フィアット500ツインエア スポーツプラス(FF/5MT)【試乗記】
スピードとは別次元の楽しさ 2012.10.03 試乗記 フィアット500ツインエア スポーツプラス(FF/5MT)……240万円
250台の限定車「フィアット500ツインエア」の5段MTを箱根で試乗した。
5周年記念の限定車
お待ちかね「500ツインエアのマニュアル」が“スポーツプラス”である。本国だとMTモデルは当然デビューしたときからあったわけだが、2011年3月の国内導入以来、日本では2ペダルのセミオートマ(デュアロジック)しか選べなかった。
ただし、残念ながら250台の限定モデル。しかも、もう買えません。現行「チンクエチェント」生誕5周年記念日の7月4日に発売されるや、8月には早くも売り切れてしまったのである。ただのMTモデルではなく、カッコイイ16インチホイールや黒塗りルーフやリアスポイラー、専用のスポーツシートなどを標準装備した文字通りの“スポーツプラス”であることも人気に輪をかけた。
しかし、同時に限定400台で発売されたデュアロジック仕様の“スポーツ”は9月下旬時点で、まだ買えるらしい。装備面ではホイールが15インチにダウンするのが大きな違いだが、パッと見は変わらず、価格はスポーツプラスより5万円安い230万円。フィアット500を途端に男モノに変えるこのルックスとツインエア・ユニットが欲しいが、クラッチペダルは踏みたくない、という人のためのモデルだ。
フィアットは意外に商売上手である。完売したスポーツプラスを広報車両のリストから落としていないのも、遠からず限定のおかわりか、あるいはMTモデルのレギュラー化を計画しているためではないか、と筆者はみている。
独特の2気筒サウンド
スポーツプラスに乗ったのはお盆休み明けだった。猛暑日ゆえ、当然エアコンはオン。上も下も大渋滞のアツイ都内から試乗を始めたのだが、ツインエアのMTはあいにくそんなステージがちょっと苦手だ。
画期的なこの875cc2気筒ターボ、最高出力も最大トルクも1.2リッター4気筒を上回るのだが、アイドリングから2000rpmあたりまでの低速トルクにはパンチがない。低い回転で性急にクラッチをつなぐと、エンストしそうになる。スタートダッシュをキメるなら、グワンとエンジンをうならせたい。幸いクラッチペダルもシフトレバーも操作力は軽いが、踏んでりゃいいだけのデュアロジックより運転に傾注する必要はある。
このクルマにもアイドリングストップ機構が付いている。再始動はデュアロジックよりスピーディーでいいのだが、エンストの可能性なきにしもあらずのエンジンがアイドリングストップするのは心臓に悪い。いやならボタンひと押しでキャンセルできるが、デフォルトでオンの機構なら、入れっぱなしにしておきたい……、なんて、クヨクヨ考えるタイプが乗るクルマではない。
エンジン音の音量は大きくないが、ドゥルーっという2気筒サウンドは独特だ。速く走るには、軽いアクセルを容赦なく踏みつける。シフトをサボって、高めのギアのまま加速しようとすると、「まったくもー」という感じで、震えながら回転を上げてゆく。といったところは、何に似ているって、『ルパン三世』の「フィアット500」にそっくりである。もちろん半世紀以上を隔てた最新の2気筒は、世界トップクラスの低CO2エンジンなのだが、与える雰囲気はよく似ている。わざとそういう演出にしているのではと思えるほどだ。
875ccとは思えない加速感
イタリアの小型車は、前のめりで運転するに限る。ツインエアのMTもまさにそうだ。スポーツプラスを走らせていちばん楽しいのはワインディングロードである。
レヴリミットは6000rpm。そこまで引っ張っても、5段MTの1速は45km/hまでしか伸びない。ローギアリングなことに加えて、ホットハッチふうに走らせようとすると、このエンジンには明確なパワーバンドが存在する。本当においしいところは3000〜5500rpmである。しかし、こまめなギアチェンジでそこをキープすると、たかだか875ccとは思えない、これまた独特の太い加速感が味わえる。
16インチホイールに履く195/45のコンチネンタルは、タウンスピードだとちょっと当たりがキツくて、ややオーバータイヤに思えたが、グリップ性能はさすがだ。
箱根で初めてこのクルマに乗った編集部Kさんが、降りてくるなり、顔を上気させて「楽しいです!」と言った。その直前まで彼が乗っていた試乗車は、新型「911カレラ」のMTだった。スピードとはまた別の次元で楽しませてくれる非凡さが500ツインエアにはあるのである。
でも、混んだ市街地をいつも走る人なら、無理して「ツインエアのマニュアル」を選ぶことはないと思う。このスポーツプラスが売り切れてしまったから言うわけではないが、セレクターを前後にクリックしながら、常にMTモードで走らせると、デュアロジックの500ツインエアだって十分に楽しいのである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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