第146回:【Movie】実録! ルマンの「フツーの日」に「フツーのクルマ」で走ってみた
2010.06.12 マッキナ あらモーダ!第146回:【Movie】実録! ルマンの「フツーの日」に「フツーのクルマ」で走ってみた
「ルマン」じゃなくて「ル・マン」
今週末は、フランスで第78回ルマン24時間レースが開催される。
「ルマン」というと、いまから25年前の大学時代、先輩のひとことを思い出す。ボクが日本語の「ロマン」を発音する要領で「ルマン、ルマン」と騒いでいたら、「ポルシェ924」乗りであった先輩は、「あ、それは『ル・マン』よ」と矯正してくれた。
それを聞いたボクは、往年のCMで「デリシャスじゃなくて、デリ〜シャスよ」と言っていた評論家・竹村健一氏じゃあるまいし……と軽くあしらっていた。
しかし後日、このフランス・サルト県の地名は、定冠詞と分かれていて「Le Mans」と書くことがわかった。「ル」と「マン」は離れていたことを知り、己を恥じたのだった。
以下の段落もフランス語をご存知の方は読み飛ばしていただいてよい。
定冠詞を伴っているおかげで、「ルマンへ」といった意味のときは、「au Mans」となり、「ルマンの」と言いたい場合は、「du Mans」となる。「ルマン24時間レース」のフランス語表記も「24 heures du Mans」だ。
したがって、フランス人との会話の中で、ルマンは「オウマン」とか「デュマン」になってしまうから、聞き取るのには耳をダンボにしていないといけない。
![]() |
![]() |
ほとんどが公道の「サルト・サーキット」
さて、ルマン24時間レースにおけるコース・通称“サルト・サーキット”は、大部分が公道であることは多くの人が知っているとおりだ。
正確にいうとサルト・サーキットは、公道部分と、それに隣接した「ブガッティ・サーキット」といわれる本物のサーキットを足したものだ。1周は約13.6kmである。
13kmを東京に当てはめると、およそ都心から環状8号線までの直線距離である。その間を丸1日行ったり来たりしていると思えばよい。
しかし考えてみると、24時間レースの日以外のルマンの映像というのは、あまり流布されていない。そこで今回は、ルマンのコースをボクが実際に走ってみた動画をお届けすることにした。
ブガッティ・サーキット部分には一般車は入れないので、動画撮影したのは公道部分だけである。だが逆にいえば、読者の皆さんも、ルマンを訪れるチャンスがあればいつでも走れるコースということだ。
撮影は、ルマン旧市街からアクセスしやすい「テルトル・ルージュ」のコーナーから始めている。
![]() |
![]() |
![]() |
ヨン様ツアーを笑うな
欧州で、レースのコースで日頃走れるところといえば、モナコのモンテカルロもあるが、ルマンの魅力はユノディエールといわれる約6kmにわたる直線であろう。
通りすぎるクルマを見ると「ポルシェ911」や「ダッジ・バイパー」など、「いかにも」なクルマに乗ったオーナーたちが次々とやってくる。きっと、気分はポール・ニューマンやスティーブ・マックイーンである。こうした人たちに、「冬のソナタ」のロケ現場を訪ねるヨン様の追っかけ奥様たちを笑う資格はないだろう。
ただし、ドライバーたちの名誉のために言うと、危ないスピードを出している人はボクが観察する限りいなかった。ついでに言えば、そうした不良ドライバーを制するため、「安全運転の街ルマン。スピードは控えめに」といったお節介な標語も立っていないところが、大人である。
ユノディエールのストレートのあと現れるのは、あの有名なコーナー「ミュルザンヌ」である。ベントレーのモデル名にもなっているからといってビビることはない。実際は、「超」の文字がつくほどのどかな村だ。コーナーを抜けると、次はこれまたベントレーの名前にもなっているアルナージ村へと向かうストレートが続く。
もうひとつ、意外に心躍ることがある。
レース後も残された「PEUGEOT」「Audi Power」などと書かれた看板の下をくぐるときだ。普段公道では超穏健派のボクが、妙にレーシングドライバー気分になるのだから、熱い人にはたまらないだろう。
そこで思いついたのだが、日本でも横断歩道橋にクルマやタイヤの広告を入れたりしたら、それなりのムードが出るのではないか?
広告効果抜群、改修費用や自治体の収入にもなるという一石二鳥、われながら良いアイデアだと思うんですけど。
(文と写真=大矢アキオ/Akio Lorenzo OYA)
【Movie】ルマン24時間レースの舞台「サルト・サーキット」を走る
(撮影と編集=大矢アキオ/Akio Lorenzo OYA)
![]() |

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ 2025.9.4 ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。
-
第925回:やめよう! 「免許持ってないのかよ」ハラスメント 2025.8.28 イタリアでも進んでいるという、若者のクルマ&運転免許離れ。免許を持っていない彼らに対し、私たちはどう接するべきなのか? かの地に住むコラムニストの大矢アキオ氏が、「免許持ってないのかよ」とあざ笑う大人の悪習に物申す。
-
第924回:農園の初代「パンダ」に感じた、フィアットの進むべき道 2025.8.21 イタリア在住の大矢アキオが、シエナのワイナリーで元気に働く初代「フィアット・パンダ4×4」を発見。シンプルな構造とメンテナンスのしやすさから、今もかくしゃくと動き続けるその姿に、“自動車のあるべき姿”を思った。
-
第923回:エルコレ・スパーダ逝去 伝説のデザイナーの足跡を回顧する 2025.8.14 ザガートやI.DE.Aなどを渡り歩き、あまたの名車を輩出したデザイナーのエルコレ・スパーダ氏が逝去した。氏の作品を振り返るとともに、天才がセンスのおもむくままに筆を走らせられ、イタリアの量産車デザインが最後の輝きを放っていた時代に思いをはせた。
-
第922回:増殖したブランド・消えたブランド 2025年「太陽の道」の風景 2025.8.7 勢いの衰えぬ“パンディーナ”に、頭打ちの電気自動車。鮮明となりつつある、中国勢の勝ち組と負け組……。イタリア在住の大矢アキオが、アウトストラーダを往来するクルマを観察。そこから見えてきた、かの地の自動車事情をリポートする。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(FF/7AT)【試乗記】
2025.9.8試乗記「MINIコンバーチブル」に「ジョンクーパーワークス」が登場。4人が乗れる小さなボディーにハイパワーエンジンを搭載。おまけ(ではないが)に屋根まで開く、まさに全部入りの豪華モデルだ。頭上に夏の終わりの空気を感じつつ、その仕上がりを試した。 -
NEW
第318回:種の多様性
2025.9.8カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。 -
NEW
商用車という名の国民車! 「トヨタ・ハイエース」はなぜ大人気なのか?
2025.9.8デイリーコラムメジャーな商用車でありながら、夏のアウトドアや車中泊シーンでも多く見られる「ハイエース」。もはや“社会的インフラ車”ともいえる、同車の商品力の高さとは? 海外での反応も含め、事情に詳しい工藤貴宏がリポートする。 -
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(前編)
2025.9.7ミスター・スバル 辰己英治の目利き「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のなかでも、走りのパフォーマンスを突き詰めたモデルとなるのが「ゴルフR」だ。かつて自身が鍛えた「スバルWRX」と同じく、高出力の4気筒ターボエンジンと4WDを組み合わせたこのマシンを、辰己英治氏はどう見るか? -
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】
2025.9.6試乗記空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。 -
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。