レクサスRZ550e“Fスポーツ”(4WD)
元気って素晴らしい 2026.01.31 試乗記 レクサスの電気自動車(BEV)「RZ」が大型アップデートを敢行。特に今回連れ出した「RZ550e“Fスポーツ”」は「ステアバイワイヤ」と「インタラクティブマニュアルドライブ」の2大新機軸を採用し、性能とともに個性も強化している。ワインディングロードでの印象を報告する。公道で試すステアバイワイヤ
デンキですか~っ。アントニオ猪木が2022年10月1日に亡くなってはや幾とせ。しかして筆者のなかでは、いまも聞こえてくるこのフレーズ。デンキがあれば、なんでもできる。
そのデンキの最新モデル、レクサスRZ550e“Fスポーツ”に、webCG編集部の入っているビルの地下駐車場で乗り込み、駒沢通りに躍り出て走ること数m。あまりに滑らかな走行フィールに感動した。
電気モーターだから当たり前。ではあるけれど、こちらの想定を上回る、なんたる静かさ、なんたるスムーズさ。2022年に登場した前期型の記憶より、グッとレベルが上がっている。新開発の大容量電池に高出力化したモーター、それに効率を高めたインバーター等、BEVシステムの全面刷新に加えて、ボディー剛性の強化、新登場の“Fスポーツ”も含め、サスペンションのばねとダンパーも見直した、という効果が、なるほど確かに感じられる。
新しいRZ“Fスポーツ”の目玉は、ステアバイワイヤとインタラクティブマニュアルドライブである。略称ステバイについては2022年(たぶん)、筆者もプロトタイプを袖ヶ浦フォレストレースウェイの敷地内でチョロっと運転したけれど、公道で試すのは今回が初めてだった。
∞(無限大)型、あるいはチョウチョ型とも表現できる変形ステアリングはロックトゥロックが約1回転。左右それぞれ約200°動かすだけですべてをこなすから、両手を離すことなく操作できる。実際は腕がこんがらがりそうで、離しちゃいますけど、フツウのステアリングホイールだと3回転、左右500°以上回す必要があるわけで、つまりそれだけステバイはステアリングギア比の変化が大きい。低速ではちょっと切っただけでノーズがスッと、いやクイッと動く。舵を大きく切ると、前輪のジオメトリーの関係で、リアを軸にして前から切ったほうに倒れ込みつつ曲がる。内輪差に要注意。と最初はあれこれ気をつかうけれど、一度曲がれば、あとはもう直感で操作できる。
チョウチョ型なので、メーターがよく見える。いつもと違う景色だけれど、これもまたすぐに慣れる。筆者の場合、両手で左右グリップを握っていると、まじめな姿勢すぎて肩が凝る……ような気がしてきて、首都高速上では左手を左のグリップ上部にのせ、主に利き腕の右手で操作していた。左利きだったら、右手を遊ばせることになるのではあるまいか。
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クルマとの対話
驚きは、プロトタイプよりステアリングフィールがあるように感じたことだ。首都高速の目地段差でも、お尻だけでなくステアリングにも微妙に振動が伝わってくる……ような気がする。ステアバイワイヤに前輪と機械的なつながりはない。ロードインフォメーションなんて、まるでないのが当然なのだ。そこでレクサスに確認したところ、次のような回答を得た。
「ステアリング側にステアリングトルクアクチュエータ(STA<モーターを含む>)を装備しており、このアクチュエータで路面からのフィードバックをつくり出しています。路面の振動を検知しているというよりは、車軸側にあるステアリングコントロールアクチュエータ(SCA<モーターを含む>)を駆動するために必要とした力(=路面からの入力も反映される)を基に、ステアリングへのフィードバックをSTAで再現することにより、振動や手応えとしてステアリング側でドライバーが感じる仕組みとなります」
気のせいではなかった……。クルマと対話できない。というモリゾウこと豊田章男マスタードライバーのひとことによって、おそらくは気の遠くなるような仕事に挑み、おそらく好きなひとにとっては苦しくも楽しいこの仕事を完遂しておられる、と筆者は思う。
RZ550eという車名の数字が表しているように、従来型の最高性能版で、同じくAWDの「RZ450e」と比べると、モーターが前後ともにパワーアップしている。450eは最高出力/最大トルクが前:203.9PS/266N・m、後ろ:109PS/169N・mだった。550eではそれが前後とも227PS/268N・mに強化されている。
タイヤはRZ550e“Fスポーツ”も20インチで、前235/50、 後ろ255/45という異サイズの「ダンロップSPスポーツマックス060」を装着している。銘柄も含めてRZ450eと同じだ。あれは2023年だったか、レクサスRZの開発者にお話を聞く機会があって、筆者はそのとき、450eはリアのモーターのほうがフロントより非力なのにリアのタイヤのほうが幅が広いのはどういうわけですか? と質問した。その方は「そうなんです。変えないといけない」という意味のことをお答えになったので驚いた。おそらく当時、すでに今回の改良に取りかかっておられたのだろう。
システム最高出力408PSを得たRZ550e“Fスポーツ”は、0-100km/h加速4.4秒の俊足を誇る。これは「ポルシェ・マカン4エレクトリック」より0.8秒も速く、「マカン4Sエレクトリック」より0.3秒遅いタイムで、そうとう速い。フラットアウトを試みると、前後のドアに仕込まれた4つのスピーカーから、ひゅい~んという人工音が室内にとどろき、爽快な加速を披露する。
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コーナリング中も前輪優勢のトルク配分に
翌日、ステバイを動かしながら箱根ターンパイクを走っていたら、「アイロンがけ」という言葉が浮かんできた。次々やってくるコーナーを、丁寧にアイロンがけしていく。まるでクシャクシャのシャツをアイロンがけでパリッとさせているみたいに。
カタチがアイロンに似ている。ということもあるかもしれないけれど、姿勢変化の小ささがそう思わせる。可変サスペンションではないのに、ノーズダイブもスクワットもほぼ皆無、コーナリング時のロールもごく控えめで、つねに4輪が均等に接地している感じがする。電池をフロアに敷き詰めたBEVは低重心ゆえ、改良前もそういう特性ではあった。それがRZ550e“Fスポーツ”では徹底している。
これこそ、電動4輪駆動システム「ダイレクト4」の駆動力配分の見直しの成果だと思われる。従来のRZ450eだと、リアのモーターのほうが低出力だったにもかかわらず、コーナー脱出時には明瞭な後輪駆動感があった、と記憶する。ちょっと大げさに申し上げると997型「ポルシェ911」で見られたような、押し出され感があった。
それがRZ550e“Fスポーツ”では、AWDの前後駆動力をモニターで見ていてもそうだけれど、前後の駆動力配分が極端には変わらない。つねに姿勢がフラットに保たれるような駆動力配分がなされている。どっちかというと前輪駆動寄りの安定志向で、それでいてステアバイワイヤとブレーキによるトルクベクタリングも含めた制御によって、じつに気持ちよく曲がる。車重2140kgの重たいアイロンなのに、重量物であることを忘れさせる軽やかさも、あわせ持っている。
このAWDのトルク配分についてもレクサスに質問し、回答を得た。
「前モデルよりターンインでフロント寄りのセッティングを織り込んでおりましたが、ご指摘どおり今回のモデルではリアへの配分移動タイミングを遅らせました。これはプロドライバーとの車両つくり込みにおいて、前輪駆動を生かしたほうがより曲がるという知見が得られたためです。一方、旋回ターンアウトのようにトラクションを必要とする走行においてはやや後輪駆動よりのセッティングにして、トルクアップを果たしたリアモーターを使い切り、鋭い加速を実現しています。旋回全体としては曲がる性能と安定性のバランスをとっています」
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BEVをあえてマニュアルで操る
インタラクティブマニュアルドライブも興味深い取り組みである。モーターの制御プログラムに仮想パワーソースと仮想トランスミッションを組み込み、右が「+」、左が「-」のパドルの操作によって仮想8段トランスミッションの変速を楽しむことができる、という趣向だ。センターコンソールの「M」のスイッチを押すことでこの仮想マニュアルドライブはオンとなり、ギアのアップとアクセル開度に合わせて人工のサウンドが、ぐうううううう、ひゅうわわわわわわ、と切り替わる。シフトアップしないと、あたかもエンジンがレブリミットを迎えたようにビビビビと振動する。ダウン時にはぐうん、ぐうんっとうなる。変速の刹那(せつな)には一時トルクが中断し、場合によってはギクシャクしたりする。歩く。ほえる。まるでラジコンのゴジラ。
実際、Mモードで峠道を走るのはむずかしい。オートマチックのほうが簡単だ。だからオモシロイ。シフトによるトルクの出方の変化をもっと大きくしたほうがより分かりやすいかも……と個人的には思ったけれど、要はプログラム次第。こういうのがソフトウエアディファインドビークル(SDV)で注目される技術のひとつなのだろう。
“Fスポーツ”なのに、乗り心地は記憶のなかの450eよりしなやかである。20インチなのに、路面の凸凹に対する追従性がとってもよい。これは質問せねば。ということで、その回答はこちら。
「“Fスポーツ”の味つけも含め、ばね・アブソーバー減衰力の設定を見直しています。(以前から採用している)周波数依存性アブソーバーを改良し可変幅を拡大しました。低周波域の減衰力を高め「車両の安定性」「タイヤの接地性」を高めました。また高周波域では減衰力を低減し、路面凹凸(入力)をうまくいなす特性としています。ボディー剛性強化も寄与し、低周波の応答性向上、高周波振動の遮断の両立が図れました」
電子制御を使わずに済ませているところがトヨタイズムの真骨頂だと筆者は思う。
ステアバイワイヤもインタラクティブマニュアルドライブも、新しいRZの“Fスポーツ”のみの装備だけれど、さらなる展開を期待したいし、展開されるだろう。なるほど新しい。と思わせるドライビング体験であると同時に、体のどこかで「これは知っている」という安心感みたいなものも感じさせるのは、開発陣の努力のたまものであるにちがいない。
評者としては感嘆ばかり。あえて申し上げると、前後異サイズでリアによりワイドなタイヤを装着するのであれば、リアモーターの出力をさらに上げて後輪駆動寄りにすべきだと思う。アントニオ猪木は「バカになれ」、スティーブ・ジョブズは「ステイフーリッシュ」と言っている。安定を捨てよ。バカになれ。まあでも、新型「LFA」とか6輪ミニバンとか、すでにやってますね。いまのトヨタ=レクサスには元気がある。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=トヨタ自動車)
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テスト車のデータ
レクサスRZ550e“Fスポーツ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1895×1635mm
ホイールベース:2850mm
車重:2140kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:227PS(167kW)
フロントモーター最大トルク:268N・m(27.3kgf・m)
リアモーター最高出力:227PS(167kW)
リアモーター最大トルク:268N・m(27.3kgf・m)
システム最高出力:408PS(300kW)
タイヤ:(前)235/50R20 104V XL/(後)255/45R20 104V XL(ダンロップSPスポーツマックス060)
一充電走行距離:582km(WLTCモード)
交流電力量消費率:144Wh/km
価格:950万円/テスト車=1033万6000円
オプション装備:ボディーカラー<ブラック&ニュートリノグレー>(16万5000円)/デジタルキー(3万3000円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(23万1000円)/パノラマルーフ<IR&UVカット機能付き、Low-Eコート付き、調光機能付き>(40万7000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1042km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(5)/山岳路(3)
テスト距離:382.3km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:4.3km/kWh(車載電費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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