アウディQ6スポーツバックe-tronクワトロ アドバンスト(4WD)
逆境で見えたもの 2026.05.25 試乗記 アウディの電気自動車(BEV)「Q6スポーツバックe-tronクワトロ」で、東京・渋谷と静岡・裾野を往復。雨のなかでエアコンを効かせ、高速道路や峠道を遠慮なく走らせるというハードユースに、今日のBEVはどう応えてくれたのか? 航続距離663kmの最新モデルに感じた“本音”をリポートする。目を奪われるパノラマディスプレイ
インフラの充実を待つべきか。はたまた“力業”で押し切るか……。
その先進性については認知が広まってきたいっぽうで、いまだに充電のわずらわしさで敬遠されているBEV。それを解決するひとつの手段が、力業……すなわち、とにかく大きなバッテリーを積むことだ。ということで、今回試乗したのは電池容量100kWh(ネット容量94.9kWh)を誇り、WLTCモードで663kmの一充電走行距離をうたう「アウディQ6スポーツバックe-tronクワトロ アドバンスト」である。渡辺慎太郎さんがリポートした「Q6 e-tronクワトロ アドバンスト」(参照)の、クーペSUVバージョンだ。
試乗の当日は、ミチミチに詰め込まれた取材スケジュールもあって、webCG編集部のホッタ君が朝5時45分きっかりに筆者の自宅に迎えにきた。幸か不幸か、空からは雨が降り注いでいて、BEVの快適性と電動クワトロ4WDのスタビリティーを確かめるうえで、申し分のないコンディションである。
あぁ、タフな一日になりそうだなぁ。ホッタ君はまた移動の途中ですやすや眠っちゃうんだろうなぁ。そんなことを思いながら後席に荷物を放り込み、運転席に座って“バシュッ”とドアを閉めると、ドアモールの気密性が恐ろしく高いのだろう、車内は一気に静寂を得た。これなら本当に、ホッタ君も快眠できそうだ。
辺りを見まわして探し当てた、センターコンソールの端っこにあるスタートボタンを押して(右ハンドルだと死角になるのだ)、パワーユニットを起動する。寝起きの遅いBEVでは、つい二度押ししてパワーオフしてしまったりするのだが、Q6 e-tronはサクッと目を覚ましてくれる。
メーターナセルから中央パネルまで一体化した「MMIパノラマディスプレイ」は、大画面だけれどアウトラインがスタイリッシュだ。大きさだけを強調した弁当箱みたいなタッチパネルよりもアンダーステートメントで、後付け感がなくてステキだなぁと、朝から感心させられる。また、運転席側からだとフィルタリングされているけれど、助手席側にも10.9インチのディスプレイがある。もちろん動画視聴なども可能で、ちょっと体をずらして見たら、これがかなり鮮明。存在感でも仕立てでも機能でも、インストゥルメントパネルを横断する液晶ディスプレイのインパクトは圧巻だった。
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後輪が主体のフルタイム四駆のありがたさ
いい加減出発しよう。ルートは筆者の自宅となる横浜市から、16号バイパスを経て東名自動車道で御殿場インターまで。撮影を兼ねて裾野方面まで赴き、富士スピードウェイでさらに別件の仕事(その1、その2)を終えて帰路につくというハードワークだ。そんな旅路のささやかな癒やしとなったのが「ARヘッドアップディスプレイ」で、「ドローン」と呼ばれる空飛ぶ矢印が、ふわりと視界に現れては行き先を示してくれるのが楽しい。
2モーター式のクワトロ4WDは、アクセル開度の小さい領域だと後輪駆動が主となる。後輪駆動、あるいは後輪が主体となる4WDというのは、アウディを含めフォルクスワーゲン グループのBEVではメジャーな駆動方式であり、加速時に負荷のかかる後輪を駆動させることで、少しでもトラクションロスを減らし、電費を稼ぐのがその狙いだ。対して、同じアウディでもエンジン車のクワトロでは、低負荷走行時にはリアデフ前に置いたデカップリングクラッチを切り離し、前輪のみを駆動したりする。その差は意識しなければわからないほどだけれど、やっぱり筆者は、後輪に駆動がかかっているほうが好きだ。大きなボディーでも挙動が落ち着くし、そのぶん足まわりもしなやかにできる。「A4」以上の上級車種でもオンデマンド式4WDが広まって久しいが、常用域だとかつての“いいもの感”が味わいにくくなってしまった……。
Q6 e-tronに話を戻そう。走りの基盤となるのは、背の低い「A6 e-tron」、はたまたポルシェの「マカン」などと共通の「PPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)」だ。同じスポーツバック、同じ電池容量100kWhのe-tronクワトロ同士で比較しても、Q6の航続距離がA6のそれ(736km)と比べて短いのは、65kgの重量差と、空気抵抗の大きさの違いだろう。Cd値はA6スポーツバックの0.21に対して、Q6スポーツバックは0.26だ。
また、この試乗車はいわゆる2025年モデルだったので、最高出力は387PSと、2026年モデルの462PSに比べて低かった。とはいえ387PSといえばかなりの馬力であるし、システム最大トルクは580N・m(59.1kgf・m)もあるわけで、常用域での速さに不満はない。あまつさえ、そのトルクは4WDで着実に路面へと伝えられるから、レスポンスだって素晴らしい。
むしろQ6スポーツバックe-tronクワトロで気になったのは、身のこなしの悪さだった。
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これぞアウディe-tronの走り!
このQ6スポーツバックe-tronクワトロ、極低速で走らせている限りはまだなんとかなるのだが、80km/h程度で流れるバイバスでさえ、路面のアンジュレーションによっては進路がふらつく。またバネ下で20インチタイヤの反発をわずかに抑えきれず、常に細かい修正舵が必要になる。アウディのe-tronシリーズの走りって、こんなだったかしら?
それでも取材の途中まではガマンして走ったのだが、どうにもおかしい。確かにQ6は背の高いSUVだが、フロントにダブルジョイント式のダブルウイッシュボーン、リアに5リンク式のマルチリンクアームを備える足まわりと4WDの組み合わせが、これほど“収まらない”はずがない。ましてや、試乗車にはオプションのエアサスペンションが装着されているのだ。
シンプルに考えれば、疑わしいのはタイヤの空気圧だろう。ということでいろいろ探したのだが、自慢のMMIのどこを探しても内圧表示は見当たらない。仕方がないので、自前のエアゲージを持ち出して圧を測ったところ、なんと3.1barも空気が入っていた。試乗車のタイヤサイズは前が255/50R20、後ろが285/45R20で、通常の指定内圧は前後ともに2.6barでしかない。
これを好意的に考えると、おそらく試乗車は最大積載時の指定内圧である、前:2.8bar、後ろ:3.0barの空気がタイヤに充塡(じゅうてん)されていたと考えられる。とはいえ雨も降っていたし、最大で0.3barも内圧が上がるほど、激しい走りはしてないのだけれど。単純に、空気を入れ過ぎちゃったんでしょう。
というわけで適正値に合わせると、これまでがうそのようにアウディらしい乗り味を取り戻した。路面からの入力はほとんどがバネ下で吸収され、カーブではロールがピタリと決まる。タイヤのなかで“ポーン”と響く空洞共鳴音もみごとに収まり、快適性は明らかに向上した。全幅1940mmの巨体が、泳ぐように快適に走る。
これこそがアウディのe-tronである。そしてBEVは、タイヤに対する依存度が非常に高いことをあらためて思い知らされた。
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心のよりどころはやっぱりインフラ
次いで、BEVで気になる航続距離および充電事情だが、webCGが車両を借り受けた際のSOC(電池残量)は91%で、液晶に表示される航続可能距離は495km。筆者が車両を受け取ったときはSOCが73%で、航続可能距離が390kmだった。で、借り受けからこってり222.9km走らせた後のSOCは27%で、航続可能距離は91kmとなっていた。大事をとって足柄サービスエリアで急速充電。27.6kWhをチャージし、SOCを59%、航続可能距離を240kmまで回復させて帰路についた。この“大事をとって”というのが、やっぱりBEVの面倒なところだ。
自宅で筆者がクルマを降りたときのSOCは37%で、航続可能距離は158km。これだけあれば恵比寿の編集部に戻るのも、翌日の車両返却も問題ないだろう。それでも返却にあたってホッタ君は、アライアンス関係にある某ポルシェセンターで最後の充電を実施してみたそうで、本家充電器の充電量は30分で53.248kWhと、さすがの飲ませっぷりだったという。今回の取材で走った距離は342.1km、通算での平均電費は4.5km/kWhだった。
一日の走行距離が300km超というのは、一般的には長い部類に入るのだろうが、小旅行ならカバーしたい数値でもある。そして、カタログ上は663kmの航続距離をうたうQ6スポーツバックe-tronクワトロでも、実際にこの距離を走ろうと思えば、安心のためにも1回は高出力の急速充電を挟みたくなる……。というのが、今回の試乗での偽らざる印象だ。
結果的に、空気がパンパンの“燃費仕様”のタイヤを履いていた最新BEVでさえ、このありさまなのだ。山坂道を挟んだドライブなどでは、カタログ上の航続距離はまだまだうのみにはできない。とはいえ、100kWh仕様のQ6 e-tronなら、1回の休憩を挟めば300kmは十分走れることはわかった。2回休めば、500kmや600kmの長距離移動も、余裕をもってこなせるだろう。力業で800Vの駆動システムを投入し、バッテリー容量も増やしたアウディの最新BEVだけれど、安心材料の決め手はやはりインフラだった。
最後にお値段だが、1037万円(2026年モデルは1049万円)という車両本体価格は、現在の原材料費や為替を考えれば安いと思う。悩ましいのは、走りの味を決めるエアサスやダンパー、快適性を左右するLEDヘッドランプ、シート/ステアリングヒーター、そして楽しいヘッドアップディスプレイといった装備が軒並み有償で、これらを付けると、オプション価格が小型車1台ぶんくらいに膨れ上がること。それでも先進性こそがアウディの魅力であるからして、これらはやっぱり着けたいところである。
(文=山田弘樹/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=アウディ ジャパン)
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テスト車のデータ
アウディQ6スポーツバックe-tronクワトロ アドバンスト
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4770×1940×1670mm
ホイールベース:2895mm
車重:2450kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流誘導電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:--PS(--kW)
フロントモーター最大トルク:275N・m(28.0kgf・m)
リアモーター最高出力:--PS(--kW)
リアモーター最大トルク:580N・m(59.1kgf・m)
システム最高出力:387PS(285kW)
タイヤ:(前)255/50R20 109W XL/(後)285/45R20 112W XL(ブリヂストン・トランザT005)
一充電走行距離:663km(WLTCモード)
交流電力量消費率:163Wh/km(WLTCモード)
価格:1037万円/テスト車=1270万円
オプション装備:ボディーカラー<デイトナグレーパールエフェクト>(9万円)/ファンクションパッケージ<プライバシーガラス、ロールアップサンシェード[リアサイド]、フルペイントフィニッシュ>(12万円)/S lineパッケージ<S lineエクステリア、Sスポーツサスペンション、e-tronスポーツサウンド、アルミホイール 5アームストラクチャー グラファイトグレーポリッシュト フロント:8.5J×20 255/50R20タイヤ/リア:10J×20 285/45R20タイヤ、マトリクスLEDヘッドライト、ダイナミックターンインジケーター、デジタルライトシグネチャー、シートヒーター[フロント/リア]、ステアリングヒーター、スポーツシート[フロント]、ステアリングホイール 3スポーク レザー マルチファンクション パドルシフト フラットトップ&ボトム、ステンレスペダルカバー、ヘッドライニング ブラック、リモートエアコンディショナー プラス>(56万円)/アルミホイール10スポークデザイントラペゾイドデザイン ブラックメタリック ポリッシュト フロント:8.5J×20 255/50R20タイヤ/リア:10J×20 285/45R20タイヤ<Audi Sport>(13万円)/ラグジュアリーパッケージ<アダプティブエアサスペンション/e-tronスポーツサウンド、デジタルOLEDリアライト、シートベンチレーション[フロント]、電動チルト/テレスコピックコラム>(64万円)/ダークAudi rings&ブラックスタイリングパッケージ(Audi exclusive)<ダークAudi rings、ブラックスタイリングパッケージ、エクステリアミラーハウジンググロスブラック>(16万円)/テクノロジーパッケージ<パッセンジャーディスプレイ、MMIエクスペリエンスプロ、Bang&Olufsen 3Dプレミアムサウンドシステム[16スピーカー+フロントヘッドレストスピーカー]>(63万円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:695km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:342.1km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:4.5km/kWh(約222Wh/km、車載電費計計測値)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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