アウディQ3 TFSI 110kWアドバンスト(FF/7AT)
渾身のモデルチェンジ 2026.08.08 試乗記 アウディのミドルサイズSUV「Q3」の新型が日本に上陸。デザインやインターフェイスは新しくなっているが、さまざまな事情によってクルマとしての基本コンポーネンツは先代を踏襲しているのが3代目の実情だ。果たしてそれが吉と出るか凶と出るか。FWDのエントリーグレードを試す。真新しい操作系
新しくなったQ3はほかのアウディ同様、電気自動車(BEV)とは別系統のエンジン搭載モデルである。Q3と同等クラスにあたるBEVは「Q4 e-tron」で、内外装デザインや車体サイズはQ3とよく似ているが、実際にはプラットフォームからすべて別物だ。
アウディを含めた欧州メーカーの多くは、近年、もてる開発リソースの大半をBEVに振り向けてきた。なので、エンジン搭載車はフルモデルチェンジといいつつ、プラットフォームやパワートレインなどの基本コンポーネンツは従来改良型にとどまるケースが大半。新型Q3もその例にもれず、プラットフォームはもちろん、ホイールベース値も含めたパッケージレイアウトも先代と変わらない。1.5リッターターボと2リッターターボという2種類のエンジンや7段DCTも、表向きは先代からのキャリーオーバーとなる。
ただし、インターフェイスは一新された。なかでも注目は、従来の2本のコラムレバーをなくしたことだ。かわりに、シフトセレクターとウインカー/ワイパー操作部を一体化したバーが、ステアリングコラムに固定される。シフトとウインカーはそれぞれ先端のスライドスイッチで操作することになるが、その適度なクリック感が心地よい。また、ウインカースイッチには、作動中は固定されて停止すると元位置に戻る……というアナログ感覚が残されており、この種の新機軸ではめずらしく、初見から操作に戸惑わないのには感心した。
さらに、フォルクスワーゲングループの上級ブランドでおなじみのアダプティブクルーズコントロールスイッチの意匠も一新されたが、コラムツリー式という独特の基本形式は継承された。走行中に目視するのがほぼ不可能なツリー式は、慣れないと使いにくいのだが、ブラインドタッチができるくらいになると、一般的なステアリングスイッチより邪魔にならずに使いやすい。
比べてみればお買い得
今回の試乗車は新型Q3でもっとも手ごろな「TFSI 110kWアドバンスト」で、駆動方式はFWD。最新のアウディはパワートレインの格を出力の「kW」で表記するようになり、以前の「35」や「40」以上にわかりづらい気もする。この試乗車の場合は、1.5リッターターボエンジンの出力が110kW=150PSであることを意味する。ひとつ上の「150kW」はQ3ではエンジン出力が150kW=204PSの2リッターターボとなり、日本では4WDのクワトロのみとなる。
そんなQ3 TFSI 110kWアドバンストの本体価格は550万円。ご想像のとおり、先代よりは値上がりしているが、自慢の「2バルブ式電子制御ダンピングコントロール」は全車装備。さらに、今回のように19インチホイール(標準は18インチ)を筆頭に内外装スポーツコスメが満載の「Sラインパッケージ」をトッピングしても、合計価格は595万円だ(この試乗車はほかのオプションも装着して総額659万円)。
600万円近い価格を“安い”と表現するのは心苦しい。しかし、新型Q3 TFSI 110kWと基本コンポーネンツの多くを共用して、車体サイズも近い「フォルクスワーゲン・ティグアンeTSI Rライン」の本体価格が、同じく可変ダンパー付きで601万4000円である。こうして見ると、Q3の買い得感が際立つ。
アウディといえば、「A1」と「Q2」の生産が、この2026年春に終了した。ということは、今後は「A3」とこのQ3がアウディブランドの国内エントリーモデルの役割を担うわけで、今回の戦略的な価格にはそうした背景もあるのだろう。もっとも、この春には「A2 e-tron」を名乗る新型アウディのシルエットが公開されたが、名前どおりの純粋なBEVである。しかも、かつての「A2」と同じく、既存のヒエラルキーとはちょっと外れた位置づけらしく、そのまま従来のA1やQ2のかわりになるクルマではないようだ。
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もはやドライブモードは不要?
今回のQ3のエンジンは2種類あるうちの控えめなタイプで、しかもアウディなのにFWD……ながら、走りはお世辞ぬきに素晴らしい。とくに「コンフォート」モードでのそれは、個人的には絶品と申し上げたいくらいだ。なかでも印象的なのは、先代より明らかに向上した静粛性と新機軸によるフットワークである。
前記のとおり、今回のQ3には新機軸の2バルブ電子制御ダンパーが標準装備される。このダンパーは伸び側と縮み側で独立して減衰制御できるのがキモで、ティグアンや「パサート」などフォルクスワーゲンの新型車でいう「DCC Pro」に相当するものと考えていい。Q3におけるサプライヤーは明らかではないが、それがティグアンやパサートと共通部品ならKYB製ということになる。
今回のQ3にはコンフォートに加えて「バランスト」と「ダイナミック」の都合3種類のシャシーセッティングが用意されるが、どのモードでも守備範囲が飛躍的に広がっているのが、新ダンパー最大の効能といっていい。従来のコンフォートは低速でのアタリが柔らかくなるかわりに、速度が上がるにつれてフワフワとした上下動が増してしまったが、新型Q3は速度を問わずに高いレベルでフラットな姿勢をキープする。逆にダイナミックでは低速でのしなやかさが増し、路面のジョイントなどでの突きあげは明確に緩和されている。
だったら、もはやドライブモードも不要では……というツッコミには筆者も一部同意するが、ステアリング反応はコンフォートよりバランスト、さらにダイナミックと少しずつ敏感になっていくので、市街地、高速、山坂道などの走行シーンや好みに合わせて切り替えると、運転が少し楽になるのも事実である。
Q3はA3とはちがい、FWDでもリアサスペンションはマルチリンク独立式(A3のFWDのそれはトーションビーム)となるので、乗り心地はクワトロよりさらに滑らかな感すらある。いずれにしても、この静粛性とフラットぶりはクラスでも最上位レベルだと思う。
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新鮮味よりも熟成感
動力性能はまさに必要十分だ。アクセルを深く踏みこんだときの力感や高速での伸びでは150kWにゆずるが、約100kg軽い車重とマイルドハイブリッドの効果か、日常レンジでのピックアップは体感的には大差ない。よりローギアードな設定なので、エンジン回転はどうしても高めになってしまうものの、クルマ自体の静粛性が高いので、この点でも150kWクワトロと比較しても、あまり気にならない。
繰り返しになるが、新型Q3に用意されるエンジンは、現状では2種類のガソリンターボのみ。先代にあったディーゼルの選択肢は、少なくとも現時点では、今後とも日本で追加される予定はないそうだ。このあたりは日本におけるアウディのブランド戦略に加えて、Q3に新たに課せられたエントリーモデルという役割とも無関係ではあるまい。そこにはどうしても価格が高くなるディーゼルを回避しつつ、同時にバリエーション数も抑制したいという思惑があるのではないと想像する。
新しいQ3は、運転席まわりのインターフェイスと2バルブ電子制御ダンピングコントロール以外、新味は正直あまりない。そのぶん、乗っていてもカンに障るところがまったくない熟成感がただよっている。また、少なくとも今回のような夏場の試乗なら、クワトロの必要性もまったく感じない……どころか、手応えが一定のステアリングフィールや接地感などはクワトロより好印象なくらいだった。
また、Sラインパッケージは、ビジュアル効果は抜群だし、例のダンピングコントロールの効果もあって19インチでも低偏平タイヤ特有のクセはほとんど感じられなかった。同パッケージを追加するだけなら、合計価格は600万円を切る。ちょいぜいたくなファミリーカーとしては、新型Q3(のとくにFWD)は素直に魅力的と思う。さすがはアウディの1、2を争うベストセラーにして屋台骨。新味はなくとも、間違いなく力作である。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=アウディ ジャパン)
テスト車のデータ
アウディQ3 TFSI 110kWアドバンスト
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4530×1860×1610mm
ホイールベース:2680mm
車重:1620kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/5000-6000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)255/45R19 100V XL/(後)255/45R19 100V XL(ブリヂストン・トランザ6)
燃費:15.6km/リッター(WLTCモード)
価格:550万円/テスト車=659万円
オプション装備:Sラインパッケージ<Sラインエクステリア、10スポークエアロデザインアルミホイール[ブラックポリッシュド 8.5J×19、255/45R19]、スポーツシート[フロント]、インプレッサムクロス/マイクロファイバーシート、ステンレスペダルカバー、アルミニウムドアシルトリム[Sロゴ]、ステンレスローディングエッジプロテクション、ブラックヘッドライニング、インテリアエレメンツ[クロス×アーティフィシャルレザー]、マルチファンクション3スポークレザーステアリングホイール[フラットボトム&トップ、シフトパドル&ヒーター付き]、アルミニウムデコラティブパネル[ダイバージェンスダーク]>(45万円)/レザーシートパッケージ<レザー×アーティフィシャルレザーシート、アンビエントライティングプロ、インテリアエレメンツ[ダイナミカ×アーティフィシャルレザー]>(9万円)/ダークアウディリングス&ブラックスタイリングパッケージ<ブラックエクステリアミラーハウジング、ブラックルーフレール>(19万円)/デジタルマトリクスLEDヘッドライト(28万円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:2981km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:509.3km
使用燃料:39.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.0km/リッター(満タン法)/13.3km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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