トヨタiQ 100G レザーパッケージ(FF/CVT)/100G(FF/CVT)【試乗速報】
エコカーというよりファンカー 2008.10.27 試乗記 トヨタiQ 100G レザーパッケージ(FF/CVT)/100G(FF/CVT)……191万6050円/192万4200円
環境問題の“救世主”として鳴り物入りで登場した「トヨタiQ」。しかしその第一印象は「エコ」や「実用的」よりも「面白い」というものだった。
「iQ」逆風の中でデビュー!
原油価格高騰だとか地球温暖化問題が世間を賑わすこのご時世、トヨタの新型コンパクトカー「iQ」は追い風を受けてデビューしたと言われている。でも、ホントにそうなんでしょうか? 自分には「iQ」がとてつもない逆風の中で登場したと思えるわけです。
なぜって、ビッグスリーの屋台骨さえグラつく大不況、「ヴィッツ」より狭くて「ヴィッツ」より高い“贅沢品”がはたして売れるのか? そもそも屋台骨ってどこの骨? という疑問はどうでもいいけど、「iQ」と「ヴィッツ」の燃費が大して変わらないのはなぜ? という疑問はみんなが持つはずだ。
ヴィッツの1リッター仕様が積む3気筒エンジンとiQの3気筒エンジンは、「1KR-FE」という型番の基本的には共通のユニット。実際にはiQへの搭載にあたってブロック部分から見直されているというけれど、10・15モード燃費はiQの23km/リッターに対して「ヴィッツ1.0」は22km/リッターと大差ない。
いっぽう最廉価版同士で比べるとiQが140万円、ヴィッツは107万1000円だから、財布と相談すればどうしても大人4人ががっつり乗れるヴィッツを選んでしまいそう。特に財布も心も弱っている今は。
iQはデビュー前から“革新的パッケージング”みたいな文句で煽られているけれど、実際に乗る人にとっては「ディファレンシャルギアを反転して前方に配置」だろうが「ステアリングギアボックスの上方配置」だろうが関係ない。大事なのは、日々の暮らしで便利だったり、あるいは乗る人に活力を与えてくれることだ。
というわけで、前評判は高いけどiQってホントにすごいの? ちゃんと4人乗れるんだからヴィッツのほうがエラくない? と思いながら、都内で行われたiQの試乗会に行ってきました。
キング・オブ・チョロQ
初対面の「iQ」、そのフロントマスクの第一印象は「意外とフツー」というもの。小型版「トヨタ・イスト」に見えなくもない。だけど、ぐるっと周囲を回るとギョッとする。軽自動車より約40cmも短い2985mmという全長に、実用車並みの1680mmという車幅を組み合わせた縦横比がフツーじゃないのだ。
いままでに「チョロQ的」と称されたクルマは数あれど、iQが“キング・オブ・チョロQ”であることは間違いない。また、フツーなのは顔だけで、よくよく見れば金属を削り出したかのようなカタマリ感と、彫刻的な彫りの深さがあることがわかってくる。
インテリアで興味があったのは、助手席が運転席より前方にあるというレイアウトだった。インテリアの造形を左右非対称とすることで、助手席を前に出し、そのぶん助手席側は後席のスペースを広くとろうというアイデアである。いざ運転席に乗り込んでみると、気にすれば助手席が前に出ているかな、という程度で特に違和感はない。
インテリアのデザインは、マンタをモチーフにしたセンタークラスターといい、ひとつのダイヤルですべてを操作できる空調コントロールといい、シートの色柄といい、なかなかやるな、と思った。好き嫌いはありましょうが、少なくともいままでのコンパクトカーとは違うものを作ろうという意思とアイデアがある。
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大人っぽい乗り心地
スターターボタンを押してエンジンスタート。発進加速ですぐ気がつくのは、3気筒エンジン特有の“ぽろぽろ”した音と振動がかなり消えていることだ。「iQ」の場合は「ヴィッツ」よりもエンジンとドライバーの距離が1割ほど近いので、3気筒エンジンの出力を若干落としながら音と振動を減らす工夫をしたという。
今回は平均速度の遅い都心部での試乗だったけれど、その範囲での乗り心地は良好だ。ホイールベースが短いからといって乗り心地がピョコタンと跳ねることはない。路面が荒れている部分も軽やかに通過、姿勢もフラットに保たれる。後ろを振り向くとすぐリアウィンドウが迫るけれど、助手席との距離が離れていることや大人っぽい乗り心地から、もっと大きなクルマに乗っている気がする。
4年前からiQの実験を担当してきた車両実験統括部プロジェクト開発準備室の長川博英氏は、操縦安定性の担当に「スタビリティ第一」と言い続けてきたという。とにかく安定性重視で、乗り心地が多少ゴツゴツするのは仕方ない、という判断だった。
とはいいつつ、乗り心地も悪くない。路面との“あたり”が柔らかいことには、タイヤがかなり寄与していると思われる。試乗車はブリヂストンのエコピアを履いていたけれど、低転がり抵抗を謳い文句にするタイヤらしからぬ、しなやかな感触がある。タイヤに感心すると同時に、タイヤが減った状態でどういう乗り心地になるか、興味深い。
欧州の小型車っぽいフィーリング
ほかに感心したのは、タイヤがどこを向いているのかを素直に伝えるステアリングフィールや、かっちりとしたブレーキのタッチだ。こういうスペックでは表すことができない部分の感触が上質だから、小さくても安っぽいクルマだとは感じない。
それほどのスピードは出ていないながらも、広いトレッドがもたらす“ふんばり感”と、短いホイールベースによるクルッと曲がる“小回り感”は新鮮だ。撮影の合間に、安全な場所でUターンしようとしたらあまりの小回り性能にもびっくり。「iQ」を購入するみなさん、このクルマはいろんなところでUターンできますが、しっかり安全を確認しましょう。
あと、縦列駐車を試したら、スマートよりはるかに楽ちんだった。というのも、スマートは極低速域でのスピード調整に少しクセがあるから。いっぽうiQは、素直に駐車できる。
インテリアの撮影をしながら後席に座ってみる。助手席の後ろには大人が座れるというけれど、身長180センチの自分にはちょっと難しかった。つま先を前席シートの下に入れることで足下のスペースは確保されているけれど、頭がどうにもつかえる。ま、座高が高すぎるという指摘は甘んじて受けます。
しかも、後ろに人が乗った状態ではほとんど荷物が積めない。後席シートを前方にパタンと倒して、ようやく普通のコンパクトカー並みの荷室が出現する。
10年後に名車と呼ばれる
といったことで、「iQ」のファーストインプレッションは、役に立つ実用車、環境に優しいエコカーというよりも、愉快で贅沢なファンカーというものだった。燃費計測の余裕がなかった今回の試乗に関して言えば、実用性よりも、新鮮な造形や心地よい操作フィールなど、オモチャとしての部分のほうが心に残る。
だからiQを購入するのは、「このクルマには足りない部分もあるけれど、応援してやりたいから買う」という、タニマチというかサポーター的な動機だろう。サポーター的な顧客というのは、トヨタが最も不得手とする部分かもしれませんが。
そして10年後、もう少し一般的な“使える”クルマにiQのパッケージングのアイデアや小型エアコンの技術などが盛り込まれた時にはじめて、「あぁ、あの時のiQはスゴかったんだ」ということに自分も含めて気付くのかもしれない。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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