メルセデス・ベンツE350カブリオレ(FR/7AT)【試乗記】
ぜいたくを知るクルマ 2010.05.28 試乗記 メルセデス・ベンツE350カブリオレ(FR/7AT)……961.0万円
メタルトップ全盛の時代に、あえて“幌”で登場したオープン4シーター・メルセデス。走らせているうちに、ソフトトップを選んだワケが見えてきた。
何から何までメルセデス
モータージャーナリストにとって大きな落とし穴が、「なに、メルセデス? 褒めときゃいいだろ」とか思いがちなこと。乗るたびに「さすが!」とうならされるばかりだから仕方ないか。このほど日本で発売された「Eクラス」のカブリオレもそうだ。本体だけで898万円と高価ではあるが、遊びグルマでありながら、まじめなシーンに通用しなくもないから、けっこう真剣に検討する値打ちはある。
今年のデトロイトショーで発表されたこのカブリオレ、顔もテールも現行Eクラスそのものだが、2760mmのホイールベースからもわかるように、プラットフォームそのものは「Cクラス」とほとんど共通。その点では先にデビューしたお姉さん格の「Eクラスクーペ」も同じだ。だから全長も4705mmとセダンやワゴンより短いが、おかげでギュッと引き締まった印象が濃くなった。昔から4シーターのオープンカーを得意とするメルセデスだけに、全体のバランスの取り方も手慣れたものだ。狭そうに見えるリアシートも、フロントを下げすぎなければ普通に座れるし、クローズド状態でも最低限のヘッドルームは確保されている。
走らせてみると、予想通りと言うべきか、何から何までメルセデス。こんなに開口部が大きいのに、がっしり堅固な感触が全身に漂うし、運転操作に対する反応も、例によって余裕たっぷりだ。試しに舗装の荒れたところをオープン状態のまま強行突破しても、どこからもミシリという感触がない。クーペより少し乗り心地が硬く、ワシワシ上下に揺すられることもあるのは、見えない床下などを厳重に補強した副産物かもしれない。とことん剛性を上げれば良いというものではない、ひとつの見本だろう。
せり上がるウインドスクリーン
「E350」のグレード名が示すように、エンジンは3.5リッターのV6で272ps 。すでにCGIやCDIなど次世代を謳歌(おうか)するエンジンが登場してしまった今では新鮮味が乏しいが、これはこれで優等生だし、そもそも6000rpmのリミットまで使い切るチャンスがない。走るシーンの大半は7段ATをDレンジに入れたまま、ボンネットの奥のフ〜ムというつぶやきを聞いているだけ。この余裕感が、さらに高級カブリオレの雰囲気を増幅する。
と言うのも、高度なフットワークを誇りながら、そんなに必死に攻めるスポーツカーではないからだ。戦前からミディアムクラス・メルセデスのカブリオレといえば、週末に家族そろって屋根を開け放ち、しゃれたバスケットに弁当を入れて(紙皿や紙コップじゃなく)、ちょっと郊外の草原までピクニックに行ったりするためのクルマだった。もちろんオープン状態でのリアシートはもろに走行風を食らうから、子供たちを楽しませるには、せいぜい60km/h程度までだが。
それもフロントシートに限れば、やはり新しいだけに、気流の処理も現代の最先端。ウインドスクリーンが大きく寝ているため、ちょっと仰ぎ見るぐらいでは太い窓枠が邪魔でオープンの実感が迫って来ないが、実はそこに新しい技がある。オープン状態でコンソールのスイッチを押すと窓枠の一部が薄いスポイラーとなって持ち上がり、インテリアへの風の巻き込みを効果的に跳ね返すのだ。これを出したり入れたりしてみると、高速道路でも顔に当たるそよ風が少し弱まるのがわかる。それと同時にシュ〜ッという軽い風切り音も出るが、何回も試しているうちに「そういえば、そんなのが付いていたな」みたいになってしまった。つまり基本的に風をうまくやり過ごしているということだ。
クローズドでもスマート
それより新型Eクラスカブリオレで見逃せないのはキャンバストップ(幌)であること。最近は折り畳み式のメタルトップが大流行で、クローズド状態では本当のクーペになるのが魅力ではある。でもオープンカーらしい風情となると、やはりキャンバストップに勝るものはない。これだとどうしてもリアウィンドウが小さくなり、斜め後ろの死角も大きくて不便だが、逆に温かい囲まれ感がうれしかったりする。オープンもいいが、クローズド状態で斜め後ろから眺めると、なんとなく映画のワンシーンみたいではないか。
もちろんキャンバストップ自体は分厚い多層構造で窓ガラスとの密着性も完璧だし、暑さ寒さにも不満はない。スイッチ操作だけで約20秒で開けられる(閉じられる)のは、現代の4シーターとしては標準的なところだ。もちろんメタルトップと異なり、オープン状態でもトランク容量の犠牲は最小限ですむ。
そういうわけで、機械としては例によって満点の新型「Eクラスカブリオレ」だが、それだけにぜいたくな不満もなくはない。あまりにも完成されすぎていて、「自動車ってのはなあ、こういうもんだ」とお説教されているような気もするのだ。たとえばインテリアデザインなど、もう少し肩の力を抜いてくれたら、しゃれた気分も増すと思うのだが。
(文=熊倉重春/写真=郡大二郎)

熊倉 重春
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