ジャガーXJ ポートフォリオ(FR/6AT)【ブリーフテスト】
ジャガーXJ ポートフォリオ(FR/6AT) 2010.05.21 試乗記 ……1320.0万円総合評価……★★★★
フルモデルチェンジを果たし日本に上陸した、新型「ジャガーXJ」。NAの上級グレード「ポートフォリオ」を駆り、その仕上がりをチェックした。
日出ずる国の高級車
40年ほど前に「420系」が「XJ」に変わったときと比較できるであろう大きな変化を見せたジャガーのフラッグシップ。四角いグリルがわずかに最初期のXJ「シリーズI」を感じさせるが、今回のモデルチェンジで従来の「XJ」と断絶した、まったく新しい外皮をまとうに至った。
3m超の長いホイールベースに載せるアルミボディは、全長5.1mの堂々たるもの。「メルセデス・ベンツSクラス」「BMW 7シリーズ」に匹敵する大きさだが、むしろジャーマンサルーンのオルタナティブたる地位を確立した「マセラティ・クアトロポルテ」と比べるべきかもしれない。ニュー「XJ」の、5リッターV8を積んで車両本体価格1000万円からという値付けは、潜在顧客にとってリーズナブルに感じられるはず。
「XJ」の立派な体躯(たいく)は、整ったプロポーションを得ることにも大いに貢献している。2007年のコンセプトモデル「C-XF」は、そのクールなスタイルで世のクルマ好きにため息をつかせたが、市販版たる「XF」は、乗員の居住性に考慮してか、やや天地が厚くなった感がある。ボディサイズに余裕がある「XJ」では実用との折り合いを見せることなく、「C-XF」のエッセンスをみごとにアッパークラスに昇華させた。
今回の「XJ」を前に、「デザイナー、イアン・カラムを起用したジャガー社の大いなる英断」と紳士的に褒めることもできるし、「飽和した先進国市場よりむしろ中国、インドといった新興マーケットに狙いをさだめた派手なパフォーマンス」とひねくれることもできる。いずれにせよハンドルを握った幸運な方は、新型のドライブフィールにこれまでのXJシリーズの名残を探すより、「クルマはカッコ」と看破したサー・ウィリアム・ライオンズの精神に立ち返ったほうがいい。
今回のテスト車「ポートフォリオ」は、標準ホイールベース車の上級グレード。20インチホイール、シートヒーターに加えシートクーラー、各席ごとのエアコン調整、前車追従式のクルーズコントロールなど至れり尽くせり。リーマンショック以降も「ポートフォリオ」と聞いて、株や債権の組み合わせを連想して心乱さないお大臣、否、お大尽向け。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2009年に姿を現したフラッグシップ。先代同様オールアルミのモノコックボディを採用。軽量化・剛性アップへの配慮はもちろんのこと、廃車後のリサイクルに加え、そもそもの製造段階からリサイクル素材を積極的に使用する。ガラスルーフを前提にしたボディ構造も新しい。ボディの外殻を構成するアルミパネルは、リベットと接着剤で取り付けられる。
シャシーは、ホイールベースが3030mmのノーマル、3155mmのロングホイールベース版が用意される。ボディ全長は、前者が5135mm、後者が5260mmと、車軸間の長さの違いがそのまま反映される。1900mmの全幅、1455mmの全高は変わらない。車重は、1850〜1960kg。日本市場に導入されるエンジンは、いずれも直噴化された5リッターV8。自然吸気(385ps、52.5kgm)、ロングホイールベース用のスーパーチャージャー付き(470ps、58.7kgm)、さらにはハイチューンのスーパースポーツ用(510ps、63.6kgm)と、3つの仕様がカタログに載る。組み合わされるトランスミッションは、トルクコンバーター式の6段ATのみ。
(グレード概要)
日本での「XJ」ファミリーは、ベーシックな(といっても革内装)の「ラグジュアリー」(1000.0万円)、レザーのグレードが上がり、シートヒーター付きとなる「プレミアムラグジュアリー」(1150.0万円)、そして20インチを履き、シートクーラー、前後左右を独立してコントロールするエアコンが奢られ、ACC(アダプティブクルーズコントロール)など装備満載の「ポートフォリオ」(1320.0万円)、スーパーチャージャー付きの強心臓「スーパースポーツ」(1655.0万円)からなる。後席重視のロングホイールベース版は、「ポートフォリオ」(1600.0万円)と「スーパースポーツ」(1755.0万円)の2グレード。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
外観のドラスティックな変化に対応してか、ハンドルのセンターパッド、センターコンソールのディスプレイ、メーターパネルほか、やたらとリーピングキャットが飛び回って乗員に「ジャガー」を意識させる室内。大丈夫、ちゃんとジャガーしていますから。
正面の細いウッドパネルが両サイドのドアにまわり込んで囲まれ感を演出するモチーフ、きらびやかなメッキ類、派手なエアコン吹き出し口、液晶化されたメーター類など、わかりやすい豪華さが少々鼻につくエンスージアストがいるかもしれない。いずれも質感高く、富裕層を十分満足させるだろう。ハンドルの向こうにディスプレイされるメーター類は、新奇なだけでなく、針が指している上下の数字を明るくして視認性向上に努めている。
(前席)……★★★★
新しい「XJ」の前席に、「スポーティにタイト」という表現は当たらない。それでもシートサイズを誇示するかの「メルセデス・ベンツSクラス」や「BMW 7シリーズ」などと比較すると、ほどほどの大きさに抑えられる。テスト車「ポートフォリオ」は、20way(!)のシート調整、ヒーター、クーラーに加え、マッサージ機能まで装備される。ようやく東洋のドメスティックモデルに追いついた!?
「XF」と同じシフトダイヤルが、エンジン始動とともにせり上がってくるさまは、たしかに格好いいのだが、優雅なJ字のシフトゲートが廃されたことを惜しむ人も多かろう。
(後席)……★★
ホイールベース3m超、5m以上の全長を考えると、スペース面で厳しいのがリアシート。ひざ前はなんとか許容範囲。後方へ向かって優雅に下がるルーフラインの影響もあって、頭上空間も広々とはいえない。とはいえ、先々代「XJ」の後席を知っているオーナーは「相応に広くなった」と思うはず。いうまでもなく、本気で後席に座ろうと考えている方にはロングホイールベース版が用意される。
乗り心地は硬めだが、不快な突き上げはよく抑えられる。「XJ」のリアには、エアサスペンションが装備される。全車に備わる大きなダブルグラスルーフは爽快で、リアシートから目をやると流れていく空が視界に広がり、精神的な開放感は高まる。
(荷室)……★★★
約130cmの最大幅に奥行き105cm、天地50cm(実測)のラゲッジスペース。開口部が広いとはいえないので、奥に入れてしまった荷物を引き出すのはちょっと面倒そう。また、トランクリッドは電動で手を汚さず開閉できるのだが、無粋なメカニカル類を隠すためか荷室の左右が大きく削られているのが気になるところ。トランクスルーも備わらない。「XJ」は荷車ではないのだから、これでいいのだろう。なお、バッテリーはトランク床下に収められる。
|
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
ボア×ストローク=92.5×93.0mmの「AJ-V8」ユニット。「XK」「XF」と、ファミリーで使われる、バンク角90度の正当派V8。アルミブロックを再設計し、排気量を4.2から5リッターにアップした。4.2リッターと比較して、馬力で80ps、トルクで10kgmほどアウトプットを増して、385ps/6500rpmの最高出力、52.5kgm/3500rpmの最大トルクを発生する。可変バルブタイミング機構はじめヘッドメカニズムも新しい。シリンダーに直接燃料を吹き込む直噴エンジンで、筒内の冷却効果と精緻(せいち)なコントロールによって、11.5という高い圧縮比を実現。ポートフォリオのカタログ燃費は、10・15モードが7.0km/リッター、JC08モードでは7.2km/リッター。このテスト日の参考燃費(満タン法実測)は5.98km/リッターだった。
トランスミッションはコンベンショナルなトルクコンバーター式6段AT。ZF製のそれは先代より許容容量を増して、50kgmを超える大トルクをスムーズにデファレンシャル、後輪へと伝える。全体に静かで“あまり表に出てこない”動力系だ。
|
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
「XJ」のサスペンションは、フロントが上下のアームをそれぞれ分割したダブルウィッシュボーン/コイルスプリング&ダンパー、リアはダブルウィッシュボーンを基調にトーコントロールリンクを付加したマルチリンク式。こちらはエアスプリング&ダンパーがおごられる。
高速道路を主体に「XJ」に乗ったところ、硬めのアシ、高いボディの剛性感、しっかりした直進性と、高い速度域を想定したであろう締まった乗り心地が印象的。では、ドイツ御三家と比べたときに、際だった個性があるかと問われると難しいところ。柔らかい足に重めのボディがもたらす、どこかたゆとう乗り心地……、それはもう遠い思い出である。マセラティとは違った形で勝負に出た新世代ジャガー。感傷はさておいて、興味深く今後を見守っていきたい。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:細川 進(Office Henschel)
テスト日:2010年5月7日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2010年型
テスト車の走行距離:5257km
タイヤ:(前)245/40R20(後)275/35R20(いずれも、ダンロップSPORT MAXX)
オプション装備:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(7)
テスト距離:195.2km
使用燃料:32.6リッター
参考燃費:5.98km/リッター

細川 進
-
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)【試乗記】 2026.8.12 トヨタの人気SUV「RAV4」が6代目へと進化。どれくらい人気なのかは本文をご覧いただきたいが、日本だけでなく約180もの国と地域で愛されているモデルゆえに、その仕上がりはとにかく手堅く、そして隙がない。街から高速道路、さらに山道まで走り回って、気になったのはわずか1カ所のみだった。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.8.11 新型電気自動車「ES90」は、ボルボが「フラッグシップクロスオーバー」と紹介する新種の5ドアハッチバックモデル。「SPA2」プラットフォームによるゆとりあるボディーと、ボルボの次世代電気自動車アーキテクチャーの織りなす走りを報告する。
-
テスラ・モデルY Lプレミアム(4WD)【試乗記】 2026.8.10 日本でも好評を博す、テスラのSUVタイプの電気自動車「モデルY」。その6人乗り・ロングボディー仕様が「モデルY L」だ。実際に機能性や走りに触れてみると、決して「補助金頼み」とは言えない、同車の人気の理由が分かってきた。
-
アウディQ3 TFSI 110kWアドバンスト(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.8 アウディのミドルサイズSUV「Q3」の新型が日本に上陸。デザインやインターフェイスは新しくなっているが、さまざまな事情によってクルマとしての基本コンポーネンツは先代を踏襲しているのが3代目の実情だ。果たしてそれが吉と出るか凶と出るか。FWDのエントリーグレードを試す。
-
スズキDR-Z4SM(5MT)【レビュー】 2026.8.7 スズキ久々のスーパーモタードである「DR-Z4SM」に試乗! 最新の400cc級デュアルパーパスモデルをベースに、タイヤを17インチ化してオンロードでの機動性を突き詰めた一台は、今どき珍しいほどにアグレッシブで、強烈な個性を放つマシンに仕上がっていた。
-
NEW
トライアンフ・トライデント660(6MT)【レビュー】
2026.8.15試乗記英トライアンフのミドル級ネイキッドスポーツ「トライデント660」が、大幅に進化。エンジンを強化し、フレームやサスペンションを見直すなど、全方位的に走りに磨きをかけてきた。速さと乗りやすさを同時に追求した一台の、ライドフィールを報告する。 -
NEW
目指すは究極の走りと官能性 「ランボルギーニ・レヴエルトSV」の核心をキーマンが語る
2026.8.15デイリーコラムランボルギーニが「レヴエルト」の進化モデル「レヴエルトSV」を発表。強力なV12エンジンとプラグインハイブリッドシステムを搭載したフラッグシップは、いかなる進化を遂げたのか? V12モデルのディレクターを務めるキーマンが、その核心を語った。 -
ボルボのフラッグシップ電気自動車「EX90」が上陸 軌道修正された電動化戦略の今を探る
2026.8.13デイリーコラムボルボのフラッグシップ電気自動車(BEV)「EX90」と「ES90」が日本に上陸。2030年までに完全BEVブランドになるという目標は軌道修正したが、2040年までに温室効果ガス排出ゼロ企業を目指す方針に変わりはない。ボルボの電動化戦略の今を探る。 -
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う
2026.8.13マッキナ あらモーダ!ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。 -
「スバルBRZ」が採用した「新しいシフトレバー構造」とは何か?
2026.8.12デイリーコラム2026年7月31日に発表された「スバルBRZ」の最新モデルでは6段MTへの「新しいシフトレバー構造」の採用がうたわれている。すでに熟成し切った技術のように思われるマニュアルトランスミッションだが、2026年にもなってどんな構造を取り入れたのだろうか。スバルに聞いてみた。 -
第124回:「日産エルグランド」と「メルセデス・ベンツVLE」(前編) ―絶対王者に戦いを挑む、次世代高級ミニバンのカーデザイン―
2026.8.12カーデザイン曼荼羅日産が新型「エルグランド」を発売し、海の向こうではメルセデス・ベンツが「VLE」を発表するなど、いまにわかに盛り上がりを見せている高級ミニバンのかいわい。新興勢力は王者「トヨタ・アルファード」の存在を超えられるのか? カーデザイン視点で考えた。
































