BMW760Li(FR/8AT)【試乗記】
いまのBMWのすべて 2010.01.21 試乗記 BMW760Li(FR/8AT)……1954.3万円
BMW最上級モデルの特上グレード、「760Li」に試乗した。BMWが持てる技術をフルに注ぎ込んだフラッグシップサルーンは、果たしてどんなクルマだったのか?
「軽やか」なビッグセダン
2009年3月より日本へ導入されている現行「BMW7シリーズ」の一番の特徴は、その走行性能だ。BMWの特徴が“走り”だなんて、改めて記すまでもないことだと言われてしまいそうだが、実際に7シリーズのそれは近年のBMWが辿ってきた変化の集大成的な仕上がりであり、またブランドのフラッグシップにふさわしい内容を持っていると断言できる。
そこに体現されているのはサイズを感じさせない走り。このセグメントで走りに「軽やか」なんて言葉を使いたくなるのは、このクルマぐらいのものである。
それを具現するために、7シリーズにはBMWが誇る技術のすべてが注ぎ込まれている。アルミ素材の多用による積極的な軽量化ばかりでなく、後輪操舵を連動させたインテグレイテッド・アクティブ・ステアリング、シャシーやエンジン、DSCなどの制御を複数のモードに切り換えられるダイナミック・ドライビング・コントロール等々、挙げていけばキリがないほどだ。
落ち着いたエクステリアに、質の高いハンドリング。そんなイメージは過去のものとなり、近年のBMWは見た目にせよ走りにせよ、あるいは操作系等々まで含めて、きわめてダイナミックでアグレッシブな方向へと舵を切った。現行7シリーズはそのひとつの完成形であり、また次の時代への幕を開くものだと言っていいだろう。そして、そうしたあり方は驚くべきことに、いや当然と言うべきか、シリーズそしてブランドの旗艦である「760Li」でも、まったく変わることは無かったのである。
味わい深い12気筒
幅広のグリル、各部のV12ロゴ、左右2本出しのマフラー等々を与えられた外観は、それほど強く違いを主張するものではない。オーナーならわかる、というぐらいのものだ。ドアを開けるとスカッフプレート上のV12ロゴが透過照明で強調されていて、これまたオーナーだけに密かなよろこびをもたらしている。
インテリアも、ダッシュ上面までナッパレザーが張られ、ウォールナットウッドのトリムに象嵌細工が施されているなど、仕立ては特別。しかし華美なところはなく上質で洗練された雰囲気だ。
エンジンを始動すると、目覚めたV型12気筒ユニットが遠くでウーッと唸る声がかすかに聞こえる。この時代に、いやこの時代だからこそ、BMWはV型12気筒を大胆に進化させた。排気量5972ccの直噴ユニットは、新たにツインターボ化。最高出力は先代の99ps増しとなる544ps、最大トルクも同じく15.3kgm増しの76.5kgmに達する。ATも最新の8段へと進化。ブレーキエネルギー回生システムも備わる。
1500rpmという低回転で最大トルクの76.5kgmを発生させる特性だけに、動力性能は際立っている。2290kgにも達する車重をものともせず、発進や加速は軽やか。8段ATのおかげで、巡航中のエンジン音もごく低く抑えられている。
それでいていざ鞭を入れれば、6000rpmを超えてもなお至極スムーズに回転を上昇させ、それに伴ってリニアにパワーを増していく感触を楽しめる。その時のツブの揃った味わいは、さすが12気筒だ。
怒濤のトルク以外、基本的に特性からターボらしさはほとんど感じさせないのだが、ときおり意に反して急に飛び出そうとすることがあるのが、あえて言えば、のネガ。スペック上、悪化している10・15モード燃費もやはりネガか……と思いきや、豊かなトルクと8段ATのおかげで、特に巡航燃費は思った以上に良さそうである。
打てば響く「走り」
フットワークにも相変わらず感心させられる。鼻先にV型12気筒が載っているはずなのに、感触は750Liあたりを走らせている時とほとんど差がない。電子制御式スタビライザーの“ダイナミック・ドライブ”を標準装備とするだけに、むしろ軽快とすら感じられたほどだ。それでいて快適性も上々。特にダイナミック・ドライビング・コントロールをコンフォートにセットすれば、しっとりと上質なタッチを味わえる。
760Liの走りをして近年のBMWの到達したひとつの究極だと評したのは、こうして最先端の装備を数々投入することによって、ドライバーの意識を先回りしたかのような、まさに打てば響く感触を実現しているからだ。一方で、それが味わいを薄くしている部分も無いとは言わない。アクセルを踏み込み、トルクの湧き出すまでの一瞬のタメを味わう、なんて要素はもはや薄い。切れば切った分だけ曲がるフットワークは、一方で先代にはまだ残っていた大型サルーンらしい、たおやかな挙動を過去の話とした。しかし良くも悪くもそれが今のBMWであり、760Liもその例に漏れないということ。あとは好き嫌いの問題となるだろう。
BMWのフラッグシップに対する期待を、760Liは高い完成度によってほぼ完璧と言っていいほどに満たしている。これぞ今のBMWの哲学とテクノロジーのすべてを知ることのできるモデルである。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
日産リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2026.2.11 フルモデルチェンジで3代目となった日産の電気自動車(BEV)「リーフ」に公道で初試乗。大きく生まれ変わった内外装の仕上がりと、BEV専用プラットフォーム「CMF-EV」や一体型電動パワートレインの採用で刷新された走りを、BEVオーナーの目線を交えて報告する。
-
ホンダN-ONE RS(FF/6MT)【試乗記】 2026.2.10 多くのカーマニアが軽自動車で唯一の“ホットハッチ”と支持する「ホンダN-ONE RS」。デビューから5年目に登場した一部改良モデルでは、いかなる改良・改善がおこなわれたのか。開発陣がこだわったというアップデートメニューと、進化・熟成した走りをリポートする。
-
日産キャラバン グランドプレミアムGX MYROOM(FR/7AT)【試乗記】 2026.2.9 「日産キャラバン」がマイナーチェンジでアダプティブクルーズコントロールを搭載。こうした先進運転支援システムとは無縁だった商用ワンボックスへの採用だけに、これは事件だ。キャンパー仕様の「MYROOM」でその性能をチェックした。
-
無限N-ONE e:/シビック タイプR Gr.B/シビック タイプR Gr.A/プレリュード【試乗記】 2026.2.7 モータースポーツのフィールドで培った技術やノウハウを、カスタマイズパーツに注ぎ込むM-TEC。無限ブランドで知られる同社が手がけた最新のコンプリートカーやカスタマイズカーのステアリングを握り、磨き込まれた刺激的でスポーティーな走りを味わった。
-
インディアン・チーフ ヴィンテージ(6MT)【海外試乗記】 2026.2.6 アメリカの老舗、インディアンの基幹モデル「チーフ」シリーズに、新機種「チーフ ヴィンテージ」が登場。このマシンが、同社のラインナップのなかでも特別な存在とされている理由とは? ミッドセンチュリーの空気を全身で体現した一台に、米ロサンゼルスで触れた。
-
NEW
核はやはり「技術による先進」 アウディのCEOがF1世界選手権に挑戦する意義を語る
2026.2.13デイリーコラムいよいよF1世界選手権に参戦するアウディ。そのローンチイベントで、アウディCEO兼アウディモータースポーツ会長のゲルノート・デルナー氏と、F1プロジェクトを統括するマッティア・ビノット氏を直撃。今、世界最高峰のレースに挑む理由と、内に秘めた野望を聞いた。 -
NEW
第860回:ブリヂストンの設計基盤技術「エンライトン」を用いて進化 SUV向けタイヤ「アレンザLX200」を試す
2026.2.13エディターから一言ブリヂストンのプレミアムSUV向けコンフォートタイヤ「アレンザLX100」の後継となるのが、2026年2月に発売された「アレンザLX200」。「エンライトン」と呼ばれる新たな設計基盤技術を用いて開発された最新タイヤの特徴を報告する。 -
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(前編)
2026.2.12あの多田哲哉の自動車放談イメージキャラクターの「デリ丸。」とともに、すっかり人気モノとなった三菱の軽「デリカミニ」。商品力の全体的な底上げが図られた新型のデキについて、元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんが語る。 -
ホンダアクセスが手がけた30年前の5代目「プレリュード」に「実効空力」のルーツを見た
2026.2.12デイリーコラムホンダ車の純正アクセサリーを手がけるホンダアクセスがエアロパーツの開発に取り入れる「実効空力」。そのユニークなコンセプトの起点となった5代目「プレリュード」と最新モデルに乗り、空力パーツの進化や開発アプローチの違いを確かめた。 -
第948回:変わる時代と変わらぬ風情 「レトロモビル2026」探訪記
2026.2.12マッキナ あらモーダ!フランス・パリで開催されるヒストリックカーの祭典「レトロモビル」。客層も会場も、出展内容も変わりつつあるこのイベントで、それでも変わらぬ風情とはなにか? 長年にわたりレトロモビルに通い続ける、イタリア在住の大矢アキオがリポートする。 -
第287回:宝石を盗んで西海岸のハイウェイを駆け抜けろ! 『クライム101』
2026.2.12読んでますカー、観てますカーハイウェイ101で発生する宝石盗難事件はいつも迷宮入り。「ダッジ・チャレンジャー」で素早く逃走する犯人の犯罪心得は、殺さず、傷つけず、証拠を残さないこと。泥棒、刑事、保険ブローカーが華麗なる頭脳戦を繰り広げる!



































