アウディA6ハイブリッド(FF/8AT)【試乗記】
手ごわい新顔登場 2012.11.05 試乗記 アウディA6ハイブリッド(FF/8AT)……772万円
2リッター直4ターボエンジンと電気モーターを搭載した「アウディA6」のハイブリッドモデルに試乗した。
アウディらしいハイブリッド
アウディジャパン初のハイブリッドモデルが「A6ハイブリッド」だ。「Q5ハイブリッド」(日本未発売)と同じ直噴2リッター4気筒ターボ+モーターのパラレルハイブリッドで、A6はFF。価格は690万円。「2.8FSIクワトロ」(610万円)よりは高いが、輸入車のハイブリッドとしては最も安い。「レクサスGS450h」(700万円〜)、「フーガハイブリッド」(539万7000円〜)、「クラウンハイブリッド」(540万円〜)といった日本車とも戦える輸入ハイブリッド車初の戦略モデルといえるかもしれない。
アウディといえば、ドイツ車のなかでも特に理科系イメージのメーカーだ、と個人的にずっと思っていたので、フクザツなハイブリッドをつくらせたら、さぞやおもしろいに違いない。そんな期待を胸に走り出すと、やっぱりおもしろかった。
計器盤のど真ん中には、A6を細密に描いたグラフィックモニターがあり、エンジン、モーター、バッテリーの作動状況やエネルギーフローをリアルタイムに映し出す。タコメーターがあった場所にはパワーメーターが置かれ、それらを1本の針の動きでも見せてくれる。どちらもハイブリッド車の装備として目新しいものではないが、“わかりやすさ”の点で傑出している。
計器盤の右端は燃料計だが、対称の左端には燃料計と同じデザインで、リチウムイオン電池の容量計が備わる。このクラスのクルマなら、ユーザーに余計な情報は与えないという考え方もありそうだが、A6はその点、すごく“教育的”だ。トリセツのハイブリッドに関する記述も、懇切丁寧でタメになる。そういう学究肌なところがいかにもアウディらしい。
スムーズで静か
あとから出るものがよくなるのは当然とはいえ、最新ユーロ・ハイブリッドのA6は、滑らかで、そして速いクルマだ。
このシステムではモーターのみの走行も行う。EVボタンを押せば、60km/hで最長3km、エンジンなしで走ることができる。平たん路や下りでアクセルを緩めると、ZF製8段自動変速機と一体の湿式多板クラッチがきれて、エンジンをコースティング状態にさせる。一方、アクセルを深く踏み込めば、211psのエンジンと54psのモーターがフル稼働する“ブースティング”走行に入る。といっても、そうしたパワーユニットのオンオフは、計器盤のモニターやメーターを見ていないとわからない。
2リッターで211psといえば、リッター100psを超すハイチューンだが、エンジンそのものもすばらしくスムーズで静かである。とても4気筒とは思えない。
ひとつ惜しいのは、停止直前にブレーキがやや食いつき気味になること。回生(発電)ブレーキで制動するハイブリッド車ではありがちな症状だ。最後に踏力を微妙に緩めないと、カックンブレーキになることがある。
動力性能は申し分ない。0-100km/hは7.5秒。同じA6の2.8FSIクワトロ(8.1秒)より速い。リチウムイオン電池を37kgでまとめたこともあり、車重は1850kgと、2.8FSIクワトロの60kg増しに収まる。
軽く踏んでも発進加速は素早い。深く踏みつける必要などまったくないのだが、いやだけどためしにやってみると、エンジン+モーターの大トルクで、さしものトラクションコントロールも間に合わず、数瞬、前輪がホイールスピンした。
さすがの“仕立て”のよさ
ふつうのA6と比べて、ハイブリッドであることを最も意識させるのは、トランクを開けたときである。駆動用バッテリーを床下に置くため、奥行きの半分あたりからフロアに20cmほどの大きな段差ができている。しかし、もともとA6のトランクは巨大なので、後席背もたれを倒して貫通させると、前輪を外した27インチのロードバイク(自転車)が楽々入った。
都心から山梨県の小淵沢を往復。途中、中央道では激しい事故渋滞にハマった約380kmで、燃費(満タン法)は9.8km/リッターだった。テスト中、車載コンピューターの平均燃費は最良で10.5km/リッターを示した。これだけ速くて快適な全長4.9m超の大型セダンとしてはリッパだが、過去の試乗経験から言うと、前述した国産ハイブリッドセダンほどよくはなさそうだ。ま、いずれにしても、「プリウス」や「アクア」のユーザーなら、「半分いかないじゃん」と、吹き出すだろうが。
だが、A6ハイブリッドはアウディである。中身は技術オリエンテッドでも、「いいクルマだなあ」としみじみ感じさせる“仕立て”のよさはさすがだ。
試乗車にはビューフォートオークと呼ばれる内装材が与えられていた。黄土色の木目パネルに細かい黒のピンストライプが入っている。ハイブリッドがどうのこうの言う前に、「ウワッ、おしゃれ!」というのが、乗り込んだ時の第一印象だった。世界一のハイブリッド王国に、個性的で手ごわい新顔が現れたと思う。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=高橋信宏)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
NEW
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】
2025.9.6試乗記空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。 -
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。