シボレー・カマロLT RS(FR/6AT)【試乗記】
わかってるクルマ 2010.01.22 試乗記 シボレー・カマロLT RS(FR/6AT)……447万3400円
アメリカンスポーツの代名詞「カマロ」復活! 鳴り物入りでデビューした新型は、どんなクルマに仕上がったのか? 日本の道で試した。
うれしくなるほどアメリカン
新生GMの第1弾が、2002年以来7年ぶりに復活した「シボレー・カマロ」である。といっても、最初にコンセプトカーとして姿を見せたのは2006年のデトロイトショーだから、正確にいえば破綻前のプロダクトだ。
しかもスタイリングは、1967年から3年間だけ作られた「初代」のセルフカバーで、サイズは4840×1915×1380mmと相変わらず大きい。
ビジネス誌の記者なら、「GMいまだ反省の色なし」とバッサリ切り捨てるのかもしれないけれど、僕は正反対の印象を抱いた。キャビンやフェンダーは1968年式、大径ヘッドランプやリアフェンダーのルーバーは1969年式をモチーフとしたボディが、理屈抜きにカッコいいからだ。
エクステリアだけじゃない。四角い速度計と回転計を運転席の前に据え、センターコンソールの奥に4つのサブメーターを置き、助手席側はだだっ広い壁というインパネも昔のまま。ブルーのイルミネーションや、ビートの効いたオーディオを含めて、うれしくなるほどアメリカンな空間だ。
シートは背中から腰までをカチッと支えつつ、座面はふっかりしていて、背もたれを倒したドラポジになる。数字に出ない「気分」の演出がすばらしい。
今後の自動車は二極化が進むはずだ。街乗り用のエコカーは、カーシェアリングなどで「使う」パターンが多くなる。つまり「買う」クルマは、デザインや走りなど、欲しくなる魅力があるかどうかが大事になっていく。その点で、プラグインハイブリッドカー「シボレー・ボルト」の発売を控えつつ、カマロのようなスポーツクーペをリリースしたGMは、やっぱり「自動車とはなにか」を熟知していると感じたのである。
V8よりもいい“ハート”
さらにカマロでほめたいのは、レトロなデザインをまといつつ、走りはきっちりモダンなことだ。
日本仕様は3.6リッターV6の「LT」と6.2リッターV8の「SS」の2タイプで、どちらもスポーティな「RSパッケージ」が標準装備になる。トランスミッションはいずれも6段ATで、もちろん後輪駆動だ。
旧型カマロでは、本命はやっぱりV8で、V6は廉価版というイメージが拭えなかった。でも新型は違う。今回乗った「LT RS」のほうが魅力的だったのだ。なによりもエンジンがいい。直噴で11.3:1の高圧縮比なのにレギュラーガス対応とした技術力もほめられるが、308psを6400rpmで発生する高回転型のスペックでわかるように、回すことが気持ちいい。
車重が1710kgと見た目より軽いおかげもあって、回さなくても力不足は感じない。でもストレスフリーの吹け上がりと、4000rpm以上での叩きつけるような音を味わったら、自然と高回転キープのドライビングになってしまう。
6段ATの性格はこのエンジンにドンピシャだ。トルコンのユルさはなく、タイトにギアをつなぎ、キックダウンにも敏感に反応する。だからステアリング裏のスイッチを駆使してマニュアルシフトを多用したくなる。
昔のカマロとは対照的な加速感だ。でも米国GMと豪州ホールデンが共同開発したグローバルRWDアーキテクチャーの能力を知るにつれて、新型にはこのモダンなパワートレインが似合うと思うようになった。
今回の試乗では街なかや高速道路のほか、箱根の山道も走った。カマロで箱根を駆けるのは初めてだ。そんなに期待していなかったのだが、結果はいい意味で予想を裏切ってくれた。
山でも、街でも、高速でも
「LT RS」はサスペンションが硬くないせいもあって、ボディの大きさや重さを意識させる場面はあったものの、しっとりした操舵感が心地いいロックtoロック約2.5回転のステアリングを切ると、素直にターンインしてくれる。ペースを上げてもドライバーが思い描くラインをたどってくれるのは、53:47という前後重量配分と、接地性にすぐれた足回りのおかげといえる。
とりわけ好感を持ったのは、4輪の状況が把握しやすいことだ。電子制御デバイスに頼らず、アコースティックな手法で性能を煮詰めたおかげだろう。ブレーキを残しながらターンインしたり、立ち上がりでスロットルを多めに開けたりしてボディをコントロールする楽しさが、安心して味わえる。
それでいて街に下りればストローク感のある足回りが、しっとりした乗り心地を実現する。外寸のわりに小回りが利くのはアメ車の伝統だから、大きさに慣れればふだん使いも苦ではない。高速道路での直進安定性はもともと得意分野だし、100km/hはたった1500rpmなので、クルージングは平和そのものだ。
430万円という価格は、このカテゴリーで唯一の国産車である「日産スカイラインクーペ」と同レベル。欧州車では「フォルクスワーゲン・シロッコ」や「アウディTT」の2リッターターボしか買えない。割安に感じる人は多いだろう。直噴V6とハイギアードなATをうまく使えば、環境性能も悪くなさそうだ。
でも新型カマロはそれしか能がない一部のエコカーとは違う。なによりもカッコいいデザインと楽しい走りがある。自動車の根源的な魅力にあふれている。クルマが生き残るためには、こういうモデルこそ必要だ。再生第1弾として選ばれたカマロには、GMのそんなメッセージが込められているような気がした。
(文=森口将之/写真=高橋信宏/撮影協力=TOYO TIRESターンパイク)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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