三菱 i-MiEV(MR/1AT)【試乗記】
EVミュージックは楽しい 2009.10.02 試乗記 三菱 i-MiEV(MR/1AT)……481万9500円
話題のEV、「三菱i-MiEV」の日常的な使い勝手を確認すべく、市街地や高速道路を走り、充電を試みた。そんなさなか、に気付いた、EVならではの喜びとは?
ネガはさておき……
鳩山新政権について某メディアがアンケートをとったところ、「期待はあるが不安もある」という回答がもっとも多かったという。初モノだから不安はあって当然じゃないの? と個人的には思うのだが、慎重かつ繊細な日本人はネガを挙げなければ気がすまないようだ。
電気自動車(EV)に対する世間の見かたも似ている。排気ガスを出さず音が静かで、電気代はガソリン代の約1/7などいろんなメリットがあるのに、価格の高さや走行距離の短さにばかり、スポットが当たっている感がある。
しかしこれらはすべて、紙の上の数字を頼りにした判断であり、正当な評価とはいえない。そこで実際に「三菱i-MiEV」を1泊2日でお借りして東京や横浜を駆け回り、実証実験をしてみた。
昨年同じi-MiEVのプロトタイプに乗って以降、EVはこれで4台目だ。今年になってから「日産リーフ」のプロトタイプ、慶應義塾大学が開発した「エリーカ」、このサイトでも紹介した静岡文化芸術大学の「ミルイラ」をドライブしたからである。そういった経験をもとにいえば、量産型i-MiEVの加速はかなりおだやかなものだった。
高速では意外にうるさい!?
モーターならではの低回転大トルクは感じるものの、アクセルを踏んだ瞬間にドンッと押し出されるような感触はない。ガソリン車から乗り換えても違和感がないほど調教されている。もう少しEVならではのトルク感を残したほうが、魅力を説明しやすいのでは? と思うほどだ。
調教といえば、i-MiEVはトルコンATのようなクリープをモーターで作り出しているが、これの制御がとにかく絶妙。トルクが充分なので通常の加速はEcoレンジでことたりる。Dレンジより回生ブレーキによる減速が効くので、街中ではむしろ走りやすいほどだ。電動ポンプで負圧を発生する、ブレーキのタッチにも癖はない。日本車らしいきめ細やかさが、制御の隅々までいきわたっていた。
さらに、自分のEV体験では初めて高速道路もテスト走行をした。
しかしそんなに静かじゃなかったのだ。その原因は風切り音。専用のエアロブレードを採用したワイパーが、ドアミラーともどもザワザワ音を立て、エンジン音がなくロードノイズも抑えられたキャビンに響く。ワイパー前の黒いパネルをスポイラー状とし、ミラーを空力的にすれば、かなり改善できるんじゃないだろうか?
でもi-MiEVでの高速走行が不快だったかというと、そんなことはない。むしろ快感そのものだったのだ。
モーターサウンドに感動
理由は音だ。街中ではヒューンと唸っていたモーターが、80km/hぐらいでキーンという高周波に変わり、100km/h近くで明確に耳に届くようになる。そこから踏み込むとさらに音量が上がる。ハイトーンであるが耳障りではない。むしろフェラーリのような多気筒高回転型エンジンが奏でる響きに近い。
はっきりいおう、これは快音だ。排気音がなければいい音とは認めない頑固な(?)ユーザー以外は、きっとこのサウンドに感動できるはず。EVミュージックがこんなに楽しいとは思わなかった。
車重がガソリン車より重いためか乗り心地は落ち着いていて、高速での直進安定性でも上回っている。プロトタイプで気になったタイヤの剛性不足は、銘柄を変えたおかげで解消されていた。シャシーも安心して高速走行をこなせる能力を持ち合わせている。でもアクセル全開で音を楽しんでいると、すぐに電気が減ってしまう。そこで横浜に着いたところで急速充電を試してみた。
操作のしやすさはATM並みだが、コードは太くて重く、消防用ホースみたいだ。しかも「急速」に充電できるのは80%までなので、航続距離は128kmになる。ちなみにこの数字は10・15モードに基づくもので、エアコンを入れて街中を走るようなシーンでは約80kmまで落ちるという。これがあとで響いてしまった。
そんな時代もすぐに来る
急速充電を終えて都心に戻り、ちょっと寄り道をしたあと山手線の外側にある自宅に着いたら、満タンでは16ドット点灯する燃料計は残り4ドットを示していた。インターネットで調べたが、近所に充電施設はない。田町の三菱本社までノンストップで返却しに行くしかない。このときほど節電、つまりエコランに必死になったことはない。おかげで燃料計を2ドット残した状態で車両を返却できた。走り方による経済性の違いは、ガソリン車以上に大きく出るようだ。
返却時にこの状況をメーカーの人に話したら、「EVは家庭充電がメインで、急速充電は緊急時に利用するものです」という言葉が返ってきた。つまりケータイに近い使い方をすべきなのだ。「そう簡単に考えは変えられない」と疑問を持つ人もいるだろう。でも僕は、気がつけばそんな時代になっていると予想する。プラグインハイブリッドカーが意識改革を進めてくれるからだ。
そうなれば、ガソリン補給もオイルや水の点検も必要ないEVが注目されるだろう。なにより日本人は「電化」好きであり、火を使わずにモノが動くことの、安全性や利便性や快適性を高く評価する国民なのだから。
となると、最後のハードルはやはり価格だ。バッテリーをリースにするなどして200万円ぐらいで売ることができれば、山は一気に動くはずである。
(文=森口将之/写真=郡大二郎)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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