アウディA6セダン55 TFSIクワトロ(4WD/7AT)
ため息がこぼれる 2019.04.18 試乗記 2019年3月に日本導入が始まったアウディの新型「A6」。同時にデビューした「セダン」とステーションワゴンの「アバント」のうち、まずは3リッターV6エンジンにマイルドハイブリッドシステムを組み込んだセダン「55 TFSIクワトロ」の印象を報告する。アウディらしい潔癖さ
パッと見ていかにも高そうだということでは、今のアウディの右に出るものはないと思う。彫り込んだようなキャラクターラインや手が切れそうなエッジ部分、きめ細やかで立体的な前後のLEDライトなどのエクステリア、細部に至るまでわずかな隙さえない上等なインテリアは、今や世界中の自動車メーカーのベンチマークとなっている、と実際にライバルメーカーのデザイナーから聞いたことがある。
アウディと対峙(たいじ)するといつも、こちらも何というか意地になって矯めつ眇(すが)めつ見渡してみるのだが、細く真っすぐなトリムラインはあくまで真っすぐであり、ピシリとはめ込まれたフラットなディスプレイパネルは執拗(しつよう)なまでに緻密で平滑である。
先に登場した「A8」同様、物理的なボタンやスイッチを極力省いてタッチスイッチに置き換えたMMIタッチレスポンスを採用した新型A6は、さらにクリーンで現代的になり、まるで入念に仕上げられた工芸品のようだ。美しく清潔に整えることに対するアウディの執念さえ感じるほどの潔癖さと言えばいいだろうか。アウディにはここまでなら許容範囲とする公差という言葉が存在しないかのようだ。
もっとも、緻密で端正なその佇(たたず)まいには、あまりに隙がなくて息苦しさを感じる人もいるかもしれない。自動車にタフな道具感を求める人にはなおさらだろう。当然ながら、オプションを含まない本体価格でこの「Sライン」は1060万円と高価なモデルではあるが、いわゆる知覚品質だけでなくダイナミックな面でも、それを納得させるだけのクオリティーに満ちていることは間違いない。
3リッターV6のクワトロのみ
言うまでもなくA6はアウディの中核モデルであり、アウディブランドを確立した代名詞的存在だ。さらにステーションワゴンをアバントという名で根付かせた立役者でもある。
1994年にそれまでの「100」からA6という名称に変更されて5代目、1968年デビューのアウディ100からの通算では8世代目に当たる新型A6は、フラッグシップたるA8と何がどう違うのかと混乱するぐらいのレベルに仕上がっている。
日本仕様のパワーユニットは今のところガソリン3リッターV6ターボのみでトランスミッションはDCTの7段「Sトロニック」、駆動方式もクワトロに限られる。さらにグレードもSラインと特別仕様の「デビューパッケージ」の2本立てとなっている。
本国では2リッター4気筒直噴ターボや3リッターV6ディーゼルターボを積むモデルも設定されているものの、要するに日本にはトップグレードが真っ先に導入されたことになる。
Vバンクの間にツインスクロールターボを押し込んだ3リッターV6ターボエンジンを積む新型A6は、A8から導入された新しい呼称法によって「55 TFSI」(55は最高出力245~320kW)というモデルネームになる。
すべてマイルドハイブリッドに
新しいA6のパワートレインは6気筒でも4気筒(日本未導入)でもすべて、いわゆるマイルドハイブリッドシステムを装備しているのが特徴だ。最高出力340ps(250kW)/5200-6400rpmと最大トルク500Nm(51.0kgm)/1370-4500rpmを発生する3リッターV6ターボエンジンは、48V駆動のBAS(ベルトドリブン・オルタネーター・スターター)を備え、4気筒版はもっと簡易的だが同様の12Vシステムを増備するという。
条件が許せば高速道路をアダプティブクルーズコントロールで追従走行中でもエンジンを停止させてコースティングするようで、そこからの再始動も極めてスムーズであり、メーターを見ていない限り停止も再始動もまったく感じ取れないほどだ。またマイルドハイブリッドシステムのおかげでアイドリングストップも22km/h以下なら作動するようになり、しかもストップ/再スタートの制御に違和感がなく、信号に向かって軽くブレーキングしながら速度を落としている最中にガクンとエンジンが止まるということもない。
ちなみに同じA6クワトロでも、3リッターV6ターボ+7段SトロニックとV6ターボディーゼル+8段AT用では4WDのシステムが異なり、55 TFSIは例えば「Q5」同様、センターデフの代わりの電子制御カップリングに加えてプロペラシャフトの前端に後ろの駆動系を切り離せるAWDクラッチを備える「ウルトラ クワトロ」と呼ばれるタイプだ。もちろんFWDで走行している場合もさまざまなパラメーターからあらかじめ必要性を判断し、いざという場合には0.2秒で4WDに復帰するという。クワトロの本家たるアウディにしても、アイドリングストップやコースティングと合わせて、それほどまでにできる限りの燃費向上策を導入しなければいけない時代なのである。ちなみに最も優れたモデルでは空気抵抗係数はCd=0.24だという。
実際に燃費は優秀なようで、特に燃費走行したわけではないが、高速道路区間では車載コンピューターは14km/リッターを超える数字を表示していた。燃料タンクは73リッター入りだから、走っても走ってもなかなかレンジの数字は減らない。
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静かな浮遊感
新型A6でのクルージングは、静謐(せいひつ)な茶室が滑るように移動している感じである。直接比べればA8のほうが若干静かかもしれないが、そんな比較が無意味なぐらい文句なしに静粛で滑らかである。
Sラインのサスペンションは通常のスプリングに可変ダンパー(オプションの「ドライビングパッケージ」に含まれる)を組み合わせたスポーツサスペンションということになっているが、低速域での当たりの滑らかさはエアサスペンションを備えたA8よりもむしろ上回っているのではないかと感じたほど。ドライブセレクトでシフトプログラムやダンピングなどの設定を切り替えることが可能だが、どのモードでもフラットでしなやかな基本キャラクターに変わりはない。
オプション装備のドライビングパッケージには、可変ギアレシオのダイナミックステアリングと、60km/h以下では前輪と逆位相に、それ以上では同位相に切れる後輪操舵システムを組み合わせたダイナミックオールホイールコントロールが含まれているが、そのおかげかハンドリングは軽快であり、高速域でも糸を引くように正確に意図したラインをたどる安心感は抜群である。もちろんパフォーマンスに不足のあるはずはなく、スロットルを深く踏めば控えめな排気音とともに豪快に加速する。0-100km/h加速は5.1秒という俊足である。
クールでスマートなカッコよさだけがアウディの特徴ではない。そのハイクオリティーが極めて高度で精密なエンジニアリングに裏付けされているということは、新型A6に乗ってもらえれば必ず分かるはずである。
(文=高平高輝/写真=荒川正幸/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
アウディA6セダン55 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4950×1885×1440mm
ホイールベース:2925mm
車重:1900kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:340ps(250kW)/5200-6400rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1370-4500rpm
タイヤ:(前)245/45R19/(後)245/45R19(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:12.3km/リッター(JC08モード)
価格:1006万円/テスト車=1131万円
オプション装備:オプションカラー<フロレットシルバーメタリック>(9万円)/パワーアシストパッケージ<電動チルト/テレスコピックステアリングコラム+パワークロージングドア>(16万円)/リアコンフォートパッケージ<リアシートヒーター+4ゾーンオートマチックデラックスエアコンディショナー+リアウィンドウサンブラインド+リアドアウィンドウサンブラインド>(30万円)/Bang & Olufsen 3Dサウンドシステム(18万円)/アシスタンスパッケージ<フロントクロストラフィックアシスト+サラウンドビューカメラ+カーブストーンアシスト+リアサイドエアバッグ+アダプティブウィンドウワイパー>(14万円)/ドライビングパッケージ<ダイナミックオールホイールステアリング+ダンピングコントロールサスペンション+ダイナミックステアリング>(38万円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1242km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:468.5km
使用燃料:41.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.3km/リッター(満タン法)/11.7km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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