レクサスIS250C“バージョンL”(FR/6AT)【試乗記】
自然体なのがいい 2009.06.01 試乗記 レクサスIS250C“バージョンL”(FR/6AT)……582万6700円
“インテリジェントスポーツ”たる「レクサスIS」が、開閉可能なメタルトップを獲得。オープンバージョンとなった新型の乗り味を、ワインディングロードで試した。
レアな日本車
オープンカーと聞くだけで、つい評価が甘くなるのが私の悪い癖。天気が良ければなおさらだ。でも、このクルマを「なかなかいいじゃない!」と思ったのは、それだけの理由からではない。レクサスのフル4シーターオープンは、実際に流しても飛ばしても楽しいクルマだったのだ。
「レクサスIS」がデビューしたのは2005年。この年の終わりごろからISをベースとしたコンバーチブルの開発が始まり、2008年秋のパリサロンに「IS250C」がデビューした。
その特徴は、電動開閉式のメタルトップを備えること。そして、大人4人が乗れるフル4シーターであること。「BMW3シリーズカブリオレ」や「ボルボC70」、「フォルクスワーゲン・イオス」、そして「プジョー308CC」など、輸入車にはこの手のモデルはいくつもあるが、日本車としては希少な存在だ。北米市場がメインのモデルなので、国内での販売目標は月100台と控えめだが、カタログをめくると渋いグレーから、派手なレッドやブルー、怪しげな深紫までボディカラーは豊富で、シートやパネルもいろいろなタイプが選べるのもまたうれしい。
カタログを開いたついでにチェックしておくと、IS250Cには標準タイプと、レザーシートが標準の“バージョン L”のふたつがあり、価格はそれぞれ495万円と535万円。セダンと違って乗車定員は4名である。
そこがレクサス・クオリティ
試乗会場で対面した「IS250C」は、ルーフを閉じた姿からして、ISセダンとはずいぶんと違う印象だった。フロントマスクの違いこそわからないが、ボディサイドが伸びやかなぶん、斜め前からの眺めが実にスタイリッシュなのである。これならクーペとして十分やっていけそうだ。
ただ、うしろに回るとリアウィンドウからトランクのあたりが厚ぼったく、少し間延びしているのが、メタルトップ・カブリオレの哀しいところ。セキュリティの高さや閉めたときの快適性など、いろんなメリットがあるメタルトップのカブリオレだが、後ろ姿のスッキリ感だけはソフトトップに敵わない。
だからというわけではないが、とっととルーフを開けることにした。座るのがためらわれるほど白くきれいなレザーシートに身を預け、開閉スイッチを押すと、約20秒でフルオープンに変身。途中、複雑な動きをスムーズにやってのけ、ドダンバタンと野暮な音を立てたりしないところに、プレミアムブランドの意地が見える。
3分割式のメタルトップを採用するIS250Cでは、ルーフ部を比較的長くできるので、相対的に短くなったフロントウィンドウはドライバーの頭上にかぶさることなく、開けたときの開放感に恵まれている。開けてしまえば、うしろからの眺めもスッキリ。デザインの不満も解消である。
巧みに風をコントロール
デザインの話はこれくらいにして、ぼちぼち試乗会場を後にしよう。低めのシートポジションが、締め上げられた足まわりを予感させるが、いざ走り出すと、予想外にマイルドな乗り心地に拍子抜けした。オープンボディにハードな足まわりは酷ということもあるだろうが、乗り心地は快適なのに越したことはない。ボディの剛性は、たまに路面のショックを拾ってはフロアが「ブルッ!」なんてこともあるけれど、オープン4シーターとしては不満のない高さを確保。ルーフを閉じれば、ボディ剛性は一段と増す。
感心したのは風の巻き込みがよく抑えられていることだ。サイドウィンドウを上げておくと、一般道を走るかぎり風の巻き込みが気にならない。後席を持つオープンカーとしては、かなりの出来だ。これなら、オプションのウィンドスクリーンがなくても平気だろう。もちろん、風を楽しみたければ、サイドウィンドウを下ろせばいい。
そんなIS250Cの走り出しは、モッサリと感じられた。セダンに比べて車両重量が160kgも増えたせいなのかもしれない。だけど、2.5リッターのV6エンジンは、2000rpmを越えるころには余裕が出てくるし、さらに回せば4000rpm付近をピークに勢いを増すから、街なかからワインディングロードまで、力不足に不満を募らせることはないだろう。
走りも爽快!
ワインディングロードに足を踏み入れると、別の一面が見えてきた。コーナーで適度なロールを許すIS250Cは、シャープさこそ感じられないが、そのハンドリングは実に軽快で、後輪駆動らしい自然な動きを見せてくれるのだ。これには、ほぼ50:50の重量配分が効いているようで、爽快な走りに、ついペースが上がってしまう。
走り以外の部分も満足度は高い。リアシートはバックレストが立ち気味でセダンのように快適とはいかないものの、レッグスペース、ヘッドルームともに、大人でもさほど窮屈な思いをせずに移動できるだけの空間は確保されている。ラゲッジスペースはメタルトップのオープンカーとしては十分なうえ、ルーフを開けた状態でもゴルフバッグ1個を搭載できるのは心強い。
上品なスタイリングとしとやかな振る舞い、そして、意外に(?)爽快な走りと、その才色兼備ぶりがIS250Cに好感を抱いた理由である。いつもヤル気満々のレクサスにあって、少し肩の力が抜けたような絶妙のバランスもいい。これで、もう少し日本車的な価格付けだと言うことなしだが……それはともかく、このIS250Cはレクサスの新しい魅力になるのではないかと、私は密かに思う。果たして期待に応えてくれるだろうか?
(文=生方聡/写真=荒川正幸)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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