ポルシェ911 GT3 S/C(RR/6MT)
魂の叫びが聞こえてくる 2026.07.07 試乗記 スポーツカーの水準器「ポルシェ911」に、新たなバリエーションの「GT3 S/C」が登場。サーキット直系の走りとオープンエアの爽快感は、私たちにどんな体験をもたらしてくれるのか? ポルシェのおひざ元である、ドイツのワインディングロードで確かめた。なぜ「カブリオレ」ではないのか?
ふと思った。GT3がベースなのに、なぜわざわざ「S/C(スポーツ・カブリオレ)」というネーミングにしたのか。シンプルにGT3カブリオレじゃだめなのか。ドイツで行われた国際試乗会の場でGTモデルライン(911)のプロジェクトマネジャーであるヨルク・ユンガー氏に尋ねてみた。
「それはですね、『S/T(スポーツ・ツーリング)』の軽量コンポーネントを活用したからです。それで表記も、S/Tと同じようにS/Cにしています。それが背景にある考えです」
単純にGT3をカブリオレに仕立てたモデルではないという。GT3として初めて自動開閉式のコンバーチブルルーフを備えながらも、車両重量を1.5t以内に収めるためにS/Tのコンポーネントを流用している。そのこともあって韻を踏むような車名を選んだということのようだ。
ちなみにS/Tとは、2023年に911のデビュー60周年を記念して世界限定1963台が販売されたモデルのこと(参照)。初代911、ナローの時代のレース仕様「911 S(社内呼称911 ST)」の思想を現代によみがえらせたもので、「GT3 RS」をベースに軽量設計でドライビングプレジャーを追求した仕様となっている。RSがベースであることが、S/Tが特別限定車であるゆえんだ。
一方で、S/CはあくまでGT3がベースであり、限定車ではなくカタログモデルであることも大きなポイント。気がつけば、GT3をはじめ、「GT3ツーリングパッケージ」とGT3 RSに続く、GT3ファミリー第4のモデルの登場というわけだ。いつものことながらポルシェの巧みな派生モデル戦略には感心する。
至る所がカーボンファイバー
試乗会はシュトゥットガルトにあるポルシェ本社から約90km南下した山脈地帯、シュウェービッシェ・アルプで行われた。そのほとんどが森林に覆われており、ハイキングやサイクリングに格好の地としても知られる。ポルシェのスポーツカーの試乗会といえばサーキットがつきものだが、自然の中でオープンエアを楽しんでほしいという意図から企画されたようだ。
当日の朝、ホテルの前には7台のS/Cがルーフをオープンにした状態で並べられていた。カラフルなボディーカラーに真っ赤なインテリアを組み合わせたものなど、GT3だけれどもカジュアルな雰囲気をまとっている。
あてがわれたのはPTS(特注色)の「914オリンパスブルー」に彩られたモデルだった。車両に近づくとフロントホイールアーチの後方に刻まれたエアダクトがGT3であることを思わせる。ドアハンドルに手を伸ばすと、トラディショナルなプルハンドル形状であることに気づいた。いまベースのGT3は、「カレラ」などと同じく電動のポップアップ式を採用している。空力やデザインのためというが、使い勝手はやはりこちらの方がいいと思う。理由を尋ねると、ドアがカーボン製だから、というなるほどな答えだった。それゆえS/TとGT3 RSとこのS/Cには、このプルグリップ式のドアハンドルが使われている。
S/T譲りのカーボン製なのはドアだけでなく、フロントフェンダーやフロントフードも同様。またアンチロールバーやサブフレーム(シアープレート)もカーボン製となっている。
軽さと楽しさの追求で至った“MT一択”という設定
インテリアには真っ赤なレザーのバケットシートが鎮座している。フルバケットに見えて可倒式なので使い勝手もいい。ヘッドレストに目をやると、おなじみのポルシェのクレストから馬がいなくなって、縁取りだけになっている。ホイールのセンターキャップにも同様のデザインが施されている。この車両には、ポルシェのデザインスタジオが内外装をトータルコーディネートした「ストリートスタイルパッケージ」というオプションが装備されており(その価格418万5000円!)、それらはポルシェクレスト アウトラインという新たなデザインエレメントを用いているそうだ。
シートに腰掛けると、ダッシュボードの左端に、いまとなっては懐かしいエンジンを始動するためのノブが配置されている。カレラ系はスタート/ストップボタン式になってしまったけれど、やはり押すのではなくこのひねる動作が雰囲気だ。メーターには5連メーターをモチーフにしたS/C専用の黄色い針を使ったグラフィックが表示されている。GT3にオプション設定されている、「ポルシェデザインGTクロック」付きの「クロノパッケージ」とも合わせてコーディネートされており、これもまた欲しくなってしまうオプションだ。
トランスミッションはマニュアル一択。先のユンガー氏は楽しさ、軽さを考慮しそれ以外の選択肢はなかったと断言していた。シフトノブはオープンポア仕上げのウッド製で、「カレラT」のものよりもダークな色合いのウオールナットを採用。6段の「GTトランスミッション」は、S/TやGT3譲りのもの。節度感のあるシフトフィールが素晴らしい。
クラッチの重さはいたってフツーのもので、GT3だからと構える必要はまったくない。1速に入れて半クラッチにするだけでゆっくりと走り出す。自然吸気4リッター水平対向6気筒エンジン。こうして文字にするだけでも興奮してくるけれど、レーシングカー直系の一級品である。それでも、市街地でシフト操作の手を抜いて、4速1000rpmなんてズボラな運転を受け入れてくれる柔軟さを持ち合わせている。
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刺激的な走りを彩る“軽さ”とエンジンのいななき
走行モードは「ノーマル」「スポーツ」「トラック」の3種類。街なかはノーマルで走る。排気音がおさえられ、オートブリップ機構などはオフになるけれど、サスペンションはスポーツのまま。よく見ると足の硬さはスポーツとトラックの2種類のみの設定のようだ。それでも意外なほど乗り心地がいい。これにはGT3譲りのダブルウイッシュボーン式のフロントサスペンション、S/T譲りの「PCCB(ポルシェセラミックコンポジットブレーキ)」やセンターロック式マグネシウムホイールが効いている。PCCBで20kgの軽量化。マグネシウムホイールは1本約9kgで、試してみたら片腕で持つことができるほどだった。こちらも鍛造アルミニウムホイールと比べて約9.1kgの軽量化を実現している。
市街地を抜けてワインディング区間に入る。ドイツの一般道の制限速度は基本的に100km/hだけれど、運転のうまい人が多く商用バンでも+αのスピードで走っている。けれど人の往来がある市街地では厳格に50km/hや30km/hの速度制限を守る。日本は大いに学ぶべきだと走るたび思う。
スポーツモードに切り替えると、エキゾーストノートが高まり、オートブリップがオンになる。ヒール・アンド・トウなしで、シフトダウンが気持ちよく決まるのでブレーキに集中して走ることができる。もちろんヒール・アンド・トウをしたいなら、オートブリップのみオフにすることもできる。
山脈地帯だけに天候が変わりやすく、途中スコールに見舞われた。ルーフはカレラ系などと同じもので、50km/h以下であれば走行中も約12秒で開閉が可能。自動開閉式のありがたさを痛感する。実は構造材にはマグネシウムが用いられており、GT3のために特別に手を入れずとも軽量な設計になっているという。大雨でも室内には傘をさしているような音の進入もなかった。そして気づいたのは、当たり前のことだがルーフを閉じていると車内に音がこもるため、開いたほうが気持ちがいいということだ。
しばらくして雨がやむと、ふたたびルーフを開け放つ。風の巻き込みは電動のウインドディフレクターを立てればかなり低減できる。アクセルペダルに力を込めると、操作に対してリニアにタコメーターの針が上昇し、4000rpmを過ぎたころから音が変化し、そして9000rpmまで一気に吹け上がる。聞こえてくるのは、まさに“スクリーム”と呼ぶべき魂の叫びだ。
100km/h+αのスピードからタイトコーナーへの進入時にハードブレーキを試みるも、ボディーはもとよりインテリアも、一度たりともミシリと音を立てることはなかった。そして挙動はピッチングなどを感じることもなく、ビッタビタに止まる。
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真の価値は数字では語れない
この自然吸気エンジンを維持するために、ポルシェのエンジニアたちは多大な労力と資金を投じている。最新の排気ガス規制をクリアするために、2つの粒子状物質フィルターと4つの触媒コンバーターを装備する。それらの重量を相殺するために軽量化を積み重ね、トランスミッションの最終減速比を引き下げるなどして、従来モデルと変わらない最高出力510PSと最高許容回転数9000rpmを実現している。
ユンガー氏に、2026年11月に次なる環境規制「ユーロ7」が導入されると聞いているが、このエンジンはそれをクリアできるのか……と話を向けてみると、少し顔が曇った。
「最終決定が先送りにされているため、まだ確実なことはわかりません。2、3年後にどうなるのかを正確に把握することは非常に難しい状況にあります。いずれ導入されることは間違いありませんし、われわれもそれに備えなければなりません。補足するならば、ユーロ7に適合する自然吸気エンジンをつくることは可能です。ただし、いまのエモーショナルな魅力を維持することは難しい。それでも自然吸気を維持することに意味があるのか、それとも全く別のコンセプトを考案すべきなのか、検討する必要があります」
ハイブリッド化したGTSに最高出力で劣っていることで、下克上が起きたと話題になったりもしていたが、GT3の価値はそこではないとS/Cに乗って強く感じた。そして3843万円という車両価格がとてもリーズナブルに思えた。今回は高速道路一切なし、一般道を1日で約270kmひた走るそんな試乗会だったけれど、もっと走っていたいと思った。間違いなく、これまで乗った992型のなかで最高に楽しいモデルだった。
(文=藤野太一/写真=ポルシェ/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ポルシェ911 GT3 S/C
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4570×1852×1279mm
ホイールベース:2457mm
車重:1497kg
駆動方式:RR
エンジン:4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:510PS(375kW)/8500rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/6250rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y XL/(後)315/30ZR21 105Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:13.7リッター/100km(WLTPモード、約7.3km/リッター)
価格:3843万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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藤野 太一
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