて、目的地までの道程を快適にクリアできました。荷物もしっかり積める。このクルマは、値段次第で日本でも売れると思います。日産ブランドでも販売すればいいのに。

あちこち走りまくって、今回の一番のお楽しみであるミュンヘンにやってきました。

BMWの技術センターに通ったトヨタのミュンヘン事務所は、閉鎖後に某自動車ディーラーになったと聞いていましたが、また違うフィットネス関係のオフィスになっていました(写真)。それだけクルマが売れていないってことでしょうか?

近くにはBMWモトラッドのメガディーラー(写真)があるので訪ねてみたものの、最新のバイクを含めて全車が特売の赤札付きで展示されてたのにはビックリ、というかガッカリ……。さてさて、ドイツの自動車業界全体に元気がないとは聞いてはいたのですが、実情はどうなのでしょうか?

現役時代が懐かしい、BMWの技術センターの前で記念撮影。しかし、この施設へと通ったトヨタのトヨタのミュンヘン事務所は、今は無い。
現役時代が懐かしい、BMWの技術センターの前で記念撮影。しかし、この施設へと通ったトヨタのトヨタのミュンヘン事務所は、今は無い。拡大
BMWのバイクに乗る身としては、本場ドイツでBMWのバイクディーラーを訪れるのはワクワクすることである。が、店内からは販売不振のムードが伝わってきて、なんともいえない気持ちになる。
BMWのバイクに乗る身としては、本場ドイツでBMWのバイクディーラーを訪れるのはワクワクすることである。が、店内からは販売不振のムードが伝わってきて、なんともいえない気持ちになる。拡大

現地のエンジニアもつらい

ミュンヘンはドイツのなかでも有数の“リッチな街”で、新車が発売されるとすぐに街で見かけるのがこれまで普通だったので、今回も各社の最新EVがさぞかしたくさん走ってるだろうと思いきや、そうでもない。充電スポットも、5年ぶりの印象としては、それほど増えた気がしない。道路の景色が期待に反して変わっていないことに、妙な違和感を覚えました。

ミュンヘンに到着した日の夜、ドイツの自動車部品メーカーで働く友人と夕食をともにしていろいろ話を聞いたのですが、全ヨーロッパの自動車メーカーからの発注が激減しているそう。それにともないエンジニアがどんどん解雇されているようです。友人はエンジニアのマネージャー職なのですが、「エンジニアリングの仕事は置いておいて、どこでもいいからひたすら新規の仕事を取ってこい!」と上から指示されるというのです。個人の人脈にまで頼って仕事を探さないとダメってねえ。まるで営業マンのようですが、それで、仕事を取ってこられない人はマネージャーでも解雇されているのです。

とはいえ、欧州メーカーにいくらコンタクトしても新規発注は望めず、北米メーカーもダメ。唯一新規発注の可能性のあるのは日本の自動車メーカーだけなんだとか。中国にはもう既にたくさんドイツメーカーのエンジニアが流出しているし……。

日本では「トヨタの一人勝ちであとは元気がない」などといわれますが、ホンダもスバルもマツダも、欧州メーカーからは、まだまだ“日本メーカーは開発が回っている”と見えています。

彼らは、日本メーカーをたたきつぶせる切り札と信じて進めたEV化の停滞にしばられて、混乱するだけでなく自信まで失い、開発過程での決断が遅れる事象が多発して、部品メーカーをも巻き込んで業界全体が対応に苦慮しているようなのです。

エンジンをはじめとする大きなユニットは、開発をいったん止めてしまうと、再開するのは大変です。「いずれはEVになる」という大きな流れに間違いはないわけで、無理やりエンジンに戻した途端、また状況が変わったら……? なんて、疑心暗鬼のまま迷走しているのでしょう。

そんなこんなで、いろいろ話を聞くなかでとりわけ印象的だったのは、今、ドイツの友人の会社の仲間が行ってみたいと思う国が、圧倒的に日本だということです。理由は、仲間からの口コミで「きれい」で「みんな親切」で、とりわけ「何でも異常に安い」から。みんな日本に行きたいんだと! 私が頻繁にBMWを訪問していたのは2012年から2019年にかけてのことで、当時、彼らのなかで日本に行ったことがある人はほとんどいませんでした。日本を素通りして中国に出張した経験のある人は多かったですけどね。

“急ぎすぎた電動化”は今、ドイツの自動車産業に多大な影響をおよぼしているようで、その苦しみは現地の友人の口からも伝えられた。2025年10月には、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相(写真)が「エンジン車禁止の撤廃に向けてあらゆる手段をとる」考えを示したが、それで今後、業界が上向きになるかどうか……。(写真=IAA MOBILITY)
“急ぎすぎた電動化”は今、ドイツの自動車産業に多大な影響をおよぼしているようで、その苦しみは現地の友人の口からも伝えられた。2025年10月には、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相(写真)が「エンジン車禁止の撤廃に向けてあらゆる手段をとる」考えを示したが、それで今後、業界が上向きになるかどうか……。(写真=IAA MOBILITY)拡大

あのポルシェも微妙なムード

ドイツ旅の最後は、お約束のポルシェミュージアム。改装前から数えると、これで10回目の訪問です。

毎回、新しいワクワクが必ずあるんです。ミュージアムはポルシェ本社工場の出口交差点の対面に位置し、工場の熱気が伝わってくるのもイイ。今回の発見は何だろうと考えながら、いつも混んでいる地下駐車場に着くと、あれ? なんだかすいている。

そのままエントランスをくぐった最初の展示は、「実は世界で初めて電気自動車をつくったのはポルシェ博士なんです!」ってやつ。前回と同じだなあと思いつつ、あちこち見て回ったのですが、いつものワクワク感がない。一番記憶に残ったのは、近所のキンダーガーデン(ドイツの幼稚園)の遠足でここに来ている子供たちのポルシェを見つめる姿でした(写真)。いつの日か、ドイツ自動車産業を支える人材になるんだろうね。

……という調子で、中国市場で大いに不振に陥っているポルシェが本丸でも精彩を欠いている姿を目の当たりにしました。

日本は、国際的には物価が抑えられていて、実は暮らしやすいイイ国だとつくづく認識させられた今回のドイツ旅でした。いろいろ言われてはいますが、高市首相、ガソリン税も下げてくれて頑張っているのだとしみじみ思います。日本のマスコミは何でもっと正確に世界における日本の物価水準を伝えないんだろう? これぞ、ザ・オールドメディアということかな? 近々アメリカ自動車業界の様子も見に行ってみたいものです。 

【最後に】
ミュンヘンの北西にあるアウクスブルクを通過中に、こんな看板(写真)を見つけました。おしゃれなカフェが併設されていて、そのカフェでチケット買って入場します。もうマツダファンには涙もの! 地元のマツダディーラーの趣味が高じてつくられた施設のようですが、実に琴線に触れるクラシックマツダをチョイスしているんです。わが家にもあった「キャロル」にも再会できたし、ロータリーエンジンのトラックってどうよ! 広島マツダ本家の関係者たちのサインで埋め尽くされた「ファミリア」も必見です。マツダファンに限らず、ドイツ旅行の際はぜひ一度! おすすめです。

(文と写真=多田哲哉/編集=関 顕也)

ミュンヘンから北西に約250km離れた、ドイツ・シュトゥットガルトにあるポルシェミュージアム。熱狂的なポルシェファンならずとも楽しめる、見ごたえのある自動車博物館だ。
ミュンヘンから北西に約250km離れた、ドイツ・シュトゥットガルトにあるポルシェミュージアム。熱狂的なポルシェファンならずとも楽しめる、見ごたえのある自動車博物館だ。拡大
今回ポルシェミュージアムを回って最も印象的だったのが、未就学児の見学の様子。このなかから、数十年後にドイツの自動車産業を支える人が出てくるのかもしれない。
今回ポルシェミュージアムを回って最も印象的だったのが、未就学児の見学の様子。このなかから、数十年後にドイツの自動車産業を支える人が出てくるのかもしれない。拡大
ドイツ・アウクスブルグにある「マツダ・クラシック・オートモビル・ミュージアム・フライ」は、ドイツ国内で長年マツダディーラーを営んできたフライ家による私設博物館。
ドイツ・アウクスブルグにある「マツダ・クラシック・オートモビル・ミュージアム・フライ」は、ドイツ国内で長年マツダディーラーを営んできたフライ家による私設博物館。拡大
「ロードスター」や「RX-7」はもちろん、「コスモスポーツ」や「キャロル」(写真)といったヒストリックモデルも網羅されている。
「ロードスター」や「RX-7」はもちろん、「コスモスポーツ」や「キャロル」(写真)といったヒストリックモデルも網羅されている。拡大
こちらは1974年製の「マツダ・ロータリーピックアップ」。北米市場向けの輸出専用車として、同年から1977年まで生産された。
こちらは1974年製の「マツダ・ロータリーピックアップ」。北米市場向けの輸出専用車として、同年から1977年まで生産された。拡大
「マツダ・クラシック・オートモビル・ミュージアム・フライ」には、世界中からマツダファンが訪れる。入場料は大人7ユーロで、13歳~17歳が4ユーロ。12歳以下は無料となっている。
「マツダ・クラシック・オートモビル・ミュージアム・フライ」には、世界中からマツダファンが訪れる。入場料は大人7ユーロで、13歳~17歳が4ユーロ。12歳以下は無料となっている。拡大
多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。

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