ヒョンデ・ネッソ(FWD)
待ってろミライ 2022.03.04 試乗記 韓国ヒョンデがグローバル展開する、燃料電池車(FCEV)「NEXO(ネッソ)」が上陸。日本市場で先行するトヨタの「MIRAI(ミライ)」とは、量産型のFCEVとしていずれも第2世代にあたるガチのライバルであり、水素社会を目指す盟友でもある。実際に公道で試乗し、その走りを確かめた。ZEVだけという大胆な戦略
正規ディーラーネットワークを持たず、販売はオンラインのみ。ラインナップもZEV(ゼロエミッションヴィークル)だけと、大胆な戦略で日本再上陸を果たした韓国のHyundai(ヒョンデ)。
彼らが販売するのは、EVの「IONIQ(アイオニック)5」とFCEVのネッソの2モデルで、2022年5月に注文受け付けを開始し、2022年7月にはデリバリーがスタートする。
このうち今回紹介するネッソは、ヒョンデとしては2代目になる量産型のFCEVだ。ヒョンデは2025年までにEVとFCEVのシェアで世界トップ3に入ることを目指す「2025年戦略」を掲げており、このネッソはアイオニック5とともに重要な役割を担っている。
実際、ネッソは2020年に6600台が販売され、グローバルなFCEV市場で69%のシェアを獲得している。2021年はトヨタの「ミライ」がフルモデルチェンジし、ネッソとミライの2強が熾烈(しれつ)なシェア争いを繰り広げることに。そのネッソが、ミライのホームグラウンドである日本市場に満を持して進出してきたわけだから、これはただ事ではない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
フル充填からの航続距離は820km
SUVスタイルのヒョンデ・ネッソは、全長×全幅×全高=4670×1860×1640mmのミッドサイズのFCEV。車両のフロントに、水素と大気中の酸素から電気を発生させる燃料電池スタックを搭載。一方、リアアクスルの前後に水素タンク3本とリチウムイオンバッテリーを配置している。
水素タンクの総容量は156.6リッターで、ここに70MPaの圧縮水素を蓄えることが可能。発電用の燃料電池スタックは最高出力129PS(95kW)を発生し、最高出力163PS(120kW)、最大トルク395N・mの電気モーターが前輪を駆動する。
メーカーが公表する一充填走行可能距離は820km。ミライのスペックはタンク容量が141リッター、モーターの最高出力が182PS(134kW)、最大トルクが300N・m、航続距離が750〜850Kmだから、ほぼ互角の性能ということができる。
日本での展開はワングレードで車両本体価格は776万8300円だが、令和3年度クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)が210万5000円見込まれるので、実質566万3300円で手に入れることが可能だ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
クリーンだが印象的なデザイン
取材の当日は、ネッソとアイオニック5の2台を試乗することができた。かなり尖(とが)ったデザインのアイオニック5とは対照的に、リバーストーン、すなわち川の流れにより丸みを帯びた石をイメージしたというネッソのエクステリアは、クリーンで落ち着いた印象だ。
一方、シャープなデザインのヘッドランプやフロントを横切るLEDポジショニングランプ、宙に浮かぶようなルーフのデザイン、自動格納式のドアハンドルなど、ネッソを特徴づけるさまざまなアイテムがちりばめられており、他のクルマに紛れることのない個性をまとっているのも事実である。
コックピットは、10.25インチの液晶メーターパネルと、12.3インチのインフォテインメント用ディスプレイによりデジタル化された今風のデザインだが、高い位置に浮かぶ“ブリッジタイプ”のセンターコンソールが独特の雰囲気を醸し出している。その表面にはインフォテインメントやエアコン、さらシフトなどを操作するスイッチがたくさん並び、タッチパネルよりも物理スイッチを好む私でもやや煩雑に思えるほどだ。見た目も高級感に乏しく、もう少しすっきりとしたデザインだったらよかったのに……。
後席や荷室は、十分なスペースが確保されている。後席はヘッドルーム、ニールームとも余裕があり、ゆったりと足が組めるほど。また、荷室もボディーサイズから期待するだけの広さがあり、水素タンクを3本積むにもかかわらず、それがキャビンや荷室を圧迫しないのがうれしいところだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
安定感ある気持ちのいい走り
運転席に戻り、ドアを閉めるとカチッとした印象。10年以上前に乗った“ヒュンダイ”はこんなにしっかりしてなかったはずだ。早速クルマを発進させると、見た目から想像する以上に軽々と動き始める。1870kgの車両重量に対して、最大トルク395N・mを発生する電気モーターは余裕があり、このクルマをストレスなく加速させるのはもちろんのこと、素早くスピードを上げることもお手の物だ。
FCスタックとリチウムイオンバッテリーによるハイブリッドなパワーソースのおかげで、アクセルペダルの動きに対する反応も良好。パワートレインは加速時でも静粛性は高いが、そのぶんスピードが上がるとロードノイズが気になることも。
ネッソの走りも期待以上だった。SUVのデザインを採用するものの、走行時は安定感があり、ハンドリングも軽快である。目地段差を越えたときのショックを伝えがちだが、高速道路では直進安定性にも優れ、高いボディー剛性やフラットな挙動とあいまって、快適なクルージングが楽しめる。かつてのヒュンダイはこのあたりの仕上がりが物足りなかったように記憶しているのが、今回の試乗でその印象はすっかり上書きされた。
アイオニック5同様、グローバルな自動車メーカーがしっかりつくり込んだモデルであることが伝わってくるネッソ。斬新な販売戦略とともに、日本での成否を見守りたい一台である。
(文=生方 聡/写真=荒川正幸/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ヒョンデ・ネッソ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4670×1860×1640mm
ホイールベース:2790mm
車重:1870kg
駆動方式:FWD
モーター:永久磁石型同期モーター
最高出力:163PS(120kW)
最大トルク:395N・m(40.3kgf・m)
タイヤ:(前)245/45R19 98W/(後)245/45R19 98W(ハンコック・ヴェンタスS1 evo2 SUV)
一充填基準走行可能距離:820km(WLTCモード、自社測定値)
価格:776万8300円/テスト車=786万7300円
オプション装備:ボディーカラー<チタニウムグレーマット>(9万9000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:321km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:--km
使用燃料:--kg(圧縮水素)
参考燃費:--km/kg

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。