フォルクスワーゲン・ティグアン スポーツ&スタイル(4WD/6AT)【ブリーフテスト】
フォルクスワーゲン・ティグアン スポーツ&スタイル(4WD/6AT) 2009.06.16 試乗記 ……449.3万円総合評価……★★★
使い勝手の良さで人気を集める中型SUV市場に、フォルクスワーゲンが追加したのは、“都会派”を謳う「フォルクスワーゲン・ティグアン スポーツ&スタイル」。このグレードの価値とは?
本質を考えれば……
フォルクスワーゲン初の中型SUVとして、2008年9月に登場した「ティグアン」。「トラック&フィールド」に続いて導入された「スポーツ&スタイル」は、よりオンロード向けのテイストを強めた上級モデルである。大型のバンパースポイラー、インチアップされたタイヤなどを備え、エンジンもより強力に。装備も充実度が高められている。
そうは言っても、そもそもティグアン自体、それなりに強力なオフロード性能を持ちながら、基本的にはオンロード志向のSUVであり、そういう意味ではそれほど大きな差があるわけではない。トラック&フィールドだって、オンロードSUVとしての完成度は相当ハイレベルだ。よってその動力性能と外観の差に55万円の価値を見出せるか否かが、選択の決め手となる。
乗ってみればたしかに違いはある。基本的にはチューン違いであり、それほど差はないだろうと思ったエンジンも、ハッキリ速さに差があるし、フットワークも味付けは別だ。見た目や装備も、価格に見合った価値は十分あると言えるだろう。
しかし個人的には、もし奨めるならトラック&フィールドかなと思っている。アレコレ付いているわりには高くなっていないとは言っても、それが不要な人にとっては買い得とまでは言えない。それに、よりスポーティな走りで“都会派”の外観で……なんて、他のどのブランドもやっていること。わざわざ埋没するためにエクストラコストを投じなくてもいい。
それになんと言っても、トラック&フィールドのなんとなく漂う道具的な感覚や穏やかな走りっぷりの方がフォルクスワーゲンらしいし、なによりティグアンの本質には近いのではないか。そんなふうに思うのである。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「ティグアン」は、「BMW X3」「メルセデス・ベンツGLK」などをライバルとする、フォルクスワーゲン初となるSUV。日本市場では2008年9月のデビュー時に、オフロード指向の「トラック&フィールド」を発売。翌2009年3月に、オンロード指向の「スポーツ&スタイル」が追加された。
搭載エンジンは、いずれも2リッター直噴にターボチャージャーを組み合わせたTSIユニット。チューニング違いで「スポーツ&スタイル」のほうが大出力を発生する。トランスミッションは、6段ATが組み合わされた。
(グレード概要)
テスト車の「スポーツ&スタイル」は、上級版に位置づけられる一方で、都会派を謳うグレード。外観はアプローチ/デパーチャーアングルなどにこだわった「トラック&フィールド」とは異なり、スポーティなイメージとされる。内装には、アルカンターラを用いたスポーツシートが装備されるほか、レザータイプのステアリングホイールに、オーディオ設定などが可能なマルチファンクション機能が付加される。さらにHDDナビゲーション(RNS510)が標準装備となるほか、iPodやUSBデバイスを接続可能な「MEDIA-IN」、ETC車載機、ダークティンテッドガラスが与えられる。
エンジンは2リッターTSIだが、最高出力は「トラック&フィールド」より30ps増しの200psを発生。28.6kgmの最大トルクは同一の値となる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
インテリアの意匠は基本的にはトラック&フィールドと変わらない。新鮮味はないが、機能的でクオリティが高い、いかにもフォルクスワーゲンらしい雰囲気だ。電気式パーキングブレーキのおかげでセンターアームレスト周辺がすっきりしているのは嬉しいところである。
装備の面では、純正のHDDナビゲーションシステムやMEDIA-INと呼ばれる携帯オーディオ接続装置、ETC車載器などが、このスポーツ&スタイルには標準装備される。このETC車載器は空調パネルの下にビルトインされているのだが、ここにはカードを差すところがふたつある。何だろうと思ったら、もうひとつは地デジ用のB-CASカードのスロットだった。もちろん、ここでもマズくはないけれど、こんな特等席にある必要もないように思うのだが……。
(前席)……★★★
着座位置が高い上にインストゥルメントパネルやドアトリム、ウィンドウ等々の形状や位置決めが良いのだろう、周囲の見切りが良いのが嬉しい。全幅は1810mmあるが、これなら入り組んだ住宅街の中だって臆せず入っていけるだろう。
トラック&フィールドのコンフォートタイプに対してスポーツタイプとされるシートは、標準ではファブリックとアルカンターラの組み合わせ。レザー表皮は電動パワーシート、シートヒーターなどとセットのオプションという設定である。スポーツとは言っても、それほどサポートが深いわけではないが、座面の前端がやや高めなのか、わずかに膝裏を圧迫する感があった。
(後席)……★★★
分割可倒式で、かつ個別に前後スライドとリクライニングが可能な後席は、基準位置にあっても十分なスペースを確保している。横方向、頭上空間ともに身長177cmの筆者にとっては引っ掛かるところは無いし、着座位置が高く座面から床までの距離がたっぷりとあるのも嬉しい。
装備も充実している。前席シートバックにはテーブルが設えられており、センターコンソール後端にはAC100V電源も備わる。
ただし乗り心地は、前席に比べると縦横に揺すられ感が強く、あまり良いとは言えない。トラック&フィールドと同じく、残念なポイントだ。
(荷室)……★★★★
地上高もバンパーレベルも高いので積み降ろしはしやすくはないが、通常時470リッターの容量をもつ荷室は、フロアも側壁もフラットだし使いにくくはなさそう。それでも足りないという時は後席を格納すれば容量を1510リッターまで拡大できる。後席はバックレストの前倒しに連動して座面が下がる、いわゆるダイブダウン式。しかし操作にはかなり力が要るため、女性が使うにはキツいかもしれない。スキーなどの長尺物を積むだけならセンターアームレストだけを倒すのも有効だ。
トノカバーやネットパーテーションは標準装備。床下にもウェスを入れておけるくらいの空間はある。総じて使い勝手は期待に応えるものになっていると言えそうである。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
排気量2リッターの直噴ターボユニットに6段ATを組み合わせるのはトラック&フィールドと同じだが、こちらは最高出力が30ps増しの200psとなる。もっとも基本的には同じエンジンなので、特に実用域の特性にはそう差はない。DSGではなく6段ATを組み合わせることもあって、反応は程よくマイルド。しかし豊かな低速トルクのおかげで、余裕ある走りを楽しめる。
違いが際立つのはトップエンド付近の力強さだ。スポーティに走らせたい時に、これは大きな武器となる。反面、そうやって走らせる機会はほとんど無さそうだという人にとっては、あえてこちらを選ぶ意味はあまりない。
スポーツ&スタイルに意味は無いと言いたいのではなく、同じエンジンかと思いきや、ちゃんと性格は分かれているという話である。乗り比べて選ぼうという人は、自分にとってのクルマの使い方とよく照らし合わせた上で、高速試乗までできればベターだ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
しなやか穏やかだったトラック&フィールドと比べると、銘柄は同じながら1インチアップの幅広タイヤを履くせいか、乗り心地には微妙に粗さが出ている。たしかに舗装の良い高速道路をそれなりのペースでという時には悪くないが、街中では始終小刻みに揺すられるし、段差などを超える際の上下動もやや大きめだ。このタイヤなら、もう少しダンパー減衰力の立ち上がりを速めたいけれど、そうすると大入力でのショックは増えるだろうし……。乗り心地が悪いだとか硬いだとか評するレベルではないが、より快適なのはトラック&フィールドの方だというのはたしかである。と言いつつ、いずれにせよ後席の乗り心地は今ひとつなのだが。
走らせてみても、ロールは規制されていて上屋の動きは小さいが、それだけとも言える。たしかな接地感、上質なステアリングフィールなどによって、絶大な安心感のもと想像以上に飛ばせるのはトラック&フィールドでも一緒。オフロード機能も同じものが用意されている。結局は、これも使うシチュエーションや好みで決めればいい話だ。
それだけでは不親切なので付け加えておけば、個人的には快適性は高く、走りも十分過ぎるほどスポーティかつ奥行き深いトラック&フィールドの方を推す。
(写真=郡大二郎)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2009年5月14日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2009年型
テスト車の走行距離:4780km
タイヤ:(前)235/55R17(後)同じ(いずれも、ブリヂストン DUELER H/P SPORT)
オプション装備:レザーシート+パワーシート+パワーランバーサポート+シートヒーター=27.0万円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(4):山岳路(2)
テスト距離:300.8km
使用燃料:32.0リッター
参考燃費:9.4km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】 2026.6.2 かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
NEW
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
NEW
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。 -
NEW
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える
2026.6.4デイリーコラム「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。 -
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。






























