BMW X6 xDrive50i(4WD/6AT)【試乗記】
クルマ世界遺産 2008.11.27 試乗記 BMW X6 xDrive50i(4WD/6AT)……1077万2000円
BMWがSAC(スポーツ・アクティビティ・クーペ)と呼ぶ「X6」の最高性能版に試乗。V8ツインターボのパフォーマンスをはじめ、見ても乗ってもため息だけど、現在の社会情勢にもため息……。
これは「ナスカの地上絵」だ!
いまから何世紀か後、新人類が遺跡の中から20世紀、21世紀のクルマをごっそり発掘したとします。トヨタもホンダもベンツもポルシェも、いろんなクルマが地面の下から掘り起こされたと仮定しましょう。
たとえば「トヨタ・アルファード」は、「四角い箱型のボディにシートを3列にしてたくさんの人を乗せる」ためのクルマだということが新人類にもイッパツで理解できるはず。目的が、わかりやすい。
「アウディ R8」もわかりやすいでしょう。「軽いボディと強力なエンジンで、2人しか乗れないかわりに効率よくスピードを出す」というコンセプトが、わりとすんなり伝わるはず。
「ジープ・ラングラー」だって、「高い地上高と4つのタイヤを駆動する仕組みで、荒れた道を走破する」という機能とか目的が、はっきり理解されるのではないでしょうか。
でも、「BMW X6 xDrive 50i」を理解するのはかなりハードルが高いと思われる。 「なぜこんなに大きいのに4人しか乗れない?」「2330kgもあって車高も高いのに、なぜ速く走るためのメカニズムがてんこもり?」「この四駆システムは速く走るためのものか? それともオフロードを走るためか?」「運転席に座ってみたら後方がまったく見えないのはどうして?」などなど、「?」だらけ。
「BMW X6 xDrive 50i」は、われわれにとっての「ナスカの地上絵」みたいな存在になるのではないでしょうか。何十メートルにもおよぶ巨大な鳥獣を地面に描いた「ナスカの地上絵」も、その目的は「雨乞い」だったとか「暦を知るため」だったとか言われているけれど、ホントのところはわかっていないらしい。何を目的に、「BMW X6 xDrive 50i」のように手の込んだものを作ったのか、新人類たちも頭を悩ますのでは……。
内燃機関の最終進化型
「よっこらしょ」とかけ声をかけてよじ登りたくなる高い位置の運転席に収まり、インテリアを見まわす。外観こそブッ飛んだものだけど、インパネの意匠など、インテリアは見慣れたビーエム流だ。言葉や理屈はわからなくても直感でカーナビや空調、オーディオが操作できるiDriveの銀色のダイヤルは、新人類にもあつかいやすいはず。
リアウィンドウはそもそも面積が狭いうえに、きつい角度で傾斜しているからルームミラーからの後方視界はかなり制限される。というか、ほとんど見えない。したがってバックする時にはカーナビ画面に映るリアビューモニターの画像に頼ることになる。けれど、この画像が暗いうえに粒子が粗く、車両価格で10分の1程度の国産コンパクトカーのほうがはるかにきれいな画質なのはご愛敬。
後方視界は、バックする時よりも前進するときにシリアスな問題になる。なぜって、新開発の4.4リッターV8ツインターボは、あっと言う間にアウトバーン的なスピードに連れていってくれるのだ。クルマとドライバーがアウトバーンの気分でも、おまわりさんはそれに付き合ってくれない。あたりまえだ。だから後ろをちゃんと確認しないとアブナイ(免許が)。
このエンジン、407psという最高出力もハンパじゃないし、61.2kgmという巨大なトルクを1750rpmという低い回転域から4500rpmまで発生するという柔軟性もアッパレだ。けれど、アクセルペダルを踏んだり戻したりしながらホントに「すっげぇなぁ!」と感嘆するのは、その手触り。
フツーに流している状態ではキメの細かい回転フィールを味わうことができ、そこからアクセルを踏み込めば、繊細さはそのままに、「カーン」とパワー感が突き抜ける。ツインターボのターボラグは、事実上ゼロ。使い古された表現だけど、フィーリングは大排気量NAユニット的だ。
新型7シリーズにも搭載されるこのV8ツインターボは直噴のメカニズムだけでなく、Vバンクの内側にふたつのタービンを収めてコンパクトにするというレイアウトも凝りに凝っている。後の新人類考古学者が歴代のV8エンジンをずらっと並べるならば、「コレが最進化版」だと判断を下すのは間違いない。もしかすると、内燃機関すべての中で最も進化しているという評価を得るかもしれない。
右足のちょっとした動きに反応するレスポンスのよさや、ショックのないスムーズな6段ATの変速など、各部が緻密に制御されていて荒っぽさは微塵も感じない。普段はジェントル、踏めばレーシィというその特性からは、いかにも丁寧に作られたということがひしひしと伝わってくる。
デビューのタイミングが悪かった
市街地では極楽、ハイウェイでは快適、ワインディングロードでは喝采、というシャシーの性格は、先に日本へ導入された3リッター直列6気筒ツインターボユニット搭載の「35i」と共通だ。
「35i」に比べると「50i」は約100psと、コンパクトカー1台分は優に出力がアップしているけれど、だからといってシャシーがエンジンに負ける感じはしない。それには、前後に駆動力を配分する四駆システムxDriveと、DPC(ダイナミック・パフォーマンス・コントロール)が寄与していると思われる。
DPCは、状況に応じて左右後輪の駆動力配分をフレキシブルかつ速やかに変化させ、正確で安定したコーナリングを実現しているのだ。インパネにはいま現在の駆動力配分がアイコンで表示されていて、「おおー、いま右後輪にトルクが片寄った!」などと確認できるのは楽しい。楽しいけれど、インパネに意識を集中しすぎると急コーナーではアブナイ。
オフロードの急な下り坂でもしっかりスピードを殺して落ち着いて“下山”できるHDC(ヒル・ディセント・コントロール)も備わるから「オンロード専用」と決めつけるのもアレだけど、それでもこのクルマが持ち味を発揮する“主戦場”はやはりオンロード、しかも直線ではなくてコーナーなのだ。
もちろんアクティビティを満喫するために使ってもいい。けれど、荷室は高い位置にあって、荷物を積む時には一度腰のあたりまで持ち上げてからドスンとフロアに置くことになる。重いモノを積む時には、ぎっくり腰に要注意。それから、インテリアはもちろん荷室も上品な内張が貼られているので、汚れた道具や濡れたウェアを積むと掃除が大変そうだ。さらに、適当に荷物を積んでワインディングを走ると高い横Gでバラバラになるから、荷造りも慎重に。つくづく、変わったクルマだ。
スタイルといいパフォーマンスといい、個性的といえばこれほど個性的なクルマもないわけですが、残念なのは昨今の経済状況と環境問題。1000万円オーバーという価格と、満タン法による計測で5km/リッターをちょい切る燃費は、クルマのせいではないけれどあまりにタイミングが悪い。ガールフレンドを家まで送ったら会社帰りのオトーサンと鉢合わせ、ぐらい間が悪い。
自分にそういう権限があるならば、ぜひとも「クルマ世界遺産」に指定して保存したいと思うわけです。数世紀後の新人類たちにそのカッコや走りを伝えたい。日本ユネスコのホームページを見ると、世界遺産の条件について「歴史上、芸術上または学術上顕著な普遍的価値を有するもの」などとある。自分的には、「BMW X6 xDrive 50i」はこの基準をクリアしている。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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