スズキ・キザシ(4WD/CVT)【試乗記】
“伸びしろ”のあるデビュー作 2009.12.04 試乗記 スズキ・キザシ(4WD/CVT)……302万9250円
2009年の東京モーターショーで突如デビューした「スズキ・キザシ」。プレミアムセダン市場というジャンルに新規参入するスズキのチャレンジ作、その実力やいかに?
3シリーズとA4の中間
2009年の東京モーターショーで、サプライズを用意していた数少ないメーカーのひとつがスズキだ。事前情報なしに、新型4ドアセダン「キザシ」をお披露目したのだ。しかも、プレスデイ初日の10月21日より販売も開始するというから、もう一度びっくり。で、ショー会場で配られたスペック表を見て、さらにびっくり。2.4リッター直列4気筒エンジンを積む「スズキ・キザシ」の外寸は4650×1820×1480mmと、かなりでかいのだ。「BMW3シリーズ」が4540×1800×1440mm、「アウディA4」が4705×1825×1440mmだから、ちょうどこの2台の間にすっぽり収まる堂々としたサイズ。欧州市場における、いわゆる「Dセグメント」に属することになる。
幕張での初対面からひと月半、路上で再会した「キザシ」は、それほど大きいとは思わなかった。それは、外観のスタイリングにギュッと固めた“凝縮感”があるからだ。小さいものに肉付けするのではなく、大きな塊を彫刻刀で削り出したようなデザインは、なかなかカッコいい。「SX4」や「スイフト」など、最近のスズキ風味のフロントマスクも精悍だし、プリッと張りのあるリアの曲面も魅力的だ。ただし、個性も華もあるエクステリアに比べるとインテリアは平凡。躍動感のある外観にマッチする、スポーティな演出などがあってもいいと思う。
FF仕様も用意されるけれど、試乗したのはパートタイム式の4WD仕様。ダッシュボードのスイッチでFFと4WDを切り替えることができる。まずはFFでスタート、タウンスピードでの乗り心地はいい。そういえば、マイチェン後の「スズキ・エスクード」もかっちりしたボディとよく動くサスペンションで乗り心地は快適だったけれど、あの感じに近い。少し重めのパワステの設定といい、しっとりと大人っぽいセダンだというのが第一印象。けれど、ストップ&ゴーや加減速を繰り返すうちに、不満な点が見えてきた。クルマの重さに対してエンジンの力が足りないような、苦しい感じが伝わってくるのだ。
出たがりのエンジンと控え目なシャシー
エンジンは「エスクード」にも使われる2.4リッター直列4気筒DOHCで、「キザシ」に搭載するにあたって22psパワーアップ、最高出力は188psとなっている。運転しながら、おかしい、と首をひねる。このエンジンは、パワーアップする前でも約60kg重い「エスクード」を余裕で走らせていたのだ。となると、“犯人”ではない。「エスクード」と「キザシ」の違いは何? 「エスクード」に組み合わされていたのは4ATで、「キザシ」にはジヤトコ製のCVTが採用されているのだ。
そう思ってCVTとエンジンのマッチングに注意すると、気になる点が見つかる。エンジンの回転が高まってから、その後で車速が上がるのだ。ちょっと昔のCVTみたい。だから高まるエンジン音のわりに車速が伸びなくて、苦しい感じがドライバーに伝わる。ホントに苦しいのではなくて苦しい感じがするだけだから、これはもったいない。
シフトセレクターをパタンと右側に倒すと、6段のマニュアルシフトモードになる。シフトセレクターを前方に押し出すとシフトダウン、手前に引くとシフトアップという方式。これは最近の多数派とは逆で、慣れの問題かもしれないけれど、どうもなじめない。結局、マニュアルシフトをする時はステアリングホイールに付いたパドルを使うようになった。右がアップで左がダウン、これなら間違える心配はない。
マニュアルシフトモードだと、前述したCVTとエンジンの連携という弱点をあまり感じないですむ。直4エンジンは高回転まできれいに回って、特にノイズやバイブレーションが高まることはないから、マニュアル操作していると自然とスポーティなドライビングスタイルになる。ま、オートマチックモードでもエンジン回転は高めをキープするから、どちらのモードでも常にエンジンが活発に働いている印象。けれども、足まわりのセッティングはまったりとした安定志向だから、トータルで見ると少し統一感に欠ける。特に4WDのスイッチを押して四駆にするとさらにどっしり感が増して、ますますパワートレインと方向性が乖離する。
激戦区で存在感を見せるには
細かいことを言うと、低速でステアリングホイールを大きめに切るような場面、たとえば信号待ちからのゼロ発進で交差点を曲がるような時にパワステの手応えが変化するあたりも気になった。それも「パンクでもした!?」とギョッとするくらい手応えが変わる。それから、運転席のダブルステッチの本革シートはなかなか見栄えがいいし、後席も大人が寛いで座れるぐらい広い。けれど、前席はホールド感が物足りないし、後席は薄っぺらい掛け心地が残念。
カッコよくて広くて、乗り心地だっていい。個別に見るとなかなか魅力的なセダンなのにトータルでの印象が薄いのは、細部の詰めがイマイチなのと、クルマ全体のキャラに統一感がないせいだろう。せっかく個性的でアグレッシブな外観なのだから、インテリアもチャレンジングなものにしてほしかった。乗り心地が大人っぽいのだから、パワートレインにももう少しゆとりがほしい。あるいは逆に、思いきりスポーティに振るなど、「キザシ」でしか味わえない“味”があるとうれしい。ライバルがたくさんいるこのセグメントに後発として参入するには、そうしたプレゼンスも必要ではないか。
とはいえ、このセグメントにおけるスズキの“デビュー作”だと考えれば、「キザシ」の仕上がり具合は予想よりレベルが高い。細かい欠点はあるけれど、「スイフト」や「エスクード」がモデルチェンジを重ねるごとに洗練されたのを思えば、今後に期待できそうだ。また、主たるマーケットはアメリカで、日本では受注販売になるという。日本は特にお客さんの目が厳しいから、もうちょい煮詰めてからライバルとガチンコ勝負するというのは理にかなっている。GMとの連携でハイブリッド化する予定があるなど、細かい欠点よりも“伸びしろ”を楽しみにしたい1台。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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