DS N°8エトワールAWD(4WD)
孤高の高級BEV 2026.05.28 試乗記 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車(BEV)であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。オシャレすぎるほどオシャレ
4年前、DSのフラッグシップセダン「DS 9」が発売された。それはそれはオシャレなクルマで、オシャレすぎて大多数の人類には理解不能だったらしく(私もです)、日本ではほとんど売れなかった。
シトロエンから独立したDSブランドのラインナップは、どれもこれもそんな感じで、超マニアックかつ超レアな、孤高の存在ばかりである。なかでもDS 9のマニアックぶりはハンパなかったけれど、その後を継ぐDSの新たなフラッグシップ「DS N°8」は、その上をいっている。
まず、パワーユニットは電気のみ(今のところ)。その時点で、本邦ではかなり孤高の存在になる。フランス製の大型高級BEVをあえて買おうという人は、決して多くはないだろうから。
ルックスはオシャレすぎるほどオシャレである。フォルムは流麗なるクーペルックのSUV。フロントマスクには口ひげが光で浮かび上がる。いや、これは口ひげじゃなく口そのものか? つまりヒゲクジラの口か? 私は長年口ひげを生やしているが、迷う。
前後にはDSのアイコンである左右の牙がズドンと貫通。これももちろん光で浮かび上がる。形状としては「レクサスLC」に近く、「レクサスの意匠が、フランスの大統領専用車(です!)に後追いされる日が来たか」と、日本人として誇らしくなる。
試乗車は、ルーフとボンネットがブラックに塗られていた。オプション装備(プラス6万円)だが、中高年カーマニア的には、こういうのは典型的な走り屋の手法。このクルマのキャラクターにはまるで合っていない(ように思える)。難解である。
全体としては、オシャレであることはだれでもわかるけど、前衛なのかキラキラ好きなのか、それともひたすらテンコ盛りなのか、判断が難しい。たぶん全部なのでしょう。
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インテリアも前衛の塊
インテリアもすごい。一番目立つのはアーティスティックな「X」字型ステアリングだ。もはやステアリングというより装飾品という印象である。
天井のパノラミックガラスルーフは、放射状の光線模様で彩られ、後ろ側で左右にビヨーンと分かれている。これまた実にアーティスティック。ニッポンの夏は地獄かも、という懸念も浮かぶが、断熱性や紫外線カット機能は最上級なので心配ないという。夜は天井越しに、エッフェル塔をお手本につくられた東京タワーが眺められるはずだ。
もともとDSブランドはインテリア命みたいなところがあり、車内はまるでジュエリーだったけど、N°8のソレは、前衛感を増量し、キラキラ感はやや抑えめ。最上級のナッパレザーと、ゴールドのアクセントを効かせたアルミのデコレーションは、現世の高級車の概念を超えているが、このブッ飛んだオシャレ世界には、レザーの栗毛色はちょっと古風すぎるようにも見える。また、樹脂部分の質感も、どことなくバランスを欠いている。もうちょっと煮詰めるべきだったんじゃないか、と思いました。
シートがまた超絶オシャレ。形状からして彫刻作品を思わせつつ、ネックウオーマー、ヒーター、ベンチレーション、マッサージ機能をすべて備え(「アブソリュートコンフォートパッケージ」装着車の場合:オプションで40万円)、ルイ14世気分が味わえる。
というわけで、そこらのBEVとはまったく違うオシャレ感に酔いつつ、運転席に座る。ファストバックセダン風のフォルムだが、視点の高さは間違いなくSUV。乗降性も抜群である。
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乗れば乗るほどしなやかになる?
DS N°8の走りの特色としては、「最大級のバッテリーを積んだ長航続距離のBEV」ということになる。バッテリー容量97.2kWh、WLTCモード航続距離750km 。これは世界トップクラスである。「メルセデス・ベンツEQS450+」には若干負けるが、「テスラ・モデル3ロングレンジ」を上回っている。まぁこのクラスのBEVは、日々航続距離の更新合戦だが、DS N°8は間違いなく優秀。Cd値0.24という、スーパーな空力ボディーの貢献大であるらしい。
パワートレインは、デュアル電動モーターによる4WDで、最高出力350PS。0-100km/h加速5.4秒というスペックは「超バカッ速」まではいかないが、このクルマに求めるのはそっちではないので問題ない。それに実際走らせると、加速は十分すぎるほどすばらしい。そしてとても静かである。あまりにも静かすぎて、タイヤの転がり音や雨音(試乗当日は雨でした)がやたら大きく聞こえたが、仕方あるまい。
ちなみに発進前、バッテリー充電率99%の状態で、航続距離は575kmと表示された。実走で500kmはいけそうだ。
シトロエンから分離した高級ブランド・DSだけに、乗り心地は大きなウリ。DS N°8は、DS 9でも採用されていたアクティブスキャンサスペンションで武装している。フロントガラス上部のカメラで前方の路面状況を解析し、段差やへこみを検知すると、リアルタイムで4輪のダンパーの減衰力を変化させるシステムである。DS 9では、特に30km/h以下の低速域で、超絶フワッとソフトでフラットな乗り心地を提供してくれた。DS N°8はどうか。
あれ、全域であんまりソフトじゃないな。乗り心地は十分良好なのですが、パーンと張りのある足まわりからは、フランス車らしさは感じられない。
技術陣によると、ステランティスの「STLAミディアム」プラットフォームがあまりにも剛性が高く、車体がほとんどしならないことや、BEV化で車両重量が増えたことなどが原因で、それなりの距離を走り込まないと乗り味のしなやかさを感じづらい可能性があるという。なるほど。この航続距離を生かして日本中を走り回れば、徐々にDSらしい陶酔の乗り味に仕上がってくるということだろう。
価格は1005万円(CEV補助金:55万2000円)。このクルマ、人と違う高級BEVを求める超マニアック層に、きっと響くはずである。
(文=清水草一/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
DS N°8エトワールAWD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4820×1900×1580mm
ホイールベース:2900mm
車重:2290kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:281PS(207kW)/7500rpm
フロントモーター最大トルク:343N・m(35.0kgf・m)/250-5300rpm
リアモーター最高出力:113PS(83kW)/1万4000rpm
リアモーター最大トルク:166N・m(16.9kgf・m)/1000-4375rpm
システム最高出力:350PS
システム最大トルク:509N・m
タイヤ:(前)255/40R21 102W XL/(後)255/40R21 102W XL(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック6)
一充電走行距離:750km(WLTCモード)
交流電力量消費率:14.2kWh/100km(WLTPモード、欧州仕様参考値)
価格:1005万円/テスト車=1083万円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルパール>(12万円)/アブソリュートコンフォートパッケージ<マルチポイントランバーサポート[フロント]+シートベンチレーション[フロント&リア]+FOCAL HiFiスピーカー+ステアリングホイールヒーター+フロントウインドシールドヒーター>(40万円)/21インチ鍛造アロイホイール+キャップ+255/40R21タイヤ(20万円)/ブラックボンネット(6万円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:1723km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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