ヒョンデ・ネッソ ラウンジ+(FWD)
疾風に勁草を知る 2026.06.27 試乗記 ヒョンデの水素燃料電池車(FCEV)「ネッソ」がフルモデルチェンジ。……といっても多くの方にはなじみがないかもしれないが、デザインが一気にモダンになったほか、満タンからの走行可能距離が25%近くも拡大するなど長足の進歩を果たしている。300km余りをドライブした。FCEVへの逆風
これまでの11月から春5月開催に変更されたWRCラリー・ジャパンに行ってきた。愛知と岐阜を舞台に行われるだけに主役はもちろんトヨタだが、それに対抗できる唯一のファクトリーチームがヒョンデである。ちなみにWRCでは使用タイヤもハンコックのワンメイク、さらにジェネシスブランドではWECにも参戦しているのに、興味がない人にはまったくなじみがないのがヒョンデの現状だろう。今やトヨタ、フォルクスワーゲンに次ぐ世界第3位の自動車メーカーでありながら、2022年に再参入した日本市場では正直言って依然影が薄いヒョンデだが、予定どおりに新型のネッソを2026年4月初めに発売した。ネッソはヒョンデのFCEVで、新型は2025年のジャパンモビリティショーでお披露目された2代目である。
電気自動車(BEV)とFCEVに絞って再参入してきたヒョンデながら、商品としてのFCEVには逆風が吹きつけている。国内の水素ステーションの数は増えるどころか、最近では逆に減っているというし、しかも各社の水素ステーションでの燃料価格は以前の1000円/kg前後から最近では2000円/kgを超えるところもあるほど値上がりしている。何より今年度から国のCEV補助金が一気に100万円減額され(いっぽうでBEVは増額されたがブランドや車種によって大きな差がある)約150万円になった。一時は「水素立国」などと打ち出したものだが、あのころの熱気はどこへいってしまったのかと不思議に思う。
近未来的デザインに変身
ころころ変わる風向きを気にする様子もなく、いまだに台数が伸びない日本市場にも新型ネッソを投入してきたヒョンデの狙いは那辺(なへん)にあるのか? と素直に疑問に思わないでもない。世界第3位メーカーの意地か、はたまた先入観のない“韓流”大好きの若い世代への着実な浸透をもくろんでいるのか。いずれにしても自力で続けることが大事という本気がうかがえるのである。
新型ネッソはデザインが一新された。2790mmのホイールベースは先代モデルと同じだが(全長は80mm伸びた)、アンドロイドのような無機質というか硬質な面構成はまったく異なる。フロントのデイタイムランニングライトやテールランプなどには「田」の字型のモチーフが反復されているが、これはもちろん漢字ではなく、「HTWO(=H2。ヒョンデの水素事業ブランド)」を象徴するものだという。
シャープでスクエアな外観に対して、インテリアはモダンリビングそのものだ。試乗車は「ボヤージ」「ラウンジ」「ラウンジ+」という3グレードが設定されるなかの最上級グレードのラウンジ+だが、その名のとおり、明るいアイボリー(ブラックの設定もあり)などの2トーンレザー内装が特徴的で、いかにも居心地がよさそうな柔らかい雰囲気である。ドライバーズシートにもレッグレスト(停止時のみ作動)が備わるほどの徹底ぶりである。
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ないものはない充実装備
助手席側ダッシュにはあんこみっちりのクッションのようなパッドが貼られ、ルーミーでソフトな室内を演出するいっぽう、装備類はデジタル系も含めて完備といっていい。従来型ではセンターコンソールに設けられていたボタン式ATセレクターは、BEVの「アイオニック5」同様ステアリングコラム右から生えるロータリーレバー式に変更され、空いたスペースにはワイヤレスチャージャーを2基装備(ラウンジグレード以上)、湾曲したディスプレイにヘッドアップディスプレイは全車標準、このラウンジ+にはデジタルのインナーミラーとサイドミラー、ビルトインのドライブレコーダーも備わる。
水素タンクは後部フロア下に3本搭載されているというが、リクライニングも可能なリアシートの座り心地は快適で足元も広く、EVにありがちなフロアの高さは感じない。ラゲッジスペースのフロアはちょっと高めだが、容量は標準状態で510リッター(後席を畳んだ状態では1630リッター)と十分だ。室内にはFCEVゆえのデメリットなどは見当たらず、むしろ使いやすさを細部まで考慮してあることがうかがえる。
ちなみに右側リアに充電ポートも備わるのかと思ったら、実はV2Lの給電ポートだった。アダプター不要で外部への給電が可能という。
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実用SUVとして不足なし
フロントにモーターを搭載するFWDの新型ネッソの注目は1014kmという一充填走行距離だ(ボヤージグレードの場合。このラウンジ+では970km)。WLTCモードでの自社測定値ではあるが、従来型は820kmだったはずだから大幅な向上だ。そのために新型ネッソの水素タンクは計162リッター(6.69kg)と以前より大容量化されている。実際はこの7掛け程度になるはずだが(試乗での実際の車載計データは96.1km/kgだった)、それでもモーターで走るEVとしては心配する必要がない航続距離である。もちろん、当てになる水素ステーションが行動範囲にあるという条件付きではある。
モーターの最高出力は204PS、最大トルクは350N・mで、163PSだった従来型よりパワーアップしているものの、ボディーがやや大きくなって車重が増加しているせいか、パワフルさを押し出したキャラクターではない。それよりも快適に静かにスムーズに走ることを重視しているようで、実際にその面では不満は見当たらない。大きな段差を乗り越えた際など入力が大きくなるとはっきりと衝撃が伝わり、ステアリングもいささか頼りないフィールながら、普通の路面ではまずまずフラットで鷹揚な乗り心地を見せるから、実用車としての出来栄えは上々といっていいと思う。
だが実用とするにはやはり価格(ラウンジ+は835万円)と水素ステーションの整備具合がネックである。充実した装備を考えると決して高いとはいえないし、満タンまでわずか5分程度という水素充填のメリットはあるものの、いつでも便利に使えるステーションがなければ始まらない。一般ユーザーに勧められない理由は結局そこに尽きるのである。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=ヒョンデ モビリティ ジャパン)
テスト車のデータ
ヒョンデ・ネッソ ラウンジ+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4750×1865×1690mm
ホイールベース:2790mm
車重:1970kg
駆動方式:FWD
モーター:永久磁石型同期モーター
最高出力:204PS(150kW)/4200-5000rpm
最大トルク:350N・m(40.3kgf・m)/0-4000rpm
タイヤ:(前)245/45R19 98W/(後)245/45R19 98W(ネクセン・エヌフィラ スポーツ)
燃料消費率:145km/kg(WLTCモード、自社測定値)
一充填走行距離:970km(燃料消費率を基にした参考値)
価格:835万円/テスト車=835万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:1587km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:288.3km
使用燃料:--kg(圧縮水素)
参考燃費:96.1km/kg(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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