トヨタ・カローラ フィールダー1.8S“AEROTOURER”(FF/CVT)【試乗記】
ライバルは「ハチロク」!? 2012.11.24 試乗記 トヨタ・カローラ フィールダー1.8S“AEROTOURER”(FF/CVT)……236万5648円
「若々しくダイナミックなワゴン」が「カローラ フィールダー」のテーマ。その中で最もスポーティーに仕立てられた「1.8S“AEROTOURER”」は、世が世ならスポーティーカーだった!? 箱根を目指した。
5ナンバー枠の功罪
「トヨタ・カローラ」のステーションワゴン版である「フィールダー」に乗るのは初めてだけれど、今年の初夏に乗ったセダン版の「カローラ アクシオ」、あれの1.3リッター版には「おおっ」と思った。
ふんわり軽い乗り心地、懐の深いハンドリング、音はパッとしないけれど黙々とパワーを供給する“黒子”エンジン……。あまり期待しないで乗ったら、ちょっと前のフランス車みたいな味わいがあった。
それでも「おおっ」が「おおっ、イエーイ!」にならなかったのは、外観のデザインが残念だったから。さすがにここまで枯れた雰囲気だとさびしい。そしてそのさびしさは、フィールダーでも同じだった。
すでに報道されているように、新型カローラのフロアパンは「ヴィッツ」などに使われているものをベースにしており、従来型に比べてアクシオで5cm、フィールダーで6cm、全長が短くなっている。それは別に悪いことではないけれど、全幅1700mm以内という5ナンバー枠のサイズにこだわった。これも悪いことではないけれど、それでいて後席スペースや荷室など、室内空間は広がっている。
サイズが小さくなったのに車内が広くなることは、もちろん悪いことではない。けれども、サイズを小さくしつつ室内空間を広げようとすると、デザインにしわ寄せがくる。キャラクターラインだとか抑揚のある面構成だとか、しゃれたことは言ってられなくなる。
結果、体が大きくなったのに小さい洋服を着ているような、ぱっつんぱっつんの窮屈なルックスになった。お兄ちゃんのお下がりの学生服を無理やり着せられて、つんつるてんになっている感じだ。
全幅1700mmにこだわらず、もう少しのびのびとした学生服を着せてあげればもっとすてきなのに……。そんな思いと、でも幅が狭いほうが日本では使いやすい、という思いがバトルする。バトルの結果は、「のびのび」の優勢勝ち。
自分としては、クルマのデザインをあきらめてしまうのは寂しい。自分のダサさを少しでもクルマに補ってほしいし、排気量さえ2000cc以下なら幅が5ナンバー枠を超えたって税金は変わらない。
そんなことを考えながら、140psの1.8リッターエンジンを搭載する「カローラ フィールダー1.8S」に乗り込む。
1.8リッターは“アンチエイジング”エンジン!
エンジンをスタートして、軽くアクセルペダルに足を載せてびっくり。「フォン!」と乾いた威勢のいい音が響いて、明るく楽しい気分になったからだ。エンジンのピックアップも鋭く、3000rpm以下の回転域でもアクセル操作に対する反応は敏感で気分が盛り上がる。
速いのは音と雰囲気だけでなく、ヨーイドンをしても速い。これはあまり書きたくなかったけれど、アクセルペダルを踏んだり離したりしてエンジン回転をコントロールしていると、若返ったような気になった。アクシオの1.3リッター“黒子”エンジンとはまるで異なる、1.8リッター“アンチエイジング”エンジンだ。
エンジンが活発で反応がシャープだから、シフトセレクターをパタンと右側に倒してマニュアル操作をするのも楽しい。マニュアル操作といってもこのクルマのトランスミッションはギアを用いないCVT(無段変速機)なので、変速は電気信号による疑似的なものだ。それでもウソッコという感じはなくて、エンジン回転を積極的にコントロールする楽しみが味わえる。
シフトセレクターの根元にあるスポーツモードのスイッチを押すと、高いエンジン回転数をキープするようになり、アクセル操作に対する反応が一段と鋭くなる。
足まわりも、活気のあるパワートレインに見合ったものだ。そもそもフィールダーはアクシオよりスポーティーな設定となっているうえに、1.8リッターエンジン搭載モデルはそのパワーに合わせたしっかりとしたセッティングになっている。
といっても、がっちがちに固められているわけではなく、コーナリング中は外輪がスムーズに沈み込む。沈み込むのだけれど、ある一線から先は芯の強さを発揮して、安定した姿勢を保つ。
強さとしなやかさがほどよくバランスしているうえに、路面の悪い区間をまずまずのスピードで強行突破しても、サスペンションが路面からの突き上げを吸収する。総じて、懐の深い足まわりだという印象だ。それでもひとつ、ワインディングロードで残念だったことがある。
若者にこそオススメだが……
それは、ステアリングを切り始める瞬間の手応えが曖昧だということだ。この日はたまたまフランス製ハッチバック車も同じ場所に居合わせた。スポーティーグレードでもなんでもない、普通のグレードだったけれど、切り始めの手応えはフランス車のほうが好ましかった。こちらが硬式テニスのボールを打ち返した感じであるのに対して、カローラ フィールダーは軟式テニスのボールを打った時の「うんにゃ」という手応えだった。
ひとつ発見だったのは、カローラ フィールダーのシートがよかったことだ。たっぷりしたサイズで、包み込むように体をホールドしてくれる。少し張り出したサイドサポートも見かけだけでなく、コーナーでしっかり体を支える。何時間乗り続けても、体のどこかが疲れるということもない。
全体に、アクシオとはまったく性格が異なるクルマに仕上がっていて、こんなにアグレッシブなカローラもあるんだと思った。経済誌『Forbes』によれば、2011年に世界で一番売れたクルマはカローラで、その数102万台(ちなみに2位は「ヒュンダイ・エラントラ」の101万台)。世界中で売れる理由は、仕向け地ごとにカメレオンのように変幻自在の仕様を生産するからだと『Forbes』は分析するけれど、日本国内向けでもセダンとワゴンを見事に作り分けている。
フィールダーのシートに腰掛けて、スポーティーなエンジンとハンドリングを味わっていると、自分がいま20代だったら、こんな選択もアリかもなどと考える。いかにもクルマらしいクルマだ。
けれども試乗を終えて、クルマから降りて外観を眺めると……。
先日、仕事の用事で何年かぶりに土曜日の夕方に原宿を歩いた。祭りでもあるのかと思うほど賑(にぎ)わっていて、しかも半径500mでは自分が最年長だと思うほど若い人が多かった。そこでつくづく感じたのは、ここ20年か30年で男の子も女の子も格段にカッコよくなったということだ。パステルカラーの天の羽衣みたいなストールを巻いた男の子がカローラ フィールダーに乗る姿は、やっぱり想像できない。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。