アウディA6 3.0 TFSIクワトロ(4WD/6AT)【ブリーフテスト】
アウディA6 3.0 TFSIクワトロ(4WD/6AT) 2009.03.18 試乗記 ……846.0万円総合評価……★★★★
マイナーチェンジでエンジンや足まわりなどに、大がかりな変更が行われた「アウディA6」。ダウンサイジングを果たした、注目の新エンジン搭載グレードをテストした。
V8を捨て、勝負
「A3」といい、この「A6」といい、アウディのマイナーチェンジは外観の変更以上に中身の進化が大きい。新しいエンジンの投入やお得意の4WDシステム「クワトロ」のバージョンアップなど、最新技術を惜しみなく注ぎ込んでくる。
A6のマイナーチェンジでは、プレミアムアッパーミドルクラスならあってあたりまえのV8エンジンをあっさりと捨て、あえて3リッターV6で勝負に挑む作戦に出た。とはいうものの、ガソリン直噴システムとスーパーチャージャーによって、これまでの4.2リッターV8に迫るトルクを手に入れながら、燃費は3.2リッターV6よりも優れるのが新エンジンの見どころで、「高級車は排気量が大きいほどエライ」という常識に別れを告げ、独自の価値観を掲げてわが道をいくのは、なんともアウディらしい。
こうして生まれた「A6 3.0 TFSI クワトロ」は、ロングドライブが楽しいアッパーミドルセダンだった。“3.0T”のバッジに新しい価値を見いだせる人には、格好のパートナーとなるに違いない。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2004年7月に上陸した現行型「A6」に、マイナーチェンジが施されたのが2009年1月。フェイスリフトとともに、フロントショックアブソーバーの大径化やクワトロシステムの前後トルク配分変更などが行われた。エンジンラインナップも見直され、3リッターV6+スーパーチャージャーエンジンを新たに採用。一方、従来からキャリーオーバーの2.8リッター直噴ユニットは、摩擦抵抗低減などで、出力が10psアップの220psに変更された。これを機に3.2リッターV6と4.2リッターV8は、ラインナップから姿を消した。
レーンアシストやアクティブクルーズコントロールなどがセットになった、オプションの安全装備「ドライブアシストパッケージ」も、新型から加わった装備である。
(グレード概要)
今回のマイナーチェンジで一番の見どころとなる、3リッターV6+スーパーチャージャーエンジン搭載グレードが、試乗車の「3.0 TFSIクワトロ」。290ps、42.8kgmのパフォーマンスは、従来型3.2リッターNAの255ps、33.6kgmを大きく上まわる。燃費は10・15モード値で9.4km/リッターとなり、高出力/低燃費化が図られた。
足まわりには標準でスポーツサスペンションが与えられ、10スポークタイプの18インチアルミホイールをはくことも、このグレードの特徴だ。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★★
クリーンなデザインと高い質感を誇るインテリアは、新型A6でも健在だ。オーディオやカーナビの操作に加え、各種車両設定を一元管理するMMI(マルチメディアインターフェース)や電子式パーキングブレーキの採用により、センタークラスターからセンターコンソールにかけてのデザインもすっきりとしている。
注目したい装備が、メーカーオプションの「ドライブアシストパッケージ」だ。「アウディサイドアシスト」「アウディレーンアシスト」「アクティブクルーズコントロール」の3つの機能があり、サイドアシストはレーダーにより後ろから接近する車両を検出し、車線変更時の危険を警告。レーンアシストはカメラが車線を捉えることで、車線からのはみ出しをステアリングホイールの振動でドライバーに伝える。また、レーダーを使ったクルーズコントロールは先行車との距離を一定に保つだけでなく、急な割り込みなどがあると自動的に軽くブレーキをかけるなど、事故を未然に防ぐには有効な機構だ。
全長4925×全幅1855mmのボディは街中や駐車場では気を遣う大きさで、車両感覚も掴みやすいタイプではないが、それを補うパーキングセンサーやリアビューカメラは重宝した。
(前席)……★★★★
800万円近いクルマだけに、本革の電動シートは標準装備。さらに、ステアリングコラムのチルトとテレスコピックも電動で、好みのドライビングポジションが得られるのがいい。シートに座ってみると、張りのあるレザーが腰から背中までしっかりと支え、上下位置と張り出し量が自在に調節できる電動式のランバーサポートのおかげで、快適性は高い。
(後席)……★★★
前席同様、適度に張りのあるレザーに包まれたシートは、バックレストが少し窪んでいて、背中の収まりがいい。足もとはかなり前まで足が伸ばせるので自然な姿勢が取れるし、膝まわりのスペースも十分。ただ、4925mmの全長を考えると足が組めてもいいくらいだから、★はあえて3つとした。後席にもシートヒーターが備わるのはうれしい点。
(荷室)……★★★★
幅、高さ、奥行きとも、余裕あるトランク。とくに奥行きはたっぷりしていて、必要とあらば後席を倒して荷室が拡大できるのは頼もしい。タブルリンク式のヒンジを採用するので、荷物に干渉しないのも助かる。フロア下は、スペアタイヤが搭載されないおかげで、大きな収納スペースとして利用可能。いざというときの安心感という意味ではスペアタイヤが望ましいが、クルマの軽量化や廃タイヤの処理を考えると、スペアタイヤの廃止もやむを得ないか。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
3リッターV6ながら、過給器により42.8kgmという最大トルクを発揮する「3.0 TFSI」エンジンは、低回転から効くスーパーチャージャーのおかげで、出足から力強く、まさにV8並みの実力だ。しかもこの3.0 TFSI、低中速重視でディーゼルターボのような特性かと思っていたらまんまと予想を裏切られる。最大トルクを絞り出す2500〜4850rpmを超えても勢いはとどまるところを知らず、7000rpmあたりまで気持ちよく回転を上げていくのだ。日本のV8のような静かさは持ち合わせていないが、回して騒々しいわけではなく、V8の代わりとしてその性能には十分及第点が与えられる。6ATの動作もスムーズでとくに不満はないが、ファイナル(最終減速比)が高めであるうえ、トルコンスリップを抑えているからか、ごく低回転で走行中にアクセルペダルを軽く踏み増すような状況で、レスポンスが鈍いのが気になることもあった。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
パワフルなエンジンにあわせて、スポーツサスペンションと245/40ZR18タイヤが与えられたA6 3.0 TFSI クワトロ。十分合格点が付けられる乗り心地だが、低速では舗装の悪さが伝わってきたり、、首都高速の継ぎ目でショックを遮断できないこともある。その点、19インチタイヤとエアサスペンションを備えた「S-line」のほうが快適性は高い。それでも、スピードが上がるにつれてフラット感は高まり、極めて高いスタビリティも手伝って、高速走行はお手のものだ。
ワインディングロードではシャープな動きを見せるわけではないが、ロールを抑えた落ち着いた挙動とアンダーステアを抑えたハンドリングにより、サイズから想像する以上にスポーティな走りを見せる。コーナリングの途中からフルスロットルをくれたところで、トラクションに不安がないのはクワトロの魅力だ。
50km/hを超えたあたりから急に重くなる速度感応式パワーステアリングに多少不満を感じたが、トータルバランスはまずまずといったところだ。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2009年3月6日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2009年型
テスト車の走行距離:6856km
タイヤ:(前)245/40ZR17(後)同じ(いずれも、ピレリP-Zero Rosso)
オプション装備:オプションカラー=3.0万円/電動チルト式2ウェイガラスサンルーフ=18.0万円/ドライブアシストパッケージ=45.0万円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(6):山岳路(2)
テスト距離:704.4km
使用燃料:103.5リッター
参考燃費:6.81km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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